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Another perspective:調査依頼
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時は遡って、ミッツとマリルが冒険者組合に依頼を完了し、後にしたところ。
「しかし、なんでまたこんなダンジョンに行ったんだろうな? あのマリレーナっていう嬢ちゃんは嘘を吐いているようには感じなかった。というよりも、嘘は吐けないって感じだ。一緒にいた男は、なんかありそうな気はしたが……まぁ、俺の考えることじゃねぇな。受けるっつたのは、偉いさんだ」
2人を応対した受付の男が、意味ありげに呟く。
冒険者組合には、不思議なアーティファクトがある。
それは、【黒髪姫の薔薇のお城】で使っている【思い出の食品庫】のような秘宝と同じように、特殊で強力な力を持っていた。
名称は【知識湖と木戸御免証】。
情報を溜め込み、またそれを引き出すことが出来るアーティファクト。
平たく言えば、パソコンのデータベースソフトのようなことが出来る。
冒険者組合では、冒険者の情報管理、過去のクエスト管理、それにダンジョンの情報の管理に利用していた。
マリルが“嬢ちゃん”だと分かっているのも、依頼の申し込みをマリルが行った際に出て来た情報から。それを見るまでは、女だと確信は持っていなかった。
しかし、なにも男はそれが知りたくて調べたのではない。
依頼者の身元確認とクエストの依頼を受ける際、そのダンジョンの情報がなくては難易度の査定が出来ないからだ。
だから、まずはこの【知識湖と木戸御免証】で調べる。
今回、ミッツとマリルの依頼に関しても『調べる手間が省けた』とは言っていたが、実際はそれほどの手間ではないので検索している。
すると、出て来た情報には【直立する狗】や【引籠もる剣士】が生息しているという情報が無かったのだ。
それどころか、モンスターの1匹も発見されていない。
そのかわり、罠だけは様々な種類が張り巡らされていたのか記載が多い。
情報の最終更新は約200年前、それだけの時間があれば、ダンジョンの中が変化していないことの方が珍しい。
受付の男が違和感を覚えているのはここのところ。
200年間近く情報が更新されていないということは、定期調査で3度続けて変化が無く、定期調査から外れた枯れたダンジョンだということ。
ダンジョンの情報は冒険者組合で販売しているのだから、枯れたダンジョンであれば踏み入るなんてことはしないはず。
初めていくダンジョンの場合、下調べなしで踏み込むなんてことは考え難い。
それに、枯れたはずのダンジョンが活動を始める。男は、こんな話は聞いたことが無かった。
『だったら、それだけの依頼料を出すつもりなら、調査費もそこから出してしまえば良いだろう。どちらにしろ、LV10もあれば問題ないダンジョンなのだろう?』
それも踏まえて依頼受理の確認に行った時に言われた言葉。
確かに両方の情報から危険なものと言えば、即死級のトラップは危険だが注意さえすれば避けられるもの。
受付の男の個人的な感情としても受けてやりたい依頼ではあるので、判断を仰いだ部長の言葉に逆らう必要はない。
依って、受付の男は相応な力を持つ見知った冒険者パーティーに声をかけた。
依頼内容は【黒髪姫の薔薇のお城】1階の調査。
マリルの話が正しいのなら――当然全面的に正しいのだが――1階にはトラップの類は無くなっているはず。
そうであれば、それを以って【黒髪姫の薔薇のお城】は枯れたダンジョンではないと判断することに決定された。
「出来るだけ早くに調査報告は欲しい。そうだな水土の刻までには大丈夫か?」
「うーん……調査自体は問題ないと思うのですが、俺たちも全員で150金貨狙いたいですからね」
「20ではダメか……」
「いや、普段ならこんな美味しい仕事は断らないんですけど、もっと美味そうなのがちらついてますから」
「そうか……、そうだよな。俺も現役だったらそうだわ」
