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満を持しての登場 その3
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指されたモンスターを見たミッツは、どう反応していいのか迷った結果、つまらない返しになった。
よくよく考えて見れば、現在の【黒髪姫の薔薇のお城】の危険度の基準にもなっているのだし、当然といえば当然のモンスター。
――【引籠もる剣士】
魔術や法術等の魔法は一切使用できないが、全身は金属の鎧に覆われていて頑強さと生命力が高く、耐久力に優れている。その耐久力を活かした特攻にも似た攻撃は、シンプル故に圧倒した力でしか防ぐのは難しく、未熟な冒険者では対処が困難。
「そうだよな。既に発見されている最強モンスターに合わせるのが普通だよな」
最強と言っても、カナブン並みの【跳び掛かる硬貨】と、立ち上がったせいで野犬より弱くなった【直立する狗】が比較対象である。
LV5-7くらいが適正のモンスターなので、雑魚には変わりない。
3番目に登場したモンスターなのだ。姫にハズレだと言われたことを、改めて納得。
自分のような役立たずのクソ雑魚ナメクジの使い捨て社畜が、ハズレ以外のなにものだというのだと、突如の情緒不安定に陥る。
「先輩どうしたのですか?」
「なんでもない……」
勝手に落ち込み、どんよりとした雰囲気を醸し出す。
それでいて心配されても強がるという、まるで構ってほしい子供のような、大人が取るには見っともない態度。
しかも無自覚なので、更に質が悪い。
このような時は、そっと距離を取るに限る。下手に突いて藪から蛇を出す必要などないのだから。
「なんでもなくはないですよね? 自分では何の力にもなれないかもしれませんが、良ければ話してください」
それなのに、真正面から向かう娘マリル。
本気で心配しているのだろう。ずずいと体がミッツに寄る。
ただでさえ、ダンジョンコンソールを覗き込み指し示すためには玉座の横に回り込んで、少し屈んでいた姿勢だったため、距離は近かった。
そこから更に寄ったのだ。
真正面を向いたいたミッツの視界の端に、マリルの顔が飛び込んでくる。
じっとミッツを見るマリルは当たり前だが、正面を向いている。
だから、ミッツの頬にマリルの息がかかっている――そんな気がするほど接近していた。
「(やばい、今マリルの方向向いたらキスしてしまうかも)」
僅か前までの凹んでいたことが嘘のように、ミッツの頭の中は一瞬で桃色に染まった。
ドキドキしながら、マリルに振り向く。
「あ、何故だか元気が出たみたいですね。それは良かった」
事故を装って接触を試みたミッツの頬は空振りする。
ミッツが首を捻ると同時に、ミッツの顔に笑みを確認したマリルは体を起こしていた。
「あぁ、マリルのお陰で、元気、でたよ」
悔しさと恥ずかしさで血涙を出しそうな突っ張った笑顔を向ける。
「いえいえ、どういたしまして」
◇◆◇◆◇◆
マリルの純真さに打ち拉がれたミッツのその後は、落ち込んでいたマイナス感情よりも立ち直りは易く、直ぐに気持ちを立て直して作業に戻った。
最後の決定に関しては姫しか操作出来ないため、それほど作業が残っていたわけでは無いが。
完成した地下3階は、地下2階のような完全な迷路にするのではなく、小部屋が連なった人の手で造られた建物を思わせる作りにした。
ダンジョンの名前が【黒髪姫の薔薇のお城】なのだ。
お城のような豪華絢爛さはないけれど、せめて少しでもそれらしくしてみようと考えた結果である。
姫が喜ぶように罠もしかけた。ただ、闇雲にしかけるほどの余裕はないので、数は少ないが確実に引っかかりそうな場所――具体的には宝箱が見える場所に仕掛けてある。
