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雇用と土下座。 その1
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さてこれから、と身構えたミッツの後ろに、姫が姿を現した。
格好は飾り気も何もない黒のワンピースで、豪華さのカケラもない。寧ろ見窄らしいと言った方がしっくりくる。
だがそれでも、イケメン冒険者に、即座に姫だと認識させる美しさ。
それは、頭で処理した認識ではなく、本能に訴えかけるような鮮烈さ。
イケメン冒険者は意識せず跪き、頭を垂れた。
「来ちゃった」
来ちゃったじゃねーよ。ミッツはそう叫びたかったに違いない。
しかし、それどころではない。
もうどうしていいか分からない。ミッツは思考を放棄しかけている。
先ほどからジョットコースターのように目紛しく状況が変わっていく。
それらについていけるほど、ミッツは優秀でも器用でもなかったのだ。
特に器用さという点に於いては、会社の命令のままに働く愚直なミッツに、望むべくもなかった。
よってミッツが選択したのは静観。
事ここに至っては場をかき回した姫に責任を取ってもらおうとか、そんな意図ではなく、キャパオーバーによる沈黙。
「姫様。わた、くしは、“マリレーナ=エリック=オルペタロウ”。せ、ミッツ殿より姫様のことを伺い、力になれると思い、馳せ参じました」
普段は“自分”という一人称を使っているため、わたくしとスムーズに言えず噛んでしまう。
だが、全体的には堂に入った口上を述べ立てる。
名乗りの後も、こんなダンジョンに隠れ住んでいる姫の心情を慮った言葉や、ミッツとの出会い、これまでの経緯。そして、これからの展望を雄大に語った。
その殆どが事実に即してなく、聞いている姫もミッツも混乱を表に出す。
しかしながら、イケメン冒険者は嘘を吐いているのではない。飽く迄も、自分の中の真実を語っているだけなのだから質が悪い。
困り顔のまま、姫がミッツに視線を送るが、それは交差しなかった。
ミッツは正面を見据えているが、その視界は定まっていない。責任や問題を持ち込まないでくれという、無意識に取った、身に染み付いた防衛姿勢。
だが、そんなものは姫には無意味。
「ミッツ!」
名を呼び、強制的に巻き込んだ。
「姫様は姿だけでなく、声までとても美しい」
しかし、その姫の呼びかけに逸早く反応したのはイケメン冒険者。
「そう?」
そして、褒められた姫も満更ではない様子。
それを見て、これはきっともっと面倒なことになる。と、嫌な予感に襲われるミッツ。
その予想の通りに、イケメン冒険者は姫を褒めちぎり、それに照れてデレデレになった姫がソレを口にした。
「そんなに仲間になりたいなら、良いよ。ね、ミッツ」
さて、答えを求められたミッツはなんと答えるべきか。
姫の意向を全面的に尊重し、イケメン冒険者を仲間に迎える。
それとも、イケメンが仲間だと、自分が惨めで嫌な気分になるので断るか。
そうではない。
人間をモンスターの仲間に引き込むとか、常識的に考えて土台無理な話。
世界にダンジョンが溢れかえり、モンスターが人を襲うかもしれない。だから人同士が協力し、平和を築いている世界で、人を殺すために人を使うなんてどんな悪夢だ。
人を殺すためにダンジョンに導くという非道な行いをしているのに、非情になれないミッツは人の立場でそう考え、姫の考えに反対をする。
「良い――」
「ありがとうございます」
――訳ありません。
その否定の言葉は、イケメン冒険者の迸り、先走ったパッションが掻き消した。
念願の姫仕えということで、飛び跳ねて喜びたいイケメン冒険者だが、姫の前だということで我慢する。
だが胸の前での両手で小さいガッツポーズは、抑えきれなかったようだ。
姫も満面の笑顔を湛え、そのイケメン冒険者の態度に満足している。
ミッツの目の前に広がっている光景は、そんな幸せに満ちた一幕だった。
――(って、そんな訳に行くか!)
