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対冒険者 その7
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「(ヤバい!)」
ミッツは一瞬で理解する。
こいつらの相手をしてはいけないと。
「(う! ぐがぁああああ……)」
だが、そんなミッツの考えなんて関係なく、男戦士が動いた。
腰に佩いた剣の柄を掴むよりも早く、ミッツの右手を剣で貫いた。
その動きは、全く見えなかった。
気がついたら、腕から剣が生えていた。
「デカイ引籠もる剣士か。徘徊型のボスだな。楽に稼げると思って来てみたが、全く目標が見つかりゃしねぇ。このまま無駄にするとこだったが、こいつならマシなもん落とすだろ」
そう言ってミッツを見る目は、完全に獲物を見る目だった。
そんな目を向けられたのは、ミッツは生まれてこのかた一度もない。
死ぬのには慣れていたミッツだが、その目に恐怖を感じた。
殺される恐怖ではない。
悪意に対する恐怖。
体が竦み、逃げ出したいのに逃げ出せない。
頭の中はぐちゃぐちゃで、何も考えつかない。
これも走馬灯と言うのだろうか。ミッツの頭の中のぐちゃぐちゃは、色々な人の声。
何か喋っているのは理解できるが、その内容は理解出来ない。
女性や子供の高い声は、とても響く。
それこそ、頭が痛いくらいに。
『ミッツ』
目の前がぱっとひらける。
それと同時に、ミッツは右腕で頭を守る。
強烈な熱が、右腕から広がった。
そして、目の前を赤いものがだらだらと垂れていく。
ミッツの竦みも震えも、その身体から消えていた。
――守らなければ。
ミッツはこのまま無残に殺されるだろう。
それが決まり切った未来であることを、ミッツ自身が理解していた。
しかし、このままあっさりと殺されるわけにはいかない。
自分が死ねば、こいつらの向かう先にはマリルがいる。さらにその先には姫も。
2人のところにこんな奴らを向かわせることは出来ない。
かといって、ミッツにこの3人の冒険者を倒す力はない。工夫すればなんとかなるなんてこともなく、絶対に無理な相手。
自分自身で制御しきれない馬鹿力も目の前の男戦士には通じないと、直感的に理解している。
何も出来ない。手の打ちようがない。
――違う。問題を見誤るな。
姫とマリルを守るために、目の前の3人を排除する。
この認識が既にずれていた。
解決目標が達成不可能な時点で、解決策の立案が間違っている。
問題の定義はどうだ。“なにが”、“どのように”問題なのか。
ミッツは、“目の前の3人が”“姫とマリルを害する”と認識。
そして、“3人を倒す”もしくは“3人から逃げて、姫とマリルも逃す”と考えた。
しかし、その結果は――
倒すのは不可能。逃げ出してマリルと姫を逃すのも現実的ではない。下手しなくとも姫とマリルのところにこいつらを誘導するだけの結果に終わる。
このように、惨憺たる結果が待っているだけだろう。
ではどうするか。
ミッツが本当に解決しなくてはいけない問題は“目の前の3人”なのか。
それが違う。
障害には違いないが、ミッツが考えるべきは“姫とマリルの安全”だ。
なので、“なにが”“どのように”問題なのかというと、“姫とマリル”に“危険が迫っている”という、“発生している問題”ではなく“潜在的な問題”として考えるべき。
問題を定義したならば、次は問題の原因調査と分析。
問題の現状は、危険因子がマリルに曲がり角3つのところまで近づいている。
では、問題の原因はなにか。
なにがこの3人をこのダンジョンに呼び寄せた。
簡単だ。
クエストの報酬。要は金だ。
低難易度のダンジョンでは、法外な報酬。これが原因。
であれば、“姫とマリルに、この3人を遭遇させない”ために、問題の原因を取り除けば良い。
「(そうと決まれば――)」
ミッツは摺り足で、戦士から僅かに距離を取る。
そして、剣を抜く。