「いえ、でも元“金獅子”所属のマクスウェルさんに頼まれたら、俺は断れません。だから、任せてください。あっという間に調査してしまいますよ。うちのジョーバーが」
「え!? 俺?」
「そりゃそうさ。トラップの有無を調べるのに、探索者以外が当たっても仕方がないだろ」
「そうだけど、俺も150の方に参加した方が――」
「――だから成る可く早く、な」
「すまんな」
「ほら、マクスウェルさんがこう言ってるんだから」
「分かったよ。やるよ。だけど、絶対に他の奴らに負けるなよ」
「それなんだが、ペンダント探しはまだ貼り出してない。ちょっとだけお前らが有利なんだよ」
「本当ですか! だったらしょうがないですね。ほらみんな、急いで行こう。時間が勿体無い」
「頼んだぞ」
そして1刻経つか経たないかという、水の後刻に入ったばかりの頃。ジョーバーが報告に戻って来た。
「どうだった?」
「いや、なんていいますか、同じダンジョンですか?」
「どういう意味だ?」
「いえ、そのまんまの意味です。1階の形は一緒だったんですけどね、罠なんて一つもないし、モンスターだっていました。跳び掛かる硬貨です。それと……」
「どうした?」
「それを狩る大量の一般人が……」
「一般人がダンジョンにいたのか!?」
「はい。話を聞いたら、優しい冒険者に教えて連れて来てもらったって」
「なんだそれは……」
「よく分かりません。ついでに地下1階も少し見て来たんですけど、迷路になっていてこんな小さな部屋じゃなくなっていましたね。一応1階のマッピングしたものを渡しておきます。壁とかないですけど、手抜きじゃないですからね」
「分かった。これでクエストは達成とする」
受付の男――マクスウェルから報酬の金貨20枚を受け取ったジョーバーは、急いで【黒髪姫の薔薇のお城】へと引き返す。
調査中も、冒険者が入ってくる度に気が気では無かった。
だが、まだ誰も発見出来ていないというのは朗報だった。
「なにか引っかかる……」
昔取った杵柄、冒険者の勘がマクスウェルを悩ませる。
かといって、既に現役を退いたマクスウェルがどうこうするわけではない。
立ち上がって【知識湖と木戸御免証】に情報の更新を入力する。
――『【黒髪姫の薔薇のお城】:近日中要調査』
「しかし、なんでまたこんなダンジョンに行ったんだろうな? あのマリレーナっていう嬢ちゃんは嘘を吐いているようには感じなかった。というよりも、嘘は吐けないって感じだ。一緒にいた男は、なんかありそうな気はしたが……まぁ、俺の考えることじゃねぇな。受けるっつたのは、偉いさんだ」
2人を応対した受付の男が、意味ありげに呟く。
冒険者組合には、不思議なアーティファクトがある。
それは、【黒髪姫の薔薇のお城】で使っている【思い出の食品庫】のような秘宝と同じように、特殊で強力な力を持っていた。
名称は【知識湖と木戸御免証】。
情報を溜め込み、またそれを引き出すことが出来るアーティファクト。
平たく言えば、パソコンのデータベースソフトのようなことが出来る。
冒険者組合では、冒険者の情報管理、過去のクエスト管理、それにダンジョンの情報の管理に利用していた。
マリルが“嬢ちゃん”だと分かっているのも、依頼の申し込みをマリルが行った際に出て来た情報から。それを見るまでは、女だと確信は持っていなかった。
しかし、なにも男はそれが知りたくて調べたのではない。
依頼者の身元確認とクエストの依頼を受ける際、そのダンジョンの情報がなくては難易度の査定が出来ないからだ。
だから、まずはこの【知識湖と木戸御免証】で調べる。
今回、ミッツとマリルの依頼に関しても『調べる手間が省けた』とは言っていたが、実際はそれほどの手間ではないので検索している。
すると、出て来た情報には【直立する狗】や【引籠もる剣士】が生息しているという情報が無かったのだ。
それどころか、モンスターの1匹も発見されていない。
そのかわり、罠だけは様々な種類が張り巡らされていたのか記載が多い。
情報の最終更新は約200年前、それだけの時間があれば、ダンジョンの中が変化していないことの方が珍しい。
受付の男が違和感を覚えているのはここのところ。
