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大魔法使いの死 (7) オマージュという名の…… (2215)
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「どうでしたって、何が?」
シュプリンの問いかけに、パーパスが憮然として答えます。
「今の小説の出来ですよ、出来。面白かったですか? 感動しましたか? どっちですか?」
最後のページをめくり、全ての内容を話し終わったシュプリンが言いました。パーパスの評価を、今か今かと身を乗り出して待っています。
「まぁ、八十点といったところじゃろう」
ソファーに身をゆだね、ハーブティーをすすりながらパーパスが言いました。これは、いつもシュプリンに厳しいパーパスとしては破格の評価です。
シュプリンが思わず、
「でしょう、かなり良かったでしょう。まぁ、私が本気を出せばこんなもんですけどね」
と鼻高々となりました。
「もっとも、千点満点での八十点だがな」
え? という事は、百点満点になおせば、わすか八点という評価ですか。
「ちょっと、そりゃどういう基準ですか。こんなに面白い小説が、たった八点!?」
天国から地獄へとつき落されたシュプリンが、そんな事など知ったこっちゃないと言わんばかりのパーパスに詰め寄りました。
「ふん、三文小説にもなっとらんぞ」
パーパスが、毒づきます。
あ、みなさん、もうお気づきですよね。今まで展開して来たお話は、実は、シュプリンが自分で書いた小説だったんです。それを、パーパスに読み聞かせていたというわけです。
「何が三文小説ですか。斬新な発想。手に汗握るストーリー。見事な伏線の回収。そして感動的なラスト。どれをとっても珠玉の名作でしょ?」
木で出来た人形ながら、顔を真っ赤にしてシュプリンが熱弁を振るいます。
「そこまで言うなら、添削してしんぜよう。
まずな、異世界の描き方が雑そのものじゃ。お前の頭の中には色々とあるんじゃろうが、全く断片的で伝わって来ん。
それに、登場人物へ全く思い入れが出来ん。ワシやお前を知っている者が読むのならともかく、見ず知らずの他人が読んだら”はぁ?”ってな感じになるじゃろうな」
パーパスの酷評は、まだまだ続きます。
「それにな、ワシはお前に重鎧なみの体や、無双の剣術スキルなんぞ、付与した覚えはこれっぽっちもないぞ。そもそも家事一般に使う刃物以外、触った事すらないじゃろうが」
「い、いや。そこはフィクションですから、い、いいんですよ」
図星を突かれて、シュプリンがどぎまぎします。
「他にもあるぞ。何じゃ、自分ばかりを優秀だの主人思いじゃのと猛烈に美化しおってからに。まるで、自分がヒーローになった姿を想像する子供と変わらんよ」
既に湯気が出る寸前まで、その顔が紅潮したシュプリン。しかしパーパスの真っ当な批評に、なす術がありません。
「あと、ワシの扱いが酷すぎんか? 殆どお前に頼りっぱなしの、頑固で情けない爺さんじゃないか。そして、あっさりと死んでしまう。
ワシの心が傷つくとは、思わなかったのかの?」
「そ、そこは、考えましたよ。でもマスターって、見た目は今にも死にそうなお年寄りですけど、実際は不老不死なんだから、別にいいじゃないですか」
”少し主人を貶めすぎたかな”と自覚のある執事が、へどもどと言い訳をします。
「それにニンチショウだっけか? わけのわからん病気を持ち出して、都合のいいように話を進めとる。
小説では、最もやってはいけないテクニックだと思うがな。それを伏線回収などとは、片腹痛いわ」
パーパスは、既に白旗を上げかけている召使いの心に、えぐるようなパンチをお見舞いました。
「いや、し、しかしですね。……まぁ、いつも魔法書しか読んでいないマスターには、文学なんてわからないのかも知れませんけど……」
シュプリンがそう言いかけた時、パーパスがトドメの一言を発します。
「おまけに現実と異世界を行き来する話。そして、どちらかの世界が夢なのかも知れないという話。確かそんな話を描いた小説が去年出版されたよな。キャシーキャシーって言う小説家の名前で」
素人小説家は、脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。
「な、なんでそれを……」
シュプリンが、恐る恐る尋ねます。
「フン、甘く見ないでほしいの。ワシだって世の流行りものくらい読んどるわ。世事に疎い老人とでも思っていたか」
”思ってました”
シュプリンが、心の中で呟きます。
「こ、これはマネとかパクリとかじゃなくてですね。リスペクトというか、オマージュというか、胸を借りたというか……。とにかく、私がタップリと時間をかけて……」
あ~あ。シュプリンってばすっかり取り乱しちゃって……。マネとかパクリとか、自分の方から言っちゃいましたね。主人を甘く見ていた、彼の一本負けというところでしょうか。
しかし、パーパスは更に続けます。
「ほぉ~。タップリと時間をかけてとな。最近、食卓に上がる料理の種類が少なくなったのは、その為か。
趣味を持つなとは言わんがの。本業をおろそかにするとは言語道断。
しかと猛省せい!」
ティーカップを強めにソーサーに置いたパーパスは、時間の無駄だったと言わんばかりに、地下の実験室へと足早に戻っていきました。ハラモイド草とヒカリゴケの融合実験をするために。
一方、シュプリンと言えば、肩を落として夕食の洗い物に取り掛かります。ちょっと可愛そうな気もしますけど、どうやら彼の小説人生は処女作のみで終わってしまいそうです。
それにしてもシュプリンが描いた異世界って、本当にヘンテコな世界でしたよね。そんな世界が実際にあるんでしょうか。
みなさんは、どう思いますか?
【大魔法使いの死・終】
シュプリンの問いかけに、パーパスが憮然として答えます。
「今の小説の出来ですよ、出来。面白かったですか? 感動しましたか? どっちですか?」
最後のページをめくり、全ての内容を話し終わったシュプリンが言いました。パーパスの評価を、今か今かと身を乗り出して待っています。
「まぁ、八十点といったところじゃろう」
ソファーに身をゆだね、ハーブティーをすすりながらパーパスが言いました。これは、いつもシュプリンに厳しいパーパスとしては破格の評価です。
シュプリンが思わず、
「でしょう、かなり良かったでしょう。まぁ、私が本気を出せばこんなもんですけどね」
と鼻高々となりました。
「もっとも、千点満点での八十点だがな」
え? という事は、百点満点になおせば、わすか八点という評価ですか。
「ちょっと、そりゃどういう基準ですか。こんなに面白い小説が、たった八点!?」
天国から地獄へとつき落されたシュプリンが、そんな事など知ったこっちゃないと言わんばかりのパーパスに詰め寄りました。
「ふん、三文小説にもなっとらんぞ」
パーパスが、毒づきます。
あ、みなさん、もうお気づきですよね。今まで展開して来たお話は、実は、シュプリンが自分で書いた小説だったんです。それを、パーパスに読み聞かせていたというわけです。
「何が三文小説ですか。斬新な発想。手に汗握るストーリー。見事な伏線の回収。そして感動的なラスト。どれをとっても珠玉の名作でしょ?」
木で出来た人形ながら、顔を真っ赤にしてシュプリンが熱弁を振るいます。
「そこまで言うなら、添削してしんぜよう。
まずな、異世界の描き方が雑そのものじゃ。お前の頭の中には色々とあるんじゃろうが、全く断片的で伝わって来ん。
それに、登場人物へ全く思い入れが出来ん。ワシやお前を知っている者が読むのならともかく、見ず知らずの他人が読んだら”はぁ?”ってな感じになるじゃろうな」
パーパスの酷評は、まだまだ続きます。
「それにな、ワシはお前に重鎧なみの体や、無双の剣術スキルなんぞ、付与した覚えはこれっぽっちもないぞ。そもそも家事一般に使う刃物以外、触った事すらないじゃろうが」
「い、いや。そこはフィクションですから、い、いいんですよ」
図星を突かれて、シュプリンがどぎまぎします。
「他にもあるぞ。何じゃ、自分ばかりを優秀だの主人思いじゃのと猛烈に美化しおってからに。まるで、自分がヒーローになった姿を想像する子供と変わらんよ」
既に湯気が出る寸前まで、その顔が紅潮したシュプリン。しかしパーパスの真っ当な批評に、なす術がありません。
「あと、ワシの扱いが酷すぎんか? 殆どお前に頼りっぱなしの、頑固で情けない爺さんじゃないか。そして、あっさりと死んでしまう。
ワシの心が傷つくとは、思わなかったのかの?」
「そ、そこは、考えましたよ。でもマスターって、見た目は今にも死にそうなお年寄りですけど、実際は不老不死なんだから、別にいいじゃないですか」
”少し主人を貶めすぎたかな”と自覚のある執事が、へどもどと言い訳をします。
「それにニンチショウだっけか? わけのわからん病気を持ち出して、都合のいいように話を進めとる。
小説では、最もやってはいけないテクニックだと思うがな。それを伏線回収などとは、片腹痛いわ」
パーパスは、既に白旗を上げかけている召使いの心に、えぐるようなパンチをお見舞いました。
「いや、し、しかしですね。……まぁ、いつも魔法書しか読んでいないマスターには、文学なんてわからないのかも知れませんけど……」
シュプリンがそう言いかけた時、パーパスがトドメの一言を発します。
「おまけに現実と異世界を行き来する話。そして、どちらかの世界が夢なのかも知れないという話。確かそんな話を描いた小説が去年出版されたよな。キャシーキャシーって言う小説家の名前で」
素人小説家は、脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。
「な、なんでそれを……」
シュプリンが、恐る恐る尋ねます。
「フン、甘く見ないでほしいの。ワシだって世の流行りものくらい読んどるわ。世事に疎い老人とでも思っていたか」
”思ってました”
シュプリンが、心の中で呟きます。
「こ、これはマネとかパクリとかじゃなくてですね。リスペクトというか、オマージュというか、胸を借りたというか……。とにかく、私がタップリと時間をかけて……」
あ~あ。シュプリンってばすっかり取り乱しちゃって……。マネとかパクリとか、自分の方から言っちゃいましたね。主人を甘く見ていた、彼の一本負けというところでしょうか。
しかし、パーパスは更に続けます。
「ほぉ~。タップリと時間をかけてとな。最近、食卓に上がる料理の種類が少なくなったのは、その為か。
趣味を持つなとは言わんがの。本業をおろそかにするとは言語道断。
しかと猛省せい!」
ティーカップを強めにソーサーに置いたパーパスは、時間の無駄だったと言わんばかりに、地下の実験室へと足早に戻っていきました。ハラモイド草とヒカリゴケの融合実験をするために。
一方、シュプリンと言えば、肩を落として夕食の洗い物に取り掛かります。ちょっと可愛そうな気もしますけど、どうやら彼の小説人生は処女作のみで終わってしまいそうです。
それにしてもシュプリンが描いた異世界って、本当にヘンテコな世界でしたよね。そんな世界が実際にあるんでしょうか。
みなさんは、どう思いますか?
【大魔法使いの死・終】
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