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野ペンギンと恋1
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選ばれた男子のみ通うことを許される
全寮制男子校華神楽学園の生徒会長が俺だ。
なにもかもを備えた存在でなくば生徒会長はつとまらない。プライドの高い奴が多いだけに自分より上と思える者しか認めないのだ。
そんな向峰祐という俺は、人並み以上に充実した生活をしているだろうと思われているが、周りの勝手な想像でまともに友人と呼べる者さえいるのか微妙だ。
そんな俺にも人並みに想い人がいたりする。それが日々の心の支えでもあるが、叶わぬ恋だったりする。
そんな哀れな俺に神がチャンスをくれたらしい。
広大な学園の敷地を、騒がしい女のような男に見つからないところを探して庭を歩いていれば、木々の間に愛しい存在を発見して近寄った。
「どうした? 困ったことでもあったのか」
今は枯れている人工池の側で困った顔をしている小波雪がいたので思わず声をかけた。面識は一度道を聞かれて答えたという思い出が一年前にあるだけなので、雪が驚いた顔をするのも無理はない。
「それが、その…。ペンギンが…」
「………ぺんぎん?」
聞き間違いかと思ったが、雪の視線を辿れば、ペンギンがいた。学園でペンギンを飼ってるなんて一度も聞いたことはない。…野ペンギンだろうか。いや、まさか。
「…痩せているか?」
ペンギンのイメージといえば、ぷっくり体型だが、池の側で動かないぺンギンは細い気がする。
「はい。たぶん。こんな山奥ですし、ちゃんと食べれてないかと。近づくとよちよち逃げようとするんですけど、すごく動きが遅くて、もう体力ないんじゃないかなって」
「…どうかな」
ペンギンって動き鈍い生物だしな。
「どっちにしても、このままだと飢えるんじゃないかなって心配で。だけど、ペンギンだし…」
「ペンギンだものな…」
気持ちは分かる。保護したくても、犬猫じゃないんだ。ペンギンだ。日本の生き物ですらない。どう保護しろと。それで困った顔していたんだな。
「…このまま見捨てるわけにもいくまい。とにかく保護しよう」
「でも、どうやって…」
「たしか家でもペンギンは飼える。ひとまず生徒会専用の小屋に連れていこう」
ここはいいとこ見せて好感を持ってもらいたい。そうでなくとも野ペンギンを放置しては騒ぎになってしまうから当然の措置だが。
ということでペンギンを躊躇なく捕まえた。暴れるが弱いものだ。
生徒会専用の部屋などはたくさんある。きっとうるさい連中から逃れる為に作ったんじゃないかと思う。今向かうのは庭に作られていて、存在を知る者も少ないだろう。校舎からけっこう近いんだがな。
「ここが…」
「ああ。生徒会専用といっても鍵は俺と作業員くらいしか開けられないから俺専用のようなものだ。はっきりいって普通に住める家だ」
平屋の贅沢な家といっていい。広いリビングの2LDKで家具もしっかり完備。ちゃんと掃除もされてるので綺麗だ。
「ひとまず風呂に入れるか」
この野ペンギン、野良猫並に汚れてる。
「そうですね。水ないと生きれないとかあるのかな?」
「魚じゃないが、乾くとしぼみそうだな。まあ、今は体を洗いたい」
「なら、俺が洗います!」
「…2人でしないと大変だろう」
「そうかも…」
風呂場にペンギンを連れていき、俺がペンギンを押さえて雪が洗った。共同作業とか、いい響きだ。
正しい洗い方とかわからないので、水だけで汚れをとる。軽く拭いてリビングに連れていく。
「次はメシか…。やっぱり生の魚だよな?」
「ですね」
イメージだけでエサをやるのもよくないので、ペンギンの飼い方を調べることにした。
「…ペンギンは躾ができないらしい」
「となると?」
「ペンギンに一部屋提供するしかないな。一時的だし大丈夫だろう。それとエサは冷凍の魚を解凍すればいいらしい。今すぐ手配する」
「よかった。会長に拾ってもらえてペンギンも運がいいですね」
「………言っとくが、世話はお前も手伝えよ」
