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嫌悪
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二人は何も語らずに、暫し見つめあう。ネッドの優柔不断さが、メルとアリシアの凄まじい決闘を引き起したのは事実であり、彼は居たたまれない気持になった。
「な~に、夜ばい?」
メルの意外な一言に、ネッドはキョトンとする。
「え……?」
「冗談よ、冗談。あなたの持ってきた情報で、私も今てんてこ舞いなのよね」
「……アリシアとの事……」
ネッドが、恐る恐る尋ねた。
「あぁ、あの女はいつか必ずブッ飛ばすわ。勝った方が、あなたの許嫁候補になれると思ってる。今は、それだけしか言えないわね」
幼い頃の約束とはいえ、自分だけが許嫁だと思っていたメルにとって、アリシアの存在は青天の霹靂であったろう。そして魔王の娘が尋常ならざる好敵手であると認めた今、これが彼女が言える精一杯の抗議であり気遣いであった。
「メル姉、でも……」
「さぁ、今は帰って頂戴。私も一応は主幹なんだから、プライベートにかまけている暇はないわ」
気丈に振る舞っては見たものの、メルは後ろ髪を引かれる思いでその場を去る。ネッドはネッドで、それ以上は何も言えるはずもなく、ガント親子の邸宅を後にした。
ネッドは思う。今まで僕は、強引なメル姉やアリシアを困った存在だと考えていた。でもそれは、とんだ思い上がりだ。二人ともギルマスの娘、魔王の娘として立派に振る舞っている。それなのに……。
「結局僕が、一番困った奴だったって事か」
ネッドは、自己嫌悪に陥り苦笑した。
重い足取りで、我が家へと戻って来たネッド。シャミーを起こさないように静かに店のドアを開け、忍び足で二階の寝室へと向かう。さぁ、早く寝なくては……。朝になれば、ヌーンが注文の品を受け取りにくる。ネッドはベッドに潜り込み、しばし謎の集団やサラマンダーらしきモンスターの事を思い浮かべていたが、やがて、底なし沼の底へと引きずり込まれるように睡魔の餌食となった。
「ほら、起きろ、起きろってば!」
次の朝、ネッドは、夢さえ見ない深い眠りからいきなり叩き起こされた。……ん~、なんだよ。シャミーってば、何をこんなに怒ってるんだ……。いつもより、荒々しい起こし方だよなぁ。まるで、男みたいな怒鳴りようじゃないか……。
え? 男みたいな?
まだうまく回らない頭の中で、ネッドは異変に気付き飛び起きる。寝ぼけまなこの前には、見知ったワカメ髪の男が……。
「リュラン!」
半身を起こしたネッドは、枕を抱きつつ驚いた。
「さぁってと、挨拶は抜きだ。昨晩起こった事を、洗いざらい吐いて貰おうじゃないか」
この無作法な友人の目が血走っているのを見て、ネッドは夢うつつから現実世界へと引き戻される。
「ちょっと、なぁに、騒がしい……。あれ? リュラン、何よ、こんな朝っぱらから」
シャミーが、怪訝な顔をする。
「すまないが、これは仕事の話だ。これからネッドに昨日の晩、リルゴットの森で何があったのかを聴取する。席を外してくれ」
リュランが、いつになく厳しい口調で言った。
「リルゴットの森? お兄ちゃん、また行ったの?」
リュランを無視して、シャミーのツッコミが入る。だが今回は、ネッドにとって有り難い状況だ。本職であるリュランの尋問を受けるより、妹のカンシャクの方が数倍マシである。
「シャミー、向こうへ行っててくれないか!?」
リュランが、シャミーを振り返る。
「何? ここは私の家よ。それを……」
「台所に、ゴルゾン牛の燻製がある」
高級食材の登場に、怒鳴りかけていた言葉を飲み込んだシャミー。”ごゆっくり”と言って、そそくさと下へ降りて行った。
