ダンジョンに人が来ないと死ぬのだが、マーケティングで地道に拡販

夏木 七月

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対冒険者 その8

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「マリル、ペンダントをそこに置いて早くこっちに来い」

 扉を守るように戦いを始めたミッツは、それはもうあっさりと殺された。
 それも、幸運にも魔術師の炎の玉で焼き殺されて。
 死に方としては苦しくてきつくて最低だったのだが、ダンジョンエナジーを多少とはいえ回収できたのは美味しい。
 自分の命<会社ダンジョンの利益というのは、ミッツの社畜精神を象徴する考え方だろう。
 蘇生コストが20DEと、誤差と言い切れる程にはまだ稼ぎが良くないが、目くじら立てるほどの出費でもないので、ミッツに関しては自動で即時復活するようになっている。
 それに、ミッツであれば状況を自分で判断して動く。
 なので、わざわざ姫の手を煩わせることもないので、そうなっている。

 そのような細かいことはさておき、死亡したミッツは即時に復活した。
 復活するとすぐにマリルの元に向かい、そう叫んだ。

「はい! ……でも――」
「――それが大切な物だっていうのは知っている。だから気持ちはわかる。それでも、俺を信じてくれ。マリル、おまえを守るためなんだ!」
「っ……は、い」

 祖母から貰った大切なペンダント。それを手放すことに何か言いたげだったマリルも、ミッツの剣幕に圧倒され息を呑み、溢れるように了承する。
 ミッツの稼いだ時間は短い。
 僅かばかりマリルのいる場所から3人を離し、思わせぶりな態度で小部屋を探索するように仕向けたが、何もない小部屋だ。隠し通路や扉を探すにしたって探索者がいるので、ものの数分で終わってしまうだろう。もしかしたらもっと短い。
 ミッツはそこまで想定していて焦っていた。
 幸か不幸か、その予想は正しい。3人は既に小部屋の探索を終え、いままさにこちらに向かって歩いてきている。
 そして――ミッツとマリルが立っているところから見える曲がり角。そこを、ミッツが恐怖を感じた3人が、姿を現した。

「アニキ、見つけましたでヤンス」
「手間かけさせやがって……」

 そう呟いて、戦士の男が通路の真ん中に落ちていたペンダントを拾い上げた。
 間一髪。ミッツとマリルが、下階に繋がる階段の方に走り去った直後だった。



「あー、くそっ! あいつらの所為で、良い感じの着地※予測した売り上げだったのに見えなくなった」
「大丈夫ですか、先輩……」
「あーすまん。マリルも大切なペンダント放させて心配なのにな」

 何もない地下2階に到着すると、ミッツは大声で吠えた。
 時間的にも、既に入っている冒険者の数的にも、余裕を持って本日どころか明日の目標まで達成出来るペースだったのだが、思わぬイレギュラーの侵入によりその算段は絶たれた。
 店にヤカラがやって来て、同じような目に何度もあったことを思い出して堪らずの心の咆哮。

 姫とマリルを危険な3人と遭遇させない為には、クエストを達成して出て行ってもらうのが一番。クエストの報酬以外に、このダンジョンにはやつらを引き止めるものはなさそうだったから。
 ボスだと勘違いされたミッツに対しても『こいつならマシなもん落とすだろ』と、特に執着をみせるような感じではなかったし、既に撃破も完了している。
 だから、あの3人に関してはダンジョンを出ていくまで待てば、それで終了。
 しかし、問題は、クエストをクリアされたこと。

「やばいな……」

 ミッツは顎に手を当て、思いに耽る。
 クエストがクリアされたとなると、これ以降冒険者は来ない。
 今居る冒険者だって、いつなんどき引き上げるか分からない。
 本日に最悪でも稼がないといけないダンジョンエナジーは、あと200DE強。冒険者なしでも、一般人からの回収だけでもなんとかなる。
 だがしかし、出来れば今日中に、何日か分は稼げたら稼ぎたかった。
 これは単なる希望ではなく、クエストを依頼した時には考えていたこと。
 ここでバッファ※余裕を取っておかないと、今日と同じ集客方法はしばらく使えない。
 深く考えてみなくても、短期間に何度も同じダンジョンのクエストを依頼する冒険者なんて、怪しすぎる。
 だから、今のこの状況は凄く危険な状態。

「どうしましょうか、先輩。今からでも、その3人を追いかけて取り返した方が良いですか?」
「いや、無理だ。あの3人は、確実にマリルより強い。俺は人の強さとかレベルとか見ただけじゃ分からないけど、剣を抜いたのも攻撃されたのも見えないくらい早くて、俺なんかじゃ逃げることも出来ないほどに圧倒的だった。マリルの攻撃は、なんとか見えてたからな……」
「それでも、何もしないよりかは良いのでは?」
「それでマリルが返り討ちに合ったら目も当てられない。折角マリルを守ったってのに……」
「先輩……自分のことを、そんなに……」

 マリルに説明すると、無茶な提案が出た。
 なにせ、マリルが殺されると1400DEが失われる。
 それの意味するところは、詰み。
 ミッツとしては、そんなに分の悪い、賭けにすらならないことをするわけにはいかない。
 出来ることは、3人が出ていくのを大人しく待ち、その後、冒険者を出来るだけ狩る。それだけだ。
 そして、明日以降の集客を考える。
 それについても腹案はある。かといって、成功するとは決まっていない。
 だからこそ、様子を見たり修正したりするために、バッファは取っておきたかった。

 そう嘆いても、状況は好転しない。
 結局、ミッツとマリルは3人が出て行ったのをダンジョンコンソールで確認し、冒険者を狩って回ったのだ。
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