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バグ・リトル(10才男児)の例:0.7
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バグ・リトル(10才男児)の例:0.7
海に囲まれた島国、ジャピン。世界最大の島国であるジャピンは5つの区に
分かれている。
島の中心部に位置する高齢者の住む延喜区、
機械化した身体の者やトランスジェンダーの者など多様に富む存在で成立する
ネオダイバーシティ区、
若者や子供のいる家族が多く住むヘラ区、
国家規模の研究を行う特務的多元研究開発機構区略して特研区、
そして海岸沿い一周の地域を割り当てられた沿岸区が存在する。
区はインフラベースで互いに独立しており、そして区間の干渉はほとんど無い。
この分断的構造には理由がある。2423年、世界保全機構が
世界的エネルギー不足への対策として発令した、居住の棲み分けでコストを
最小限に抑える政策を盛り込んだ「低エネルギー条約」が各国の義務となった為
である。
沿岸区、海からのゴミが流れ着く場所。
産廃物は当然の事、生活ゴミも沢山流れ着き、まるで沿岸区が膨張していくかの様に、それらは溜まり続ける。
沿岸区とは言わば、ゴミのたどり着く場所、そしてそれは人間という生物も同じくであった。社会信用システムによって、一般的な暮らしを割り当てて貰えなかった者達が、そして行き場を失った者達が唯一存在出来る場所、それが沿岸区。
区によって分断された「国」という身体は自浄の力を失っていた。
そしてそれはジャピンだけで無く、各国で起こっていた。人々のえも言われぬ憂いが具現化したかの様に、世界に難解の根をはり、各地で芽吹いたのだ。
さて、国の説明はこれくらいにして、バグ・リトルを紹介しよう。
どこからとも無く大海原を漂流し、ジャピン沿岸区へ奇跡的に生きたまま流れ着き、そして沿岸区で暮らすキュートな少年、バグ・リトルを。
「かずじい、缶と鉄ここに置いておくね。」息を整えつつ、とぼとぼと
男性のいるテントに近づきながらバグは言った。(かわいい。)
「おう、ありがとうな。」険しい表情で鉄にハンマーを力強く打ちつけながら、
かずじいは答えた。テントの入り口から入ってこようとするバグを見て、
「ほれ、危ないから向こう行ってな」とかずじいはテントの袖で遮った。(そうだ、危ないよ。)
「何か手伝う事はある?」わくわくと笑みをこぼしながら聞くバグ。
「そうだな、ひでじいと、のりじいが、山菜を取りに、行ってるから、北の山に、行ってみな。」かずじいの息が上がっていく。
「分かった!かずじい、無理しちゃダメだよ。」「ああ。」
かずじいの返事を聞いて、バグはゴツゴツとした岩肌の上を慎重に歩き出し、
山の方へと向かった。
バグには二人のじいが居る場所の見当が大体ついている。山菜の取れる場所は限られているからだ。山に入って数分で、案の定二人を見つけた。
「おう、バグも手伝ってくれるのか?」ひでじいが嬉しそうに言うと、
バグは「うん!」と嬉しそうに答えた。
「今日は、ウドとコシアブラとワラビだ。」のりじいが優しく微笑むと、
バグは「うん!」とまた嬉しそうに答えた。
「でもそろそろあれだな、新しい場所まで移動しないと。」のりじいが
ひでじいと先を案じている。「そうだな。」
バグは聞こえていないフリをしていた。自分が暗かったり、落ち込んでいる素振りをすると、三人のじいはとてつもなく気を遣ってくれてしまうからだ。(三人とも中々優しく良い奴らなのだ。)
バグはバグなりに考え行動していた。
バグには一つ大きな欠点があった。それは、“誰かの真似しか出来ない”という事だ。
子どもらしく微笑む事も、優しそうに振る舞う事も、元気よく返事する事も、全て他人の真似で会得したものであり、元々のバグには何も表現する事は出来なかった。