男たち3人は、大きくとも所詮は【引籠もる剣士】と舐め切っているので戦士1人が相手をしてくれるらしい。
それを僥倖と、ミッツは思い切って戦士に斬りかかる。
当然、届くはずもない。
あっさりと剣で打ち返される。しかも、その返す剣で斬り付けれた。
その反撃は鋭く速い。
だが、ミッツはその反撃を回避した。
いや違う。回避したのではなく、戦士の剣そのものが届かなかった。
ミッツは自分の大きな体を目一杯使って、体を後ろに残したまま斬り付けた。
そして、斬りつけると同時に逃げ出し、通路を折れる。
後ろからは、男戦士の罵声が聞こえる。
しかし、そんなものに構っていられる訳はなく、全力で走る。
だがそれは、あっという間に終わりを迎える。
探索者の男が、ミッツ以上のスピードで追い抜き、前に回り込む。
ミッツはそれ以上前に進めない。
探索者もまた、戦士程の強さを感じるからだ。
無理に横を抜けようとすると斬られる。
「(だけど、想定内)」
すぐに反転し、戦士たちのいた方向へ戻る。
正確には先ほど折れた通路のすぐそばにある分岐。
ミッツが逃げた先に進んでいくとマリルが待っている。だから、本命はもともとこちら。
なるべく、マリルからこの3人を引き離す。
そうすれば、問題は解決できる。
「逃げるなでヤンス!」
下っ端らしい声を上げ、探索者がすぐに追ってくる。
今度は前に回り込まれないように剣で牽制しながら、ゆっくりと下がっていく。
悠々と、戦士と魔術師も現れる。
それを確認して、ミッツは逃げるのを止めた。
諦めたのではない。達成したのだ。
扉の前で、まるで守るようにミッツは立ちはだかる。
「(かかれよ。かかってくれよ)」
その扉の先に罠などがあるかというと、そういう訳ではない。
何もない小部屋につながっているだけ。
では、どうしてここを守るのか。
それは、3人の男の口元に正解が表れる。
頬が上がり、口元が緩む。
「(かかった)」
ミッツが用意した見せかけのベネフィットに3人がかかった。
これで心置きなくミッツは死ぬことが出来る。
決して扉の前を離れないように、ミッツは戦った。
ミッツは一瞬で理解する。
こいつらの相手をしてはいけないと。
「(う! ぐがぁああああ……)」
だが、そんなミッツの考えなんて関係なく、男戦士が動いた。
腰に佩いた剣の柄を掴むよりも早く、ミッツの右手を剣で貫いた。
その動きは、全く見えなかった。
気がついたら、腕から剣が生えていた。
「デカイ引籠もる剣士か。徘徊型のボスだな。楽に稼げると思って来てみたが、全く目標が見つかりゃしねぇ。このまま無駄にするとこだったが、こいつならマシなもん落とすだろ」
そう言ってミッツを見る目は、完全に獲物を見る目だった。
そんな目を向けられたのは、ミッツは生まれてこのかた一度もない。
死ぬのには慣れていたミッツだが、その目に恐怖を感じた。
殺される恐怖ではない。
悪意に対する恐怖。
体が竦み、逃げ出したいのに逃げ出せない。
頭の中はぐちゃぐちゃで、何も考えつかない。
これも走馬灯と言うのだろうか。ミッツの頭の中のぐちゃぐちゃは、色々な人の声。
何か喋っているのは理解できるが、その内容は理解出来ない。
女性や子供の高い声は、とても響く。
それこそ、頭が痛いくらいに。
『ミッツ』
目の前がぱっとひらける。
それと同時に、ミッツは右腕で頭を守る。
強烈な熱が、右腕から広がった。
そして、目の前を赤いものがだらだらと垂れていく。
ミッツの竦みも震えも、その身体から消えていた。
――守らなければ。
ミッツはこのまま無残に殺されるだろう。
それが決まり切った未来であることを、ミッツ自身が理解していた。
しかし、このままあっさりと殺されるわけにはいかない。
自分が死ねば、こいつらの向かう先にはマリルがいる。さらにその先には姫も。
2人のところにこんな奴らを向かわせることは出来ない。
かといって、ミッツにこの3人の冒険者を倒す力はない。工夫すればなんとかなるなんてこともなく、絶対に無理な相手。
