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赤ら顔のエルフ
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昔々、ある所にエルフの女性がおりました。彼女は素晴らしい魔法の才能に恵まれておりましたが、美男美女ぞろいのエルフ族には珍しく、とても美しいとは言えない容貌をしていました。
周りのエルフたちは、その赤ら顔をした彼女の才気あふれる魔法に嫉妬をしてか、表立っては言わないものの、彼女の容姿を「赤かぶ」だの「赤だいこん」だのと、陰であざ笑っておりました。最初は毅然とした態度で悪意を跳ね返していた彼女ですが、年月が経つ内に段々と陰鬱な気持ちになり、魔法の研究も疎かなっていきます。
しかしある時、彼女は異世界からの召喚者という男に出会います。話を聞けば彼の世界には魔法が存在せず、彼女相手に魔法の素晴らしさをとうとうと語りました。
魔法の素晴らしさを魔法のない世界の者に教えられ、彼女は再び魔法の研究に没頭します。
そんな日々の中、伝説の魔王が復活し、エルフの里を含む世界が滅亡の危機に瀕しました。多くの里の者が戦闘に参加しますが、強力な魔王軍の力に成す術がありません。
「私に任せて!」
世界を絶望の空気が支配する中、赤ら顔のエルフが名乗り出ます。周りのエルフたちは全く期待してなかったものの、彼女は長年研究してきた魔法の全てを惜しみなく投入し、見事、魔王軍を討ち果たしました。
彼女は世界の救世主として、崇め奉られます。かつて彼女を侮蔑したエルフたちも、自らの愚かさを恥じて詫びを入れました。もちろん、赤ら顔のエルフは、快く彼らを受け入れます。
そののち彼女は、世界七英雄の一人として、末永く輝かしい人生を送りました。
「なんて、幸せそうな顔をしているんだ」
結界を何重にも張り巡らせた朽ち果てたダンジョンの最深部で、ベッドに横たわる赤ら顔をしたエルフの遺体を前に、数少ない友人たちが呟きます。
「彼女が、我々の前より姿を消してから、五百年の時が経つ」
「そうだな。そして彼女の死と同時にそれを知らせる通信魔法が、結界突破の方法と共に、我々の元へ届いたというわけだ」
「でも、彼女は本当に幸せだったのかしら」
わけのわからぬ魔道具がいっぱいの部屋で、友人たちが次々と語ります。
「この顔を見たまえ。彼女は十分に幸せだったんだろうよ。たとえそれが、魔法で作られた幻であったとしても」
そうなのです。
話は、彼女が異世界からの召喚者の男と出会った時に戻ります。
召喚者の男は、この世界の素晴らしさを語るとともに、自分のいた世界の話も沢山彼女にいたしました。
その中で、彼女がいたく興味を惹かれたのが「ヴァーチャル・リアリティ」の世界。男の話では、その技術は未だフィクションの域に留まるものの、魔法で再現できるのではないかと話しておりました。
その日以来、彼女は魔法開発に没頭し、ついに、その技術を確立いたしました。そして強力な魔法を使って、辺境のダンジョンを制圧し、その最深部で「ヴァーチャル・リアリティの魔法」を展開したのです。
邪魔が入らぬよう、ダンジョンには鉄壁の結界を張り、自分自身にさえ、そこが仮初めの世界であるという事実を忘れさせて。
そして仮想世界の中で彼女は英雄となり、幸せな生涯を送ったというわけです。魔法を使い続けたので、本来の寿命よりはかなり早く自然死を遂げてしまいましたけどね。
「だけどそれなら、なぜ私たちに事実を打ち明け、自らの死を知らせたのだろう? 誰にも訳を話さず、誰にも死を知らせない事だって出来たろうに」
とある友人が、疑問を呈します。
「……多分、心の底では不安だったんじゃないのかな。夢の世界にいても、どこかで現実とのつながりを求めていたのかも知れない」