200年間近く情報が更新されていないということは、定期調査で3度続けて変化が無く、定期調査から外れた枯れたダンジョンだということ。
ダンジョンの情報は冒険者組合で販売しているのだから、枯れたダンジョンであれば踏み入るなんてことはしないはず。
初めていくダンジョンの場合、下調べなしで踏み込むなんてことは考え難い。
それに、枯れたはずのダンジョンが活動を始める。男は、こんな話は聞いたことが無かった。
『だったら、それだけの依頼料を出すつもりなら、調査費もそこから出してしまえば良いだろう。どちらにしろ、LV10もあれば問題ないダンジョンなのだろう?』
それも踏まえて依頼受理の確認に行った時に言われた言葉。
確かに両方の情報から危険なものと言えば、即死級のトラップは危険だが注意さえすれば避けられるもの。
受付の男の個人的な感情としても受けてやりたい依頼ではあるので、判断を仰いだ部長の言葉に逆らう必要はない。
依って、受付の男は相応な力を持つ見知った冒険者パーティーに声をかけた。
依頼内容は【黒髪姫の薔薇のお城】1階の調査。
マリルの話が正しいのなら――当然全面的に正しいのだが――1階にはトラップの類は無くなっているはず。
そうであれば、それを以って【黒髪姫の薔薇のお城】は枯れたダンジョンではないと判断することに決定された。
「出来るだけ早くに調査報告は欲しい。そうだな水土の刻までには大丈夫か?」
「うーん……調査自体は問題ないと思うのですが、俺たちも全員で150金貨狙いたいですからね」
「20ではダメか……」
「いや、普段ならこんな美味しい仕事は断らないんですけど、もっと美味そうなのがちらついてますから」
「そうか……、そうだよな。俺も現役だったらそうだわ」
「いえ、でも元“金獅子”所属のマクスウェルさんに頼まれたら、俺は断れません。だから、任せてください。あっという間に調査してしまいますよ。うちのジョーバーが」
「え!? 俺?」
「そりゃそうさ。トラップの有無を調べるのに、探索者以外が当たっても仕方がないだろ」
「そうだけど、俺も150の方に参加した方が――」
「――だから成る可く早く、な」
「すまんな」
「ほら、マクスウェルさんがこう言ってるんだから」
「分かったよ。やるよ。だけど、絶対に他の奴らに負けるなよ」
「それなんだが、ペンダント探しはまだ貼り出してない。ちょっとだけお前らが有利なんだよ」
「本当ですか! だったらしょうがないですね。ほらみんな、急いで行こう。時間が勿体無い」
「頼んだぞ」
そして1刻経つか経たないかという、水の後刻に入ったばかりの頃。ジョーバーが報告に戻って来た。
「どうだった?」
「いや、なんていいますか、同じダンジョンですか?」
「どういう意味だ?」
「いえ、そのまんまの意味です。1階の形は一緒だったんですけどね、罠なんて一つもないし、モンスターだっていました。跳び掛かる硬貨です。それと……」
「どうした?」
「それを狩る大量の一般人が……」
「一般人がダンジョンにいたのか!?」
「はい。話を聞いたら、優しい冒険者に教えて連れて来てもらったって」
「なんだそれは……」
「よく分かりません。ついでに地下1階も少し見て来たんですけど、迷路になっていてこんな小さな部屋じゃなくなっていましたね。一応1階のマッピングしたものを渡しておきます。壁とかないですけど、手抜きじゃないですからね」
「分かった。これでクエストは達成とする」
受付の男――マクスウェルから報酬の金貨20枚を受け取ったジョーバーは、急いで【黒髪姫の薔薇のお城】へと引き返す。
調査中も、冒険者が入ってくる度に気が気では無かった。
だが、まだ誰も発見出来ていないというのは朗報だった。
「なにか引っかかる……」
昔取った杵柄、冒険者の勘がマクスウェルを悩ませる。
かといって、既に現役を退いたマクスウェルがどうこうするわけではない。
立ち上がって【知識湖と木戸御免証】に情報の更新を入力する。
――『【黒髪姫の薔薇のお城】:近日中要調査』
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