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オーガと”廃”魔法使い
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ザレドスの探索用魔使具に反応があり、今度は更に強力な敵が立ちはだかる。
一体は両手持ちのスチルハンマーを携えた小柄なオーガであり、ゲルドーシュより少し背が高い。
そしてもう一体は男の”廃”魔法使いだ。少し古い感じのローブをまとい、微妙に体を揺らしている。ダンジョンなどで魔法使いが死んだ後、特殊な寄生虫が体に入り込み生命活動を復活させたのが廃魔法使いである。脳に寄生するため生前の人格は維持されず、ただただ殺戮を繰り返すだけの存在だ。
とはいっても、物理的に蘇生させているのでゾンビなどとは別物である。よってホーリー系の魔法を使わずとも倒せるし、また強さのレベルは生前の力に比例する。
いずれも手ごわそうな連中だが、ゲルドーシュとボクがそれぞれに対応すれば、何とかなる相手だろう。
「これも妨害者の魔使具で召喚されたモンスターでしょうな。この二種類の輩が、自然につるむ事などあり得ませんから」
ザレドスの説明に、一同納得の様子。
「さぁってと、今度はちょっと本気を出さないといけねぇみたいだぜ」
オーガを見据えるゲルドーシュの声は、トーンが一段階下がっている。拳熊との対戦とは違い、余裕をかましていられる相手ではない。彼も本気モードのギアを一つ上げる必要がある。
ボクの場合も、先ほどの魔犬相手のようなわけにはいくまい。廃魔法使いに宿る寄生虫は宿主の体の安全などお構いなしだから、魔使具内のマジックエッセンスは勿論、体内に蓄積されているマジックエッセンスが切れてしまい、その結果、宿主の復活した命を削る事になっても攻撃の手を緩める事はないだろう。
ただ今回もザレドスの護衛はポピッカに任せられるので、ボクとゲルドーシュは目の前の敵に集中できる。
人を殺したくてウズウズしているかのように、オーガが凄まじい雄たけびを上げ、戦いの火ぶたは切って落とされた。
ほぼ同時に双方へと向かってダッシュをするゲルドーシュとオーガ。知性の欠片もない大柄の怪物は真正面からスチルハンマーを振り降ろす。それを正面から受けとめると思いきや、ゲルドーシュはダッシュのギアを上げてオーガの左側に回り込んだ。
左側は壁なので動きに制限がかかってしまうが、右側には廃魔法使いがいる関係上、そいつに背中を向けるわけには行かない。
幸いな事にこの愚鈍な怪物は、回り込んだゲルドーシュが体勢を立て直すまでの間、再び攻撃を仕掛けるスピードを持ち合わせてはいなかった。オーガが振り向こうとする隙を狙って、ゲルドーシュが最初の一撃を放つ。大剣がオーガの首筋をとらえるかと思われたが、怪物はバランスを崩しながらも無理やり突進し、戦士の剣を肩の防具で受け止めた。
「ちぃ!」
ゲルドーシュの舌打ちがここまで聞こえてくるようだ。彼が名うての戦士とはいえ、パワー自慢のオーガと真っ向からの力勝負では分が悪い。奇襲が失敗したゲルドーシュに、オーガは再びスチルハンマーを降りおろす。後ろの広い空間に素早くステップし、攻撃をかわすゲルドーシュ。
地響きと共に、鉄のハンマーは何もない床にめり込んだ。
そして、ハンマーを引き抜こうとするオーガの前に、ゲルドーシュが最速のスピードで飛び込んでくる。敵の意外な行動に思わず顔を上げるオーガ。その一瞬のスキを突き、戦士はハンマーの先端を足で強く踏み込んだ。怪物はゲルドーシュの妨害で、ハンマーを床から引き抜く事が出来ない。