幸せなのだか、不幸せなのだかわからぬ生涯を終えた赤ら顔の友人の前で、”美男美女”の友人たちは、彼女の魂が天国へ無事到着できるようにと祈りました。
【終】
周りのエルフたちは、その赤ら顔をした彼女の才気あふれる魔法に嫉妬をしてか、表立っては言わないものの、彼女の容姿を「赤かぶ」だの「赤だいこん」だのと、陰であざ笑っておりました。最初は毅然とした態度で悪意を跳ね返していた彼女ですが、年月が経つ内に段々と陰鬱な気持ちになり、魔法の研究も疎かなっていきます。
しかしある時、彼女は異世界からの召喚者という男に出会います。話を聞けば彼の世界には魔法が存在せず、彼女相手に魔法の素晴らしさをとうとうと語りました。
魔法の素晴らしさを魔法のない世界の者に教えられ、彼女は再び魔法の研究に没頭します。
そんな日々の中、伝説の魔王が復活し、エルフの里を含む世界が滅亡の危機に瀕しました。多くの里の者が戦闘に参加しますが、強力な魔王軍の力に成す術がありません。
「私に任せて!」
世界を絶望の空気が支配する中、赤ら顔のエルフが名乗り出ます。周りのエルフたちは全く期待してなかったものの、彼女は長年研究してきた魔法の全てを惜しみなく投入し、見事、魔王軍を討ち果たしました。
彼女は世界の救世主として、崇め奉られます。かつて彼女を侮蔑したエルフたちも、自らの愚かさを恥じて詫びを入れました。もちろん、赤ら顔のエルフは、快く彼らを受け入れます。
そののち彼女は、世界七英雄の一人として、末永く輝かしい人生を送りました。
「なんて、幸せそうな顔をしているんだ」
結界を何重にも張り巡らせた朽ち果てたダンジョンの最深部で、ベッドに横たわる赤ら顔をしたエルフの遺体を前に、数少ない友人たちが呟きます。
「彼女が、我々の前より姿を消してから、五百年の時が経つ」
「そうだな。そして彼女の死と同時にそれを知らせる通信魔法が、結界突破の方法と共に、我々の元へ届いたというわけだ」
「でも、彼女は本当に幸せだったのかしら」
わけのわからぬ魔道具がいっぱいの部屋で、友人たちが次々と語ります。
「この顔を見たまえ。彼女は十分に幸せだったんだろうよ。たとえそれが、魔法で作られた幻であったとしても」
そうなのです。
話は、彼女が異世界からの召喚者の男と出会った時に戻ります。
召喚者の男は、この世界の素晴らしさを語るとともに、自分のいた世界の話も沢山彼女にいたしました。
その中で、彼女がいたく興味を惹かれたのが「ヴァーチャル・リアリティ」の世界。男の話では、その技術は未だフィクションの域に留まるものの、魔法で再現できるのではないかと話しておりました。
その日以来、彼女は魔法開発に没頭し、ついに、その技術を確立いたしました。そして強力な魔法を使って、辺境のダンジョンを制圧し、その最深部で「ヴァーチャル・リアリティの魔法」を展開したのです。
邪魔が入らぬよう、ダンジョンには鉄壁の結界を張り、自分自身にさえ、そこが仮初めの世界であるという事実を忘れさせて。
そして仮想世界の中で彼女は英雄となり、幸せな生涯を送ったというわけです。魔法を使い続けたので、本来の寿命よりはかなり早く自然死を遂げてしまいましたけどね。
「だけどそれなら、なぜ私たちに事実を打ち明け、自らの死を知らせたのだろう? 誰にも訳を話さず、誰にも死を知らせない事だって出来たろうに」
とある友人が、疑問を呈します。
「……多分、心の底では不安だったんじゃないのかな。夢の世界にいても、どこかで現実とのつながりを求めていたのかも知れない」
幸せなのだか、不幸せなのだかわからぬ生涯を終えた赤ら顔の友人の前で、”美男美女”の友人たちは、彼女の魂が天国へ無事到着できるようにと祈りました。
【終】
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