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命の融通
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悪魔が、医者の前に現れ、こう言った。
「お前のように、人の死を見続けていると”何故、こんな良い人、優れた人が死なねばならぬのか。世の中には下らぬ命を謳歌している連中が、山ほどいるというのに”と思う事はないか?」
医者には、心当たりが大いにあった。
「お前が死んだ後に魂を頂くが、お前が望む患者に命の融通をしてやるぞ。どうだ、契約するか?」
と、悪魔が囁く。
要するに、健康だが下らぬ人間の命を、有能な重篤患者に移し替えるというものだ。もちろん、替えられた方の人間は、余命いくばくもなくなる。
医者は、その申し出を受け入れた。これまでに、何度も悔しい思いをしてきており”人の命は皆、平等”という言葉が、虚しく感じられる今日この頃であったからだ。
悪魔と契約した途端、その医者は重篤な善人、才人の患者を数多く完治させ、やがて名医と呼ばれようになる。医者は評判ともども、自分の行為に満足した。その陰で、有象無象の輩が骸になろうと気にしない。
数年して、再び悪魔が現れる。
「どうだい、調子は?」
悪魔の問いかけに、
「有意義な活動をしていると、自負しているよ。ただ、私の評判を喜んでくれるはずの妻や息子は、二人とも急な病で逝ってしまった」
と、医者は答えた
「そりゃそうだ。
世の役に立たぬ輩の命と、引き換えだという契約だったろう?」
悪魔が、言い放つ。
「何? まさか、妻や息子の命を私の患者と入れ替えたのか?」
医者の顔が、蒼白となっていく。
「確かに妻や息子は、これといった特技もないし、我侭な所もあった。だが、命を奪われて良い事にはならないぞ」
医者はとまどい、激高した。
「なんだ。お前も自分勝手で”下らぬ人間”だな。自分の家族だけは、特別か」
悪魔がそう呟いた途端、医者の胸に激痛が走り、彼はそのまま頓死した。彼が担当していた才能あふれる重病患者が、にわかに快癒したのを知る事もなく。
【終】
「お前のように、人の死を見続けていると”何故、こんな良い人、優れた人が死なねばならぬのか。世の中には下らぬ命を謳歌している連中が、山ほどいるというのに”と思う事はないか?」
医者には、心当たりが大いにあった。
「お前が死んだ後に魂を頂くが、お前が望む患者に命の融通をしてやるぞ。どうだ、契約するか?」
と、悪魔が囁く。
要するに、健康だが下らぬ人間の命を、有能な重篤患者に移し替えるというものだ。もちろん、替えられた方の人間は、余命いくばくもなくなる。
医者は、その申し出を受け入れた。これまでに、何度も悔しい思いをしてきており”人の命は皆、平等”という言葉が、虚しく感じられる今日この頃であったからだ。
悪魔と契約した途端、その医者は重篤な善人、才人の患者を数多く完治させ、やがて名医と呼ばれようになる。医者は評判ともども、自分の行為に満足した。その陰で、有象無象の輩が骸になろうと気にしない。
数年して、再び悪魔が現れる。
「どうだい、調子は?」
悪魔の問いかけに、
「有意義な活動をしていると、自負しているよ。ただ、私の評判を喜んでくれるはずの妻や息子は、二人とも急な病で逝ってしまった」
と、医者は答えた
「そりゃそうだ。
世の役に立たぬ輩の命と、引き換えだという契約だったろう?」
悪魔が、言い放つ。
「何? まさか、妻や息子の命を私の患者と入れ替えたのか?」
医者の顔が、蒼白となっていく。
「確かに妻や息子は、これといった特技もないし、我侭な所もあった。だが、命を奪われて良い事にはならないぞ」
医者はとまどい、激高した。
「なんだ。お前も自分勝手で”下らぬ人間”だな。自分の家族だけは、特別か」
悪魔がそう呟いた途端、医者の胸に激痛が走り、彼はそのまま頓死した。彼が担当していた才能あふれる重病患者が、にわかに快癒したのを知る事もなく。
【終】
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