機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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「いいかぁ、フィオ。 砂潜りの武器は振動剣ヤッパでも電磁銃ハジキでもねえ。
 目と勘の良さ、注意深さこそ俺らの武器よ」

 暗がりの中、フィオとおそろいのシールドポンチョを羽織った青年が、したり顔で言い聞かせつつ先行する。
 その背を追いながら、フィオは思った。

 ――またこの夢か、と。

 兄貴と慕った男、腕利き砂潜りサンドモールのゼンク。フィオに砂潜りのイロハを叩き込んでくれた師匠。

 彼が死ぬ時の光景だ。

 ゼンクは目元を覆うマルチプルゴーグルを赤外線モードに合わせ、左手首の多目的端末と連動させつつ、そろそろと進んでいく。
 注意深さの塊のようなその姿には、油断など一切感じられない。

 それなのに、青い閃光が一瞬走ると、ゼンクの左腕がボトリと落ちた。 手首の多目的端末が断末魔のように瞬く。

「え?」

「レーザーだっ!ふせ」

 言い終わる前にもう一度閃いたレーザーがゼンクの額を焼き貫く。

「うわっ、あぁぁっ!?」

 目の前で崩れ落ちる兄貴分の亡骸にフィオは絶叫をあげて、逃げ出した。
 ゼンクの最後の指示通り、床に伏せゴキブリのように這いつくばって。


 
「あぁぁっ!」

 フィオは悲鳴と共に跳ね起きた。

「はっ、はぁっ……畜生、兄貴ぃ……」

 すでに半年も前の光景なのに、ゼンクの死は未だフィオの心を深く蝕んでいた。何度となく見た悪夢が、その度にフィオの精神を引き裂くのだ。

 カーテンを閉め切った部屋はむっとする熱気を帯びており、ベッドのシーツは大量の寝汗を吸って湿気っていた。
 フィオは顔中に浮かぶ汗の玉を手のひらで拭うと、簡素なパイプベッドから起き上がった。

 雑多な荷物が散らばるワンルームを横切り、部屋の隅の洗面台の蛇口をひねる。フィオは生温い水流に寝ぐせ頭を突っ込んだ。
 貯水タンクの残量を気にせず汗まみれの頭を洗い流すと、心の乱れも静まっていった。

「早いとこ、切り替えないとな……」

 いつまでも死者を引きずっていては、自分もまた死に魅入られてしまう。ゼンクの死後に周囲の砂潜りたちに教えられた事だ。
 タオルで頭を拭ったフィオは両手でバシッと自らの頬を叩き、気合いを入れた。

「よしっ! まずは、兄貴からの預かりものを迎えに行かないと!」

 意気込んで今日の予定を宣言するフィオの腹が、健康的な音をたてる。

「その前に、ひとつ腹ごしらえと行くか」







 最終戦争から数百年。

 大陸の形すら変えるような核攻撃の応酬の後では、国家の形骸など残ってもいるはずもない。
 それでもしぶとく生き残った人類は、文明の残滓にすがって寄せ集まり、タウンと呼ばれるコミュニティを作り上げていた。

 ここ、タウン48もそんな都市国家もどきのひとつである。


 
 中央政庁ガバメントから南ゲートへ続く露店通りストールストリートは今日も活気に満ちている。
 照りつける日差しに汗を流しながら、露天商たちは怪しげな売り物を手に声を張り上げていた。

 中古の三輪バイクトライクに跨ったフィオは人の流れに沿って徐行しながら、砂塵避けのマフラーを鼻まで引き上げた。

 金魚鉢バースプラントを出てまだ3年のフィオは隠しようも無いほどに童顔で、この手の商売人に舐められる事が多いのだ。
 日除けのフードも目深に降ろせば、顔を晒して絡まれる率も減る。

「ここはいつも混んでて嫌になるな」

 マフラーの下で小さく吐き捨てると、ハンドルを切った。
 露店通りからいくつも伸びる小道のひとつに入り、小さな飯屋の前に三輪バイクトライクを止める。
 看板に「満腹食堂」と大書きされた店からは食欲をそそる香りが漂い、フィオの胃袋に情けない音をたてさせた。

