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バイラルマーケティング。 その3
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「ずるい!」
ミッツが考えていたことを発表すると姫は頬を膨らませ、ダンダンッと地面を踏みつけた。
「そうでしょうか? 宝物庫のアイテムを購入してきてはならないと規制されてはいなかったので問題ないと思いましたが、姫がそこまで気に入らないのであれば他の方法を考えます」
そこまで姫が憤慨するとは思わなかったミッツは、慌てて別の道を探ろうとする。
一体何がそんなに姫の逆鱗に触れたというのだろうか。
ミッツが提案したのは、固定宝箱の中身を街で購入してくるというものだった。
もう少し説明を追加すると、宝箱はランダムで中身が変わるリポップ宝箱と中身を宝物庫にストックされているものから選べる固定宝箱がある。
宝物庫とはダンジョンランク1になったことに依って解放された機能で、ダンジョン内に一定期間アイテムや武具が放置され吸収されたものをストック出来るもの。
ダンジョン放置→宝物庫→固定宝箱。このアイテムのフローに目を付けたミッツは“購入してきたアイテムをダンジョンにばら撒けば、宝物庫に回収される。即ち、固定宝箱に使用できる”というアルゴリズムを導き出し提案した。
それだけのことなので、ミッツには姫の態度が想定外だった。
だからこそ、姫の次の言葉には言葉が詰まった。
「ちがーう。ミッツとマリルだけ街に遊びに行くのはずるいって言ってるの!」
ミッツはなんと答えるべきなのか。
まず、姫はダンジョンから出られない。
ミッツの目の前で実証された事実。
それにそもそも、街には遊びに行っているのではなく、あくまで仕事で行っているだけ。
たしかに外食をしてきたことは何度かある。
素材が新鮮だからか肉や野菜自体の旨みが強く感じられ、見た目や味付け、種類もミッツが元居た世界と遜色ない料理を食べるのを遊びだと言われたら反論は難しいが、しかしそれも、冒険者の集まる酒場で行った市場調査の一環でしかない。
「わーらーわーもーいーきーたーいー!!」
何も口に出せずにいると、ついに姫は初めて出会った時と同じように地べたに倒れ込み、手足をじたばたと振り回し駄々を捏ね始めた。
困ったミッツはマリルを見る。
しかしマリルもまた、困った顔をしているだけで頼りにすることは出来なかった。
「ねー、ねー、ミッツ。なんとかしてよー」
「その……、なんとかしてと言われましても……」
「そんな……」
手足を大の字に広げ、くったりとした姫が力なく呟く。
ミッツだってなんとかしたいのはやまやまだが、そんな手段思いつきもしない。
ミッツはなんでも知っている賢人ではなく、時間をかけて知識を溜め込む癖がある凡人なのだ。
しかし姫から見たミッツは、これまでの功績から、何でも出来る超人のように見えている――戦闘はからっきしなのだが――だから、ミッツのその返答に姫は大層ショックを受ける。
それは、まだ一緒に過ごした時間が短いマリルも同じようで、眉尻を落とした表情でミッツを見ていた。
2人のそんな表情にミッツが耐えられる訳もなく――
「あ、いえ、私に任せてください。今すぐとはいきませんが、必ず方法を見つけて、姫とダンジョンの外に遊びに行きます」
「ほんとに!」
「任せてください!」
――と、何の根拠もない威勢を張ることとなってしまった。
とにかくやると言ってしまった以上、ミッツにはやるしか道は残されていない。
姫はダンジョンマスター。言ってしまえば社長のようなもの。
その社長の前でした約束は、ミッツにとってはコミットメントそのものなのだ。
◇◆◇◆
オールスタット王国首都、城下町ビギニンガム。
転送装置に最も近い南門から、まっすぐ北へと伸びる、石で舗装された中央道を歩いて10分。
