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翌朝、ガバメントの周辺は昨日とは打って変わった賑わいを見せていた。
「こりゃまた盛況だなあ」
小さなガバメントの背後にそびえる巨大なスタジアムへと、続々と人が飲み込まれていく。
「こんなに、ひと、いたんだ」
目を丸くして呟くスコールの言葉通り、小規模タウンとは思えない人出である。
「約束の時間まであんまりないな、職員さんの所に行かねえと」
バンはスコールを伴い、人混みをかき分けながらオフィスを目指す。
その人混みの中から、不意に声を掛けられた。
「バンさん!」
「え? あ、ムガルさん」
にこやかに手を振るキャラバンの主に、バンは会釈する。
「聞きましたよ! メイデンバトルに参加されるそうですね!」
満面の笑みのムガルの言葉に、バンは困惑した。
「え、えぇ、そうなんスけど、随分耳が早いですね?」
ムガルは左手首に巻いた多目的端末を掲げてみせる。
「今朝方、ガバメントから広報が入りましてね。
それにほら」
ムガルはスタジアムの壁面を指さす。
本日メイデンバトル開催と大書きされた垂れ幕が下がっていた。
「……なんか大事になってきてるぞ、おい」
じんわりと冷や汗を滲ませるバンの肩をムガルは陽気に叩いて励ました。
「なぁに、負けた所で損をするわけでもありません。
ちょっとスコールさんが恥ずかしい思いするだけですよ、気楽に行きましょう」
「え?」
「では、私も席取りに行きますので。
試合、期待してますよ!」
終始上機嫌のムガルは人混みに流されるようにスタジアムへと入っていく。
「……恥ずかしい思いってなんだ?」
バンの疑問にスコールは不思議そうに小首を傾げた。
「バンさん、スコールさん、おはようございます」
ガバメントの職員は初見のだらけモードではなく、パリッとしたお仕事モードでバン主従を迎えた。
「では早速、スコールさんにはバトルの準備を……」
「待ってください」
立て板に水のペースで話し始めた職員の言葉を、バンは慌てて遮る。
「結局、昨日聞けなかったんですけど、負けた場合のデメリットとかないんですか?」
バンの言葉に職員は眼鏡の向こうの目をパチパチと瞬かせた。
すばやく手元のタブレットを操作し、数字を表示させる。
「……参加報酬として、メイデンのオーナーにはこちらの額を支払わせていただいております。
こちらは勝敗に関わりなくお受け取りいただけます」
タウン75までの護衛報酬を半分にした程度の額だ。
わずかな時間で稼げる金額としては破格と言える。
「……それで、デメリットの方は?」
「……勝敗が付き次第、敗者のメイデンは勝者より30分お披露目を受ける義務が」
「お披露目ってなんです?」
「……えー……痴態を晒していただく事です」
「よし、帰ろうかスコール!」
相棒の手を引ききびすを返すバンに、職員は慌ててすがりついた。
「お、お待ちくださいっ!」
「随分強引に話を進めると思ったら、ひでえデメリットあるじゃねえか!
俺はスコールを見せ物にする気なんかないっ!」
「メイデン同士です! マスターパーティションには一切傷をつけませんからっ!」
「そういう問題じゃねえってえの!」
体格のいいバンが出口に向かうのを引き留めようと、職員は必死でしがみつく。
「勝てば問題なし!負けなければオールオッケーですから!」
「スコールはビギナーだよ!そうそう勝てるか!」
「ビギナーズラックという言葉もございます!
なにとぞ、なにとぞ!
これだけ宣伝を打ってしまっているのです、今更中止には……」
「そりゃそっちの都合だろうが!」
職員を引きずりながら、バンはパワーに任せて歩を進める。
その袖が引かれた。
「ますたー、もぎせん、しないの?」
「あのな、スコール。
負けたら恥ずかしい目に遭うんだぞ?」
スコールは、くいと小首を傾げる。
「でも、ますたーぱーてぃしょん、へらないって。
それなら、たたかって、けいけんち、ほしい」
「ええ! お相手は戦闘経験豊富なメイデンです!
