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イケメン、コロスベシ! その1
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「おはようございます」
「ミッツ、元気だねー!」
「今日は、心も体も軽いですからね。絶好調です。仕事も上手く行きそうですよ」
「良いみたい♪」
元負け犬ど底辺社畜の佐藤満博改め、モンスター“引籠もる剣士”のミッツが迎えたこの世界3日目の朝。
それは恐ろしくハイテンションであった。
幼子にしか見えないが、200年以上生きている姫と元気に挨拶を交わす。
初日は人間ではない事、異世界に来た事、消滅目前だということ、自分がロリコンだったこと。と、様々な受け入れがたい問題に直面。
そして2日目。人殺しを体験。
しかも、複数。その数16人。
元の世界ならば、大々的にシリアルキラーとして茶の間を沸かしていたことだろう。
殺した直後には人間らしく落ち込んでいたものだが、一夜明けただけでこの立ち直りである。
間違いなくサイコパス。――そう言いたくもなるだが、ちゃんとした理由がある。
この世界ではダンジョンでの死は仮初めの死でしかなく、死亡後に発生した墓石を教会に持っていけば復活が可能。そして、復活した本人が死んでしまったことを肯定的に捉え、それどころか喜んでいた。
決して死んだことを喜んだわけではないが、ミッツが行なったダンジョンへ連れていくという行為の結果のひとつとして満足していたのだ。
これは、直面している危機である“消滅”を免れるため、ダンジョンへと冒険者を誘い殺す必要があるミッツが、姫とミッツのために街に住む一般人を生贄として連れて行ったのだが、一方的な搾取ではなく、元携帯電話販売店の店長の経験を活かし顧客心理を誘導する等のマーケティング知識を使い、顧客であるダンジョンに連れて行った一般人もベネフィットを満たすことが出来た結果である。
そして、わざわざミッツを探し出してまで、直接感謝の気持ちを伝えに来てくれた。
これによりミッツは、過去に抱いていた勤労意欲を思い出し、このハイテンションへと繋がる訳である。
それにしても、僅か2日間――しかも、これだけのことが立て続けに起こっていながら、自然にこの状況を受け入れているミッツというか、社畜の適応力の高さには恐れ入る。
さて、そんなミッツの異世界生活3日目だが、やることは昨日と何も変わらない。
何故なら、危機的状況は何も変わっていないからである。
ダンジョンの生命力にして活力であるダンジョンエナジーは枯渇寸前。
昨日も上手くダンジョンエナジーを稼いだとは言え、1日分の維持費を稼いだだけ。即ち、なんとか生きながらえただけなのだ。
「――なので当面は、昨日結果を出せた『冒険者ではなく、他ダンジョンとパイの重ならない一般人をターゲット顧客にする戦略』を継続し、集客規模を拡大して行くのが妥当だと考えます」
「うん。良く分かんないけど、ミッツに任せるよ」
「畏まりました」
昨日の数字報告と今後の行動指針の発表、本日の行動の報告といった朝礼を終え、ミッツは真っ赤な革張りの豪華な椅子に深く腰掛け足をぶらぶらしている姫に恭しく頭を下げた。
言葉通りに命懸けの仕事だが、ミッツにとって本日の仕事は気楽なものだ。
昨日、顧客と個人的に飲むことになったが、その席で本日以降の見込み客の情報を貰っていた。
その数が凄い。昨日の倍近く、ダンジョンに入る希望者が居るそうなのだ。
単純に考えれば、得られるダンジョンエナジーも昨日の2倍。
そうすれば、僅かではあるがダンジョンエナジーにも余裕が生まれるというものである。
順調そのもの。
久方ぶりのこの感覚に、ミッツは頬が綻んでいた。