そこまではテントや屋台が軒を連ねているが、そこからは店舗を構えた店が並ぶ。
そこで始めて遭遇する店。それは、石を積み重ねて作った頑強そうなドーム状の建物。
店主も、一言で表現するならば岩といった建物に劣らないがっしりとした男。
筋肉ははち切れんばかりに隆起し、とにかく太い。
腕も女性の腰なんかと比べるまでもなく、太ももに至っては成人男性が丸まって入っているといわれても納得しそうなほど。
それだけではない。幅は肩幅、長さは腰あたりまで伸びたもじゃもじゃとした凄まじい毛量の髭。きらりと輝くほど磨き上げられた頭頂部が、厳つさを際立たせる。
しかし、背丈はそれほどでもない。――凡そ130cm。周囲の男性は大体150~160cmくらいなので、少年ほどのサイズ。顔も大きく4頭身と、どこかコミカルな印象も与える。
店主の名は“ボッタクル”。
店の名は【ボッタクル商店】。
◇◆◇◆
「本当にここしかないのか?」
「はい。冒険者用の武具やアイテムを取り扱っているのは、この【ボッタクル商店】しかありません」
「こんな広い街なんだから、他に絶対あるだろ。なんかさ、イメージが悪いんだよ」
石で出来た大きなかまくらのような建物を前にして、ミッツは何とも言えない表情をしていた。
固定宝箱用のアイテム、武具を購入するためにやってきたのだが、その店の名前が悪い。
ボッタクルが【逞しく鉱石を掘る人】に割とよくあるメジャーな名前だと知らないミッツには、別の意味にしか思えない。
冒険者から買い取った商品を、速攻倍額で販売開始するのであながち間違ってはいない。
「イメージが悪いなんて……一体なぜ? とにかく、入りましょう。先輩も絶対に気にいるはずです」
「分かった分かった。ここしかないんだろ。今入るから押すなって」
そう、そっけない態度でミッツは返すが、その顔はにやけていた。
うきうきとした様子を隠さないマリルを見たら、どうしても頬が緩む。
乗り気ではなかったが名前なんてどうでも良くなり、軽い足取りで入り口をくぐる。
ミッツが考えていたことを発表すると姫は頬を膨らませ、ダンダンッと地面を踏みつけた。
「そうでしょうか? 宝物庫のアイテムを購入してきてはならないと規制されてはいなかったので問題ないと思いましたが、姫がそこまで気に入らないのであれば他の方法を考えます」
そこまで姫が憤慨するとは思わなかったミッツは、慌てて別の道を探ろうとする。
一体何がそんなに姫の逆鱗に触れたというのだろうか。
ミッツが提案したのは、固定宝箱の中身を街で購入してくるというものだった。
もう少し説明を追加すると、宝箱はランダムで中身が変わるリポップ宝箱と中身を宝物庫にストックされているものから選べる固定宝箱がある。
宝物庫とはダンジョンランク1になったことに依って解放された機能で、ダンジョン内に一定期間アイテムや武具が放置され吸収されたものをストック出来るもの。
ダンジョン放置→宝物庫→固定宝箱。このアイテムのフローに目を付けたミッツは“購入してきたアイテムをダンジョンにばら撒けば、宝物庫に回収される。即ち、固定宝箱に使用できる”というアルゴリズムを導き出し提案した。
それだけのことなので、ミッツには姫の態度が想定外だった。
だからこそ、姫の次の言葉には言葉が詰まった。
「ちがーう。ミッツとマリルだけ街に遊びに行くのはずるいって言ってるの!」
ミッツはなんと答えるべきなのか。
まず、姫はダンジョンから出られない。
ミッツの目の前で実証された事実。
それにそもそも、街には遊びに行っているのではなく、あくまで仕事で行っているだけ。
たしかに外食をしてきたことは何度かある。
素材が新鮮だからか肉や野菜自体の旨みが強く感じられ、見た目や味付け、種類もミッツが元居た世界と遜色ない料理を食べるのを遊びだと言われたら反論は難しいが、しかしそれも、冒険者の集まる酒場で行った市場調査の一環でしかない。
