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第12話 悪者
しおりを挟む生徒会選挙が始まった。
と言っても、一般の生徒にとっては何ら変わりのない日々である。演説を聞いて紙を提出するだけの作業、それもショートホームルームで行われるため、大半の生徒は適当にチェックをつけて義務を終えるわけだ。今の学校生活に満足している生徒にとって、生徒会長はおそらく誰でもいいに違いない。
猫村先輩に票をお願いします!
なんて俺が教室で頭を下げたら猫村先輩の票は増えるだろうか?
否。
俺程度が頭を下げたところで周りのやつらは見ちゃいない。せいぜい内輪で笑われて数票程度を稼ぐのが限界だろう。だから俺はそんな馬鹿げた真似をするつもりは毛頭ない。
初日の演説は放送で、二日目は体育館で演説を行うらしいが、今日の演説を聞く限りどちらもテンプレート通りの優等生な演説だった。
まことに素晴らしい限りである。
が、それは同時に猫村先輩が奏と差をつけられないということでもある。
名前の知名度からして奏の方に票が流れやすいのは猫村先輩も分かっているはず。となると演説で何かしらの策を講じないと勝ち目はないわけで、はっきり言って猫村先輩の状況は相当厳しいだろう。
前から回ってきた紙に目を通す。
当然俺は猫村先輩の方にチェックをつけるが、周りでは奏の名前を口に出すやつがやはりちらほらと。
「なぁ、お前どっちにする?」
隣の仲良しグループが何やら盛り上がる。
高校生なんだから自分で決めろよ、と思うが口にはしない。
「俺は菩土の方に入れたぜ」
「んじゃあ俺もそっちに入れよっと」
集団心理のせいか、一人が名前を出すとそのグループのほとんどのやつがハブらないよう同じ方に票を入れる。全く、自我を持っているボッチを見習ってほしいもんだ。
なんて考えても見るが、このクラスだけでも大半の票が奏に流れているのは間違いないだろう。
ショートホームルームも終わり、教室を出て校舎の出口へと向かう。
今頃3年校舎では明日の演説に向けて話し合っていたりするのかもしれない。
だが、俺は行かない。すでに俺の出る幕はないのだ。あとは猫村先輩が勝つのを祈るのみである。
校舎を出て照り付ける太陽を左腕で遮る。グラウンドで部活に勤しむ生徒を横目に見ながら帰るのは何度目だろうか。きっと彼らにとっては部活動をする高校生活が普通なのだろう。
まぁ俺も言うなれば帰宅部という部活であるが……。
歩いて数分という短い距離にもかかわらず、最近は家に着くころにはシャツが結構な量の汗で濡れている。初夏真っ盛りである。
地球温暖化というものにももう少し真剣に考えなくてはならないなー。なんてエコな心が芽生え始めるが、数十秒後には冷房を効かせた快適な環境で安らかに眠ることになろう。これだから現代っ子は……。
P r r r r
珍しく着信の通知が鳴った携帯に目を覚ます。
「もしもし」
誰?
なんてありきたりな疑問なんて浮かばない。このタイミングで俺に電話をかけてくる人なんてこの世で一人しかいないのは明確である。
「どうしたんですか、猫村先輩」
「わざわざ要件を言わないとわからない?」
案の定不機嫌な声である。さしずめ、今日の投票で奏に大差をつけられて不機嫌になっていると言ったところだろうか?
その鬱憤を俺にぶつけるのは先輩としてどうかと思うんですがねぇ……。
「差はどれくらいなんですか?」
「……」
俺の質問に猫村先輩が一瞬の間を置く。
「だいたい4倍くらいね」
4倍……か。まぁ予想通りの範疇である。少なくとも知名度からして猫村先輩に票が流れることはない訳だし、むしろ10倍とかで戦意喪失されなかっただけマシと考えた方がいいのかもしれない。
「で、ここから起死回生の策っていうのは……」
「一つだけあるわ」
猫村先輩の声が俺の耳元で囁く。
「と言っても、この4倍差をひっくり返せるとは思ってない。ならどうしたらいいか、貴方なら分かるでしょう?」
「……」
会話が止まる。
策がないから俺から絞り出そうなんて根端ではないだろう。この落ち着き具合からして何かあるのは間違いない。
だが、ここから逆転できる方法なんて一つしかない訳で、ただの生徒会選挙なんかにそこまでやるか?なんて疑問すら浮かんでくる。もし仮に、俺と全くおんなじことを考えているのだとしたら、この猫村 紗耶香という人間は悪なのかもしれない。
心のどこかで、そうでないようにと願いながら、ゆっくりと形態のマイクに口を開く。
「ひっくり返せないなら、辞退させればいい」
「あら、話が早くて助かるわ」
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