自分自身で制御しきれない馬鹿力も目の前の男戦士には通じないと、直感的に理解している。
何も出来ない。手の打ちようがない。
――違う。問題を見誤るな。
姫とマリルを守るために、目の前の3人を排除する。
この認識が既にずれていた。
解決目標が達成不可能な時点で、解決策の立案が間違っている。
問題の定義はどうだ。“なにが”、“どのように”問題なのか。
ミッツは、“目の前の3人が”“姫とマリルを害する”と認識。
そして、“3人を倒す”もしくは“3人から逃げて、姫とマリルも逃す”と考えた。
しかし、その結果は――
倒すのは不可能。逃げ出してマリルと姫を逃すのも現実的ではない。下手しなくとも姫とマリルのところにこいつらを誘導するだけの結果に終わる。
このように、惨憺たる結果が待っているだけだろう。
ではどうするか。
ミッツが本当に解決しなくてはいけない問題は“目の前の3人”なのか。
それが違う。
障害には違いないが、ミッツが考えるべきは“姫とマリルの安全”だ。
なので、“なにが”“どのように”問題なのかというと、“姫とマリル”に“危険が迫っている”という、“発生している問題”ではなく“潜在的な問題”として考えるべき。
問題を定義したならば、次は問題の原因調査と分析。
問題の現状は、危険因子がマリルに曲がり角3つのところまで近づいている。
では、問題の原因はなにか。
なにがこの3人をこのダンジョンに呼び寄せた。
簡単だ。
クエストの報酬。要は金だ。
低難易度のダンジョンでは、法外な報酬。これが原因。
であれば、“姫とマリルに、この3人を遭遇させない”ために、問題の原因を取り除けば良い。
「(そうと決まれば――)」
ミッツは摺り足で、戦士から僅かに距離を取る。
そして、剣を抜く。
男たち3人は、大きくとも所詮は【引籠もる剣士】と舐め切っているので戦士1人が相手をしてくれるらしい。
それを僥倖と、ミッツは思い切って戦士に斬りかかる。
当然、届くはずもない。
あっさりと剣で打ち返される。しかも、その返す剣で斬り付けれた。
その反撃は鋭く速い。
だが、ミッツはその反撃を回避した。
いや違う。回避したのではなく、戦士の剣そのものが届かなかった。
ミッツは自分の大きな体を目一杯使って、体を後ろに残したまま斬り付けた。
そして、斬りつけると同時に逃げ出し、通路を折れる。
後ろからは、男戦士の罵声が聞こえる。
しかし、そんなものに構っていられる訳はなく、全力で走る。
だがそれは、あっという間に終わりを迎える。
探索者の男が、ミッツ以上のスピードで追い抜き、前に回り込む。
ミッツはそれ以上前に進めない。
探索者もまた、戦士程の強さを感じるからだ。
無理に横を抜けようとすると斬られる。
「(だけど、想定内)」
すぐに反転し、戦士たちのいた方向へ戻る。
正確には先ほど折れた通路のすぐそばにある分岐。
ミッツが逃げた先に進んでいくとマリルが待っている。だから、本命はもともとこちら。
なるべく、マリルからこの3人を引き離す。
そうすれば、問題は解決できる。
「逃げるなでヤンス!」
下っ端らしい声を上げ、探索者がすぐに追ってくる。
今度は前に回り込まれないように剣で牽制しながら、ゆっくりと下がっていく。
悠々と、戦士と魔術師も現れる。
それを確認して、ミッツは逃げるのを止めた。
諦めたのではない。達成したのだ。
扉の前で、まるで守るようにミッツは立ちはだかる。
「(かかれよ。かかってくれよ)」
その扉の先に罠などがあるかというと、そういう訳ではない。
何もない小部屋につながっているだけ。
では、どうしてここを守るのか。
それは、3人の男の口元に正解が表れる。
頬が上がり、口元が緩む。
「(かかった)」
ミッツが用意した見せかけのベネフィットに3人がかかった。
これで心置きなくミッツは死ぬことが出来る。
決して扉の前を離れないように、ミッツは戦った。
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