格好は飾り気も何もない黒のワンピースで、豪華さのカケラもない。寧ろ見窄らしいと言った方がしっくりくる。
だがそれでも、イケメン冒険者に、即座に姫だと認識させる美しさ。
それは、頭で処理した認識ではなく、本能に訴えかけるような鮮烈さ。
イケメン冒険者は意識せず跪き、頭を垂れた。
「来ちゃった」
来ちゃったじゃねーよ。ミッツはそう叫びたかったに違いない。
しかし、それどころではない。
もうどうしていいか分からない。ミッツは思考を放棄しかけている。
先ほどからジョットコースターのように目紛しく状況が変わっていく。
それらについていけるほど、ミッツは優秀でも器用でもなかったのだ。
特に器用さという点に於いては、会社の命令のままに働く愚直なミッツに、望むべくもなかった。
よってミッツが選択したのは静観。
事ここに至っては場をかき回した姫に責任を取ってもらおうとか、そんな意図ではなく、キャパオーバーによる沈黙。
「姫様。わた、くしは、“マリレーナ=エリック=オルペタロウ”。せ、ミッツ殿より姫様のことを伺い、力になれると思い、馳せ参じました」
普段は“自分”という一人称を使っているため、わたくしとスムーズに言えず噛んでしまう。
だが、全体的には堂に入った口上を述べ立てる。
名乗りの後も、こんなダンジョンに隠れ住んでいる姫の心情を慮った言葉や、ミッツとの出会い、これまでの経緯。そして、これからの展望を雄大に語った。
その殆どが事実に即してなく、聞いている姫もミッツも混乱を表に出す。
しかしながら、イケメン冒険者は嘘を吐いているのではない。飽く迄も、自分の中の真実を語っているだけなのだから質が悪い。
困り顔のまま、姫がミッツに視線を送るが、それは交差しなかった。
ミッツは正面を見据えているが、その視界は定まっていない。責任や問題を持ち込まないでくれという、無意識に取った、身に染み付いた防衛姿勢。
だが、そんなものは姫には無意味。
「ミッツ!」
名を呼び、強制的に巻き込んだ。
「姫様は姿だけでなく、声までとても美しい」
しかし、その姫の呼びかけに逸早く反応したのはイケメン冒険者。
「そう?」
そして、褒められた姫も満更ではない様子。
それを見て、これはきっともっと面倒なことになる。と、嫌な予感に襲われるミッツ。
その予想の通りに、イケメン冒険者は姫を褒めちぎり、それに照れてデレデレになった姫がソレを口にした。
「そんなに仲間になりたいなら、良いよ。ね、ミッツ」
さて、答えを求められたミッツはなんと答えるべきか。
姫の意向を全面的に尊重し、イケメン冒険者を仲間に迎える。
それとも、イケメンが仲間だと、自分が惨めで嫌な気分になるので断るか。
そうではない。
人間をモンスターの仲間に引き込むとか、常識的に考えて土台無理な話。
世界にダンジョンが溢れかえり、モンスターが人を襲うかもしれない。だから人同士が協力し、平和を築いている世界で、人を殺すために人を使うなんてどんな悪夢だ。
人を殺すためにダンジョンに導くという非道な行いをしているのに、非情になれないミッツは人の立場でそう考え、姫の考えに反対をする。
「良い――」
「ありがとうございます」
――訳ありません。
その否定の言葉は、イケメン冒険者の迸り、先走ったパッションが掻き消した。
念願の姫仕えということで、飛び跳ねて喜びたいイケメン冒険者だが、姫の前だということで我慢する。
だが胸の前での両手で小さいガッツポーズは、抑えきれなかったようだ。
姫も満面の笑顔を湛え、そのイケメン冒険者の態度に満足している。
ミッツの目の前に広がっている光景は、そんな幸せに満ちた一幕だった。
――(って、そんな訳に行くか!)
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