姫と別れたミッツは、本日もオールスタット王国の城下町ビギニンガムに移動していた。
「やっぱ、この移動凄いな」
褒めたのは、瞬間移動のこと。
ダンジョンと街の位置関係は分からないミッツだが、それでもそれ程近い位置ではないことぐらい分かる。
姫のダンジョンである【黒髪姫の薔薇のお城】の周囲は、何もない荒野。
辛うじて遥か彼方に、山、森、地平線が見えるだけで、人の気配が感じられるようなものは全く見えないのだ。
「あの鮨詰で不快な通勤電車に乗らなくて良いってのが素晴らしい。痴漢冤罪を恐れて両腕を上げ続ける必要もない」
ミッツは店の近くに引っ越していたので電車に乗っているのは3駅だけ。時間にして10分弱だったが、通勤時の混雑はそれでも十分に精神的疲労を積み重ねる難敵であった。
それを思えば、なんて素敵な移動手段なのだろうかという感想を抱いて当然である。
そうはいっても、まだ3日前の話なのだが、何故か遠い昔のような現実味のない幻想だったような気がしていた。
ダンジョンのイベントアイテムを作成する機能で作った【落とされた冒険者の証】を門番に見せて街の中に入る。
昨日同様見て回りたい気持ちになるが、ぐっと抑える。
もう何日か我慢すれば、それくらいの時間を捻出することが出来るという確信に近い予測があったからだ。
軽い足取りで向かう、東区。
昨日集客を行なったのと同じ場所。
「待ってたでー」
「おはようございます」
「流石冒険者様だ」
ミッツが到着すると、次々と挨拶や感謝の言葉が飛んできた。
そこには、大量の人。
ざっと見ただけで、昨日の倍以上は居ると確信が持てるだけの人集り。
「おはようございます」
本日の勝利も確信したミッツが挨拶を返す。
まるで月末まで日を残し目標達成したような安堵感。
しかし、負け犬ど底辺社畜に身を窶していたミッツの人生が、そんな順調に進むわけはない。
常に不運と共に生きているのだ。
「そこの者、止まれ!」
不躾に、上からの物言いで俺を引き止める者が現れた。
「ミッツ、元気だねー!」
「今日は、心も体も軽いですからね。絶好調です。仕事も上手く行きそうですよ」
「良いみたい♪」
元負け犬ど底辺社畜の佐藤満博改め、モンスター“引籠もる剣士”のミッツが迎えたこの世界3日目の朝。
それは恐ろしくハイテンションであった。
幼子にしか見えないが、200年以上生きている姫と元気に挨拶を交わす。
初日は人間ではない事、異世界に来た事、消滅目前だということ、自分がロリコンだったこと。と、様々な受け入れがたい問題に直面。
そして2日目。人殺しを体験。
しかも、複数。その数16人。
元の世界ならば、大々的にシリアルキラーとして茶の間を沸かしていたことだろう。
殺した直後には人間らしく落ち込んでいたものだが、一夜明けただけでこの立ち直りである。
間違いなくサイコパス。――そう言いたくもなるだが、ちゃんとした理由がある。
この世界ではダンジョンでの死は仮初めの死でしかなく、死亡後に発生した墓石を教会に持っていけば復活が可能。そして、復活した本人が死んでしまったことを肯定的に捉え、それどころか喜んでいた。
決して死んだことを喜んだわけではないが、ミッツが行なったダンジョンへ連れていくという行為の結果のひとつとして満足していたのだ。
これは、直面している危機である“消滅”を免れるため、ダンジョンへと冒険者を誘い殺す必要があるミッツが、姫とミッツのために街に住む一般人を生贄として連れて行ったのだが、一方的な搾取ではなく、元携帯電話販売店の店長の経験を活かし顧客心理を誘導する等のマーケティング知識を使い、顧客であるダンジョンに連れて行った一般人もベネフィットを満たすことが出来た結果である。
そして、わざわざミッツを探し出してまで、直接感謝の気持ちを伝えに来てくれた。
