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第9話 え?
しおりを挟む何この子、俺のこと好きなの?
少し暗い雰囲気で、水槽をライトアップする明かりが姫野の顔を照らす。
特に変なことを企んでる様な表情はない。いつも通りに笑っているだけの能天気なお姫様である。裏があるのか……あるいは本当に一緒に回りたいだけなのか……。
あれ?
そ・う・い・え・ば!
「アレー?ネェチャンハ―?」
不意に思い浮かんだ疑問でその場を何とか繋げる。
嘘です。
本当は最初から気づいてました。
せいぜいトイレかなーなんて、そんな些細な理由なのは百も承知なのでわざわざ聞かなかったのです……。ただ、生憎おれに時間を稼ぐ術は持ち合わせていないので、なくなくこんなしょうもない質問を投げかけた訳である。
だがしかし!
この質問の回答。そこにこそ大きな意味があった。まさか口にした後で気が付くとは、棚からぼた餅ならぬ、棚を見てみればぼた餅である。やはり行動することにこそ、世の中の心理があるのだろう。なんて教訓は置いといて……。
今ここには俺と姫野と姉ちゃんの3人がいる。
ここで仮に俺が姫野と一緒に猛毒展を見て回ったとしよう。そうすると残り一人はそこに入ろうにも、お前入ってくるなオーラに圧倒され、おのずと一人になってしまう。修学旅行や校外学習でよく経験する、いわゆる奇数独りボッチ現象である。
勿論、それが熟練されたボッチなら問題はない。
だが、『あいつボッチじゃね?(笑)』と後ろ指を指されるそんな状況を、プライドだけは一人前のリア充が潔く受け入れるだろうか。
否ッ!!!
群れていないリア充はただの人。奴らも所詮はちっぽけな存在なのである。
たとえそれがあの菩土 奏であっても、『え~っ、私も一緒に行く~♡』なんて媚びを売ってくるに違いない。
ゆえに、『じゃあ姉ちゃん待つか』のたった一言によって、この危機的状況を回避できるわけである。
「あ、奏さんならほかの友達と回るって~」
ななな、ナンダッテー!!!???
まるで俺の自論展開が終わるのを待っていたかのように姫野が声を発した。
あなたエスパーか何かですか?
俺の顔をじっと見つめる姫野は、どうしたの?と言わんばかりに無垢な表情である。くそう、何だよコイツ、人を手玉に取りやがって!と憤りを隠せない俺である。
とは言え、これでこの危機的状況が継続するのが確定したのと同時に、姫野が俺のことを好きという可能性は微粒子レベルまで低下したわけで……。
うん。今はどうでも良いな、この話。
早くほかの生き物が見たいのか、姫野が視線を移しながらソワソワし始める。流石にこれ以上時間を稼ぐのは無理か。それに稼いだところで断るための理由も思い浮かばなさそうだ。
「じゃあ……行くか」
「え?いいの!?」
恥ずかしくておでこ辺りに視線を当てる俺だが、嬉しそうな表情を浮かべる姫野が見えた気がした。
てか、その驚きは何?断られること前提だったのかよ……。
「まぁ……」
なんて、あからさまにそっけない返事しか返せない俺である。
「じゃあ行こっか」
そんな言葉にも満足してくれたのか、姫野は棒立ちで突っ立ってる俺を引っ張る。今の言葉の後ろに♡がついてるように聞こえたのは俺だけだろうか?
もしかして本当に俺のこと好きなんじゃね?
なんて思わせる甘い声色と言うものは恐ろしいものである。
「いやぁ、知らない人と行動するのって気まずいんだよねぇ」
その場を歩きだした姫野が小声で漏らす。
俺からしたらあなたも知らない人なんですが、どの口が言ってるのか小一時間ほど問い詰めてみたいものですね。
( ゚ Д ゚ )
数分ほど歩いたところで姫野が不意に立ち止った。かと思いきや、そのすぐ傍の水槽に手を着き、中にいるカエルをジッと眺め始めた。
「カエルってさー」
何?カエルに親でも殺されたの?
「可愛くない?」
「……」
これはまた、独特の感性をお持ちのようで……。
一体俺はそれになんて答えればいいの?
「え?そうでもない?」
「そうでもない」
「え~っ!?ほらこのまん丸の眼とかさ」
俺の言葉に姫野が不満そうな表情を浮かべた。
「ほら、この子この子!」
ほんの数十センチ。俺の袖を引っ張った姫野の髪の香りが柔らかく漂う。
そういえば今日は私服なのか。いや、そりゃあ週末だし、制服を着ている方が変か……。なんて、今さらながらに気付いた姫野の夏っぽい服装は、色鮮やかなカエルにも負けないくらいに俺の視線を奪っていく。
「ね?可愛いでしょ?」
唐突に俺に視線を向ける姫野に思わず視線を逸らす。
別に胸元の隙間を見ていたわけではない。が、視線的にそう思われてもしょうがない角度なので勘違いされても困るわけである。
「ん?ああ、そうだな」
「もー、ボッチー適当すぎー」
そう言って姫野が小さく笑う。
果たして俺は何を見て可愛いと言ったのか。それは俺の心にしまっておくことにしよう。
「あ、奏さん」
姫野の視線の先、休憩スペースに座る奏を見つける。正面に座ってるのは……男!?
姫野の言ってた友達なのだろうか?勝手に女友達とばかり思っていたが、まさかあの奏が男と一緒に回るとは……何か見てはいけないものを見てしまったような気がする。
「そういえばボッチーさ、LIMEってやってる?」
ん?あの無料トークに無料通話が可能と呼び声の高い、リア充御用達のあのLIMEですか?
友達は姉ちゃんしかいないが、やってるの定義がダウンロードしているということならやってると答えようではないか。
「じゃあさ、友達登録しとかない?ほら、また遊ぶかもしれないしさ」
「え、いいけど」
マジ!?
マジっすか!?ありがとうございます姫野様。
感謝の念を抱きつつ、姫野の言われるがままにLIMEの友達登録を済ます。今どきはQRコードで友達登録ができるのか……流石リア充、慣れた手つきである。
「これで生徒会になった時とかも安心だね」
「え?」
「え?」
俺の呆けた返事に姫野がすかさず真似をする。
そんなボケはいらん。なんて言葉はこの能天気お姫様に意味がないことは十分承知である。
なんで?
と聞きたそうな口が、姫野の少し困ったような表情を一層際立たせる。
「ボッチーさ、奏さんが生徒会長になったら役員に……なるんだよね?」
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