言うなれば、バグには自分らしさというものが無いのである。子供はそんなもの、なんて言うかもしれないが、バグは心が育っておらず、
それらの行動やしぐさに“そうしたい”という動機は無い。
“そうあった者が周りに好かれていたから”真似をするのである。
子どもらしく微笑む子供が、大人にかわいいと可愛がられるのを見て、
誰かを気遣う子供が、周りに優しいねと褒められているのを見て、
大人が言う事に元気良く返事する事で、元気で偉いと褒められたのを見て、
バグは吸収したのである。その時々のシチュエーションを考え、それらのアクションを行うのである。
動機は、そうしたい、では無く、
そうすると好かれるから、なのである。(ああ、かわいそうなバグ、そしてかわいいバグ。そうそう、私の事は気にしないでくれ、主観というものだ。主観を書くなって?まあ良いじゃないか、そんな事がたまには起こったって、世界が無くなる訳ではない。だってバグはこの世界に実在するんだから。)
オレンジの陽が、今日半日生きた者達に祝福と、夜が訪れる警告をしてくる頃、
四人は山菜と鶏を煮た鍋を囲み、いつもの様に昔の話に花を咲かせていた。
「マサが鉄の兜かぶって遊んでるうちに、取れなくて泣いたの本当面白かったな。」
「『痛い痛い!無理に抜かないで!やっぱ早く取って!』って超大騒ぎしてな。」
「あれはかずが、『ヤバい!熊が来てる早く逃げろ!ヤバいぞマサ!』とか言ってマサを脅かすからだよ。」
「で、『死んだフリしないと!ヤバいもう後ろにいるって、早く!』って。で、みんなでシーンとしてたら、じょーってな!『マサ、ごめん冗談だよ。』って言ったらゆっくり起き上がって一言、『もう遅いよ、もう出ちゃってるよ。』ってな!」と、三人のじいが旧友のマサのお漏らしの話で盛り上がっていた。
一通り笑い合って、すぐさま思う事は皆同じだったが、あえて口にする者はいなかった。そんな時はいつも決まってひでじいが話をすり替える。
「そいえばこの前思いついたんだけどさ、熊を捕まえる為に落とし穴を作ってみるのはどうかな?」のりじいが意図を汲んで「無理だよ、あいつら木だって登ってくるんだから。よっぽど大きくて深い穴じゃないと。」と相手にのった。
「ねえかずじい、船作りは進んでる?」バグがかずじいに話しかける。だが、かずじいは手に持ったお椀を見ながら素気なく答えた。「まだだ。まだまだ。」
バグの顔など見れるはずもない。良い返事を貰えるかもという期待を顔に滲ませながら、毎夜毎夜聞いてくるのだから。
「そっか、みんなが乗れる船だもんね、もっともっと沢山鉄必要だもんね。明日も大きい鉄、いっぱい取ってくるね!」声を弾ませるバグ。「ああ。」応えるかずじい。
「さっ、そろそろ寝よう!」ひでじいがバグの頭を優しく撫で、手を繋いで海食洞に入って行った。(ゆっくり休みなさい、そして、せめて良い夢を)
二人が海食洞に入るのを見届け、残る二人のじいは、移住について議論し始めた、
終わらない日々、何十年経っても変わらない現状。
終わらない不安、何十年経っても分からない元凶。
出口、答え、安全、喜び、そして希望。見つからないものばかり探し求め、
疲弊し切った心と体。たしかなものは、彼らの紡ぐ決意のみ。
じい三人の決意。どんな事があっても諦めず日々を生き残る事。そして、バグが
一人で生きる力を身につけるまで、守ってやる事。
バグを最初に保護した夜の事。
憔悴しぐったりするバグを抱え歩きながら、
かずじいは二人に向かって言ったのだ。
「人生のかわいい後輩の為に、男見せるのが俺達先輩の役目だな。
後輩の前では、最後までカッコいい先輩でいたい、そう思うんだ。
託せるものなんか、それくらいしかない。」
かずじいのその言葉に彼等が頷いたその時から、三人の決意は紡がれたのだ。
彼等がようやく見つけたのは、希望の種という、心の糧。
生きる彼等には、それが一番必要なものだったのかもしれない。
海に囲まれた島国、ジャピン。世界最大の島国であるジャピンは5つの区に
分かれている。
島の中心部に位置する高齢者の住む延喜区、
機械化した身体の者やトランスジェンダーの者など多様に富む存在で成立する
ネオダイバーシティ区、
若者や子供のいる家族が多く住むヘラ区、
国家規模の研究を行う特務的多元研究開発機構区略して特研区、
そして海岸沿い一周の地域を割り当てられた沿岸区が存在する。
区はインフラベースで互いに独立しており、そして区間の干渉はほとんど無い。
この分断的構造には理由がある。2423年、世界保全機構が
世界的エネルギー不足への対策として発令した、居住の棲み分けでコストを
最小限に抑える政策を盛り込んだ「低エネルギー条約」が各国の義務となった為
である。
沿岸区、海からのゴミが流れ着く場所。
産廃物は当然の事、生活ゴミも沢山流れ着き、まるで沿岸区が膨張していくかの様に、それらは溜まり続ける。
沿岸区とは言わば、ゴミのたどり着く場所、そしてそれは人間という生物も同じくであった。社会信用システムによって、一般的な暮らしを割り当てて貰えなかった者達が、そして行き場を失った者達が唯一存在出来る場所、それが沿岸区。
区によって分断された「国」という身体は自浄の力を失っていた。
そしてそれはジャピンだけで無く、各国で起こっていた。人々のえも言われぬ憂いが具現化したかの様に、世界に難解の根をはり、各地で芽吹いたのだ。
さて、国の説明はこれくらいにして、バグ・リトルを紹介しよう。
どこからとも無く大海原を漂流し、ジャピン沿岸区へ奇跡的に生きたまま流れ着き、そして沿岸区で暮らすキュートな少年、バグ・リトルを。
「かずじい、缶と鉄ここに置いておくね。」息を整えつつ、とぼとぼと
男性のいるテントに近づきながらバグは言った。(かわいい。)
「おう、ありがとうな。」険しい表情で鉄にハンマーを力強く打ちつけながら、
かずじいは答えた。テントの入り口から入ってこようとするバグを見て、
「ほれ、危ないから向こう行ってな」とかずじいはテントの袖で遮った。(そうだ、危ないよ。)
「何か手伝う事はある?」わくわくと笑みをこぼしながら聞くバグ。
「そうだな、ひでじいと、のりじいが、山菜を取りに、行ってるから、北の山に、行ってみな。」かずじいの息が上がっていく。
「分かった!かずじい、無理しちゃダメだよ。」「ああ。」
かずじいの返事を聞いて、バグはゴツゴツとした岩肌の上を慎重に歩き出し、
山の方へと向かった。
バグには二人のじいが居る場所の見当が大体ついている。山菜の取れる場所は限られているからだ。山に入って数分で、案の定二人を見つけた。
「おう、バグも手伝ってくれるのか?」ひでじいが嬉しそうに言うと、
バグは「うん!」と嬉しそうに答えた。
「今日は、ウドとコシアブラとワラビだ。」のりじいが優しく微笑むと、
バグは「うん!」とまた嬉しそうに答えた。
「でもそろそろあれだな、新しい場所まで移動しないと。」のりじいが
ひでじいと先を案じている。「そうだな。」
バグは聞こえていないフリをしていた。自分が暗かったり、落ち込んでいる素振りをすると、三人のじいはとてつもなく気を遣ってくれてしまうからだ。(三人とも中々優しく良い奴らなのだ。)
バグはバグなりに考え行動していた。
バグには一つ大きな欠点があった。それは、“誰かの真似しか出来ない”という事だ。
子どもらしく微笑む事も、優しそうに振る舞う事も、元気よく返事する事も、全て他人の真似で会得したものであり、元々のバグには何も表現する事は出来なかった。
言うなれば、バグには自分らしさというものが無いのである。子供はそんなもの、なんて言うかもしれないが、バグは心が育っておらず、