彼女との一戦は、必ずやスコールさんの実になりますとも!」
「あんたは黙ってろ!」
すがりつく職員を押し返すバンの手に、スコールは小さな手を重ねた。
「ますたー、わたし、つよく、なりたい。
もぎせん、したい、よ」
色違いの瞳でじっと見上げてくるメイデンに、バンは大仰なため息を吐いた。
不承不承出場を認めたバンと意気込むスコールは、職員に出場選手の控え室へと案内された。
「こちらに模擬戦用の装備とセンサースーツがございます」
何とか出場を取り付けられた職員は、鼻歌でも歌わんばかりの調子の良さで壁際のロッカーを開いた。
各種銃器や近接武器が、ずらりと並んでいる。
模擬戦用であることを示すためか、それぞれフレーム部位を派手な色合いにペイントされていた。
「模擬弾や格闘武器のそれぞれとスーツに仕込まれたセンサーが、ダメージを計測いたします。
その結果で勝敗が判定される塩梅でして」
職員は説明しながらロッカー内から首輪のようなパーツを取り出した。
「こちら、センサーリングと申します。
これを首に付けていただく事で、計測されたダメージ分のペナルティが課されます。
片腕を破壊されるだけのダメージを受けたと計測されたなら、その腕が動かなくなるわけです」
鈍く銀色に光るセンサーリングにバンはうろんげな目を向ける。
「メイデンの制御系に食い込むって訳ですか?
ちょっと怖いな……」
「もちろん、メイデンバトル内のみの使用に限りますから、ご安心を」
職員はセンサーリングをロッカー内に戻し、代わりに銀色のガムテープを思わせるテープを一巻き取り出した。
スコールのガントレットに視線を向けながら説明する。
「スコールさんのクローのような特殊な形状の武器には、このセンサーテープを巻いていただきます」
「スコールのクローはブレイククローって奴なんですけど、こいつはどういう風に判定されるんですか?」
「ブレイククローですか、珍しいですね。
高速振動系の武装は常に起動していると判定されます」
これは朗報だ。
本来ならば、スコールのジェネレーターではブレイククローを一瞬起動させるのが精一杯だ。
それが制限なしに使用できるのはありがたい。
「では、そちらのロッカーからお使いになるセンサースーツを選んでください」
スコールはこっくりと頷くと、おもむろにスーツを脱ぎ始めた。
「こ、こらっ」
慌てて職員との間に入り、彼の視線を遮るバン。
小さく舌を鳴らす職員をじろりと睨むと、素知らぬ顔で目を逸らされた。
無造作に裸になったスコールはロッカーの中を見回すと、普段使っているものに似たブルーのスーツを引っ張りだす。
レオタードを思わせる形状のスーツに足を通して着込んでいく、のだが。
「……さいず、あわない」
SSサイズ用のスーツは腰回りはともかく、胸元が致命的に合わなかった。
小型メイデンを戦闘に使う場合、できるだけ大型のジェネレーターを搭載するのがセオリーだ。
貸し出し用のセンサースーツはそのようなロリ巨乳ボディのメイデン向けに作られていた為、ぺったんこのスコールでは胸部が余りすぎてしまうのだ。
手を添えなくては、ぺろんとおへその辺りまで垂れ下がってしまう有様だった。
「これはいけませんね……では、こちらで」
職員は粘着性のないセンサーテープを一巻き取り出した。
「こちらをベルト代わりに、胸元を締め付ければよろしいかと」
「なるほど」
受け取ったバンは、テープをスコールの薄っぺらい胸周りにぐるりと一周させ胸の前で止める。
大振りな蝶結びにまとめると、銀色のリボンのようにも見えた。
「おお、これは可愛らしい!