メリットを大々的に見せることに依って、潜むデメリットから注意を逸らすという、働いていた会社が推進していた稚拙な策だが、ひっかかる冒険者がいることを願うばかりだ。
100%回避できない場所に仕掛ければ効率的だろうが、楽しく心に残る経験を提供することに主眼を置いた“イクスピアリアンス・マーケティング”とトレードオフ――※一方を取れば他方が犠牲になる関係――だからそれは出来ない。
今さえ良ければ良いというようなスタンスでは、いずれ立ち行かなくなってしまうに違いない。
配置したモンスターは【引籠もる剣士】を始めとした、【低級冒険者モンスター】。
人間の冒険者でいう“基本職”――戦士、魔術師、僧侶、盗賊と同じ能力を持つモンスターで、フレーバーテキストには共通して『ダンジョンの闇に堕ちた冒険者がモンスターと変わり果てた姿』と記載されている【引籠もる剣士】、【怠惰な魔術師】、【欲深い僧侶】、【掠めとる者】の4体。
唯一、冒険者基本職の上記4職に就けなかった者が就く、“冒険者”という職に対応したモンスターだけはいない。一般人と同じような扱いだからだろうか。
4種は別モンスターのようだが、同じモンスター発生器から4種がランダムで発生する。
1種類の解放で4種増えたので、得をした気分だ。
それなりのダンジョンエナジー、800DEを必要としたが致し方ない。
他にも、【醜悪な小鬼】が同じようにパッケージされたモンスターだった。ミッツでも名前を知っている有名モンスターだったのだが、こちらは適正レベルが13からと高く目的に即していないので見送り。
「自分と同じモンスターがいるのは微妙な気分だけど、感慨深いものがあるな」
「先輩もパーティーを組めば、冒険者と戦いやすいじゃないですか」
「確かに」
マリルの指摘通り、同種のモンスターであれば紛れて戦ってもあまり目立たない気はする。
だがミッツは知らない。自分が通常の【引籠もる剣士】と比べて、どれだけ異質なサイズだということかを。
いくら弱いとは謂え、一応ミッツとてボス扱いのユニークモンスターは伊達ではないということ。
力の強さだって比べるべくもない。悲しいことにミッツ自身に技術がないので発揮できていないだけなのだ。
よくよく考えて見れば、現在の【黒髪姫の薔薇のお城】の危険度の基準にもなっているのだし、当然といえば当然のモンスター。
――【引籠もる剣士】
魔術や法術等の魔法は一切使用できないが、全身は金属の鎧に覆われていて頑強さと生命力が高く、耐久力に優れている。その耐久力を活かした特攻にも似た攻撃は、シンプル故に圧倒した力でしか防ぐのは難しく、未熟な冒険者では対処が困難。
「そうだよな。既に発見されている最強モンスターに合わせるのが普通だよな」
最強と言っても、カナブン並みの【跳び掛かる硬貨】と、立ち上がったせいで野犬より弱くなった【直立する狗】が比較対象である。
LV5-7くらいが適正のモンスターなので、雑魚には変わりない。
3番目に登場したモンスターなのだ。姫にハズレだと言われたことを、改めて納得。
自分のような役立たずのクソ雑魚ナメクジの使い捨て社畜が、ハズレ以外のなにものだというのだと、突如の情緒不安定に陥る。
「先輩どうしたのですか?」
「なんでもない……」
勝手に落ち込み、どんよりとした雰囲気を醸し出す。
それでいて心配されても強がるという、まるで構ってほしい子供のような、大人が取るには見っともない態度。
しかも無自覚なので、更に質が悪い。
このような時は、そっと距離を取るに限る。下手に突いて藪から蛇を出す必要などないのだから。
「なんでもなくはないですよね? 自分では何の力にもなれないかもしれませんが、良ければ話してください」
それなのに、真正面から向かう娘マリル。
本気で心配しているのだろう。ずずいと体がミッツに寄る。
