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落ちた。15
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会話の余韻に楽しそうにウィリダは貝を閉じた。
「確認するほど私が信用できないのか?」
「当然でしょー。フェレントは嫌な奴じゃないけど、頭はいいし、策略で人を落とすことに迷いなんてしないでしょうが」
「地位ある者ならできて当然だろう?私は好んでまでする趣味はないし、むしろ、ウィリダの為ならキヒロやエルバラになら協力したっていい」
「いくら前は誤解?してたにしても俺に聞かないでキヒロちゃんを殺そうとした人を信用できないでしょ」
「それは…」
フェレントは言葉を返せず視線をそらす。そんな姿がなんだか可愛いとウィリダは思ってしまった。
「…ウィリダがキヒロに執着しているからだ」
「それは意味が違うよ。ペットが可愛いとか、気に入るにしても色々でしょ」
「ペットにたいしてにしては気にかけすぎじゃないか?」
「そりゃあ、珍しいものなら特別にも思う。フェレントだって面白い本に夢中になったことはない?」
「あれがそれほど特別には見えなかったが…」
なかなかの異能力者ではあったが、そもそも異能力はハルラスと比べるほどのものではない。
「珍しい生物を見ても生物学者でないと、どれほどの価値があるかなんて分からないもんじゃない?」
「ならば、ウィリダはなんの学者なんだ?それも教えてほしいものだ」
フェレントは気軽にウィリダのことが知りたいと思ったのだが、ウィリダは雰囲気を変える。
「…そうだね、フェレントが俺とずっと一緒にいるのなら」
普段の軽い雰囲気が消えている。とても珍しいが、フェレントは知っている。何度か見かけたことがある姿。それに惹かれたのではないかと今考えてしまう。
「当然一緒にいる。だから結婚すればいいだろう?」
「まだその話ー?粘るねえ」
結婚が最良で最高だと信じているフェレントがどこか幼く見えてウィリダはおかしくなる。
「形だとしても意味はある」
「そのうち必ず結婚してもいいよ。けれど今じゃない。…ねえ、俺はフェレントのものになってもいいけど、フェレントは俺のものになってくれる?」
「…そう言ってるだろう?」
「俺がお腹すいたって言ったらフェレントは食事を用意してくれるでしょ?それよりずっと重くて強いのが欲しいんだあ」
「…話が分からないが、ウィリダが望むなら世界中から食材を取り寄せるだろうし、ウィリダの願いなら、できうる限り叶えよう」
「俺ねえ、けっこう我が儘だよ。フェレントは俺がハルバを食べてと言ったらたくさん食べてくれる?」
ハルバは苦みのある葉もの野菜である。それがフェレントは昔から苦手としていた。ちなみにウィリダはけっこう好きだ。
「う…。…ウィリダが望むのなら。ウィリダが私の側にずっといて、愛し合ってくれるのなら、私はウィリダのものだ。それはつまり何をするんだ?」
何か欲しい物があるのではないかとフェレントは察する。
「フェレントって王子様なのにけっこう性格いいよね?」
「そうだろうか?悪趣味はないと思うが」
「悪趣味を悪趣味と思える時点で十分。俺ねー…」
ウィリダはフェレントに身を寄せて話す。
「ここの連中嫌いなんだー」
ここ、つまりは聖域の貴族達。
「そうか…、ウィリダが望むなら、滅ぼすことも構わないぞ?」
ウィリダは軽そうでもフェレント以上に性格はいいとフェレントは考えている。
少々いたずら好きではあるが、争いは好まず誰かと衝突することをさけていた。
そんなウィリダが嫌いだとはっきり言うとは驚いた。こんなふうに秘めて言うからには冗談どころでなく、よほどのことだと窺いしれるだけに余計。
それでも驚いただけで、フェレントは連中というものに執着はなく、消えてしまったっていい。そう考えると本当にウィリダがなにより大切で、どうして他の者と結婚できたのか不思議だ。いくら複数との結婚が当たり前でも。それでは特別の意味がない。
「簡単に言うねー、男は気を引く為に時に大胆なことも言うけれど?」
フェレントの執着と気持ちは、よく分かってるウィリダが慎重にもなる。
フェレントは困ったような表情を見せる。
「…たしかに、口説くのにずいぶん…、いや、遊びだぞ?遊びだからこそずいぶんなことを言ったものだ」
「この世界を君にあげよう、とか?」
「ああ…。喜ぶんだ、そういうの。しかし、疑うほどのことではない。…私が躊躇するようなことといえば、ハルバが目の前にあることや、ウィリダが危ないことをする時くらいだ」
