ツクチホSS

はるば草花

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忘れなくていい(ファンタジー)

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父に会わせると言われ、城の隅の重要性の薄い場所にやってきた。


そこで待っていたのは、まだ少年といえるような男だった。父の姿を見つけた男は嬉しそうに駆け寄ってくる。


「今日はなにかあるのか?」

「王子に会わせたい者がいる」

「誰だ?」


男は母親の身分が低かったせいで冷遇されている王子だ。父が最近見つけたとか。
血のよさは見てとれる美貌はしている。


「私の息子だ。次を担う者だから、王子にとって関わりが深くなるだろう」

「初めまして王子。今後よろしくお願いします」

「…次な…、俺はお前さえいればそれでいい」

「むろん、たやすく渡す気はない。だが王子にとって大事な味方になる。覚えておくといい」

「……わかった。よろしく頼む」

「はい」


俺に王子を会わせるということは、この王子を次の王にする気なのだろう。

俺の家系は王家を支える騎士だ。ただの騎士でなく、王とも対等であり、俺達なくば王家はなりたたない。

今の王や王族には能力や魅力のあるものがいない。仕えてる気などない。

この王子なら確かに悪くない。驕りのない純粋な瞳は魅力的だ。

とはいえ、父が渡してはくれなさそうだ。

見たことのない表情を王子に見せている父。甘いことは許されない家系で、父はそんな人間だと思っていたが。


それから俺は王子ととくに会うということなく、月日が経つ。

しかし、争いをおさめる為に向かっていった父のかわりに城の警備をしていた時、報せが届く。


父が争いの中、亡くなったという。


あの男がそんなマヌケをするとは思えなかったが、それは確かなことで、すぐに思い浮かんだのはあの王子。

どう感じているのだろうか。

悲しい顔が思い浮かんでらしくなく動揺してしまう。


話をする必要があるだろうと会いに行った。

王子は想像と違って悲しそうではなかったが、表情は薄く、ひどく疲労しているかのようだった。

優しくする能力は俺にはなく、王子になにもできなかった。


王子はそれから父の墓に毎日通う日々だ。俺はただそれを見守る。


健気に一途に父を想う王子。

父を想い続ける一生を選ぼうとしている。それでは困る。


雨の降っている日。今日も王子は行ってるのだろうと探せば墓の前に佇む姿。


ただ墓を見つめているだけ。悲しんでいるのか、その表情からは読み取れない。

それでも、雨に濡れたその全身が、悲しいと、寂しいと、言っているように見えた。

俺は衝動にかられるままに王子の側にいく。


「王子…」

「お前は…」


その瞳は完全に弱っていた。どう生きていけばいいのか分からないのだろう。


「代わりでいい」

「?」

「父の身代わりでいい。俺がお前を守る」

「………………」


迷う瞳。しかし、弱った身に選択の余地はない。

俺に縋るように身体を寄せてきた。その身体を暖めるように引き寄せる。


忘れなくていい。


ただ、これからお前を守るのは俺だ。

それも覚えてもらおう。





2012/10/7

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