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第8話 我が名はボッチー
しおりを挟む静岡駅を北に少し歩いたところに特設会場が設置されている。どうやら猛毒展のためだけに設置されたようだ。
「結構いるね」
熱を持ち始めた日差しに手をかざしながら、奏が呟いた。
午前10時過ぎの土曜日。開場時刻直後だというのに、意外にも来場者が多いことに驚きを隠せない俺である。
猛毒生物の小ブームでも来ているのか?
なんて思うくらいの込み具合だが、来場者の多くは子供連れの家族のようで、やっぱりゆとり世代の若者にこんな知的な展覧会は合わないのだろう。ユニフォームに身を包んで無意味な汗を流す方がお似合いである。
そんな皮肉を思いながら歩いて数分、入場券を購入して会場へと入っていく。
毒の怖さを醸し出すためか会場内は少し暗く、そんな雰囲気に奏のテンションが早くも上がっていく。
子供かお前は!
なんてツッコみたくなるが、姉弟なのか案外俺自身のテンションも上がりつつあるらしい。
基本的にコミュ障は何事にも乗り気ではない。が、そもそもリア充と比較して『外出』と言うイベントが極端に少ないコミュ障は行くところのほとんどが初体験なのである。それゆえ、実際どこかに行くと一番テンションが上がっていることは少なくない。
無論、俺も然り。
リア充と違ってコミュ障と言う人種はほんの少しだけシャイなので分かり辛いかもしれない。が表には出さないがコミュ障も一人前に興奮しているのである。カエルやらカメやら、暗い雰囲気に黄色や赤色の生物。そんな中二心全開な状況に好奇心を掻きたてられない訳がない。
「あれあれ~?」
おや?何かすごい聞き覚えのなる声がするようなしないような……。
「これはこれは、空君ではないですか!と敬語を使ってみたり」
律儀に俺の前まで回り込んできた女の子は『驚きましたっ!』と言わんばかりの表情で俺を覗き込む。
て言うか何そのキャラづくり……。
「おいっす~♪」
はい、こんにちは姫野さん。
相変わらずの恥ずかしい挨拶を華麗にかわす空君である。
どうでもいいけど、姫野って会う度に笑顔だなーなんて考えてみる。やっぱり真のリア充にもなれば毎日が楽しいのだろうか……なんて思ってみたり。
……あれ?口癖移ってる?
まぁいいか。
「奏さんおいっす~」
「おいっす~」
俺の返事がなかったからか、姫野はすぐさま奏の方へ笑顔で手を振る。そんな姫野のあいさつを気持ちよく返す奏である。
笑顔で登校中ならまだしも、一般市民が周りにいる中でよくそんな挨拶ができるな……。
「それにしてもこんなところで会うなんて奇遇ですね。一緒に回りません?」
「えっ……?私はいいけど……」
会って数分も経たないうちに誘うって、そのスキルチート過ぎません?ちょっと僕も欲しいんですけど……。
なんてうらやむ一方、姫野の言葉に弱々しく答えた奏が俺の方をチラリと見る。そんな心配そうな目で見なくても大丈夫ですって……。
「ボッチーも一緒にどう?」
姫野が何の躊躇いもなく俺を誘う。
一応聞いておくけど、ボッチーって俺のこと?
いや、否定はできないけどさ。できないけど、流石に言っていいことと悪いことくらいの判断はしましょうよ……。泣きそう。
そして『どう?』って何?展示されてる生き物を見ても『色ヤベェ』くらいしか思い浮かばないんですが、見知らぬ女子相手にいったい何を話せばいいんですかねぇ?
ということでそのお誘いは丁重にお断りすることにいたしましょう。
「んー、俺は一人で回るわ。ちょうどあっちの爬虫類の方が気になってたし」
「へー、空君って爬虫類好きなんだー」
「まぁ……」
いや、好きなわけないだろ。一人になるための口実ってことくらい分かれよ……。なんて思いながら姫野を睨む。
素でそう思っているのか、ただ煽っているだけなのか。それは姫野の無邪気そうな顔を見れば一目瞭然である。悪気がないのは分かるが、やっぱり俺は陽キャと合わないらしい。
「んじゃ、また後で」
そう言って姫野の追い打ちが来ないうちにその場を歩きだす。
本来なら、そこで俺も一緒に行くというのが100点満点の回答なのだろう。一緒に盛り上がってあわよくば連絡先まで交換できるという、学園生活の転機にもなりかねない選択肢である。
が、コミュ力のない俺がその言葉を口に出してしまったらどうなるか。俺一人だけ無言で二人の後ろに佇んでいるだけと言うとてつもなく悲惨な状況になることくらい考えなくても分かるわけである。それなら初めから一人で気楽に見て回る方が何十倍も楽しいだろう、というTHE・コミュ障の思考回路である。
なんて自己嫌悪なのか自己慰安なのか分からないことを考えつつ、対して興味もない爬虫類コーナーへと足を運んでいく。
チビッ子たちに人気があるからか、とりわけ爬虫類コーナーは人が多いようだ。こんなことなら人気がなさそうなナマコとかを言っておけばよかったなんて少し後悔してみる。
いや、ナマコがいるかは知らないけど……ナマコって食べれるし、流石にここにはいないか。
そんな感じで周りの小学生たち異にペースを合わせつつ、ゆっくりと毒を持つ爬虫類を眺めていく。
ミドリガメ?
ふと、目の前の水槽に張られた動物紹介に目が止まる。ミドリガメってあの一般的なカメ……だよな?へー、こいつって毒持ってるのか。新たな発見である。
そして何より、カメが爬虫類であったことに驚き――
「へー、カメって爬虫類なんだ」
俺と全く同じ驚きを持つ人がすぐ隣にいる訳だが、ついさっきも聞いたような声に違和感を持つのは僕だけでしょうか?
嫌な予感を抱きつつゆっくりと横を向くと、光が映った大きな瞳が俺を見つめていた。俺と目が合うとほんの少しだけ口元が笑ったような気がして、すぐにその口が音を発する。
「ボッチー、一緒に回らない?」
え……なんで?
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