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急報
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「さて、どうするか」
取りあえずの危機を脱したネッドだが、これからの事を考えあぐねてしまった。死体を検分するか、奴を追うか。追ったとして、待ち伏せを食う心配はないのか……。ネッドは頭を少しの間フル回転させ、炎が消えた場所まで行くと決めた。死体は逃げない。だが奴の痕跡は、刻一刻と消えていく。
ネッドは待ち伏せを用心し、慎重に近づいた。暗視ゴーグルは付けない。もし急に強烈な炎が現れでもしたら、一瞬ゴーグルの視界は真っ白になり、最適化が行われるまでは無防備になってしまうからだ。
ネッドは暗闇の中、一歩一歩、奴が消えた地点へと歩を進める。だが、果たしてそこには何もなかった。ただ携帯ライトを点けてみると、草の焼け焦げがそこでピタリと止まっている。つまり、奴はここで炎を消した事になる。
炎を消す?
火を吐く魔物ならともかく、サラマンダーのような常に火を発している魔物は、眠るか死ぬかのどちらかでしか炎が消える事はない。いや、そもそも奴はサラマンダーなのか。全身炎に包まれたサラマンダーなんて聞いた事がない。せいぜい、背中と後頭部付近に炎が噴き出している程度である。
未だに興奮が収まらないネッドの頭では、これ以上の分析は無理だった。念のため今度は暗視ゴーグルを着け、もう少し奥まで調べてみる。だが、特筆すべきものは見つからなかった。彼が諦めて二つの亡骸の元へ戻ろうとした時、視界の端に何か落ちているのが見える。無意識のうちに、それを拾うネッド。最初は何なのかわからなかったが、見つめる内に、彼の顔色が変わっていった。
「こ、これは……!」
ネッドは拾ったものをバッグに押し込み、今度はガドッツたちの骸の傍にたたずんだ。凄まじいばかりの焼死体。普通、焼け焦げて死んだ者は顔の判別は勿論、服も焼け落ちているので、何処の誰かを判別するのは難しい。
だが、この遺体たちは違った。
まるで生きた人間の全身に、炭の粉をまぶしたかのように、生前の姿のまま炭になっていたのである。余程の高熱で短時間に焼かないと、こうはならないだろう。そんな芸当が、サラマンダーに出来るのだろうか。
ネッドは、バッグから結界杭を取り出した。いつぞやの、メルとアリシアの決闘時に使われた代物である。万が一、魔物に襲われて身動きが取れなくなった際には、自らの周りに結界を張り、バリアー代わりに使うつもりで携帯していた品であった。
憐れな兄弟の周りに杭を設置すると、彼らを囲むように結界が現れる。それはまるで、墓標のようでもあった。
「こうしておけば、魔物や獣に荒らされる事はないだろう」
現場を保存したネッドは、早駆けの靴を最高速度で使用し、ギルド館へとひた走る。その隣には、ガントとメルが住む屋敷があるからだ。深夜の1時過ぎ、ネッドが屋敷のドアを叩いた時には、使用人達の間でちょっとした騒動になった。無理もあるまい。そんな夜中の訪問者など、いつぞや魔物が街を襲った時以来なかったのだから。
ただ古参の執事は、ネッドを色々な意味で良く見知っていたため、ギルマス、ガント・ライザーへの面会は思いのほかスムーズに実現した。
「ネッド、お前がこんな時間、息せき切ってくるとは、尋常な事ではあるまいな」
頭にクソがつくほど真面目であり、騎士としても十二分の見識を持ち合わせている甥が、深夜に血相を変えて尋ねて来たのである。ガントの理解は早かった。
事のあらましを聞いたガントは、早速緊急で動ける冒険者たちを招集し、夜は危険な事から、日の出と共にネッドが指定した場所への派遣を決定する。
取りあえずの報を届け自宅へ戻ろうとするネッドであったが、主幹としての対応に大わらわであったメルと、屋敷の廊下で鉢合わせをした。アリシアとの決闘以来の再会である。
取りあえずの危機を脱したネッドだが、これからの事を考えあぐねてしまった。死体を検分するか、奴を追うか。追ったとして、待ち伏せを食う心配はないのか……。ネッドは頭を少しの間フル回転させ、炎が消えた場所まで行くと決めた。死体は逃げない。だが奴の痕跡は、刻一刻と消えていく。
ネッドは待ち伏せを用心し、慎重に近づいた。暗視ゴーグルは付けない。もし急に強烈な炎が現れでもしたら、一瞬ゴーグルの視界は真っ白になり、最適化が行われるまでは無防備になってしまうからだ。
ネッドは暗闇の中、一歩一歩、奴が消えた地点へと歩を進める。だが、果たしてそこには何もなかった。ただ携帯ライトを点けてみると、草の焼け焦げがそこでピタリと止まっている。つまり、奴はここで炎を消した事になる。
炎を消す?