それでは、武装アームに搭載する武器も選んでいただきましょう」
フィオに貰ったものと同タイプの重機関銃を選択し、スコールの戦闘準備は終わった。
メイデン控え室で試合開始まで待機するスコールと別れ、バンはVIPルームへと案内される。
「VIP、ねえ。
いいのかな、俺なんかが……」
「メイデンのオーナーですから。
さ、こちらへ」
立派な作りの木製のドアを恭しく開け、職員は一礼する。
「ごゆっくり」
場違いさに緊張しながら入った室内は、小さな会議室程の面積であった。
しかし、置かれた備品の少なさが逆に広さを感じさせる。
柔らかな毛足の絨毯に、壁を彩るタウン75のエンブレムが記されたタペストリ、ゆったりとしたデザインのソファが二脚とサイドテーブル。
それぞれ、さして見る目の肥えていないバンからしても高級品とわかる品揃えだ。
そして何より、片方のソファに座る男もまた、明かな「高級品」であった。
「君が対戦相手のオーナーか。
私はデュークという。よろしく」
立ち上がり皺だらけの手で握手を求めてくる男は灰色の総髪を背に流しており、一目で老人の域に踏み込んだ年齢であると見て取れる。
しかし、ぴんと伸びた背筋と指先まで制御の行き届いたキビキビとした動作には、老いの気配など欠片もない。
長身を包む軍服めいた黒い戦闘服と剣帯に吊られた高速振動刀を見るまでもなく、彼がバリバリの現役であり熟練の戦士であると感じ取れた。
「す、砂潜りやってます、バンです」
気圧されながらも応じ、握手を交わす。
老人とも思えない、力強い手であった。
不意にトレーダーのムガルの言葉が脳裏をよぎる。
「……デュークさんって、もしかしてゲートを護ってらっしゃる?」
「うむ、微力ながら尽くさせて貰っているよ」
威厳ある見た目とは裏腹の穏やかな声音は耳に優しい。
だが、内容はバンをひきつらせるに十分だ。
「そ、それじゃあ……!」
バンは慌ててVIPルームの片方の壁を構成する大窓に飛びついた。
スタジアムの高所に作られたVIPルームからは大入りとなった競技場が一望できる。
その中に引っ張り出され、周囲から浴びるスポットライトを不思議そうに見上げながら、きょときょとしているスコール。
そして、その対角線上に立つ、フル装備のメイデン。
「や、やっぱりぃ……」
ムガルがタウン75の守護神と評したコンビの片割れ、Aクラス戦闘メイデンのシュネーが艶然と微笑んでいた。
「こりゃまた盛況だなあ」
小さなガバメントの背後にそびえる巨大なスタジアムへと、続々と人が飲み込まれていく。
「こんなに、ひと、いたんだ」
目を丸くして呟くスコールの言葉通り、小規模タウンとは思えない人出である。
「約束の時間まであんまりないな、職員さんの所に行かねえと」
バンはスコールを伴い、人混みをかき分けながらオフィスを目指す。
その人混みの中から、不意に声を掛けられた。
「バンさん!」
「え? あ、ムガルさん」
にこやかに手を振るキャラバンの主に、バンは会釈する。
「聞きましたよ! メイデンバトルに参加されるそうですね!」
満面の笑みのムガルの言葉に、バンは困惑した。
「え、えぇ、そうなんスけど、随分耳が早いですね?」
ムガルは左手首に巻いた多目的端末を掲げてみせる。
「今朝方、ガバメントから広報が入りましてね。
それにほら」
ムガルはスタジアムの壁面を指さす。
本日メイデンバトル開催と大書きされた垂れ幕が下がっていた。
「……なんか大事になってきてるぞ、おい」
じんわりと冷や汗を滲ませるバンの肩をムガルは陽気に叩いて励ました。
「なぁに、負けた所で損をするわけでもありません。
ちょっとスコールさんが恥ずかしい思いするだけですよ、気楽に行きましょう」
「え?」
「では、私も席取りに行きますので。
試合、期待してますよ!」
終始上機嫌のムガルは人混みに流されるようにスタジアムへと入っていく。
「……恥ずかしい思いってなんだ?」
バンの疑問にスコールは不思議そうに小首を傾げた。
「バンさん、スコールさん、おはようございます」
ガバメントの職員は初見のだらけモードではなく、パリッとしたお仕事モードでバン主従を迎えた。
「では早速、スコールさんにはバトルの準備を……」
「待ってください」
立て板に水のペースで話し始めた職員の言葉を、バンは慌てて遮る。
「結局、昨日聞けなかったんですけど、負けた場合のデメリットとかないんですか?」
バンの言葉に職員は眼鏡の向こうの目をパチパチと瞬かせた。
すばやく手元のタブレットを操作し、数字を表示させる。
「……参加報酬として、メイデンのオーナーにはこちらの額を支払わせていただいております。
こちらは勝敗に関わりなくお受け取りいただけます」
タウン75までの護衛報酬を半分にした程度の額だ。
わずかな時間で稼げる金額としては破格と言える。
「……それで、デメリットの方は?」
「……勝敗が付き次第、敗者のメイデンは勝者より30分お披露目を受ける義務が」
「お披露目ってなんです?」
「……えー……痴態を晒していただく事です」
「よし、帰ろうかスコール!」
相棒の手を引ききびすを返すバンに、職員は慌ててすがりついた。
「お、お待ちくださいっ!」
「随分強引に話を進めると思ったら、ひでえデメリットあるじゃねえか!
俺はスコールを見せ物にする気なんかないっ!」
「メイデン同士です! マスターパーティションには一切傷をつけませんからっ!」
「そういう問題じゃねえってえの!」
体格のいいバンが出口に向かうのを引き留めようと、職員は必死でしがみつく。
「勝てば問題なし!負けなければオールオッケーですから!」
「スコールはビギナーだよ!そうそう勝てるか!」
「ビギナーズラックという言葉もございます!
なにとぞ、なにとぞ!
これだけ宣伝を打ってしまっているのです、今更中止には……」
「そりゃそっちの都合だろうが!」
職員を引きずりながら、バンはパワーに任せて歩を進める。
その袖が引かれた。
「ますたー、もぎせん、しないの?」
「あのな、スコール。
負けたら恥ずかしい目に遭うんだぞ?」
スコールは、くいと小首を傾げる。
「でも、ますたーぱーてぃしょん、へらないって。
それなら、たたかって、けいけんち、ほしい」
「ええ! お相手は戦闘経験豊富なメイデンです!
彼女との一戦は、必ずやスコールさんの実になりますとも!」
「あんたは黙ってろ!」
すがりつく職員を押し返すバンの手に、スコールは小さな手を重ねた。
「ますたー、わたし、つよく、なりたい。
もぎせん、したい、よ」
色違いの瞳でじっと見上げてくるメイデンに、バンは大仰なため息を吐いた。
不承不承出場を認めたバンと意気込むスコールは、職員に出場選手の控え室へと案内された。
「こちらに模擬戦用の装備とセンサースーツがございます」
何とか出場を取り付けられた職員は、鼻歌でも歌わんばかりの調子の良さで壁際のロッカーを開いた。
各種銃器や近接武器が、ずらりと並んでいる。
模擬戦用であることを示すためか、それぞれフレーム部位を派手な色合いにペイントされていた。
「模擬弾や格闘武器のそれぞれとスーツに仕込まれたセンサーが、ダメージを計測いたします。
その結果で勝敗が判定される塩梅でして」
職員は説明しながらロッカー内から首輪のようなパーツを取り出した。
「こちら、センサーリングと申します。
これを首に付けていただく事で、計測されたダメージ分のペナルティが課されます。
片腕を破壊されるだけのダメージを受けたと計測されたなら、その腕が動かなくなるわけです」
鈍く銀色に光るセンサーリングにバンはうろんげな目を向ける。
「メイデンの制御系に食い込むって訳ですか?
