命の融通(ショートショート)

藻ノかたり

文字の大きさ
1 / 1

命の融通

しおりを挟む
悪魔が、医者の前に現れ、こう言った。

「お前のように、人の死を見続けていると”何故、こんな良い人、優れた人が死なねばならぬのか。世の中には下らぬ命を謳歌している連中が、山ほどいるというのに”と思う事はないか?」

医者には、心当たりが大いにあった。

「お前が死んだ後に魂を頂くが、お前が望む患者に命の融通をしてやるぞ。どうだ、契約するか?」

と、悪魔が囁く。

要するに、健康だが下らぬ人間の命を、有能な重篤患者に移し替えるというものだ。もちろん、替えられた方の人間は、余命いくばくもなくなる。

医者は、その申し出を受け入れた。これまでに、何度も悔しい思いをしてきており”人の命は皆、平等”という言葉が、虚しく感じられる今日この頃であったからだ。

悪魔と契約した途端、その医者は重篤な善人、才人の患者を数多く完治させ、やがて名医と呼ばれようになる。医者は評判ともども、自分の行為に満足した。その陰で、有象無象の輩が骸になろうと気にしない。

数年して、再び悪魔が現れる。

「どうだい、調子は?」

悪魔の問いかけに、

「有意義な活動をしていると、自負しているよ。ただ、私の評判を喜んでくれるはずの妻や息子は、二人とも急な病で逝ってしまった」

と、医者は答えた

「そりゃそうだ。

世の役に立たぬ輩の命と、引き換えだという契約だったろう?」

悪魔が、言い放つ。

「何? まさか、妻や息子の命を私の患者と入れ替えたのか?」

医者の顔が、蒼白となっていく。

「確かに妻や息子は、これといった特技もないし、我侭な所もあった。だが、命を奪われて良い事にはならないぞ」

医者はとまどい、激高した。

「なんだ。お前も自分勝手で”下らぬ人間”だな。自分の家族だけは、特別か」

悪魔がそう呟いた途端、医者の胸に激痛が走り、彼はそのまま頓死した。彼が担当していた才能あふれる重病患者が、にわかに快癒したのを知る事もなく。

【終】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...