火を吐く魔物ならともかく、サラマンダーのような常に火を発している魔物は、眠るか死ぬかのどちらかでしか炎が消える事はない。いや、そもそも奴はサラマンダーなのか。全身炎に包まれたサラマンダーなんて聞いた事がない。せいぜい、背中と後頭部付近に炎が噴き出している程度である。
未だに興奮が収まらないネッドの頭では、これ以上の分析は無理だった。念のため今度は暗視ゴーグルを着け、もう少し奥まで調べてみる。だが、特筆すべきものは見つからなかった。彼が諦めて二つの亡骸の元へ戻ろうとした時、視界の端に何か落ちているのが見える。無意識のうちに、それを拾うネッド。最初は何なのかわからなかったが、見つめる内に、彼の顔色が変わっていった。
「こ、これは……!」
ネッドは拾ったものをバッグに押し込み、今度はガドッツたちの骸の傍にたたずんだ。凄まじいばかりの焼死体。普通、焼け焦げて死んだ者は顔の判別は勿論、服も焼け落ちているので、何処の誰かを判別するのは難しい。
だが、この遺体たちは違った。
まるで生きた人間の全身に、炭の粉をまぶしたかのように、生前の姿のまま炭になっていたのである。余程の高熱で短時間に焼かないと、こうはならないだろう。そんな芸当が、サラマンダーに出来るのだろうか。
ネッドは、バッグから結界杭を取り出した。いつぞやの、メルとアリシアの決闘時に使われた代物である。万が一、魔物に襲われて身動きが取れなくなった際には、自らの周りに結界を張り、バリアー代わりに使うつもりで携帯していた品であった。
憐れな兄弟の周りに杭を設置すると、彼らを囲むように結界が現れる。それはまるで、墓標のようでもあった。
「こうしておけば、魔物や獣に荒らされる事はないだろう」
現場を保存したネッドは、早駆けの靴を最高速度で使用し、ギルド館へとひた走る。その隣には、ガントとメルが住む屋敷があるからだ。深夜の1時過ぎ、ネッドが屋敷のドアを叩いた時には、使用人達の間でちょっとした騒動になった。無理もあるまい。そんな夜中の訪問者など、いつぞや魔物が街を襲った時以来なかったのだから。
ただ古参の執事は、ネッドを色々な意味で良く見知っていたため、ギルマス、ガント・ライザーへの面会は思いのほかスムーズに実現した。
「ネッド、お前がこんな時間、息せき切ってくるとは、尋常な事ではあるまいな」
頭にクソがつくほど真面目であり、騎士としても十二分の見識を持ち合わせている甥が、深夜に血相を変えて尋ねて来たのである。ガントの理解は早かった。
事のあらましを聞いたガントは、早速緊急で動ける冒険者たちを招集し、夜は危険な事から、日の出と共にネッドが指定した場所への派遣を決定する。
取りあえずの報を届け自宅へ戻ろうとするネッドであったが、主幹としての対応に大わらわであったメルと、屋敷の廊下で鉢合わせをした。アリシアとの決闘以来の再会である。
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