「そうだね、ここの人達って気にしないのかもしれない」
他者を陥れることに躊躇いがない連中だ。それが身内だとしても大きな違いはないだろう。
それが平穏を保ち続けているのは滅ぼす必要がないからだ。
みんな思考が近いから嫌な命令なんてとくにもないのだろう。
「とはいえ滅ぼすのはなかなか難しそうだ。時間がかかってもかまわないだろうか?」
「そうは言ってないけど、食いつくね。フェレントならいくらなんでも身内は大切に思ってるんじゃないの?」
遊びが過ぎたのも一応愛情の多い人間だからだ。
「…そうだな。ウィリダの願いでなければ、躊躇うというか、拒否するだろう。不満などないのだからな。…それでも、ウィリダと比べればさしたるものではないと言い切れる」
「うーん…。あっさりすぎて心配」
「なぜ?ウィリダを裏切る気なら、今すぐこの時に消せばいいだけだろう」
「あー、違って…、や、俺もちょっと変かな…」
それだけ想ってくれるのが怖いとか嬉しいとか思ってしまった。
「ん?」
優しい目が疑う必要がないと物語っているが、それが怖くもある。
それが恋かー、とがっくりうなだれたウィリダ。
「俺はねー、嫌なんだよ、ここの連中の常識が」
「…そういえば私はその連中に入らないのか?」
「ちょっと入ってる」
「…いいのか?ウィリダに滅ぼされるのも悪くはないが、その他大勢と同じなんてごめんだし、ウィリダとは長く愛し合いたいからな」
「いいから、話してるんでしょー?今後はまずは変わってもらうように勉強からだね」
フェレントが味方であればウィリダの望みは叶うだろう。だから、話した。…想いに関してはまた別の話になるけど。
「ああ…、そうすればウィリダに近づけるという訳だな。それはよい」
「それじゃあ今後はどうするかなー?」
「それで結婚できない理由は?」
「分からない?暗躍するのにそこまで仲良しだとは思われたくないんだよね。一緒にいるくらいだったら今更だし」
「そうか。なるほど。しかし、結婚したに近い生活はほしいものだが…」
「あははー、そういうのも俺が教えてあげるー」
「それは…?」
フェレントにとっての結婚は契約だ。決まったやりとりしか知らない。甘さは恋愛の時よりなくなってしまう。
「どうせなら俺が望む結婚生活にしようよ。そのほうが絶対楽しいから」
「それは楽しそうだ」
2人は寄り添いながら奥へと入っていく。
2013/11/19
「確認するほど私が信用できないのか?」
「当然でしょー。フェレントは嫌な奴じゃないけど、頭はいいし、策略で人を落とすことに迷いなんてしないでしょうが」
「地位ある者ならできて当然だろう?私は好んでまでする趣味はないし、むしろ、ウィリダの為ならキヒロやエルバラになら協力したっていい」
「いくら前は誤解?してたにしても俺に聞かないでキヒロちゃんを殺そうとした人を信用できないでしょ」
「それは…」
フェレントは言葉を返せず視線をそらす。そんな姿がなんだか可愛いとウィリダは思ってしまった。
「…ウィリダがキヒロに執着しているからだ」
「それは意味が違うよ。ペットが可愛いとか、気に入るにしても色々でしょ」
「ペットにたいしてにしては気にかけすぎじゃないか?」
「そりゃあ、珍しいものなら特別にも思う。フェレントだって面白い本に夢中になったことはない?」
「あれがそれほど特別には見えなかったが…」
なかなかの異能力者ではあったが、そもそも異能力はハルラスと比べるほどのものではない。
「珍しい生物を見ても生物学者でないと、どれほどの価値があるかなんて分からないもんじゃない?」
「ならば、ウィリダはなんの学者なんだ?それも教えてほしいものだ」
フェレントは気軽にウィリダのことが知りたいと思ったのだが、ウィリダは雰囲気を変える。
「…そうだね、フェレントが俺とずっと一緒にいるのなら」
普段の軽い雰囲気が消えている。とても珍しいが、フェレントは知っている。何度か見かけたことがある姿。それに惹かれたのではないかと今考えてしまう。
「当然一緒にいる。だから結婚すればいいだろう?」
「まだその話ー?粘るねえ」
結婚が最良で最高だと信じているフェレントがどこか幼く見えてウィリダはおかしくなる。
「形だとしても意味はある」
「そのうち必ず結婚してもいいよ。けれど今じゃない。…ねえ、俺はフェレントのものになってもいいけど、フェレントは俺のものになってくれる?」
「…そう言ってるだろう?」
「俺がお腹すいたって言ったらフェレントは食事を用意してくれるでしょ?それよりずっと重くて強いのが欲しいんだあ」
