機甲乙女アームドメイデン ~ロボ娘と往く文明崩壊荒野~

日野久留馬

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「それでは皆様お待ちかねぇ……!
 メイデンバトル、レディィ!GO!!」

 眼帯の司会者、フィッシャーの叫びと共に高らかにゴングが打ち鳴らされる。
 同時に白銀の淑女は銀の矢と化した。
 装甲ブーツに仕込まれた走行球グライドスフィアが唸りを上げ、土煙を蹴立てながら怒涛の疾走でスコールに迫る。

「このぉっ!」

 その鏃、冴え冴えと輝く高速振動刀ヴィヴロカタナを睨みながら、スコールも応射を開始する。

「違う、それじゃダメだスコール……!」

 VIPルームから戦場を見下ろし、バンは唇を噛んだ。
 上から一望すれば、二体のメイデンの挙動は手に取るように判る。
 土煙を巻き上げる、シュネーの派手な突撃は誘い水。
 スコールの発砲と共にわずかに進路を斜めにずらし、射線を外す。
 放たれた銃弾は土煙をかき乱すだけで、シュネーの影を捉えることもできない。

 射撃ルーチンを追加していないスコールには、射撃の基礎が判っていないのだ。
 進路を変更したシュネーの姿を馬鹿正直に銃口で追いかける。
 とても当たるものではない。 

「相手の前に弾を置かねえと……」

 動目標への射撃は進路を弾幕で塞ぐ事、相手の逃げ場を無くす事が基本だ。
 この辺りの知識は、バン自身が最近ロスに教わった事だ。

「くそっ、スコールにも教えとくべきだった」

 情報共有を怠った結果、スコールは素人同然の狙いで無駄に弾丸を消費する。

 そもそもスコールは重機関銃を使いこなせていない。
 武装アームに搭載された重厚な銃身を構える細い両腕は見た目相応のパワーしか発揮できず、50口径の反動で銃口は激しく踊る。
 銃口のぶれが幸いして、まぐれ当たり気味にシュネーへの直撃コースに乗る弾丸もあるが、閃く高速振動刀ヴィヴロカタナが余裕を持って切り払っていた。

「このままじゃ弾が無くなっちまう……」

 シュネーはスコールを中心に円を描くような軌跡での滑走に移っていた。
 緩急を付け、時にスラロームなどの走行テクニックも混ぜる動作は華麗で、遙か過去に失われたフィギュアスケートの演技をも彷彿させる。
 シュネーには時折客席へ手を振ってみせるほどの余裕があった。

「くっそぉ、舐められてるぞ、スコール……!」




「跳躍からのトリプルアクセル! なんとも軽やかな回避動作マニューバです、シュネー嬢!」

「普段は馬鹿でっかい大砲担いでるもんねえ、重りがなければこんな軽業もお手の物なんだね!」

「銀の髪がまるで光の独楽のように美しく……今のシーンは是非ともスローモーションで観賞したい所ですねぇ!」

 昔、ライブラリで見かけた回転ジャンプを真似た回避動作マニューバは、相手が真っ当な戦闘メイデンであれば、流石のシュネーも実用しないような趣味アクションだ。
 余りにも稚拙な射撃に、ついついからかう気持ちになってやらかしてしまった。

 おかげで客席は大歓声、実況の煽りもあって大受けだ。
 最も観客の受けは良くとも、対戦相手からの心証は最悪だ。
 幼いメイデンは愛らしい顔を強ばらせて、必死に掃射を続けている。
 だが、撃てば撃つほど、大型の重機関銃は彼女の手に負えない反動を生み出していくのだ。

(そういう時は、数発単位でバースト射撃をして反動を抑えるのが良策ですわよ)

 シュネーの本領は大火力の火器を用いた砲撃戦だ。
 反動の強い大型武装の扱いに関しては、まさに本職である。

(さて、どうしたものかしら)

 シュネーはチャンピオンとして、如何にこの勝負を「魅せる」かCPUの思考領域を大幅に振り分けて思案していた。
 この甘っちょろい弾幕に追いつめられてピンチを演出するわけにはいかない。
 メイデンバトルの常連客は目が肥えている。
 そんな演技はあっという間に見抜かれてしまうだろう。

(久しぶりのバトルですもの、お客様を八百長で興醒めさせてしまう訳には参りませんわ)

 お客を楽しませるためなら、トリプルアクセルのひとつも披露する。
 とはいえ、このままメモリに記録したスケーターの妙技を再現し続けているわけにもいかない。
 イナバウアーは回避に転用できそうではあるが。

 シュネーは必死に射撃を続ける小さなメイデンを横目で見ると、脇構えで時折飛来するまぐれ当たりを叩き落とす事に専念していた高速振動刀ヴィヴロカタナを肩口に持ち上げた。
 亡き友の得意としたアタックモーションを記憶領域からロードする。

「おおっ! シュネー嬢が刀を担いだ!」

「より正確には蜻蛉の構えドラゴンフライ・スタイルって奴だねー」

 シュネーの足下が軽く浮く。
 一瞬の跳躍の後、着地した両足は真っ直ぐにスコールの方向へ揃えられていた。
 装甲ブーツのスラスターに点火。
 走行球グライドスフィアのみで滑走していたシュネーは、まさに一陣の疾風と化す。

「出たあぁぁっ! シュネー嬢、必殺のジェットローラーチェストだぁぁっ!」

「ジェットは合ってるけどローラーじゃないんだけどねー」

 圧倒的な加速で突進してくるシュネーに、スコールはオッドアイを見開いた。

「うぅっ!」

 恐るべき速度ではあるが、これならばむしろ狙いやすい。
 スコールは加熱の余り陽炎を立てている重機関銃でシュネーをポイントする。

 その瞬間、シュネーの口元がくすりと笑みの形を作り、淑女はもう一段加速した。
 シュネーの総身に漲る出力が、全てスラスターに流れ込んだのだ。
 脚部の二発のスラスターのみの推力で、一時的に音の壁すら突き破る。
 豊かな胸に隠された大出力ジェネレーターと、ほとんどの武装を投げ捨てた軽量化がなせる速度だ。
 真っ直ぐに撃ち放たれた銃弾を飛び越え、超音速で淑女は斬り込む。 

「ぅぁ……っ」

「チィィェェエィッッ!!」

 美女の口から出たとも思えない裂帛の叫びが、スコールの掠れるような悲鳴を圧した。
 振り降ろされる音速の一刀の軌道上に武装アームが辛うじて差し込まれる。

 金属同士がぶつかる異音と同時に、爆発したかのような土煙が巻きあがった。
 シュネーが掛けた逆噴射の余波である。

 水柱ならぬ土柱のように真上に延びる土煙の中から、金色の塊が飛び出す。
 弾き飛ばされたスコールだ。

「あっ、ぐっ、あぁっ」

 水面に投げられた飛び石のようにスタジアムの地面に何度も打ち付けられバウンドしながら、スコールは跳ね飛ばされていく。
 かつての一塁側スタンドの壁にぶつかり、ようやく停止した。

 一方、高く立ち上った土煙の中で、銀色の旋風が閃いた。
 高速振動刀ヴィヴロカタナのひと振りで視界を遮る土煙を吹き飛ばしたシュネーは、地に伏したスコールをじっと見守る。

 小さなメイデンは緩慢な動作で地に両手を突くと、よろよろと立ち上がった。
 なかなかのガッツだ。

「よろしい。 それでは第二ラウンドと参りましょう」
 
 シュネーは花がほころぶように微笑むと、高速振動刀ヴィヴロカタナを八相に構えた。
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