危ない! なんでも完璧にしてしまっては、自分の役目はないですねとか言われるとこだった。実際、世話なんてする人間いくらでもいるが、それは言わなければ分かるまい。
全寮制男子校華神楽学園の生徒会長が俺だ。
なにもかもを備えた存在でなくば生徒会長はつとまらない。プライドの高い奴が多いだけに自分より上と思える者しか認めないのだ。
そんな向峰祐という俺は、人並み以上に充実した生活をしているだろうと思われているが、周りの勝手な想像でまともに友人と呼べる者さえいるのか微妙だ。
そんな俺にも人並みに想い人がいたりする。それが日々の心の支えでもあるが、叶わぬ恋だったりする。
そんな哀れな俺に神がチャンスをくれたらしい。
広大な学園の敷地を、騒がしい女のような男に見つからないところを探して庭を歩いていれば、木々の間に愛しい存在を発見して近寄った。
「どうした? 困ったことでもあったのか」
今は枯れている人工池の側で困った顔をしている小波雪がいたので思わず声をかけた。面識は一度道を聞かれて答えたという思い出が一年前にあるだけなので、雪が驚いた顔をするのも無理はない。
「それが、その…。ペンギンが…」
「………ぺんぎん?」
聞き間違いかと思ったが、雪の視線を辿れば、ペンギンがいた。学園でペンギンを飼ってるなんて一度も聞いたことはない。…野ペンギンだろうか。いや、まさか。
「…痩せているか?」
ペンギンのイメージといえば、ぷっくり体型だが、池の側で動かないぺンギンは細い気がする。
「はい。たぶん。こんな山奥ですし、ちゃんと食べれてないかと。近づくとよちよち逃げようとするんですけど、すごく動きが遅くて、もう体力ないんじゃないかなって」
「…どうかな」
ペンギンって動き鈍い生物だしな。
「どっちにしても、このままだと飢えるんじゃないかなって心配で。だけど、ペンギンだし…」
「ペンギンだものな…」
気持ちは分かる。保護したくても、犬猫じゃないんだ。ペンギンだ。日本の生き物ですらない。どう保護しろと。それで困った顔していたんだな。
「…このまま見捨てるわけにもいくまい。とにかく保護しよう」
「でも、どうやって…」
「たしか家でもペンギンは飼える。ひとまず生徒会専用の小屋に連れていこう」
ここはいいとこ見せて好感を持ってもらいたい。そうでなくとも野ペンギンを放置しては騒ぎになってしまうから当然の措置だが。
ということでペンギンを躊躇なく捕まえた。暴れるが弱いものだ。
生徒会専用の部屋などはたくさんある。きっとうるさい連中から逃れる為に作ったんじゃないかと思う。今向かうのは庭に作られていて、存在を知る者も少ないだろう。校舎からけっこう近いんだがな。
「ここが…」
「ああ。生徒会専用といっても鍵は俺と作業員くらいしか開けられないから俺専用のようなものだ。はっきりいって普通に住める家だ」
平屋の贅沢な家といっていい。広いリビングの2LDKで家具もしっかり完備。ちゃんと掃除もされてるので綺麗だ。
「ひとまず風呂に入れるか」
この野ペンギン、野良猫並に汚れてる。
「そうですね。水ないと生きれないとかあるのかな?」
「魚じゃないが、乾くとしぼみそうだな。まあ、今は体を洗いたい」
「なら、俺が洗います!」
「…2人でしないと大変だろう」
「そうかも…」
風呂場にペンギンを連れていき、俺がペンギンを押さえて雪が洗った。共同作業とか、いい響きだ。
正しい洗い方とかわからないので、水だけで汚れをとる。軽く拭いてリビングに連れていく。
「次はメシか…。やっぱり生の魚だよな?」
「ですね」
イメージだけでエサをやるのもよくないので、ペンギンの飼い方を調べることにした。
「…ペンギンは躾ができないらしい」
「となると?」
「ペンギンに一部屋提供するしかないな。一時的だし大丈夫だろう。それとエサは冷凍の魚を解凍すればいいらしい。今すぐ手配する」
「よかった。会長に拾ってもらえてペンギンも運がいいですね」
「………言っとくが、世話はお前も手伝えよ」
危ない! なんでも完璧にしてしまっては、自分の役目はないですねとか言われるとこだった。実際、世話なんてする人間いくらでもいるが、それは言わなければ分かるまい。
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