「シャミー……」
ネッドは、虚しく妹の名前を呼ぶ。
「さぁ、尋問を始めようか」
リュランがニッコリと語りかけて来たが、その目は全く笑っていなかった。
「な~に、夜ばい?」
メルの意外な一言に、ネッドはキョトンとする。
「え……?」
「冗談よ、冗談。あなたの持ってきた情報で、私も今てんてこ舞いなのよね」
「……アリシアとの事……」
ネッドが、恐る恐る尋ねた。
「あぁ、あの女はいつか必ずブッ飛ばすわ。勝った方が、あなたの許嫁候補になれると思ってる。今は、それだけしか言えないわね」
幼い頃の約束とはいえ、自分だけが許嫁だと思っていたメルにとって、アリシアの存在は青天の霹靂であったろう。そして魔王の娘が尋常ならざる好敵手であると認めた今、これが彼女が言える精一杯の抗議であり気遣いであった。
「メル姉、でも……」
「さぁ、今は帰って頂戴。私も一応は主幹なんだから、プライベートにかまけている暇はないわ」
気丈に振る舞っては見たものの、メルは後ろ髪を引かれる思いでその場を去る。ネッドはネッドで、それ以上は何も言えるはずもなく、ガント親子の邸宅を後にした。
ネッドは思う。今まで僕は、強引なメル姉やアリシアを困った存在だと考えていた。でもそれは、とんだ思い上がりだ。二人ともギルマスの娘、魔王の娘として立派に振る舞っている。それなのに……。
「結局僕が、一番困った奴だったって事か」
ネッドは、自己嫌悪に陥り苦笑した。
重い足取りで、我が家へと戻って来たネッド。シャミーを起こさないように静かに店のドアを開け、忍び足で二階の寝室へと向かう。さぁ、早く寝なくては……。朝になれば、ヌーンが注文の品を受け取りにくる。ネッドはベッドに潜り込み、しばし謎の集団やサラマンダーらしきモンスターの事を思い浮かべていたが、やがて、底なし沼の底へと引きずり込まれるように睡魔の餌食となった。
「ほら、起きろ、起きろってば!」
次の朝、ネッドは、夢さえ見ない深い眠りからいきなり叩き起こされた。……ん~、なんだよ。シャミーってば、何をこんなに怒ってるんだ……。いつもより、荒々しい起こし方だよなぁ。まるで、男みたいな怒鳴りようじゃないか……。
え? 男みたいな?
まだうまく回らない頭の中で、ネッドは異変に気付き飛び起きる。寝ぼけまなこの前には、見知ったワカメ髪の男が……。
「リュラン!」
半身を起こしたネッドは、枕を抱きつつ驚いた。
「さぁってと、挨拶は抜きだ。昨晩起こった事を、洗いざらい吐いて貰おうじゃないか」
この無作法な友人の目が血走っているのを見て、ネッドは夢うつつから現実世界へと引き戻される。
「ちょっと、なぁに、騒がしい……。あれ? リュラン、何よ、こんな朝っぱらから」
シャミーが、怪訝な顔をする。
「すまないが、これは仕事の話だ。これからネッドに昨日の晩、リルゴットの森で何があったのかを聴取する。席を外してくれ」
リュランが、いつになく厳しい口調で言った。
「リルゴットの森? お兄ちゃん、また行ったの?」
リュランを無視して、シャミーのツッコミが入る。だが今回は、ネッドにとって有り難い状況だ。本職であるリュランの尋問を受けるより、妹のカンシャクの方が数倍マシである。
「シャミー、向こうへ行っててくれないか!?」
リュランが、シャミーを振り返る。
「何? ここは私の家よ。それを……」
「台所に、ゴルゾン牛の燻製がある」
高級食材の登場に、怒鳴りかけていた言葉を飲み込んだシャミー。”ごゆっくり”と言って、そそくさと下へ降りて行った。
「シャミー……」
ネッドは、虚しく妹の名前を呼ぶ。
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