「あー、腹減ったぁ……。さぁて食うぞぉ」

 日除けのシールドポンチョを脱ぎ、気楽なTシャツとワークパンツのスタイルになったフィオは、空っぽの腹を撫でつつスイングドアをくぐる。

「おっ、フィオ! らっしゃい!」

 両手に空皿を積み上げた給仕の少年が人懐っこい笑みで出迎える。フィオの金魚鉢兄弟バースブラザー、同じ日に培養ポッドから排出されたルースだ。
 フィオは片手をあげて幼馴染に応えると、店内を見回して空いているカウンター席に腰を下ろした。

「相変わらず繁盛してるね」

 昼飯時もそろそろ過ぎようというタイミングなのに、客の入りは八割近い。

「うちには看板娘が居るからな!」

 注文を取りに来たルースは得意げに笑うと、壁際に顎をしゃくって見せた。

 エプロンドレスの給仕服を纏った小柄な人影が佇んでいる。
 上質な陶器を思わせる白い肌に、首筋で丹念に切りそろえられた黒い髪。頭を飾るフリル付きのホワイトブリム。
 大きな赤い瞳はまっすぐに正面を見据え、形の良い桜色の唇はきゅっと結ばれている。

 見目麗しい容貌の少女、ではない。
 失われた「女」を模した存在、機械人形メイデンだ。

「可愛いもんなあ、サクラちゃん」

 フィオはでへっと相好を崩すと、メイデンのサクラを手招いた。
 フィオの手首の動態反応を感じ取ったサクラは、くいっと首を向けると瞳の中のレンズをきゅいんと収縮させてお客様ターゲットを確認、基礎接客ルーチンに従ってとことこと歩み寄った。

「ご注文、ですか?」

「うん、注文注文」

「おいこら、俺が注文取りに来てやってんだろ!」

「ルース、店に入ってサクラちゃんと野郎の給仕が居たらさ、どっちに注文したい?」

「サクラちゃんだな!」

 幼馴染とハイタッチをかわすと、小首を傾げた待機モードのサクラに向き直る。

「えーっと、そうだな……ソボロドンひとつ」

「承知、しました。ソボロドン、いっちょー」

 基礎接客ルーチンに追加された専用了承ボイスを上げるサクラに、厨房から「おーう」と野太い返事が返る。

「フィオ、お前いつもソボロドンだな」

「だって美味いもん」

「うちのメニュー色々あるんだから試してみればいいのに」

「知らない料理を試すのは出先だけでいいよ……。地元では食べ慣れた物を食べたい」

 フィオは遠い眼差しを虚空に向け、しみじみと呟いた。

 彼の生業である砂潜りは、砂漠化した荒野を駆け巡り文明の遺物を回収する商売だ。
 故郷であるタウン48に居着くよりも余所をうろうろしている事の方が多いフィオは、旅先での食事の経験も豊富だった。

「ルース、ちゃんと味のある食べ物を出してくれる店ってのはね、本当に本当にすばらしい存在なんだよ」

「お、おう……」

 どこか虚ろな眼差しで力説する幼馴染にちょっと引くルース。 その脳天に軽快な音を立ててお玉が打ちつけられた。

「いってえっ!」

「ソボロドンあがったぞ、取りに来んか給仕」

 熊のような大男、満腹食堂の店主はルースを睨みながらアルマイトのボウルをフィオの前に置く。

 ボウルの中にはたっぷりとライスが盛られ、その上にソイソースを中心とした調味料で炒めたソイフレークが山盛りになっていた。
 振りまかれるソイソースの芳醇な香りは、茶色一色の微妙な見た目をカバーして余りある。

「来た来た!ああもう堪んねえ匂い!」

 フィオは添えられた先割れスプーンを握ると、口いっぱいにソボロドンを頬張った。
 甘辛いソースの風味をたっぷりと含んだソイフレークとライスのほのかな甘みが混ざりあい、フィオの口中で食の幸せが弾ける。