「…話が分からないが、ウィリダが望むなら世界中から食材を取り寄せるだろうし、ウィリダの願いなら、できうる限り叶えよう」
「俺ねえ、けっこう我が儘だよ。フェレントは俺がハルバを食べてと言ったらたくさん食べてくれる?」
ハルバは苦みのある葉もの野菜である。それがフェレントは昔から苦手としていた。ちなみにウィリダはけっこう好きだ。
「う…。…ウィリダが望むのなら。ウィリダが私の側にずっといて、愛し合ってくれるのなら、私はウィリダのものだ。それはつまり何をするんだ?」
何か欲しい物があるのではないかとフェレントは察する。
「フェレントって王子様なのにけっこう性格いいよね?」
「そうだろうか?悪趣味はないと思うが」
「悪趣味を悪趣味と思える時点で十分。俺ねー…」
ウィリダはフェレントに身を寄せて話す。
「ここの連中嫌いなんだー」
ここ、つまりは聖域の貴族達。
「そうか…、ウィリダが望むなら、滅ぼすことも構わないぞ?」
ウィリダは軽そうでもフェレント以上に性格はいいとフェレントは考えている。
少々いたずら好きではあるが、争いは好まず誰かと衝突することをさけていた。
そんなウィリダが嫌いだとはっきり言うとは驚いた。こんなふうに秘めて言うからには冗談どころでなく、よほどのことだと窺いしれるだけに余計。
それでも驚いただけで、フェレントは連中というものに執着はなく、消えてしまったっていい。そう考えると本当にウィリダがなにより大切で、どうして他の者と結婚できたのか不思議だ。いくら複数との結婚が当たり前でも。それでは特別の意味がない。
「簡単に言うねー、男は気を引く為に時に大胆なことも言うけれど?」
フェレントの執着と気持ちは、よく分かってるウィリダが慎重にもなる。
フェレントは困ったような表情を見せる。
「…たしかに、口説くのにずいぶん…、いや、遊びだぞ?遊びだからこそずいぶんなことを言ったものだ」
「この世界を君にあげよう、とか?」
「ああ…。喜ぶんだ、そういうの。しかし、疑うほどのことではない。…私が躊躇するようなことといえば、ハルバが目の前にあることや、ウィリダが危ないことをする時くらいだ」
「そうだね、ここの人達って気にしないのかもしれない」
他者を陥れることに躊躇いがない連中だ。それが身内だとしても大きな違いはないだろう。
それが平穏を保ち続けているのは滅ぼす必要がないからだ。
みんな思考が近いから嫌な命令なんてとくにもないのだろう。
「とはいえ滅ぼすのはなかなか難しそうだ。時間がかかってもかまわないだろうか?」
「そうは言ってないけど、食いつくね。フェレントならいくらなんでも身内は大切に思ってるんじゃないの?」
遊びが過ぎたのも一応愛情の多い人間だからだ。
「…そうだな。ウィリダの願いでなければ、躊躇うというか、拒否するだろう。不満などないのだからな。…それでも、ウィリダと比べればさしたるものではないと言い切れる」
「うーん…。あっさりすぎて心配」
「なぜ?ウィリダを裏切る気なら、今すぐこの時に消せばいいだけだろう」
「あー、違って…、や、俺もちょっと変かな…」
それだけ想ってくれるのが怖いとか嬉しいとか思ってしまった。
「ん?」
優しい目が疑う必要がないと物語っているが、それが怖くもある。
それが恋かー、とがっくりうなだれたウィリダ。
「俺はねー、嫌なんだよ、ここの連中の常識が」
「…そういえば私はその連中に入らないのか?」
「ちょっと入ってる」
「…いいのか?ウィリダに滅ぼされるのも悪くはないが、その他大勢と同じなんてごめんだし、ウィリダとは長く愛し合いたいからな」
「いいから、話してるんでしょー?今後はまずは変わってもらうように勉強からだね」
フェレントが味方であればウィリダの望みは叶うだろう。だから、話した。…想いに関してはまた別の話になるけど。
「ああ…、そうすればウィリダに近づけるという訳だな。それはよい」
「それじゃあ今後はどうするかなー?」
「それで結婚できない理由は?」
「分からない?暗躍するのにそこまで仲良しだとは思われたくないんだよね。一緒にいるくらいだったら今更だし」
「そうか。なるほど。しかし、結婚したに近い生活はほしいものだが…」
「あははー、そういうのも俺が教えてあげるー」
「それは…?」
フェレントにとっての結婚は契約だ。決まったやりとりしか知らない。甘さは恋愛の時よりなくなってしまう。
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2013/11/19
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