49 / 76
対冒険者 その8
しおりを挟む
「マリル、ペンダントをそこに置いて早くこっちに来い」
扉を守るように戦いを始めたミッツは、それはもうあっさりと殺された。
それも、幸運にも魔術師の炎の玉で焼き殺されて。
死に方としては苦しくてきつくて最低だったのだが、ダンジョンエナジーを多少とはいえ回収できたのは美味しい。
自分の命<会社の利益というのは、ミッツの社畜精神を象徴する考え方だろう。
蘇生コストが20DEと、誤差と言い切れる程にはまだ稼ぎが良くないが、目くじら立てるほどの出費でもないので、ミッツに関しては自動で即時復活するようになっている。
それに、ミッツであれば状況を自分で判断して動く。
なので、わざわざ姫の手を煩わせることもないので、そうなっている。
そのような細かいことはさておき、死亡したミッツは即時に復活した。
復活するとすぐにマリルの元に向かい、そう叫んだ。
「はい! ……でも――」
「――それが大切な物だっていうのは知っている。だから気持ちはわかる。それでも、俺を信じてくれ。マリル、おまえを守るためなんだ!」
「っ……は、い」
祖母から貰った大切なペンダント。それを手放すことに何か言いたげだったマリルも、ミッツの剣幕に圧倒され息を呑み、溢れるように了承する。
ミッツの稼いだ時間は短い。
僅かばかりマリルのいる場所から3人を離し、思わせぶりな態度で小部屋を探索するように仕向けたが、何もない小部屋だ。隠し通路や扉を探すにしたって探索者がいるので、ものの数分で終わってしまうだろう。もしかしたらもっと短い。
ミッツはそこまで想定していて焦っていた。
幸か不幸か、その予想は正しい。3人は既に小部屋の探索を終え、いままさにこちらに向かって歩いてきている。
そして――ミッツとマリルが立っているところから見える曲がり角。そこを、ミッツが恐怖を感じた3人が、姿を現した。
「アニキ、見つけましたでヤンス」
「手間かけさせやがって……」
そう呟いて、戦士の男が通路の真ん中に落ちていたペンダントを拾い上げた。
間一髪。ミッツとマリルが、下階に繋がる階段の方に走り去った直後だった。
「あー、くそっ! あいつらの所為で、良い感じの着地だったのに見えなくなった」
「大丈夫ですか、先輩……」
「あーすまん。マリルも大切なペンダント放させて心配なのにな」
何もない地下2階に到着すると、ミッツは大声で吠えた。
時間的にも、既に入っている冒険者の数的にも、余裕を持って本日どころか明日の目標まで達成出来るペースだったのだが、思わぬイレギュラーの侵入によりその算段は絶たれた。
店にヤカラがやって来て、同じような目に何度もあったことを思い出して堪らずの心の咆哮。
姫とマリルを危険な3人と遭遇させない為には、クエストを達成して出て行ってもらうのが一番。クエストの報酬以外に、このダンジョンにはやつらを引き止めるものはなさそうだったから。
ボスだと勘違いされたミッツに対しても『こいつならマシなもん落とすだろ』と、特に執着をみせるような感じではなかったし、既に撃破も完了している。
だから、あの3人に関してはダンジョンを出ていくまで待てば、それで終了。
しかし、問題は、クエストをクリアされたこと。
「やばいな……」
ミッツは顎に手を当て、思いに耽る。
クエストがクリアされたとなると、これ以降冒険者は来ない。
今居る冒険者だって、いつなんどき引き上げるか分からない。
本日に最悪でも稼がないといけないダンジョンエナジーは、あと200DE強。冒険者なしでも、一般人からの回収だけでもなんとかなる。
だがしかし、出来れば今日中に、何日か分は稼げたら稼ぎたかった。
これは単なる希望ではなく、クエストを依頼した時には考えていたこと。
ここでバッファを取っておかないと、今日と同じ集客方法はしばらく使えない。
深く考えてみなくても、短期間に何度も同じダンジョンのクエストを依頼する冒険者なんて、怪しすぎる。
だから、今のこの状況は凄く危険な状態。
「どうしましょうか、先輩。今からでも、その3人を追いかけて取り返した方が良いですか?」
「いや、無理だ。あの3人は、確実にマリルより強い。俺は人の強さとかレベルとか見ただけじゃ分からないけど、剣を抜いたのも攻撃されたのも見えないくらい早くて、俺なんかじゃ逃げることも出来ないほどに圧倒的だった。マリルの攻撃は、なんとか見えてたからな……」
「それでも、何もしないよりかは良いのでは?」
「それでマリルが返り討ちに合ったら目も当てられない。折角マリルを守ったってのに……」
「先輩……自分のことを、そんなに……」
マリルに説明すると、無茶な提案が出た。
なにせ、マリルが殺されると1400DEが失われる。
それの意味するところは、詰み。
ミッツとしては、そんなに分の悪い、賭けにすらならないことをするわけにはいかない。
出来ることは、3人が出ていくのを大人しく待ち、その後、冒険者を出来るだけ狩る。それだけだ。
そして、明日以降の集客を考える。
それについても腹案はある。かといって、成功するとは決まっていない。
だからこそ、様子を見たり修正したりするために、バッファは取っておきたかった。
そう嘆いても、状況は好転しない。
結局、ミッツとマリルは3人が出て行ったのをダンジョンコンソールで確認し、冒険者を狩って回ったのだ。