これによりミッツは、過去に抱いていた勤労意欲を思い出し、このハイテンションへと繋がる訳である。
それにしても、僅か2日間――しかも、これだけのことが立て続けに起こっていながら、自然にこの状況を受け入れているミッツというか、社畜の適応力の高さには恐れ入る。
さて、そんなミッツの異世界生活3日目だが、やることは昨日と何も変わらない。
何故なら、危機的状況は何も変わっていないからである。
ダンジョンの生命力にして活力であるダンジョンエナジーは枯渇寸前。
昨日も上手くダンジョンエナジーを稼いだとは言え、1日分の維持費を稼いだだけ。即ち、なんとか生きながらえただけなのだ。
「――なので当面は、昨日結果を出せた『冒険者ではなく、他ダンジョンとパイの重ならない一般人をターゲット顧客にする戦略』を継続し、集客規模を拡大して行くのが妥当だと考えます」
「うん。良く分かんないけど、ミッツに任せるよ」
「畏まりました」
昨日の数字報告と今後の行動指針の発表、本日の行動の報告といった朝礼を終え、ミッツは真っ赤な革張りの豪華な椅子に深く腰掛け足をぶらぶらしている姫に恭しく頭を下げた。
言葉通りに命懸けの仕事だが、ミッツにとって本日の仕事は気楽なものだ。
昨日、顧客と個人的に飲むことになったが、その席で本日以降の見込み客の情報を貰っていた。
その数が凄い。昨日の倍近く、ダンジョンに入る希望者が居るそうなのだ。
単純に考えれば、得られるダンジョンエナジーも昨日の2倍。
そうすれば、僅かではあるがダンジョンエナジーにも余裕が生まれるというものである。
順調そのもの。
久方ぶりのこの感覚に、ミッツは頬が綻んでいた。
姫と別れたミッツは、本日もオールスタット王国の城下町ビギニンガムに移動していた。
「やっぱ、この移動凄いな」
褒めたのは、瞬間移動のこと。
ダンジョンと街の位置関係は分からないミッツだが、それでもそれ程近い位置ではないことぐらい分かる。
姫のダンジョンである【黒髪姫の薔薇のお城】の周囲は、何もない荒野。
辛うじて遥か彼方に、山、森、地平線が見えるだけで、人の気配が感じられるようなものは全く見えないのだ。
「あの鮨詰で不快な通勤電車に乗らなくて良いってのが素晴らしい。痴漢冤罪を恐れて両腕を上げ続ける必要もない」
ミッツは店の近くに引っ越していたので電車に乗っているのは3駅だけ。時間にして10分弱だったが、通勤時の混雑はそれでも十分に精神的疲労を積み重ねる難敵であった。
それを思えば、なんて素敵な移動手段なのだろうかという感想を抱いて当然である。
そうはいっても、まだ3日前の話なのだが、何故か遠い昔のような現実味のない幻想だったような気がしていた。
ダンジョンのイベントアイテムを作成する機能で作った【落とされた冒険者の証】を門番に見せて街の中に入る。
昨日同様見て回りたい気持ちになるが、ぐっと抑える。
もう何日か我慢すれば、それくらいの時間を捻出することが出来るという確信に近い予測があったからだ。
軽い足取りで向かう、東区。
昨日集客を行なったのと同じ場所。
「待ってたでー」
「おはようございます」
「流石冒険者様だ」
ミッツが到着すると、次々と挨拶や感謝の言葉が飛んできた。
そこには、大量の人。
ざっと見ただけで、昨日の倍以上は居ると確信が持てるだけの人集り。
「おはようございます」
本日の勝利も確信したミッツが挨拶を返す。
まるで月末まで日を残し目標達成したような安堵感。
しかし、負け犬ど底辺社畜に身を窶していたミッツの人生が、そんな順調に進むわけはない。
常に不運と共に生きているのだ。
「そこの者、止まれ!」
不躾に、上からの物言いで俺を引き止める者が現れた。
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