それらの行動やしぐさに“そうしたい”という動機は無い。
“そうあった者が周りに好かれていたから”真似をするのである。
子どもらしく微笑む子供が、大人にかわいいと可愛がられるのを見て、
誰かを気遣う子供が、周りに優しいねと褒められているのを見て、
大人が言う事に元気良く返事する事で、元気で偉いと褒められたのを見て、
バグは吸収したのである。その時々のシチュエーションを考え、それらのアクションを行うのである。
動機は、そうしたい、では無く、
そうすると好かれるから、なのである。(ああ、かわいそうなバグ、そしてかわいいバグ。そうそう、私の事は気にしないでくれ、主観というものだ。主観を書くなって?まあ良いじゃないか、そんな事がたまには起こったって、世界が無くなる訳ではない。だってバグはこの世界に実在するんだから。)
オレンジの陽が、今日半日生きた者達に祝福と、夜が訪れる警告をしてくる頃、
四人は山菜と鶏を煮た鍋を囲み、いつもの様に昔の話に花を咲かせていた。
「マサが鉄の兜かぶって遊んでるうちに、取れなくて泣いたの本当面白かったな。」
「『痛い痛い!無理に抜かないで!やっぱ早く取って!』って超大騒ぎしてな。」
「あれはかずが、『ヤバい!熊が来てる早く逃げろ!ヤバいぞマサ!』とか言ってマサを脅かすからだよ。」
「で、『死んだフリしないと!ヤバいもう後ろにいるって、早く!』って。で、みんなでシーンとしてたら、じょーってな!『マサ、ごめん冗談だよ。』って言ったらゆっくり起き上がって一言、『もう遅いよ、もう出ちゃってるよ。』ってな!」と、三人のじいが旧友のマサのお漏らしの話で盛り上がっていた。
一通り笑い合って、すぐさま思う事は皆同じだったが、あえて口にする者はいなかった。そんな時はいつも決まってひでじいが話をすり替える。
「そいえばこの前思いついたんだけどさ、熊を捕まえる為に落とし穴を作ってみるのはどうかな?」のりじいが意図を汲んで「無理だよ、あいつら木だって登ってくるんだから。よっぽど大きくて深い穴じゃないと。」と相手にのった。
「ねえかずじい、船作りは進んでる?」バグがかずじいに話しかける。だが、かずじいは手に持ったお椀を見ながら素気なく答えた。「まだだ。まだまだ。」
バグの顔など見れるはずもない。良い返事を貰えるかもという期待を顔に滲ませながら、毎夜毎夜聞いてくるのだから。
「そっか、みんなが乗れる船だもんね、もっともっと沢山鉄必要だもんね。明日も大きい鉄、いっぱい取ってくるね!」声を弾ませるバグ。「ああ。」応えるかずじい。
「さっ、そろそろ寝よう!」ひでじいがバグの頭を優しく撫で、手を繋いで海食洞に入って行った。(ゆっくり休みなさい、そして、せめて良い夢を)
二人が海食洞に入るのを見届け、残る二人のじいは、移住について議論し始めた、
終わらない日々、何十年経っても変わらない現状。
終わらない不安、何十年経っても分からない元凶。
出口、答え、安全、喜び、そして希望。見つからないものばかり探し求め、
疲弊し切った心と体。たしかなものは、彼らの紡ぐ決意のみ。
じい三人の決意。どんな事があっても諦めず日々を生き残る事。そして、バグが
一人で生きる力を身につけるまで、守ってやる事。
バグを最初に保護した夜の事。
憔悴しぐったりするバグを抱え歩きながら、
かずじいは二人に向かって言ったのだ。
「人生のかわいい後輩の為に、男見せるのが俺達先輩の役目だな。
後輩の前では、最後までカッコいい先輩でいたい、そう思うんだ。
託せるものなんか、それくらいしかない。」
かずじいのその言葉に彼等が頷いたその時から、三人の決意は紡がれたのだ。
彼等がようやく見つけたのは、希望の種という、心の糧。
生きる彼等には、それが一番必要なものだったのかもしれない。
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