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魔女と奇妙な男 (60) 魔女たちの葛藤
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目の前の現実を受け入れられないメサイトは両腕を振り回し、交互にパンチを繰り出します。普通なら一発当たるだけでも命にかかわる圧倒的なパワーです。しかしクレオンは、未熟なボクサーのミット打ちの相手をするように、化け物のパンチを易々と受け止めていきました。
「こんなはずはねぇ! こんなはずは!」
メサイトは早く夢から覚めてくれとばかりに、大声を張り上げながらパンチを放ち続けます。
一方、逃げ出す大きなチャンスであるにもかかわらず、ネリスは二人の攻防に釘付けです。好奇心が旺盛というのも、本当に考えものですね。
いったい何!? さっきまでとは打って変わって、今度は全くよけていない。こんな事が出来るのなら、どうして最初から……。
そこでネリスは気がつきます。もしかしたら、さっき飲んだ薬は、前に飲んだものとは違うのではないかと! 勘のいい子です。
つまり、最初に飲んだ薬とは効果が違うんだわ。一番目の薬は驚異的な脚力と視力、そして二番目の薬は凄まじい腕力と耐久力! そう言えば、最初に感じた魔法の流れのようなものと今のものとでは、中身の雰囲気がかなり違う。でも薬を飲んだだけで、すごいパワーを出せるなんて聞いた事がない。それに力の出方が、何でこんなにチグハグなの?
ネリスの疑問は、もっともですね。
では、そろそろ種明かしをする事に致しましょうか。
クレオンが飲んだ薬、それはここ二十数年来、魔女協会が開発に力を入れて来た秘薬です。古来より、薬の製造は魔女の専売特許と決まっておりましたが、ヴォルノースの世界でも少しずつではありますが、科学(化学)というものが進んでまいりました。
ヴォルノースの全ての住人が魔法を使えるようになってから(”神々からの賜与”以降)、彼らは生活の多くを魔法に頼るようになり、科学技術の発展は緩やかなものになっていたのですね。
今はまだ化学で作れる薬には限りがあり、風邪のひきはじめや、ちょっとした擦り傷に効くような薬を作るのが精一杯です。それも大量生産とはいきません。しかし技術は確実に進歩していますので、魔女たちとしても、うかうかとはしていられないのでした。「魔女は、食いっぱぐれがない」という常識も、いつの日にか覆されるかも知れないのです。
そこで開発に着手したのが「魔法の薬」です。ザックリと言えば、飲めば短時間、自分が元から所有している魔法以外の魔法が使える代物です。この薬が完成すれば、魔女は化学よりも優位に立てるかも知れないし、ヴォルノースの住人たちの暮らしも更に発展する事になるでしょう。
しかし開発には、魔女協会内でも賛否両論がありました。反対派の主な意見は「禁忌の薬の二の舞になる」というものです。まぁ、もっともな意見です。しかし背に腹は代えられないという事で、極秘裏にそして慎重に開発が進められて来たのでした。
そしてクレオンは、新しい薬の被験者です。平たく言えば実験体、モルモットですね。それにはクレオンが元から使える魔法が、大きく関係していました。
これまで何度もお話して来たように、薬に関する魔法を使える者が”魔女”と呼ばれます。クレオンは「薬の副作用を、無効化できる魔法」を使えるのです。もっとも使えるというよりは、常にその魔法が掛かっている状態にあると言った方が、正しいかも知れません。
「こんなはずはねぇ! こんなはずは!」
メサイトは早く夢から覚めてくれとばかりに、大声を張り上げながらパンチを放ち続けます。
一方、逃げ出す大きなチャンスであるにもかかわらず、ネリスは二人の攻防に釘付けです。好奇心が旺盛というのも、本当に考えものですね。
いったい何!? さっきまでとは打って変わって、今度は全くよけていない。こんな事が出来るのなら、どうして最初から……。
そこでネリスは気がつきます。もしかしたら、さっき飲んだ薬は、前に飲んだものとは違うのではないかと! 勘のいい子です。
つまり、最初に飲んだ薬とは効果が違うんだわ。一番目の薬は驚異的な脚力と視力、そして二番目の薬は凄まじい腕力と耐久力! そう言えば、最初に感じた魔法の流れのようなものと今のものとでは、中身の雰囲気がかなり違う。でも薬を飲んだだけで、すごいパワーを出せるなんて聞いた事がない。それに力の出方が、何でこんなにチグハグなの?
ネリスの疑問は、もっともですね。
では、そろそろ種明かしをする事に致しましょうか。
クレオンが飲んだ薬、それはここ二十数年来、魔女協会が開発に力を入れて来た秘薬です。古来より、薬の製造は魔女の専売特許と決まっておりましたが、ヴォルノースの世界でも少しずつではありますが、科学(化学)というものが進んでまいりました。
ヴォルノースの全ての住人が魔法を使えるようになってから(”神々からの賜与”以降)、彼らは生活の多くを魔法に頼るようになり、科学技術の発展は緩やかなものになっていたのですね。
今はまだ化学で作れる薬には限りがあり、風邪のひきはじめや、ちょっとした擦り傷に効くような薬を作るのが精一杯です。それも大量生産とはいきません。しかし技術は確実に進歩していますので、魔女たちとしても、うかうかとはしていられないのでした。「魔女は、食いっぱぐれがない」という常識も、いつの日にか覆されるかも知れないのです。
そこで開発に着手したのが「魔法の薬」です。ザックリと言えば、飲めば短時間、自分が元から所有している魔法以外の魔法が使える代物です。この薬が完成すれば、魔女は化学よりも優位に立てるかも知れないし、ヴォルノースの住人たちの暮らしも更に発展する事になるでしょう。
しかし開発には、魔女協会内でも賛否両論がありました。反対派の主な意見は「禁忌の薬の二の舞になる」というものです。まぁ、もっともな意見です。しかし背に腹は代えられないという事で、極秘裏にそして慎重に開発が進められて来たのでした。
そしてクレオンは、新しい薬の被験者です。平たく言えば実験体、モルモットですね。それにはクレオンが元から使える魔法が、大きく関係していました。
これまで何度もお話して来たように、薬に関する魔法を使える者が”魔女”と呼ばれます。クレオンは「薬の副作用を、無効化できる魔法」を使えるのです。もっとも使えるというよりは、常にその魔法が掛かっている状態にあると言った方が、正しいかも知れません。
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