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バイラルマーケティング。 その2
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「イクスピアリアンス・マーケティングに関しては、あくまで今後のダンジョンの成長をその道に沿わすってだけで、直ぐに用意するという訳ではありません。ダンジョンエナジー的にも、到底無理ですからね。目の前のことばかりに振り回せれているので、中期目標みたいなもんです」
「う、ん」
「はあ」
「差し当たって、“宝箱”を設置したいと思います」
虚しく響くミッツの拍手。
姫もマリルもぽかんとしている。
それはそうだ。ダンジョンに宝箱の設置なんて、あまりに普通。
今まで設置できなかった【黒髪姫の薔薇のお城】が、おかしかっただけなのだ。
「あの、先輩。何が凄いのか、自分の頭では分かりません」
「そうだろ、マリル。それはな……」
「それは……――」
「――何も凄くないから当然だ」
「え?!」
「宝箱があるなんて普通だと思うよ。だって、宝って言ってしまえばダンジョンの商品な訳でしょ。商品が置いていない店なんて誰も入らないって」
呆気にとられ、納得がいかない顔のマリル。
「しかしそれでは、明日のダンジョンエナジーはどうするのでしょうか? それに、宝箱を使うにも、ダンジョンエナジーが必要です」
「正確には、宝箱は低い設置費用だが、マリルの言う通り中に入れるアイテムの作成にかなり必要だな」
「そうです。それに、宝箱なんて珍しくもないので噂になんかなりません。き――」
「――希少な武具でも、出ない限り」
「――しょうな……」
「他に気になるのは、見つけた冒険者が自慢して噂を広めてくれないんじゃないかということと、噂が広がらないと冒険者が来ないことあたりかな」
言い切ったミッツがマリルに視線を向けると、こくこくと頷く。
マリルに指摘されるまでも無く、悪い方向に物事を考えるミッツが、その程度のことを想定していない訳はない。
「ふっふっふ。マーケティングの倫理に反するからこれだけはしたくなかったが、背に腹は変えられん」
不敵な含み笑いを浮かべるミッツに、姫とマリルはこくりと喉を鳴らす。
それから一呼吸置いて、ミッツは目をかっと見開き机をだんと叩いた。
「ステルスマーケティングを行う……」
姫とマリルの口からも追随するように「ステルスマーケティング」と漏れた。
勿論、意味など分かっていない。
ただ、ミッツの勢いと覚悟したような気配に呑まれ、繰り返しただけ。
ステルスマーケティング。所謂、“サクラ”“ヤラセ”“自作自演”。
関係者であるにも関わらず、中立的な第三者を装い良い口コミや良い評判を流す行為。
バイラルマーケティングを悪用した、一手法。
純粋に口コミや評判を参考にしようと考える消費者の気持ちを踏みにじる、詐欺的行為である。
ダンジョンの選択を他者の情報に委ねている冒険者には、絶大な効果が期待できるのは言うまでもない。
しかし――
「ミッツ、それはダメなのでは!?」
「先輩、そのような卑怯な真似は、自分は見過ごすことが出来ません」
説明を聞いた2人の強い反発。
人気のないスマートフォンを大人気と偽ったPOPでの大量販売にも罪悪感を感じていたミッツだから、出来ればステマには手を出したくないという気持ちは一緒。
だが、ありもしないクエストの依頼だって仕込みなのだから、既に手を染めているようなもの。
景品表示法上問題がないように報酬を出したので、ミッツ自身も気がついていなかったから自信満々に実行したが、今はそれにも思い至ってしまった。
であれば、2人になんと言われようとも、2人を守るために実行するのが男。
ミッツの“不正に近いことなんかやりたくない”という正義感など瑣末なこと。
「それについては……ちゃんと流した噂と同等な武具を用意するから、問題はない……と思うのだけれど」
とはいえ、そこまで堂々と振る舞えないミッツはヘタれてしまう。
それもまあ、2人の機嫌をとるためというのが大きいが、ステマはバレた時のダメージがとてつもなく大きい。
そうであれば、万が一にもバレることはないと思っていても念には念を入れるのがミッツ。
事実を広めておけば後で問題になることはないだろうという算段だ。
自発的な宣伝ではなく自分自身が噂を広める以上不正には違いないと思うが、これはバイラルマーケティングの範疇内だと自分を納得させ、2人にもとくとくと説明する。
時間がないのだから仕方がないと、言い訳にもならない言い訳を添えて。
理解はしたが納得できていないのか、姫はいつもの朗らかさはなく、ミッツの胃を重たくさせるようにじとっとしていた。
「えっと、じゃあダンジョンの《アイテム作成》で作れば良いの?」
「そうですね、本日想像以上にダンジョンエナジーが手に入りましたのでそれも良いかなと思ったのですが、なるべく節約したいので私に任せてください」
「なになにー。うらわざ? うらわざ!?」
「流石先輩です」
しかしそれは長く続かず、ミッツはほっと胸を撫で下ろす。
大げさにではなく、姫に嫌われたままを想像し死にたくなっていただけに、泣き出しそうになったがそこは耐えた。
ろりこんを拗らせ過ぎた結果ではなく、姫からの何らかの影響を受けた結果だと分かっていても少し気持ち悪い。
それはさておき、姫の機嫌が直ったことで、ミッツもまた調子を戻す。
