リア充な世界にこんにちは

茜るるる

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第1話 いわゆるボッチ

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「空君起きてー」


 カーテンの隙間から差し込む朝の陽気な日差しとともに、甘い声が俺の名前を呼んだ。
 魔の月曜日の訪れ、もとい淡泊な姉の声である。


「ごはん。できてるよー」


「んー」


 なんて寝ボケた声を出す。


「ねぇ、起きてってば」


「ん……分かったから勝手に部屋に入ってくんなって」


「はいはい」


 そう呟き、少し呆れた表情を浮かべた奏がゆっくりと部屋を出て行った。
 高校生にもなって弟離れができていない姉である。

 両親が仕事で家を空けることが多いかわりに色々と世話をしてくれている姉に感謝はしている。が、姉弟でここまで仲がいいというのは果たしていかほどのものだろうか。
 いや、別にやましいことがあるわけではないし、困っているわけでもない。ただ、高校生にもなって姉と仲良くしているのを他人に見られるのが恥ずかしいという男子高校生の陳腐なプライドである。


「ご飯冷めちゃうよーっ」


 一階から奏の叫ぶ声が聞こえてくる。
 ほんの少しだけ尖った口調である。


「今行く」


 奏の機嫌を損なわないよう一応声をかけ、制服に着替えて階段を下りていく。
 途中に奏の部屋があるが、もう長い間入っていない。最後に見たのは中学に入学したてくらいのことだったから、きっともうそのころの面影はないのだろうなぁ、なんて一人考えてみる。
 朝からどうでも良いことである。



 一階に降り、朝ごはんの並べられたテーブルに着く。
 家庭科の教科書に載ってあるような豪勢なご飯とは言えないが、バランスの取れた食事を用意しているところは家庭的という言葉がきっとよく似合うのだろう。


「いただきます」


 正面に座る奏に手を合わせて、綺麗な黄色のだし巻き卵を口に放り込む。まだ熱くて、きっと俺が起きてくるのに合わせて焼いているのだろう。
 うん、今日も美味しいです、ありがとう。なんて言葉は恥ずかしくて口には出せないけどね。


「どうしたの?」


「ん、いや……」


 俺の視線に気が付いたのか、奏が箸を止めた。

 容姿端麗頭脳明晰温厚篤実。おまけに家事全般が得意と言う、見るからにハイスペック極まりない姉である。
 果たして神は何を間違えてこの女の弟に俺を創ってしまったのか、もし神様に謁見できる機会があるなら一度問い詰めてみたいものだ。

 そんなしょうもないことが頭の片隅で回りつつ、テレビに映るニュースを横目に黙々とご飯を食べる。平和平凡かつありきたりなニュースがまたいつも通りの一日の始まりを告げようとしていた。
 現実は小説より奇なり。なんて言葉があるが、少なくとも俺の人生ではそんなことはないらしい……。



 ご飯を食べ終え、いつも通り2人で学校へと歩いていく。
 傍から見れば恋人同士にでも見えるのだろうか?いや、流石に見た目からして釣り合わないか……。


「おいっす~」


 なんて朝から自虐的なことを考えながら歩いていると、不意に女学生が肩をポンとたたいて陽気に笑った。言うまでもないが、叩かれたのは俺ではなく姉の方。
 チクショウ、なんで奏ばっかりいいことがあるんだろうな……。


「おいっす~」


 おそらく友達であろう女学生に、きっと俺にはできないであろう恥ずかしいあいさつをし返す。なんだよ『おいっす』って……。
 なんてことを思っても決して口には出さないのが社会を生き延びていくための術である。そしてこんな言葉を恥じらいなく言える精神こそがリア充と非リア充を隔てる要因であろう。

 独自のリア充理論を展開している傍ら、制服に身を包んだJK二人が楽しそうに会話する。
 姉はさておき、その友達の名前すら知らないこの状況で、果たして俺はこの二人と一緒に登校していると言っていいものだろうか。一緒に歩くべきか、距離をとるべきか、非常に気まずい状況にいるわけである……。

 女特有の少し遅めのペース。
 だからと言ってこの二人を追い抜くわけにもいかず、その背中を眺めながら後ろをゆっくーりと歩いていく。
 すごく無駄な時間だなぁ……。と感じる今日この頃。



 そんなこんなで登校時間約10分。ほかの学生に揉まれながら、立派な門をくぐって高校の敷地内へと入っていく。
 とは言っても1年と2年は校舎が違うため、正門を抜けたら奏はすぐに別の方へと歩き出す。と同時に、奏を中心にできる友達の輪を見てリア充なんだなぁと心の底から関心の念を覚える空君である。

 たいして俺はと言うと、気まずさから逃れられて嬉しいような、一人になって悲しいような、何とも言えない感情が襲ってくる。
 欲を言えば俺に漫画やアニメのような非日常がほしいんだけど、たぶんそんなことを考えてるから非リア充を抜け出せないんだろうな……。



 一人廊下を歩き、一人教室に入る。特に挨拶をする友達もいなければ、朝のホームルームまでの時間をつぶすような友達もいない。授業の準備をしているアピールをして退屈な授業を待つ、いつも通りの毎日である。
 クラスにはそれなりに可愛い子もいるが、俺に話しかける勇気はない。そもそも学校で会話する様な相手すらいないわけで、女子と仲良くなるイベントも起こらない。
 まぁその内何とかなるだろう、と楽観的に考えてみる。



 要は、ボッチということだ。


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