ダンジョンに人が来ないと死ぬのだが、マーケティングで地道に拡販

夏木 七月

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対冒険者 その6

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「おかえり。早かったね、ミッツ」
「ただいま戻りました。……申し訳ございません、上ってすぐに一悶着ありまして……結果、ヘルスポイントが底をついてしまいましたので、姫に会いに来たついでに休憩でもと――」
「――わらわに会いに来たの!? いいよ、いいよ。座って、座って、ミッツ」
「あの、姫の部屋で寛ぐのではなく、玉座でダンジョンコンソールを見せて欲しいのですが……」
「もー、やっぱり仕事だー!」
「おやつですか? おやつは、ダンジョンエナジーの推移を確認するまでお待ちください。申し訳ございません」

 ミッツは仕事中、姫には自室に退避してもらうようにお願いしていた。
 なので、地下4階に戻っても玉座に姫の姿はなく、こうして姫の部屋に呼びに来た。
 少し姫に勘違いを与えてしまい、頭を下げたミッツに姫が膨れるという一幕を経て、玉座に向かう。

「――13、14、15、16、17。17人か……1人倒したから、また4人増えたんだな」
「良かったね!」

 ダンジョンコンソールで確認したかったのは、現在の冒険者の侵入者の数。

「それに、一人倒しただけなのに……これならいける。姫、おやつは何が良いですか?」
「え? 良いの? じゃーねー……ぷるぷるプリン!」
「プリンですね。分かりました。すぐに用意します」
「やったー! ぷっるぷっるっプ・リ・ン」

 それと、先ほどマリルが殺した冒険者――探索者の男から得たダンジョンエナジー。
 魔術師や僧侶が魔法を使ってもダンジョンエナジーは入ってくるようなので、細々こまごまとした収入は分からないが、大凡100DE近く入っていたと思われる。
 計画では13パーティーは必要だとしていたミッツだが、これならば2パーティー――今はばらばらに行動されているので、10人の冒険者を狩れば――本日は疎か、明日以降もダンジョンを維持していくことが出来る。
 であれば、先ほど躊躇した姫へのおやつにミッツが応えるのも吝かではない。
 ではあるが、姫がおやつを求めていた感じではなかったことに、ミッツでは気づかないだろう。
 見通しが立ったことと、はしゃぐ姫のお陰で、少しミッツは落ち着いた。
 だがしかし、結果が確定したわけではない。
 これから何が起こるか分からない。店で働いていた時も、開店時間から調子が良くて夕方には目標達成が見えるというところから、客足が遠のき未達ということも何度もあった。
 今もあくまで見込客がダンジョン内にいるというだけ、しっかりとクロージングしなくては。と、頬を叩く。


「お帰りなさいませ」
「ありがとうマリル。冒険者来た?」
「いえ、一人もここまでは来ていません」

 正解のルートが1本しかないので、配置されたモンスターは弱くても攻略に手こずっているのだろう。
 戦闘よりもダンジョンの探索に特化した探索者と、おそらく運良くというか悪くというか、ここまで偶然たどり着けた少年少女2人組み以外、未だ地下1階を攻略する冒険者は現れず。
 このまま待っていても埒が明かないとミッツは判断し、分岐のところまで移動する。

「冒険者を見つけてしまうことを考えればマリルに任せたいけど、マリルがいない間にここを抜けられるのはもっと困る。だから、このさきの袋小路は俺が確認に行ってくる」
「分かりました。ここはお任せください」
「それとペンダントだけど、これって無理にどこかに置いてこなくても、モンスターが拾ったことにして、マリルが首からかけていれば安全じゃないのか?」
「自分より強い冒険者は、それこそ星の数ほどいらっしゃいますよ。でも、そうですね、ペンダントはドロップアイテムということでも良いかもしれません」

 道が分かれているところに差し掛かった時の会話だが、2人とも真面目というか、約束事に潔癖である。
 どちらからも“依頼は出したけど、ペンダントは用意しない”という提案がなされない。
 当たりくじのあたりが入っていないなんて景品表示法で許されることではなかったが、こちらには――少なくともミッツの知る範囲では、存在していない。
 クエストを受けたのは冒険者だが、ミッツの依頼した客は冒険者組合。
 その組合には、目標が達成されようとされまいと既に金は払っている。
 なので、誰からも咎められないはず。
 強いていうなら、クエストを受けた冒険者が組合に文句を言うかもしれない。
 マリルも、祖母から貰った大切なペンダントを手元から放すのは不安だろう。
 それなのに、2人はペンダントを冒険者の目に晒す。
 クエストの達成を出来ない状態にするという発想が、そもそもない。

 ペンダントをマリルの首にかけると、ミッツは通路に入っていく。
 マリルは待機の姿勢で奥に通じる通路の真ん中に立っているが、その姿はまるでフロアボスのようだ。


 暗い通路を歩くミッツ。
 その足取りは、外を歩いているのと同じく普通。
 モンスターなので暗闇の中でも視界が利くというのではなく、これは単なる慣れによる無警戒な歩き方。
 ダンジョンの中は不思議なもので、常に自分の周囲だけが少し明るい。
 だから、ミッツは自分の足元が見えているのでずんずんと進む。
 これは、照らされている訳ではない。なにせ、どこにも光源となるものがないのだから。
 これに関しての疑問は、ミッツも初めは持っていた。だが、今は完全に考えるのを止めた。
 これだけじゃない。
 他の対外なことも、『ダンジョンだから』『魔法もある世界だから』で、吞み込めるようになっていた。
 カビ臭さと饐えた臭いも、慣れとは怖いもので今ではそれほど気にならない。
 ミッツがダンジョンで食事を取らない理由は、【思い出の食品庫マイ・フードストレージ】のダンジョンエナジー消費も問題だが、気にしなくなったと自分では思っていても、脳がこの臭いの中での食事を避けているからかもしれない。
 姫は、そんなことを全く気にしている様子はない。


 冒険者と遭遇しないまま、4本目の分かれ道。
 同じように、マリルが残りミッツが探す。
 そして、ミッツついに引き当てる。

 男戦士、男魔術師、男探索者の3人パーティーを。
 しかもこの3人、顔から堅気でない雰囲気を醸し出している。
 もともと冒険者は荒くれ者が多いが、そういった者とは違うヤバさが香っていた。
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