「うっめえ!やっぱり、この辺じゃ親父さんのソボロドンが一番だよ!」

「へっ、おだてんじゃねえよ」

 美味い美味いとソボロドンを貪るフィオに、まんざらでもなさそうに髭面をゆがめた店主はルースに空皿の回収を命じつつ厨房へ戻った。

「ごゆっくり、どうぞ」

 メイデンのサクラも食に集中するフィオに一礼すると壁際で待機モードに入る。

 フィオはがっつく勢いでソボロドンの半分を胃袋に押し込むと、残りはゆっくりと口に運び始めた。
 空腹が紛れた後は、じっくり楽しむのが彼の流儀である。
 ひと匙ひと匙、惜しむように味わっていると、店内の人口密度が減っていく。

 ランチタイムの終了だ。 タウン内で職を持つ市民シチズン達が昼休みを終え、仕事に戻っていく。
 一方、勤務時間とは無縁な砂潜り稼業のフィオは市民達を尻目にのんびりとソボロドンを堪能していた。

「まったく、お前さんは自由でいいねえ」

 テーブルから汚れた皿を回収していくルースに皮肉っぽく言われフィオは肩をすくめる。

「代わりに命の危険があるのさ。 ……兄貴みたいに」

「あー……」

 ゼンクを引き合いに出され、ルースは口ごもった。
 幼馴染がどれほどあのベテラン砂潜りに傾倒していたのか、ルースはよく知っている。

「坊主、あんまり悔やむな。ゼンクの奴が成仏できんぞ」

 エプロンで手を拭きながら、店主が厨房から出てくる。

「わかっちゃいるんですけどね……」

 フィオは残り少ないソボロドンのボウルに視線を落とした。元々、ソボロドンはゼンクの好物だ。この店だって安くて旨い店があると教えてもらったのだ。

「まあ、無理はするんじゃねえぞ。常連が居なくなるのは寂しいからな」

「はい……」

 店主はフィオの頭を乱暴に撫でると、ルースに顔を向けた。

「俺は休憩に入る。お前も皿を洗ったら休んでいいぞ」

「ういす、晩の仕込みはいつも通り15時から?」

「おう。いくぞ、サクラ」

 壁際で佇むサクラは店主の声に反応し、彼に歩み寄った。
 機械人形メイデンを伴い、店主は二階の休憩室へ上がっていく。

「よっし、皿洗いして俺も一息いれるかね。フィオ、そのボウルも洗っちまうからさっさと食ってくれ」

「うん」

 フィオは残りのソボロドンをかき込むと食器をルースに渡す。

「ごちそうさま。 お代、ここに置くよ」

「あいよ、毎度!」

 机に代金の硬貨ダイムを置き、店を出る。途端にむわっとした熱気が押し寄せてきた。

「夢見のせいかな、どうも引きずってしまうなぁ……」

 照り付ける日差しに手をかざしながら、フィオはひとりごちる。
 ルースと店主に気を使わせてしまった。

「ええい、沈んでても仕方ない、キキョウさんをさっさと迎えに行こう!」

 フィオは首をひと振りして陰鬱な気分を振り払うと、本日唯一の仕事をこなすべく店先に止めておいた三輪バイクトライクに跨る。
 エンジンを掛けようとした時、店の二階の出窓がからりと開け放たれた。

 見上げると、部屋の中に戻っていくサクラの後ろ姿。ちらりと見えた小さな背は、お仕着せのエプロンドレスを脱ぎ捨てた、白い素肌。

「……そっかー、休憩かー、ご休憩だもんなー」

 ついさっきまで亡くした兄貴分の事を思い悩んでいた若き砂潜りは、瞬時に鼻の下を伸ばしたエロ小僧に変貌した。

 仕方ない事である、若いんだもの。 

 フィオは鋭い瞳で周囲を見回し人目が無い事を確認すると、店の屋根から延びる軽金属製の雨どいに飛びついた。
 すでに絶滅した小動物、猫の如き敏捷さで雨どいを登り、出窓の窓枠に取りつく。 
 体重を分散させるため両足を壁に引っ掛けて固定し、首を伸ばして窓の中を覗く。

 室内では、まさに「ご休憩タイム」がスタートした所であった。
 出窓から見えるベッドに腰かけた店主の股の間に、サクラが跪いている。

 双方ともに裸であり、毛深く筋肉質な店主の太い両足の間に、サクラの白く細い背中が納まっている様子はそれだけで背徳感を煽る光景だ。

「じゅる……ちゅぷ……♡」

 そして響く密やかな水音。
 店主の股座に顔を埋めたサクラが、逸物を舐めしゃぶる音だ。

(あぁっ、角度が悪いっ!)

