純情将軍は第八王子を所望します

七瀬京

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044 幸福な朝



「……外に、聞こえますかね」

 アーセールが、ためらいがちに言う。だが、離れがたい。せっかく、お互いの気持ちがまだ離れていなかったことを知ったのだから、もっと、触れたい。

「構いません」

「……俺がいやなんです……絶対、みんな、あなたの可愛い姿を想像するでしょう? ……それが、耐えられない」

 アーセールがムスッとしながら言うと、ルーウェが、小さく吹き出した。

「凄い焼きもちですね」

「だって、仕方がないでしょう。俺は、妄想でも、あなたが……誰かに触れられるのは嫌だ」

「……じゃあ……」

 とアーセールの膝の上に乗ったまま、ルーウェがするり、と腕をアーセールの首に回した。

「妄想されないように、私達がしていれば良いのでは?」

「いや、それは……もう……絶対、あなたの姿を妄想して、あなたで埒を明けるやつらが出るんですよ……」

「あなたは? ……その、……私で、妄想しました?」

 ためらいがちに聞かれて、アーセールは返答に詰まる。はっきりと、ルーウェの痴態を思い浮かべて、自身を慰めたことはなかった。だが、肉欲は、確かに抱いた。

「……私は……あなたに、抱いて欲しかったな」

 頬を染めながら、ルーウェが言う。

「……ルーウェ」

「だって、あなたは、ぜんぜん、私に触れなかったから」

「……あなたが、求めていたのが、役割ばかりだったから。私は、そうではなくて、あなたの気持ちが、向いていたら良いと思っていだたけで……」

「だから、私達は、全く違う方向に、努力をしていたんですよ。でも、今は、あなたの気持ちも聞きましたし、それならば、私は、今……あなたと……ちゃんと、したいんです」

 不遇の王子、という立場ではあったが、こうして、自分の言葉を正直にぶつけてくるのは、王族特有の行動なのだろうと、アーセールは思う。

「あなたにあらがえません」

「私が、無理にさせているようではないですか」

「いいえ……俺も、あなたに、触れたかった。触れたくて溜まらなかった」

 ルーウェの身体を引き寄せて、ゆっくりと口づける。繰り返していくうちに、口づけは、深まっていく。あの時、苦々しさばかりを感じていた口づけは、今は、酷く甘い。腕の中にある、愛おしい体温を、ぎゅっと抱きしめる。アーセールは、先ほどルーウェに脱がされていたので、上半身は裸だった。裸の肌に感じるのが、ルーウェの服だったので、酷くもどかしくなった。

「……脱がせますよ」

 一言断ってから、ルーウェの着衣を奪っていく。簡単な旅装を脱がせて、放り投げる。床に、ぱさり、と服の落ちる音がした。ルーウェの体温を、直接感じる。暖かい。そして、感じる鼓動は、早かった。小動物のように、とくとくと脈打っている。

 滑らかな肌を、ゆっくりと手で愛でていく。

「あ……」

 かすかな声を漏らして、ルーウェが喉をのけぞらした。一応、声を気にしているのか、口元を、手で押さえている。

 美しかった。

 内側から光を放つような白い肌に、うっすらと汗が滲んでいる。しっとりと汗ばんだ肌に、唇を這わせる。眉を寄せ、ルーウェが身を固くする。堪えているような表情が、溜まらなく、色っぽかった。

 服は脱ぎ捨ててしまった。

 だから、何かを噛んで声を耐えることが出来なかった。きゅっと、唇を引き締めて耐えている。そのまなじりに、涙がうっすらにじんでいた。

「……辛いですか?」

 耳元に囁くと、かくん、と腰が砕けたようだった。ぐったりと、アーセールにしなだれかかって、「辛いです」と小さく、呟く。声を我慢しているのが、辛いのだ。

「……じゃあ、今日は、この辺で、やめておきますか……?」

「それも、いや……」

 繋がりたい、とルーウェは訴えてから、恥ずかしそうにアーセールの胸に顔を埋める。あまりにも、可愛い態度に、アーセールは、困り果てた。アーセールの理性も、あと少しで、崩れるだろう。また、朝まで抱き潰すわけにはいかない。だが、本当は、そうしたい。

「……ルーウェ」

「ん……?」

「……ちょっと、おあずけでいいですか?」

「えっ?」

「……今日は、このまま、一緒に居ましょう。だけど、俺も、これ以上していたら、また、朝までしそうなんですよ。だから……王都に戻って、とりあえず、この件を解決するまで、お預けで」

「……せっかく、思いが通じたのに?」

「もう、明日死ぬ覚悟なら、だって、朝まで張り切って最後の思い出を作りますけどね。俺たちは、第二王子を倒して、国を取り戻さなきゃ成らないんですよ」

 アーセールの言葉に、ルーウェは不満そうに頬を膨らませている。それが、可愛くて、アーセールは顔中にキスを落とす。今日は、ルーウェの身体に負担を掛けないように、こうして、戯れるだけにしていたい。

「じゃあ……、あなたの、これを……口でしたら駄目ですか?」

 ルーウェからの思わぬ申し出に「えっ、そ、そんな……その……」とアーセールは退け腰になりつつ、欲望のほうは、それを期待したのが解る。身体は、理性よりも、正直だった。するり、とルーウェの白い手が、アーセールの欲望に絡みつく。

「……っ」

「……このままだと、身体に悪いでしょう? ……私が、したいんです。駄目ですか?」

 可愛い伴侶に、そんなことを上目遣いで言われて、否といえるはずがなかった。

「じゃあ、あなたのも、させてください。同時に」

「えっ、私のは……」

 お互い、顔を見合わせて、ばつが悪くなりつつ、それでも、欲望だけは、早く解放して欲しいと訴えているのが解る。

「……本当は、俺だって、あなたと繋がりたいんですよ。朝までどころか、三日三晩一緒に居たい」

「えっ、……そ、そんなに持つかな……」

 ルーウェの身体を寝台に引き上げて、アーセールはごろんと横になる。お互いの頭が、逆になった。陰陽のように、二人は寝転がる。どちらともなく、互いの欲望に口づけた。

「……私は、ずっと、これに、触れてみたかったんです」

 愛おしむように、ルーウェが、アーセールの欲望に口づけて、すり、と頬刷りした。こんなことは、きっと、ルーウェの『客』にはしなかっただろう。

「おれも、……あなたに触ってみたかった」

 アーセールも、そこへ口づける。

 お互い、果てるまで、そうして熱を慰めあって、それに飽きると、抱き合ったまま、他愛ない話をしながら二人は過ごした。

「アーセール」

「ん?」

「……あなたが、あの時、私を選んでくれて良かった……」

 ぎゅっと、ルーウェがアーセールに抱きつく。アーセールも、同じ気持ちだった。

「俺も、あなたと一緒に居ることを選んで良かった」

 

 そうしてふたりで裸のまま抱き合って見た朝日を、二人は一生忘れないと思った。

 すべてを燃やし尽くして再び蘇る太陽。

 その、神々しい姿を見ながら、お互いに、今まで生きてきた意味を、見つけた。この人と巡り会うために産まれてきたのだ。そう、感じる人と出会うことが出来た幸福を、心の底から噛みしめていた。

  
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