ただでさえ、ダンジョンコンソールを覗き込み指し示すためには玉座の横に回り込んで、少し屈んでいた姿勢だったため、距離は近かった。
そこから更に寄ったのだ。
真正面を向いたいたミッツの視界の端に、マリルの顔が飛び込んでくる。
じっとミッツを見るマリルは当たり前だが、正面を向いている。
だから、ミッツの頬にマリルの息がかかっている――そんな気がするほど接近していた。
「(やばい、今マリルの方向向いたらキスしてしまうかも)」
僅か前までの凹んでいたことが嘘のように、ミッツの頭の中は一瞬で桃色に染まった。
ドキドキしながら、マリルに振り向く。
「あ、何故だか元気が出たみたいですね。それは良かった」
事故を装って接触を試みたミッツの頬は空振りする。
ミッツが首を捻ると同時に、ミッツの顔に笑みを確認したマリルは体を起こしていた。
「あぁ、マリルのお陰で、元気、でたよ」
悔しさと恥ずかしさで血涙を出しそうな突っ張った笑顔を向ける。
「いえいえ、どういたしまして」
◇◆◇◆◇◆
マリルの純真さに打ち拉がれたミッツのその後は、落ち込んでいたマイナス感情よりも立ち直りは易く、直ぐに気持ちを立て直して作業に戻った。
最後の決定に関しては姫しか操作出来ないため、それほど作業が残っていたわけでは無いが。
完成した地下3階は、地下2階のような完全な迷路にするのではなく、小部屋が連なった人の手で造られた建物を思わせる作りにした。
ダンジョンの名前が【黒髪姫の薔薇のお城】なのだ。
お城のような豪華絢爛さはないけれど、せめて少しでもそれらしくしてみようと考えた結果である。
姫が喜ぶように罠もしかけた。ただ、闇雲にしかけるほどの余裕はないので、数は少ないが確実に引っかかりそうな場所――具体的には宝箱が見える場所に仕掛けてある。
メリットを大々的に見せることに依って、潜むデメリットから注意を逸らすという、働いていた会社が推進していた稚拙な策だが、ひっかかる冒険者がいることを願うばかりだ。
100%回避できない場所に仕掛ければ効率的だろうが、楽しく心に残る経験を提供することに主眼を置いた“イクスピアリアンス・マーケティング”とトレードオフ――※一方を取れば他方が犠牲になる関係――だからそれは出来ない。
今さえ良ければ良いというようなスタンスでは、いずれ立ち行かなくなってしまうに違いない。
配置したモンスターは【引籠もる剣士】を始めとした、【低級冒険者モンスター】。
人間の冒険者でいう“基本職”――戦士、魔術師、僧侶、盗賊と同じ能力を持つモンスターで、フレーバーテキストには共通して『ダンジョンの闇に堕ちた冒険者がモンスターと変わり果てた姿』と記載されている【引籠もる剣士】、【怠惰な魔術師】、【欲深い僧侶】、【掠めとる者】の4体。
唯一、冒険者基本職の上記4職に就けなかった者が就く、“冒険者”という職に対応したモンスターだけはいない。一般人と同じような扱いだからだろうか。
4種は別モンスターのようだが、同じモンスター発生器から4種がランダムで発生する。
1種類の解放で4種増えたので、得をした気分だ。
それなりのダンジョンエナジー、800DEを必要としたが致し方ない。
他にも、【醜悪な小鬼】が同じようにパッケージされたモンスターだった。ミッツでも名前を知っている有名モンスターだったのだが、こちらは適正レベルが13からと高く目的に即していないので見送り。
「自分と同じモンスターがいるのは微妙な気分だけど、感慨深いものがあるな」
「先輩もパーティーを組めば、冒険者と戦いやすいじゃないですか」
「確かに」
マリルの指摘通り、同種のモンスターであれば紛れて戦ってもあまり目立たない気はする。
だがミッツは知らない。自分が通常の【引籠もる剣士】と比べて、どれだけ異質なサイズだということかを。
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