ヴォルノースの森の なんてことない毎日

藻ノかたり

文字の大きさ
123 / 218

大魔法使いの死 (7) オマージュという名の…… (2215)

しおりを挟む
「どうでしたって、何が?」

シュプリンの問いかけに、パーパスが憮然として答えます。

「今の小説の出来ですよ、出来。面白かったですか? 感動しましたか? どっちですか?」

最後のページをめくり、全ての内容を話し終わったシュプリンが言いました。パーパスの評価を、今か今かと身を乗り出して待っています。

「まぁ、八十点といったところじゃろう」

ソファーに身をゆだね、ハーブティーをすすりながらパーパスが言いました。これは、いつもシュプリンに厳しいパーパスとしては破格の評価です。

シュプリンが思わず、

「でしょう、かなり良かったでしょう。まぁ、私が本気を出せばこんなもんですけどね」

と鼻高々となりました。

「もっとも、千点満点での八十点だがな」

え? という事は、百点満点になおせば、わすか八点という評価ですか。

「ちょっと、そりゃどういう基準ですか。こんなに面白い小説が、たった八点!?」

天国から地獄へとつき落されたシュプリンが、そんな事など知ったこっちゃないと言わんばかりのパーパスに詰め寄りました。

「ふん、三文小説にもなっとらんぞ」

パーパスが、毒づきます。

あ、みなさん、もうお気づきですよね。今まで展開して来たお話は、実は、シュプリンが自分で書いた小説だったんです。それを、パーパスに読み聞かせていたというわけです。

「何が三文小説ですか。斬新な発想。手に汗握るストーリー。見事な伏線の回収。そして感動的なラスト。どれをとっても珠玉の名作でしょ?」

木で出来た人形ながら、顔を真っ赤にしてシュプリンが熱弁を振るいます。

「そこまで言うなら、添削してしんぜよう。

まずな、異世界の描き方が雑そのものじゃ。お前の頭の中には色々とあるんじゃろうが、全く断片的で伝わって来ん。

それに、登場人物へ全く思い入れが出来ん。ワシやお前を知っている者が読むのならともかく、見ず知らずの他人が読んだら”はぁ?”ってな感じになるじゃろうな」

パーパスの酷評は、まだまだ続きます。

「それにな、ワシはお前に重鎧なみの体や、無双の剣術スキルなんぞ、付与した覚えはこれっぽっちもないぞ。そもそも家事一般に使う刃物以外、触った事すらないじゃろうが」

「い、いや。そこはフィクションですから、い、いいんですよ」

図星を突かれて、シュプリンがどぎまぎします。

「他にもあるぞ。何じゃ、自分ばかりを優秀だの主人思いじゃのと猛烈に美化しおってからに。まるで、自分がヒーローになった姿を想像する子供と変わらんよ」

既に湯気が出る寸前まで、その顔が紅潮したシュプリン。しかしパーパスの真っ当な批評に、なす術がありません。

「あと、ワシの扱いが酷すぎんか? 殆どお前に頼りっぱなしの、頑固で情けない爺さんじゃないか。そして、あっさりと死んでしまう。

ワシの心が傷つくとは、思わなかったのかの?」

「そ、そこは、考えましたよ。でもマスターって、見た目は今にも死にそうなお年寄りですけど、実際は不老不死なんだから、別にいいじゃないですか」

”少し主人を貶めすぎたかな”と自覚のある執事が、へどもどと言い訳をします。

「それにニンチショウだっけか? わけのわからん病気を持ち出して、都合のいいように話を進めとる。

小説では、最もやってはいけないテクニックだと思うがな。それを伏線回収などとは、片腹痛いわ」

パーパスは、既に白旗を上げかけている召使いの心に、えぐるようなパンチをお見舞いました。

「いや、し、しかしですね。……まぁ、いつも魔法書しか読んでいないマスターには、文学なんてわからないのかも知れませんけど……」

シュプリンがそう言いかけた時、パーパスがトドメの一言を発します。

「おまけに現実と異世界を行き来する話。そして、どちらかの世界が夢なのかも知れないという話。確かそんな話を描いた小説が去年出版されたよな。キャシーキャシーって言う小説家の名前で」

素人小説家は、脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。

「な、なんでそれを……」

シュプリンが、恐る恐る尋ねます。

「フン、甘く見ないでほしいの。ワシだって世の流行りものくらい読んどるわ。世事に疎い老人とでも思っていたか」

”思ってました”

シュプリンが、心の中で呟きます。

「こ、これはマネとかパクリとかじゃなくてですね。リスペクトというか、オマージュというか、胸を借りたというか……。とにかく、私がタップリと時間をかけて……」

あ~あ。シュプリンってばすっかり取り乱しちゃって……。マネとかパクリとか、自分の方から言っちゃいましたね。主人を甘く見ていた、彼の一本負けというところでしょうか。

しかし、パーパスは更に続けます。

「ほぉ~。タップリと時間をかけてとな。最近、食卓に上がる料理の種類が少なくなったのは、その為か。

趣味を持つなとは言わんがの。本業をおろそかにするとは言語道断。

しかと猛省せい!」

ティーカップを強めにソーサーに置いたパーパスは、時間の無駄だったと言わんばかりに、地下の実験室へと足早に戻っていきました。ハラモイド草とヒカリゴケの融合実験をするために。

一方、シュプリンと言えば、肩を落として夕食の洗い物に取り掛かります。ちょっと可愛そうな気もしますけど、どうやら彼の小説人生は処女作のみで終わってしまいそうです。

それにしてもシュプリンが描いた異世界って、本当にヘンテコな世界でしたよね。そんな世界が実際にあるんでしょうか。

みなさんは、どう思いますか?


【大魔法使いの死・終】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...