オーガが渾身の力を込めてハンマーを引き抜こうとした瞬間、ゲルドーシュはおもむろにハンマーを押さえていた足を後ろに引いた。勢い余って武器を持ったまま、両手を上げて後ろへとそっくり返るオーガ。
戦士は敵の脇がガラ空きになった機会を逃さず、怪物の右上腕後部を斬り裂いた。心臓や腹部を狙いたいところだが、敵もさるもの、そこにはいかにも硬そうな防具をつけている。
苦痛に満ちたオーガの鳴き声がダンジョンに響く。敵がゲルドーシュから目を離したのを戦士はあざとく見定めて、今度は左腕の同じ部分を攻撃する。オーガは両方の二の腕を負傷し、あたりは怪物の鮮血で染められた。
上手い戦法だ。上腕の後ろ側、人間で言えば上腕三頭筋は腕を振り降ろす時に使う筋肉である。ここを傷つけられてしまっては、オーガはハンマーを振り上げる事は出来ても思い切り振り降ろす事が出来ない、しかも打撃点のコントロールすら、上手く定められないだろう。
元々小回りのスピードが利きにくいオーガは、必殺の打撃力まで半減させられた事になる。
「へっ、悪ぃな。敵がお前一匹だけなら正面から打ち合いたいところだがよ。俺たちは最深部まで行かなきゃならねぇし、絶対に生きて帰らなきゃいけねぇんだ!」
ゲルドーシュは、自分に言い聞かせるように吐き捨てた。
さぁ、次はボクの番である。まずは相手のレベルを見定める必要がある。迂闊に飛び込めば、取り返しのつかない事態になるからだ。それに相手は死を恐れぬ者である。常識では考えられない攻撃を仕掛けて来るやも知れない。
ボクは左手に持った盾、魔盾環に対魔法攻撃と対物理攻撃の魔方陣を同時展開する。取っ手に接合された円環の先に、赤と青の魔方陣が連なって現れた。肉弾攻撃のない魔法使いなのだから、物理攻撃に対する備えは不要と思われるかも知れないが、それは”通常の”魔法使いを相手にする場合の話である。
宿主の安全など微塵も考えない寄生虫だ。宿主の体を犠牲にする、捨て身の物理攻撃もあると考えなければならない。
一体は両手持ちのスチルハンマーを携えた小柄なオーガであり、ゲルドーシュより少し背が高い。
そしてもう一体は男の”廃”魔法使いだ。少し古い感じのローブをまとい、微妙に体を揺らしている。ダンジョンなどで魔法使いが死んだ後、特殊な寄生虫が体に入り込み生命活動を復活させたのが廃魔法使いである。脳に寄生するため生前の人格は維持されず、ただただ殺戮を繰り返すだけの存在だ。
とはいっても、物理的に蘇生させているのでゾンビなどとは別物である。よってホーリー系の魔法を使わずとも倒せるし、また強さのレベルは生前の力に比例する。
いずれも手ごわそうな連中だが、ゲルドーシュとボクがそれぞれに対応すれば、何とかなる相手だろう。
「これも妨害者の魔使具で召喚されたモンスターでしょうな。この二種類の輩が、自然につるむ事などあり得ませんから」
ザレドスの説明に、一同納得の様子。
「さぁってと、今度はちょっと本気を出さないといけねぇみたいだぜ」
オーガを見据えるゲルドーシュの声は、トーンが一段階下がっている。拳熊との対戦とは違い、余裕をかましていられる相手ではない。彼も本気モードのギアを一つ上げる必要がある。
ボクの場合も、先ほどの魔犬相手のようなわけにはいくまい。廃魔法使いに宿る寄生虫は宿主の体の安全などお構いなしだから、魔使具内のマジックエッセンスは勿論、体内に蓄積されているマジックエッセンスが切れてしまい、その結果、宿主の復活した命を削る事になっても攻撃の手を緩める事はないだろう。
ただ今回もザレドスの護衛はポピッカに任せられるので、ボクとゲルドーシュは目の前の敵に集中できる。
人を殺したくてウズウズしているかのように、オーガが凄まじい雄たけびを上げ、戦いの火ぶたは切って落とされた。
ほぼ同時に双方へと向かってダッシュをするゲルドーシュとオーガ。知性の欠片もない大柄の怪物は真正面からスチルハンマーを振り降ろす。それを正面から受けとめると思いきや、ゲルドーシュはダッシュのギアを上げてオーガの左側に回り込んだ。
左側は壁なので動きに制限がかかってしまうが、右側には廃魔法使いがいる関係上、そいつに背中を向けるわけには行かない。
幸いな事にこの愚鈍な怪物は、回り込んだゲルドーシュが体勢を立て直すまでの間、再び攻撃を仕掛けるスピードを持ち合わせてはいなかった。オーガが振り向こうとする隙を狙って、ゲルドーシュが最初の一撃を放つ。大剣がオーガの首筋をとらえるかと思われたが、怪物はバランスを崩しながらも無理やり突進し、戦士の剣を肩の防具で受け止めた。
「ちぃ!」
ゲルドーシュの舌打ちがここまで聞こえてくるようだ。彼が名うての戦士とはいえ、パワー自慢のオーガと真っ向からの力勝負では分が悪い。奇襲が失敗したゲルドーシュに、オーガは再びスチルハンマーを降りおろす。後ろの広い空間に素早くステップし、攻撃をかわすゲルドーシュ。
地響きと共に、鉄のハンマーは何もない床にめり込んだ。
そして、ハンマーを引き抜こうとするオーガの前に、ゲルドーシュが最速のスピードで飛び込んでくる。敵の意外な行動に思わず顔を上げるオーガ。その一瞬のスキを突き、戦士はハンマーの先端を足で強く踏み込んだ。怪物はゲルドーシュの妨害で、ハンマーを床から引き抜く事が出来ない。
オーガが渾身の力を込めてハンマーを引き抜こうとした瞬間、ゲルドーシュはおもむろにハンマーを押さえていた足を後ろに引いた。勢い余って武器を持ったまま、両手を上げて後ろへとそっくり返るオーガ。
戦士は敵の脇がガラ空きになった機会を逃さず、怪物の右上腕後部を斬り裂いた。心臓や腹部を狙いたいところだが、敵もさるもの、そこにはいかにも硬そうな防具をつけている。
苦痛に満ちたオーガの鳴き声がダンジョンに響く。敵がゲルドーシュから目を離したのを戦士はあざとく見定めて、今度は左腕の同じ部分を攻撃する。オーガは両方の二の腕を負傷し、あたりは怪物の鮮血で染められた。
上手い戦法だ。上腕の後ろ側、人間で言えば上腕三頭筋は腕を振り降ろす時に使う筋肉である。ここを傷つけられてしまっては、オーガはハンマーを振り上げる事は出来ても思い切り振り降ろす事が出来ない、しかも打撃点のコントロールすら、上手く定められないだろう。
元々小回りのスピードが利きにくいオーガは、必殺の打撃力まで半減させられた事になる。
「へっ、悪ぃな。敵がお前一匹だけなら正面から打ち合いたいところだがよ。俺たちは最深部まで行かなきゃならねぇし、絶対に生きて帰らなきゃいけねぇんだ!」
ゲルドーシュは、自分に言い聞かせるように吐き捨てた。
さぁ、次はボクの番である。まずは相手のレベルを見定める必要がある。迂闊に飛び込めば、取り返しのつかない事態になるからだ。それに相手は死を恐れぬ者である。常識では考えられない攻撃を仕掛けて来るやも知れない。
ボクは左手に持った盾、魔盾環に対魔法攻撃と対物理攻撃の魔方陣を同時展開する。取っ手に接合された円環の先に、赤と青の魔方陣が連なって現れた。肉弾攻撃のない魔法使いなのだから、物理攻撃に対する備えは不要と思われるかも知れないが、それは”通常の”魔法使いを相手にする場合の話である。
宿主の安全など微塵も考えない寄生虫だ。宿主の体を犠牲にする、捨て身の物理攻撃もあると考えなければならない。
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