ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールお目覚め (19) 神々の恩賜 その2

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忘却の草原とは、カクリン山脈帯を更に取り囲むように広がる草原で、この草原を通ると過去の記憶も含め、多くの記憶を失くしてしまうと言われています。

”言われています”というのはですね、通った者は「自分が何を忘れたのかすら、忘れてしまう」ので、確信を持って”こうだ”と言う事が出来ないんですね。

(実は忘却の草原にかかっている”忘れる魔法”は、時代がずっと下ってから、現在でも影の森に住んでいる大魔法使いパーパスが施したものなのです。しかし、その事は誰も知りません)

また内海から外海へ出ようと思えば出られるものの、これも昔々に潮の流れが変わり、出港した船はある地点より先に進む事が出来ませんでした。恐ろしい渦巻きが沢山あるとも言われています。

(以下URLは、現在のヴォルノースの森の地図)
https://ensouzansogo.blog.fc2.com/blog-entry-535.html

そんなわけで、本当に長い長い間、ヴォルノースの森は外から隔離されておりました。出て行く人もいなければ、入って来る人もいないわけです。

よって”森の外の世界”についてのメリドルの言及は、子供たちの興味を非常にそそりました。

「先生、でもどうして、そんな事がわかるんですか? 越える事は至難の業だと言われているカクリン山脈帯とか、忘却の草原があるわけだから、外の様子なんてわからないでしょう?」

手を挙げたマリアが、メリドルに当てられる前に、高揚した調子で尋ねます。先ほどとは、大違いですね。

彼女の気持ちも分かるメリドルが、咎める事もなく、次のように答えました。しかしその答えを聞くやいなや、教室は更なる興奮のるつぼと化しました。

「神さまが大勢いた時代、カクリン山脈は今のようなベルト状にはなっていなかったし、忘却の草原も只の原っぱだったのです」

もう教室は、大騒ぎです。

しかしメリドルは慌てる様子もなく、しばらくは子供たちのさせたいようにしていました。

そして彼らの気持が、少し収まった頃合を見計らい、メリドルは、

「静かに!」

と、少し厳しめの声で言いました。元々、声量があり、威厳のある彼の低音ボイスに、皆はハッとして、勝手な言動を打ち切ります。教室は、水をうったように静まり返りました。

これが神の恩賜の授業を、レクシーに任せられなかった理由なのですね。まだ若く、副担任の経験しかないレクシーが授業を行ったとしたら、この状況を御する事は出来なかったでしょう。彼女もまた、それを自覚していたので、この授業を経験豊富なメリドルに任せたのでした。

「みんな、驚いたでしょう。私も子供の頃、最初に聞いた時は、たまげました」

ダンディーなメリドルには似つかわしくない”たまげた”という言葉を聞いて、教室のあちらこちらからクスクスと笑い声が聞こえます。

「昔々、幾つかの山はあったのですが、それはヴォルノースの森と、外の世界を隔てるようなものではありませんでした。もちろん草原を通っても何も起こらないので、普通に色々な人が行き来をしていたのです。

これは遺跡から発掘された、信頼のおける古文書に書いてある話なので、考古学者の先生方も認めている所です」

子供たちの様子をチラリと見たメリドルは、一呼吸おいた後、

「では、なぜヴォルノースの森が、外とは交われなくなってしまったのか? それは、神々の恩賜と非常に深いつながりがあるのですね」

と、生徒たちの心を読んだかのように、メリドルが話を続けます。

「実は、ある時。神々の間で争いごとが起こったのです。なぜ争いごとが起こったのかは、少し複雑な事情がありますので、君たち二年生ではまだ学びません。三年生になるまで、待って下さい」

半ば期待を裏切る説明に、生徒の間からは不満の声が漏れ出しました。
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