扉を守るように戦いを始めたミッツは、それはもうあっさりと殺された。
それも、幸運にも魔術師の炎の玉で焼き殺されて。
死に方としては苦しくてきつくて最低だったのだが、ダンジョンエナジーを多少とはいえ回収できたのは美味しい。
自分の命<会社の利益というのは、ミッツの社畜精神を象徴する考え方だろう。
蘇生コストが20DEと、誤差と言い切れる程にはまだ稼ぎが良くないが、目くじら立てるほどの出費でもないので、ミッツに関しては自動で即時復活するようになっている。
それに、ミッツであれば状況を自分で判断して動く。
なので、わざわざ姫の手を煩わせることもないので、そうなっている。
そのような細かいことはさておき、死亡したミッツは即時に復活した。
復活するとすぐにマリルの元に向かい、そう叫んだ。
「はい! ……でも――」
「――それが大切な物だっていうのは知っている。だから気持ちはわかる。それでも、俺を信じてくれ。マリル、おまえを守るためなんだ!」
「っ……は、い」
祖母から貰った大切なペンダント。それを手放すことに何か言いたげだったマリルも、ミッツの剣幕に圧倒され息を呑み、溢れるように了承する。
ミッツの稼いだ時間は短い。
僅かばかりマリルのいる場所から3人を離し、思わせぶりな態度で小部屋を探索するように仕向けたが、何もない小部屋だ。隠し通路や扉を探すにしたって探索者がいるので、ものの数分で終わってしまうだろう。もしかしたらもっと短い。
ミッツはそこまで想定していて焦っていた。
幸か不幸か、その予想は正しい。3人は既に小部屋の探索を終え、いままさにこちらに向かって歩いてきている。
そして――ミッツとマリルが立っているところから見える曲がり角。そこを、ミッツが恐怖を感じた3人が、姿を現した。
「アニキ、見つけましたでヤンス」
「手間かけさせやがって……」
そう呟いて、戦士の男が通路の真ん中に落ちていたペンダントを拾い上げた。
間一髪。ミッツとマリルが、下階に繋がる階段の方に走り去った直後だった。
「あー、くそっ! あいつらの所為で、良い感じの着地だったのに見えなくなった」
「大丈夫ですか、先輩……」
「あーすまん。マリルも大切なペンダント放させて心配なのにな」
何もない地下2階に到着すると、ミッツは大声で吠えた。
時間的にも、既に入っている冒険者の数的にも、余裕を持って本日どころか明日の目標まで達成出来るペースだったのだが、思わぬイレギュラーの侵入によりその算段は絶たれた。
店にヤカラがやって来て、同じような目に何度もあったことを思い出して堪らずの心の咆哮。
姫とマリルを危険な3人と遭遇させない為には、クエストを達成して出て行ってもらうのが一番。クエストの報酬以外に、このダンジョンにはやつらを引き止めるものはなさそうだったから。
ボスだと勘違いされたミッツに対しても『こいつならマシなもん落とすだろ』と、特に執着をみせるような感じではなかったし、既に撃破も完了している。
だから、あの3人に関してはダンジョンを出ていくまで待てば、それで終了。
しかし、問題は、クエストをクリアされたこと。
「やばいな……」
ミッツは顎に手を当て、思いに耽る。
クエストがクリアされたとなると、これ以降冒険者は来ない。
今居る冒険者だって、いつなんどき引き上げるか分からない。
本日に最悪でも稼がないといけないダンジョンエナジーは、あと200DE強。冒険者なしでも、一般人からの回収だけでもなんとかなる。
だがしかし、出来れば今日中に、何日か分は稼げたら稼ぎたかった。
これは単なる希望ではなく、クエストを依頼した時には考えていたこと。
ここでバッファを取っておかないと、今日と同じ集客方法はしばらく使えない。
深く考えてみなくても、短期間に何度も同じダンジョンのクエストを依頼する冒険者なんて、怪しすぎる。
だから、今のこの状況は凄く危険な状態。
「どうしましょうか、先輩。今からでも、その3人を追いかけて取り返した方が良いですか?」
「いや、無理だ。あの3人は、確実にマリルより強い。俺は人の強さとかレベルとか見ただけじゃ分からないけど、剣を抜いたのも攻撃されたのも見えないくらい早くて、俺なんかじゃ逃げることも出来ないほどに圧倒的だった。マリルの攻撃は、なんとか見えてたからな……」
「それでも、何もしないよりかは良いのでは?」
「それでマリルが返り討ちに合ったら目も当てられない。折角マリルを守ったってのに……」
「先輩……自分のことを、そんなに……」
マリルに説明すると、無茶な提案が出た。
なにせ、マリルが殺されると1400DEが失われる。
それの意味するところは、詰み。
ミッツとしては、そんなに分の悪い、賭けにすらならないことをするわけにはいかない。
出来ることは、3人が出ていくのを大人しく待ち、その後、冒険者を出来るだけ狩る。それだけだ。
そして、明日以降の集客を考える。
それについても腹案はある。かといって、成功するとは決まっていない。
だからこそ、様子を見たり修正したりするために、バッファは取っておきたかった。
そう嘆いても、状況は好転しない。
結局、ミッツとマリルは3人が出て行ったのをダンジョンコンソールで確認し、冒険者を狩って回ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる