機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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 主の佩刀と対である高速振動刀ヴィヴロカタナの鞘を地に突き、柄頭に両手を乗せた姿勢でシュネーは対戦相手を検分していた。

 SSフレームのボディに民生品の小型ジェネレーターを搭載したと思しき、小さな機体。
 きょときょとと落ちつかなげに周囲を見回す仕草は幼く、起動して間もない若いメイデンであると見て取れた。

 相手にもならない。

 あっさりとそう判断したシュネーは、カメラ映りに気を配った微笑みを維持したまま、内心で落胆していた。

(久しぶりだからと、張り切りすぎましたわね……)

 メイデンバトルのチャンピオンとして君臨するシュネー。
 彼女は強すぎた。
 彼女を追い落とそうという後輩が登場しなくなる程に。

 シュネーが強すぎるせいでタウン75所属のメイデンたちが参加しなくなった為、メイデンバトル自体が開催されなくなってしまうという悪循環に陥っていたのだ。

 久しぶりのチャレンジャーと聞き、喜び勇んでフル装備を持ち出してしまったのだが。

(これで相手をするのは余りにも大人げないというもの……)

 押し寄せる装甲機生体アービングの大軍すら、単機で撃退してしまうような重装備だ。
 二連装の75ミリ砲が左右に二門ずつ、背後に背負った64連多弾頭ロケットランチャー、対空砲を兼ねた7.62ミリのミニガン、そして手にした高速振動刀ヴィヴロカタナ
 どれを取っても、あのメイデンに対してはオーバースペックだろう。

 シュネーはむしろ痛ましげといってもいい視線を対戦相手に向ける。
 あのメイデンには戦闘など荷が重すぎる。
 家事やウェイトレスなどの仕事が相場の機体に、何という無茶をさせようというのか。
 持たされている大きなガントレットと重機関銃は、まるで小さな機体を押し潰すかのようだ。

 こんな民生機を無理矢理メイデンバトルに駆りだすのは、報奨金目当てに違いない。
 敗北しようともわずかな時間で決して安いとはいえない金額を稼ぎ出せるのは、大きな魅力であろう。
 メイデンの被る恥辱を考えなければ。

 シュネーは高台に設置されたVIPルームを睨んだ。

(メイデンを晒し物にして稼ごうなどと……見下げ果てたマスターですこと!)

 主と共にあの部屋にいるだろう相手のマスターへ、内心侮蔑をぶつける。

 だが、相手を哀れもうともシュネーにもチャンピオンとしての立場がある。
 手を抜く訳にはいかないし、かといって見せ場のひとつもなく数秒で試合を終わらせる訳にもいかない。

 シュネーは嘆息すると、背部ラッチのジョイントを解除した。
 重々しい音を立てて、大型コアユニットごと武装システムが脱落する。

 亡きライバルの形見である高速振動刀ヴィヴロカタナを抜き放ち、颯爽と頭上に掲げた。
 その銘も高き名刀ソードイズミノカミはスポットライトを浴びて燦然と輝く。

「チャンピオンに挑もうという意気は買いましょう。
 ですが、飛び道具を使うまでもありませんわ!」

 傲然と宣言すると、大入りの客席がどよめきに沸いた。




 かつては手入れされた芝生が青々と広がっていたドーム式スタジアムだが、今は赤茶けた土で覆われている。
 整備の手間が惜しまれた訳ではない。
 ホバーや走行球グライドスフィアを備えたメイデン達が走り回れば、どんなに手入れした芝生もあっという間に禿げ山となってしまうからだ。
 単純に手入れの手間を惜しむのならば土ではなくコンクリートを流し込んだ打ちっ放しにしてしまえばいい。
 それをしないのは、メイデンが疾走する際に派手な土煙が舞い上がると見栄えが良いという理由であった。

 二カ所用意されたゲートの片側から入場したスコールは、四方から浴びせられるスポットライトと歓声に立ちすくんだ。

「うわ……」

 驚きながら、パチパチと瞬きして視覚センサーの光量感度を下げる。
 目を眩ませるようなライトの目映さが軽減された所で、周囲を見回す。

 ぐるりと取り囲むような客席は、まさに満員御礼。
 タウン中の人が集まってきたかというような客入りである。
 その、数百、数千にも達する視線が、スコールの小さな機体に向けられていた。
 久々のメイデンバトルに興奮した観客達は口々に歓声を上げている。

「んっ……」

 そのひとつひとつを判別しようとしてしまい、CPUに圧倒的な負荷を感じたスコールは慌てて分析を打ち切った。

「ひつような、じょうほう、だけ、とりださないと」

 キキョウの教えを思い出し、巨大な怪獣のうなり声のようなどよめきへの注意レベルを下げる。
 状況に合わせて調整されたスコールの聴覚センサーに、場内のスピーカーから流れる音声が飛び込んできた。

「親愛なる紳士諸君! メイデンバトルへようこそ!」

 かつてスコアボードが合った位置に設置された大型のモニターには、真っ赤なスーツにサイバーモノクルをかけた見るからにうさんくさい男が映っている。

「本日の実況は私、フィッシャー!
 そして解説はお馴染みの!」

 モノクルの男、フィッシャーを大写しにしていたカメラが下がり、解説席に腰を下ろした人物の姿を映しだす。

「はいはい! タウン75の案内人にしてアイドル、本日は解説ちゃんの案内ちゃんでーす!」

 ダブルピースで満面にあざと可愛い笑顔を浮かべたエプロンドレスのメイデンがモニターにアップで映り、スコールは小首を傾げた。

「あんないちゃん、かいせつ、もやってる、の?」

 ゲート付近で出会った陽気なメイデンが解説席に居る理由がスコールにはよく判らなかった。

「……めいでん、すくないから?」

 人手不足だから、色んな雑事を担当させられているのだろうか。
 だとしたら気の毒な話である。
 メイデンは主に尽くすのが一番の仕事であるのに。
 モニターの中の案内ちゃんもとい解説ちゃんを見上げ、スコールは内心同情した。

 見上げていたモニターが不意に切り替わる。
 どこかで見たような、金髪の小さなメイデンが映し出された。
 スコール自身だ。

「えっ」

 驚いて身じろぎすると、モニターの中の映像も連動する。
 リアルタイムだ。
 見回せば、場内には撮影用のカメラを搭載した小型の飛行ドローン型マペットが、プロペラを回転させていくつも浮いている。
 そのうちのひとつがスコールの周囲をゆっくりと旋回していた。

 カメラマペットの動きと共に大画面モニターに映し出されるアングルが変わる。
 アップで顔を映した後に、リボン状のテープで固定された薄い胸元に焦点を移した。
 肌に張り付くブルーのスーツに浮きあがったおへその窪みを捉えつつカメラは旋回し、細い腰回りから小振りなお尻の丸みにかけてをじっくりと映し出すと、再び顔の前に戻ってくる。
 舐め回すかのように自分の周囲を動きながらホバリングするカメラマペットを、スコールは不思議そうに小首を傾げて見上げた。

「うーん、可愛らしい! 
 今回エントリーされたのは砂潜りを営んでおられるバンさんのパートナー、スコール嬢です!」

 フィッシャーの紹介に、一際大きな歓声が上がった。 
 
「しかし、スコールさんは見ての通りのSSフレームメイデン……。
 バトルは少々荷が重いのではないでしょうか。
 如何思われますか、解説ちゃん」

 解説ちゃんは腕組みをすると、いかにも一家言ありますという風情で応じた。

「それなんだけどね、スコールちゃんには立派な実績があるんだよ!
 キャラバンの護衛で装甲機生体アービングの群を撃退したんだって!
 やるねー!」

「ほうほう! 戦闘実績バトルプルーフ証明済みとは、これはご立派!
 ……む、もう御一方の準備も整ったようです!」

 不意に煌々と降り注いでいたスポットライトの明かりが落ちると、天蓋をおろしたドーム式スタジアムの中に暗がりが訪れる。
 モニターの輝度も落とされた薄暗闇の中、大入りの観客は何が起きるのか承知しているかの如く、一斉に口を噤んでいた。

「……お待たせしました、皆さん!
 我らが故郷タウンの守護者にして、ここスタジアムに君臨する女帝!
 メイデンバトルチャンピオン、シュネー嬢の登場です!」

 ばんっと音を立ててスポットライトが点灯する。 
 スコールと対角のゲートに四方から照明が集中した。
 同時に割れんばかりの大歓声がスタジアムを埋め尽くす。

 そこに佇むは、光を受けて煌めく白銀の放熱髪を背に流した、完全武装の淑女。
 絶妙なプロポーションの長身は、金糸で彩られた黒いボディスーツに包まれている。
 背負った巨大な武器の塊のような武装システムと装甲ブーツは純白に塗装され、ボディスーツと鮮やかなコントラストを成していた。

 鞘に収まった高速振動刀ヴィヴロカタナを杖のように地に突き、その柄頭に両手を載せた美女は、白と黒のコントラストの中で唯一の彩りである金糸と同じ輝きの瞳を真っ直ぐにスコールへと向けている。

「うっ……」

 圧倒的に格上のメイデンだ。
 戦闘能力でも、その美しさの完成度でも。
 煌めく黄金の瞳に見つめられ、スコールはびくりと身をすくめた。

 白銀の淑女はスコールの怯みを見て取ったのか、小さく嘆息すると背負った武装システムを切り離し、地に落とした。

「え……?」

 ごとりと重々しい音を立てて転がる武装システムにスコールは目を丸くする。
 シュネーは美麗ともいえるほどの優雅さで佩刀を鞘走らせると、煌めく刃を頭上に掲げて宣言した。

「チャンピオンに挑もうという意気は買いましょう。
 ですが、飛び道具を使うまでもありませんわ!」

 傲然と言ってのけるスタジアムの女帝に、会場のボルテージは上がる。
 割れんばかりの大歓声の中、スコールはじっとシュネーを見据えていた。

 馬鹿にされた。

 確かに重火器の塊のような武装システムを使用されれば、絶対的な火力の差から勝負は瞬時についてしまうだろう。
 だが、それを投棄する自らの勝率を下げるような行いをして尚、十分な勝率を維持しているとあのメイデンは確信しているのだ。

 それはスコール自身も理解している事ではある。
 そもそも、この場にスコールは勝利するつもりで来てはいない。
 元から格上のメイデンと戦って、戦闘経験を蓄積したいだけだったのだ。

 それでも、こうまで露骨に見下されれば腹も立つ。

「……まけたく、ない」

 スコールはぎゅっと唇を引き結んだ。
 何としても一矢報いねばならぬ。

 主の手助けをするため強くなりたいという目的意識が、スコールの幼い疑似精神の中に負けず嫌いな一面を芽生えさせつつあった。
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