「わーらーわーもーいーきーたーいー!!」
何も口に出せずにいると、ついに姫は初めて出会った時と同じように地べたに倒れ込み、手足をじたばたと振り回し駄々を捏ね始めた。
困ったミッツはマリルを見る。
しかしマリルもまた、困った顔をしているだけで頼りにすることは出来なかった。
「ねー、ねー、ミッツ。なんとかしてよー」
「その……、なんとかしてと言われましても……」
「そんな……」
手足を大の字に広げ、くったりとした姫が力なく呟く。
ミッツだってなんとかしたいのはやまやまだが、そんな手段思いつきもしない。
ミッツはなんでも知っている賢人ではなく、時間をかけて知識を溜め込む癖がある凡人なのだ。
しかし姫から見たミッツは、これまでの功績から、何でも出来る超人のように見えている――戦闘はからっきしなのだが――だから、ミッツのその返答に姫は大層ショックを受ける。
それは、まだ一緒に過ごした時間が短いマリルも同じようで、眉尻を落とした表情でミッツを見ていた。
2人のそんな表情にミッツが耐えられる訳もなく――
「あ、いえ、私に任せてください。今すぐとはいきませんが、必ず方法を見つけて、姫とダンジョンの外に遊びに行きます」
「ほんとに!」
「任せてください!」
――と、何の根拠もない威勢を張ることとなってしまった。
とにかくやると言ってしまった以上、ミッツにはやるしか道は残されていない。
姫はダンジョンマスター。言ってしまえば社長のようなもの。
その社長の前でした約束は、ミッツにとってはコミットメントそのものなのだ。
◇◆◇◆
オールスタット王国首都、城下町ビギニンガム。
転送装置に最も近い南門から、まっすぐ北へと伸びる、石で舗装された中央道を歩いて10分。
そこまではテントや屋台が軒を連ねているが、そこからは店舗を構えた店が並ぶ。
そこで始めて遭遇する店。それは、石を積み重ねて作った頑強そうなドーム状の建物。
店主も、一言で表現するならば岩といった建物に劣らないがっしりとした男。
筋肉ははち切れんばかりに隆起し、とにかく太い。
腕も女性の腰なんかと比べるまでもなく、太ももに至っては成人男性が丸まって入っているといわれても納得しそうなほど。
それだけではない。幅は肩幅、長さは腰あたりまで伸びたもじゃもじゃとした凄まじい毛量の髭。きらりと輝くほど磨き上げられた頭頂部が、厳つさを際立たせる。
しかし、背丈はそれほどでもない。――凡そ130cm。周囲の男性は大体150~160cmくらいなので、少年ほどのサイズ。顔も大きく4頭身と、どこかコミカルな印象も与える。
店主の名は“ボッタクル”。
店の名は【ボッタクル商店】。
◇◆◇◆
「本当にここしかないのか?」
「はい。冒険者用の武具やアイテムを取り扱っているのは、この【ボッタクル商店】しかありません」
「こんな広い街なんだから、他に絶対あるだろ。なんかさ、イメージが悪いんだよ」
石で出来た大きなかまくらのような建物を前にして、ミッツは何とも言えない表情をしていた。
固定宝箱用のアイテム、武具を購入するためにやってきたのだが、その店の名前が悪い。
ボッタクルが【逞しく鉱石を掘る人】に割とよくあるメジャーな名前だと知らないミッツには、別の意味にしか思えない。
冒険者から買い取った商品を、速攻倍額で販売開始するのであながち間違ってはいない。
「イメージが悪いなんて……一体なぜ? とにかく、入りましょう。先輩も絶対に気にいるはずです」
「分かった分かった。ここしかないんだろ。今入るから押すなって」
そう、そっけない態度でミッツは返すが、その顔はにやけていた。
うきうきとした様子を隠さないマリルを見たら、どうしても頬が緩む。
乗り気ではなかったが名前なんてどうでも良くなり、軽い足取りで入り口をくぐる。
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