ちょっと怖いな……」
「もちろん、メイデンバトル内のみの使用に限りますから、ご安心を」
職員はセンサーリングをロッカー内に戻し、代わりに銀色のガムテープを思わせるテープを一巻き取り出した。
スコールのガントレットに視線を向けながら説明する。
「スコールさんのクローのような特殊な形状の武器には、このセンサーテープを巻いていただきます」
「スコールのクローはブレイククローって奴なんですけど、こいつはどういう風に判定されるんですか?」
「ブレイククローですか、珍しいですね。
高速振動系の武装は常に起動していると判定されます」
これは朗報だ。
本来ならば、スコールのジェネレーターではブレイククローを一瞬起動させるのが精一杯だ。
それが制限なしに使用できるのはありがたい。
「では、そちらのロッカーからお使いになるセンサースーツを選んでください」
スコールはこっくりと頷くと、おもむろにスーツを脱ぎ始めた。
「こ、こらっ」
慌てて職員との間に入り、彼の視線を遮るバン。
小さく舌を鳴らす職員をじろりと睨むと、素知らぬ顔で目を逸らされた。
無造作に裸になったスコールはロッカーの中を見回すと、普段使っているものに似たブルーのスーツを引っ張りだす。
レオタードを思わせる形状のスーツに足を通して着込んでいく、のだが。
「……さいず、あわない」
SSサイズ用のスーツは腰回りはともかく、胸元が致命的に合わなかった。
小型メイデンを戦闘に使う場合、できるだけ大型のジェネレーターを搭載するのがセオリーだ。
貸し出し用のセンサースーツはそのようなロリ巨乳ボディのメイデン向けに作られていた為、ぺったんこのスコールでは胸部が余りすぎてしまうのだ。
手を添えなくては、ぺろんとおへその辺りまで垂れ下がってしまう有様だった。
「これはいけませんね……では、こちらで」
職員は粘着性のないセンサーテープを一巻き取り出した。
「こちらをベルト代わりに、胸元を締め付ければよろしいかと」
「なるほど」
受け取ったバンは、テープをスコールの薄っぺらい胸周りにぐるりと一周させ胸の前で止める。
大振りな蝶結びにまとめると、銀色のリボンのようにも見えた。
「おお、これは可愛らしい!
それでは、武装アームに搭載する武器も選んでいただきましょう」
フィオに貰ったものと同タイプの重機関銃を選択し、スコールの戦闘準備は終わった。
メイデン控え室で試合開始まで待機するスコールと別れ、バンはVIPルームへと案内される。
「VIP、ねえ。
いいのかな、俺なんかが……」
「メイデンのオーナーですから。
さ、こちらへ」
立派な作りの木製のドアを恭しく開け、職員は一礼する。
「ごゆっくり」
場違いさに緊張しながら入った室内は、小さな会議室程の面積であった。
しかし、置かれた備品の少なさが逆に広さを感じさせる。
柔らかな毛足の絨毯に、壁を彩るタウン75のエンブレムが記されたタペストリ、ゆったりとしたデザインのソファが二脚とサイドテーブル。
それぞれ、さして見る目の肥えていないバンからしても高級品とわかる品揃えだ。
そして何より、片方のソファに座る男もまた、明かな「高級品」であった。
「君が対戦相手のオーナーか。
私はデュークという。よろしく」
立ち上がり皺だらけの手で握手を求めてくる男は灰色の総髪を背に流しており、一目で老人の域に踏み込んだ年齢であると見て取れる。
しかし、ぴんと伸びた背筋と指先まで制御の行き届いたキビキビとした動作には、老いの気配など欠片もない。
長身を包む軍服めいた黒い戦闘服と剣帯に吊られた高速振動刀を見るまでもなく、彼がバリバリの現役であり熟練の戦士であると感じ取れた。
「す、砂潜りやってます、バンです」
気圧されながらも応じ、握手を交わす。
老人とも思えない、力強い手であった。
不意にトレーダーのムガルの言葉が脳裏をよぎる。
「……デュークさんって、もしかしてゲートを護ってらっしゃる?」
「うむ、微力ながら尽くさせて貰っているよ」
威厳ある見た目とは裏腹の穏やかな声音は耳に優しい。
だが、内容はバンをひきつらせるに十分だ。
「そ、それじゃあ……!」
バンは慌ててVIPルームの片方の壁を構成する大窓に飛びついた。
スタジアムの高所に作られたVIPルームからは大入りとなった競技場が一望できる。
その中に引っ張り出され、周囲から浴びるスポットライトを不思議そうに見上げながら、きょときょとしているスコール。
そして、その対角線上に立つ、フル装備のメイデン。
「や、やっぱりぃ……」
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