誰の、他のだれでもなくあなたと永遠を。

七瀬京

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20.登城

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 茶会に呼ばれた為、致し方なく登城したルシェールは、笑顔のアルトゥールに迎えられた。

(昨夜のあのあとに、笑顔で迎えることが出来るのならば、中々、良い性格をしているようだな)

 ルシェールは、少々、胆力を見直したが、それは外には出さない。

「お招きに預かり光栄でございます、殿下」

「よく来たね、ルシェール……先日は、あなたの邸で歓迎して貰えましたたから。今日は、返礼にお招きしなければと思ったのです。さあ、参りましょうか」

 アルトゥールは、ルシェールに手を差し出してきた。

 女性にするような所作だったことに、ルシェールは、少々苛立った。

「庭園に、席を用意しました。この時期は、薔薇が見事なのです。……きっと、あなたには薔薇がよくお似合いでしょうから」

 薔薇園ちかくの四阿あずまやに、席を用意したと言うことだろう。

 そこは、人目に付く場所でもある。

 日中、アルトゥールと親しげに茶を楽しんでいる姿を、見せつけるために、そうするのだろうとルシェールは思った。

「殿下のお手をお借りせずとも、歩いて行くことが出来ますよ」

「そうでしょうが、私があなたと手を繋いでいきたいだけです」

 手を取られて、指を絡めて握られた。指と指の間。皮膚の敏感な所を、アルトゥールの指がするりと刺激した。

「……お戯れを」

「そうですか?」

「ええ、昨夜から、お戯れが過ぎます」 

 静かに、ルシェールは告げた。

「……さて、どういうことだろうか?」

 空とぼけて見せるアルトゥールに、ルシェールはため息を吐きながら答える。

「突然、窓からおいでになったときには、賊が来たかと思いました。玄関からいらしてくだされば、歓待致しましたよ」

「……窓からの闖入でも、十分に歓待して頂いたが?」

 クッとアルトゥールがくぐもった笑い声を出した。

「昨晩の大公からうけたもてなしは、十分なものだった」

「左様でございましたか。殿下のお心に叶うもてなしが出来たのであれば、幸いでございます」

 互いに、探り合うでもなく、会話をしながら、四阿まで歩いて行く。

「ルシェール」

「はい?」

「今は、愛人はいる?」

「……愛人ですか」とルシェールが苦笑する。「私は、いままで愛人を持った覚えは在りませんよ。ただ、世間が、少年達を愛人として扱っていると、私を誹るだけで」

「けれど、少年達には指導をしていた」

「ええ、ああいうことを指導しております。……伝統だからです。それ以上の意味は在りません。そして、その、伝統に則って、昨夜は、殿下をおもてなし出来ましたことは、格別の悦びで……っ」

 急にアルトゥールが歩みを止めた。

 口を、手で塞がれる。ルシェールの瞳に、戸惑いの彩が浮かんだ。

「……少し、黙っていて」

 アルトゥールが、パッと手を放す。

 ルシェールは、今のアルトゥールの行動に疑問を持ちながらも、黙っていろと言われた手前、何も言わないことにした。

「……ああいう奉仕を、したことはあるのですか? つまり……私の父や……、その他の皇族に」

 現在、皇族で生存している男子は、皇帝と皇太子の二人だけだ。

「いいえ。……私は、あくまで、指南をするだけで、どなたかに、奉仕をしたことはありませんよ」

 そう告げると、アルトゥールの顔が嬉しそうに輝く。

「本当に?」

「ええ」

 アルトゥールの問いに答えながら、ルシェールは首を捻っていた。

 このような質問をされることが、意図が分からなかったからだ。

「……私は、あなたに、また、奉仕を申しつけても良いのですか?」

 アルトゥールの問いに、ルシェールは苦笑した。

「お好きになさいませ」

 アルトゥールの眉が、跳ね上がる。

「余裕ですね。今度は、口だけではないと言っても?」

「……私は死ぬことは出来ませんが、臣というのは、主君に死ねと言われれば死ぬものですよ。ただ」

 と、ルシェールは一度言を切って、アルトゥールを見やった。

 凄艶な笑みを浮かべるルシェールに、アルトゥールが圧倒されて、息を飲む。

「―――それの、使い方には、お気をつけ下さい」

「使い方?」

「そう……、殿下が望めば、ありとあらゆるものが、目の前に用意されるでしょう。だからこそ、それを使う時には、ご注意なさい」

「どういう、意味ですか」

「それが解らぬ愚か者ならば、あなたに王笏はふさわしくない」

 ルシェールはそう告げながら、意外な展開になったものだと、思っていた。

 最初、アルトゥールを籠絡して、虜にしてしまおうと思っていたが、全く逆転したと言うことだろう。虜になったのかは解らないが、ルシェールを抱いて支配するということに、薄ぐらい悦びと興奮を見いだしたのだ。

 それは、ルシェール自身、想定していなかった。

「命じなければ、あなたは、私に肌を許さないでしょう」

 アルトゥールは、詰るように言う。

 爽やかな冬晴れの空気の中、交わされる会話ではない。

「ええ、必要がないでしょう」

 穏やかに肯定すると、アルトゥールが、苛立ったようにチッと一つ舌打ちをするのが聞こえてきた。

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