「ま、秘策って程ではありませんが、アイテム周りのシステムの穴を突かせてもらいました」
「どうしたの!? どうしたの!?」
わくわくといった姫を見て、ミッツはどんどんと調子が良くなる。
「それはですね――」
「う、ん」
「はあ」
「差し当たって、“宝箱”を設置したいと思います」
虚しく響くミッツの拍手。
姫もマリルもぽかんとしている。
それはそうだ。ダンジョンに宝箱の設置なんて、あまりに普通。
今まで設置できなかった【黒髪姫の薔薇のお城】が、おかしかっただけなのだ。
「あの、先輩。何が凄いのか、自分の頭では分かりません」
「そうだろ、マリル。それはな……」
「それは……――」
「――何も凄くないから当然だ」
「え?!」
「宝箱があるなんて普通だと思うよ。だって、宝って言ってしまえばダンジョンの商品な訳でしょ。商品が置いていない店なんて誰も入らないって」
呆気にとられ、納得がいかない顔のマリル。
「しかしそれでは、明日のダンジョンエナジーはどうするのでしょうか? それに、宝箱を使うにも、ダンジョンエナジーが必要です」
「正確には、宝箱は低い設置費用だが、マリルの言う通り中に入れるアイテムの作成にかなり必要だな」
「そうです。それに、宝箱なんて珍しくもないので噂になんかなりません。き――」
「――希少な武具でも、出ない限り」
「――しょうな……」
「他に気になるのは、見つけた冒険者が自慢して噂を広めてくれないんじゃないかということと、噂が広がらないと冒険者が来ないことあたりかな」
言い切ったミッツがマリルに視線を向けると、こくこくと頷く。
マリルに指摘されるまでも無く、悪い方向に物事を考えるミッツが、その程度のことを想定していない訳はない。
「ふっふっふ。マーケティングの倫理に反するからこれだけはしたくなかったが、背に腹は変えられん」
不敵な含み笑いを浮かべるミッツに、姫とマリルはこくりと喉を鳴らす。
それから一呼吸置いて、ミッツは目をかっと見開き机をだんと叩いた。
「ステルスマーケティングを行う……」
姫とマリルの口からも追随するように「ステルスマーケティング」と漏れた。
勿論、意味など分かっていない。
ただ、ミッツの勢いと覚悟したような気配に呑まれ、繰り返しただけ。
ステルスマーケティング。所謂、“サクラ”“ヤラセ”“自作自演”。
関係者であるにも関わらず、中立的な第三者を装い良い口コミや良い評判を流す行為。
バイラルマーケティングを悪用した、一手法。
純粋に口コミや評判を参考にしようと考える消費者の気持ちを踏みにじる、詐欺的行為である。
ダンジョンの選択を他者の情報に委ねている冒険者には、絶大な効果が期待できるのは言うまでもない。
しかし――
「ミッツ、それはダメなのでは!?」
「先輩、そのような卑怯な真似は、自分は見過ごすことが出来ません」
説明を聞いた2人の強い反発。
人気のないスマートフォンを大人気と偽ったPOPでの大量販売にも罪悪感を感じていたミッツだから、出来ればステマには手を出したくないという気持ちは一緒。
だが、ありもしないクエストの依頼だって仕込みなのだから、既に手を染めているようなもの。
景品表示法上問題がないように報酬を出したので、ミッツ自身も気がついていなかったから自信満々に実行したが、今はそれにも思い至ってしまった。
であれば、2人になんと言われようとも、2人を守るために実行するのが男。
ミッツの“不正に近いことなんかやりたくない”という正義感など瑣末なこと。
「それについては……ちゃんと流した噂と同等な武具を用意するから、問題はない……と思うのだけれど」
とはいえ、そこまで堂々と振る舞えないミッツはヘタれてしまう。
それもまあ、2人の機嫌をとるためというのが大きいが、ステマはバレた時のダメージがとてつもなく大きい。
そうであれば、万が一にもバレることはないと思っていても念には念を入れるのがミッツ。
事実を広めておけば後で問題になることはないだろうという算段だ。
自発的な宣伝ではなく自分自身が噂を広める以上不正には違いないと思うが、これはバイラルマーケティングの範疇内だと自分を納得させ、2人にもとくとくと説明する。
時間がないのだから仕方がないと、言い訳にもならない言い訳を添えて。
理解はしたが納得できていないのか、姫はいつもの朗らかさはなく、ミッツの胃を重たくさせるようにじとっとしていた。
「えっと、じゃあダンジョンの《アイテム作成》で作れば良いの?」
「そうですね、本日想像以上にダンジョンエナジーが手に入りましたのでそれも良いかなと思ったのですが、なるべく節約したいので私に任せてください」
「なになにー。うらわざ? うらわざ!?」
「流石先輩です」
しかしそれは長く続かず、ミッツはほっと胸を撫で下ろす。
大げさにではなく、姫に嫌われたままを想像し死にたくなっていただけに、泣き出しそうになったがそこは耐えた。
ろりこんを拗らせ過ぎた結果ではなく、姫からの何らかの影響を受けた結果だと分かっていても少し気持ち悪い。
それはさておき、姫の機嫌が直ったことで、ミッツもまた調子を戻す。
「ま、秘策って程ではありませんが、アイテム周りのシステムの穴を突かせてもらいました」
「どうしたの!? どうしたの!?」
わくわくといった姫を見て、ミッツはどんどんと調子が良くなる。
「それはですね――」
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