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第6話 猫
しおりを挟む「ほんっっっとグズね」
生徒会選挙一週間前の今日、生徒会長志望である猫村先輩は相変わらず不機嫌である。
無論、今の罵声も俺に対してのものだ。
猫村先輩と手を組んで早一週間、俺に課された使命は兄の立候補を辞退させることだった。とはいっても、兄の性格上一度引き受けたことはよほどな理由がない限り途中で投げ出すことはなく、すでに俺は万策尽きた状態である。
さて、話は変わるがこの一週間、俺は猫村先輩に対して一つ見習うべきことに気づいた。
「お疲れー、準備は順調?」
「あっ、ちーちゃん!うーん、まぁまぁかなぁ。あははっ」
ゆるっ!ふわっ!っとした雰囲気のちーちゃんとやらに、聞きなれない甘い声がかかる。
『あははっ』なんて猫村先輩は一体どんな顔で言ってるのだろうか。そして声帯をどう弄ったらこんな声が出るのか、機会があればぜひともご享受してもらいたいレベルである。
「先生もいつも手伝ってくれてありがとうございますっ」
猫村先輩はおそらく担任であろう先生に対して深々と頭を下げる。称賛に値する猫の被り様である。
苗字に猫が入ってるからそれと掛けてるのか?なんてことを思ってみたりもするが、とにかく態度が180度変わる。いや、180度どころか一周回って540度と言いたいところだ。いつもそんな感じならいい先輩の分類に入るのに、非常に残念極まりない。
そんな猫村先輩だが、意外にも人望はあるようで、仕事をしている今日みたいに誰かが応援に来ることも少なくはない。と言っても、知らない人との会話に俺が入ることはない訳で、仕事しながら猫村先輩たちをチラ見する程度である。
「何?」
二人を見送った猫村先輩が無表情な顔で俺を睨む。
なんで急に不機嫌になるんですかねぇ?
もしかして俺が嫌われてるの?嫌ってるにしてもそこまで睨まなくてもいいじゃないですか、なんて心の中で思ってみたり……。
「何でもないです」
「じゃあさっさと仕事して」
「はい……」
夏の大会が近いためか、部活動に勤しむ他の後援の人が顔を出す時間はあまりなく、回り回ってほとんどの雑用を俺がこなしている。非常にめんどくさい。
もう少し俺に感謝してくれてもいいんじゃないですか?
日も傾き始め、静かな教室にグラウンドから聞こえる掛け声だけが小さく響く。
すでに立候補の締め切りが終わり、選挙に出るのは奏と猫村先輩の二人のみ。つまり一対一の勝負となるわけだが、正直なところ今のままで勝てるとは思わない。
少し離れた場所に座る猫村先輩を見る。俺のことはアウトオブ眼中なのか、きっと見つめていても猫村先輩は気づかないのだろう。
普段女子と会話することもない俺からすればささやかなご褒美である。
なんて冗談はさておき。
猫をかぶっているものの、それなりに人望もあり仕事に対しては真面目に向き合うので特に問題視される点は見当たらない。実際、俺が雑用をこなしているといっても猫村先輩の仕事量もなかなかである。
が、今回に関しては相手が悪い。
奏の登校を見ていると、間違いなく猫村先輩と同程度の人望はあるだろう。そして運や実力に関しては言うまでもない、完璧人間である。それが分かっているから猫村先輩は俺に声をかけたのだろう。
( ゝ ω ・ )
「帰りましょうか」
最終下校時刻のチャイムが鳴る。
微かに赤みを帯びた光が差し込む教室で、猫村先輩は静かに机に広げていた本を閉じた。
早々に帰り支度を始め教室の入り口で待つ猫村先輩に、俺もいそいそと帰り支度を始める。
無論、猫村先輩と一緒に下校するためである。
でゅへへへ
なんて笑いなどは一切出てこない。
先に説明しておくが、これは一緒に帰って親密度を上げよう!とかそういう青春キャハッ☆イベントでもなんでもなく、ただ単純に一人残って問題を起こされたら困るということらしい。
――そう、俺の人生はギャルゲーではないのだ――
そんなことはこの十数年間で痛いほど思い知らされたことである。
実際、教室を出てから一緒に歩いているものの、会話という会話は全くと言っていいほどない。
いや、俺だって最初の方はコミュ障なりに間を持たせようと頑張ったんだぞ?だが、一貫して無視を貫く猫村先輩に、その心はあっけなくへし折られたわけである。
「お疲れ様です」
正門を出てすぐに猫村先輩と別れる。
当たり前の話ではあるが、俺のあいさつに対しての返答もない。どうせあと一週間ほどの関係である。頑張って仲良くすることもないだろう。
夏というのにすでに空は夕焼けを超えて夜の光が当たりを照らし始める。
そういえばこんな時間まで学校にいるというのはここ最近が初めてかもしれない。なんて思いながら一人帰り道を歩く。
ん?遅くまで学校に残っているとなんかリア充っぽい気がするぞ。
「おかえり。最近遅いね」
「うん、まぁ……」
奏の言葉を適当にあしらい、階段を上がり自分の部屋へ向かう。なんだかんだ1週間、生徒会選挙の仕事にも慣れてきた順応力の高い俺である。人間関係の順応力も高ければなぁ……なんて。
「空君、ご飯すぐ食べれるー?」
奏の声が部屋に響く。帰ったらご飯ができてるなんてありがたい限りである。お姉たま、ありがとうございます。
実はもう一つ、俺が猫村先輩に協力しているのには理由がある。
それはまさしく奏のことだ。
基本的に家のことはすべて奏がやってくれており、俺がやろうとしても自分がやると言い張って、結局根負けする。
高校に入って部活をやめたからそこまで心配することでもないだろうが、やはり家事もやって、学校のこともやってとなると、いくら俺でも奏の体の方が心配になってくるわけである。
まぁ自己満足と言われればその通りなんだが、それでも何もしないよりかはましだろう。
いくら俺でも身近な人がいなくなるのは辛いからな……。
なんて考えながら制服を着替えていると、アミノ酸たっぷりな香ばしいにおいが漂ってくる。
そろそろ夕食もできるころだろうか。とりあえず今日もダメもとで辞退を促してみるか……。
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