 出窓の位置からでは、サクラの後頭部と切りそろえられた襟足から続くうなじのラインしか見えない。
 せっかく全裸だというのに、床にぺたりと座り込んだ小さなお尻を見ようとするなら、出窓に上半身を突っ込むしかない。
 覗きの身でそこまでやってしまったら、一発でバレてしまうだろう。

「ちゅる……ちゅう……♡」

「サクラ、そろそろいいぞ」

 店主はサクラの口から逸物を引き抜くと、ごろりとベッドに横になった。

「さぁ来い」

「はい、失礼、します」

 サクラはそそり立つ陰茎にひとつキスをすると、寝転んだ主の上にゆっくりと腰を下ろしていった。

(おぉー……)

 フィオの位置からは相変わらずサクラの背中側しか見えない。
 サクラの顔こそ見えないが、小振りな尻が肉棒の切っ先に触れ、そのまま呑み込んでいく様をしっかりと目に焼き付ける。

「入り、ました」

 腰を落としきったサクラは小さく呟いた。
 店主の逸物は大柄な体に相応しく、なかなかの大きさを持っている。

(あれ、サクラちゃんのへその辺りまで入ってんじゃないのかな……)

 壊れちゃわないかなと余計な心配をするフィオを余所に、サクラは両足を踏ん張り腰を動かし始めた。
 下品なガニ股も厭わぬ、少女人形の従順な奉仕。
 粘着質な水音を響かせ、野太いシャフトを中心に愛らしい尻が激しく上下に動く。
 清楚で大人し気な風貌に似合わない情熱的な腰使いだ。

(わぉ、絶景!)

 小振りながらも柔らかそうな尻たぶがたふたふと揺れ、下から肉棒に刺し貫かれる様子にフィオは秘かに快哉をあげた。

「おぉ……いいぞっ、サクラ!」

 店主は唸るような声をあげ、小さな尻を両手で鷲掴んだ。 尻肉に指を食い込ませ、ずどんと突き上げる。

「……っ!」

 主の不意打ちに、サクラは仰け反って動きを止めた。
 本来、機械の塊でしかない機械人形メイデンに性感などは必要ない。
 しかし、メイデンは機械であると同時に、失われた女の複製である。
 女が持っていた機能を再現するため、そして何より主となる男を楽しませるために、機械人形メイデン達には性感センサーが搭載されていた。

「はぅ……♡」

 膣奥を乱暴に殴りつけるような突き上げにサクラの口から普段の無機質さとは裏腹な、熱い吐息が漏れる。
 店主の腰が続けざまに跳ねあがり、サクラの小さな体が不規則に踊る。

「あっ♡ はっ♡ あっ♡」

 サクラの口から、断続的な嬌声が零れる。
 性感センサーからの快楽情報がCPUに負荷を与えているのだ。
 表情に乏しかった横顔が快楽の熱に炙られて蕩け、白い背が朱に染まっていく。

(うおぉ、盛り上がってきましたぁ!)

 サクラの艶姿にフィオは生唾を呑み込み、思わずかぶりつきになる。

 その時。

 店主の腰の上で跳ねまわるサクラが、不意に出窓へ視線を向けた。

(おわっ……)

 とっさに首をすくめ、身を隠す。

(見つかったかな? 頭のホワイトブリムサブセンサー外してたから、感知力下がってると思うんだけど……)

 もう一度覗き込んでこちらをガン見でもされていたら、次にどんな顔をして来店すればいいやらわからなくなる。
 フィオはこれ以上の出歯亀を諦め、そっと雨どいを滑り降りた。 拙いと見れば即座に退くのも優秀な砂潜りの条件である。

「まあ、サクラちゃんのお尻可愛かったし、いいんだけどさ……」

 己の股間を見下ろす。 ズボンの下でテントを張っていた。

「中途半端は生殺しだよなあ……」

 フィオは溜息を吐きながら、三輪バイクトライクに跨った。もぞもぞと股間のベストポジションを探りながらエンジンを始動させる。

「うん、早いとこキキョウさんと合流しよう」
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