ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

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お髭(ひげ)のニール (15) ニールのスイッチ

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「小ビン? あの髭の生えるやつか。よっしゃ、わかった!」

ドッジは踵を返して、隠れ家の小屋の方へと突っ走っていきました。

ただ、彼はニールが何を思いついたのか、全く分かっておりません。ですがドッジやマリアは、今のような”スイッチが入ったニール”を度々見ています。そして、彼の指示に間違いがない事を知っているのです。だから、何も聞かずに、ただニールの命に従ったのでした。

事実、長い髭が生えたニールは、早く走れませんし、なによりドッジは三人の中では群を抜いた身体能力の持ち主です。薬を取りに行く目的において、彼ほどの適任者はいませんでした。

マリアはニールの隣で、彼の言う事をじっと聞いています。頭の良い彼女は、彼が何を考えているのか、もう八分通り分かっていました。

やがてドッジが息せき切って、二人の元へ戻って来ます。子供であるという事を鑑みれば、これは尋常なスピードではありません。でも小ビンだけは割らないように、しっかりとその手に握りしめています。

「おぉ、ニール、持って来たぜ」

ドッジが、肩で息をしながら言いました。

「それで、あなたの髭を伸ばすのね」

お尻をついて暫しの休息をとるドッジを尻目に、マリアが先読みをします。

「さすが、マリア。ボクのやりたい事がわかったようだね」

ニールが、ニッコリとします。

「おい、なんだよ。また、二人だけでわかりあっちゃってさ。ここまで薬を持ってきたのは俺様だぜ。さっさと教えやがれ」

未だに息の荒いドッジが、体を起こして文句を垂れました。

「あんた、まだ気がつかないの? いい? 私たちが、子犬の所まで行って助けるわけには行かないわ。いくら、あんたが体力自慢でもね。

だから、ロープを使って子犬をこっちへ引き寄せるのよ。それだったら、子供の私たちにも出来るかも知れないじゃない」

マリアが、淡々と説明し始めます。

「そりゃ、わかるけどよ。ロープなんて、どこにもないじゃないか」

訳の分からない事を言われたという顔をするドッジ。

「あるじゃないか、ここに」

マリアの後を引き継いで、ニールがドッジを見つめました。

「あるって、どこに?」

未だに理解できないドッジが聞き返します。

「ここだよ、ここ」

ニールはアゴから生えたお髭を持ち上げて、ドッジの方に揺すって見せました。

「あ、そっか! ……ん? でもよ、それっぱかりの長さじゃ、子犬のいる所までなんて、絶対に届かないぞ」

ドッジが、疑問をぶつけます。

「やっぱり、あんたバカね。ドッジ、あんたが今もって来たのは何?」

マリアが、じれったそうな声を出しました。

「何って、そりゃ髭を生やす薬……。あ、そっか。その薬で、もっとニールの髭を伸ばそうってんだな」

やっとこさ納得したドッジがニールの方を見ると、早くも彼は小ビンのフタを開け、中身をタップリとアゴに塗りたくっているところでありました。

「さぁ、早くのびろ、早くのびろ」

ニールは、必死に念じます。あれほど邪魔だったお髭が、今は必要で必要でしょうがないのです。

「おい、流れが少し激しくなってきたぞ」

ドッジが、心配そうに報告します。山の方から下って来る水の量は、確かに少し増えているように見えました。子犬の命も風前の灯です。

その時です。ニールの願いが、神さまに通じたのでしょうか、彼のお髭がグングンとのび始めました。思いっ切り塗ったので、そのせいもあったのでしょう。二メートル、三メートル、それでも生まれ出るお髭の勢いは衰えません。ついに薬のビンが空になる頃には、お髭は十メートルを超える長さになりました。
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