ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (33) 不思議な事

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は、早く公園を抜けなきゃ……。

慌てる主人をよそに、彼の体はその命令を拒絶します。

あぁ、どうしよう。どうしよう。

気ばかり焦るニール。何とも、もどかしい時間が過ぎて行きました。

半ば諦めかけたニールですが、不思議な事が起こります。いえ、正確には”起こらなかった”のです。

あれ……。

彼がそう思ったのも、無理はありません。頭痛が、全くしないのです。それどころか、あの変な感覚すら微塵も覚えませんでした。

この公園が、原因じゃなかったのかな?

とっさにそう思うニールでしたが、考えている暇はありません。今は良くても、いつ頭痛が襲って来るかわかりませんし、そもそも遅刻ギリギリの時間なのです。彼は様々な疑問を振り切って、今は公園からの脱出に全力を注ぎました。

「おい、ニール。怪我をしてるんじゃないのかい?」

いつものように、遅刻しそうな生徒を校門の前で出迎えるメリドルが、ニールに声を掛けます。この日ニールは長ズボンを履いていたので、たとえ膝から少し出血していたり、アザが出来ていたとしても、外から確認する事は出来ません。それに痛みもある程度は和らいでいたので、あからさまに足を引きずっていたわけでもありませんでした。

しかしメリドルは、ニールの僅かな動きの不自然さをすぐに見抜いたのです。

「あ……、ちょっと公園で転んじゃって……」

ニールが、少し照れくさそうに言いました。遅刻しそうになったから、急いで転んでしまったなんて、やっぱりカッコ悪いですからね。それに頭痛の話を、メリドルにするわけにもいきません。

「しょうがないな。

ニール、教室へ行く前に、保健室へ寄りなさい。今回は特別に、遅刻扱いにはしないから」

子供の健康を何よりも考えるメリドルが、ニールへ恩赦を与えます。その優しくも威圧感のある言葉は、首を垂れる生徒に有無を言わせませんでした。

メリドルから解放された後、途中までは他の遅刻坊主たちと一緒の方角へ向かうニールでしたが、校舎に入ってからは、メリドルの指示通りにポッテル先生の居る保健室へと、足取り重く歩いていきました。

保険医魔女の彼女の診断によれば、ニールは軽い打ち身という事で、ポッテルは最適な薬を棚から取り出し、それをニールの膝小僧に塗りました。もちろんこの薬も、ポッテル自らが調合した優れものです。

治療を終えたポッテルは、

「あなた、保健委員でしょ、それが遅刻しそうになって怪我してちゃ、笑い話にもならないわよ」

と注意をしながらも、その言葉とは裏腹に呆れたような笑いを漏らします。

非常にバツが悪くなったニールは、お礼もそこそこに、まだ少し痛みの残る片足を引きずりながら、離れ小島の教室へと向かいました。

「よぉ、急げや急げ。もう、危ねぇぞ!」

旧校舎へ入った途端、ドッジが声を掛けてきます。クラスの力の象徴と徳の象徴が、揃ってデッドラインの鐘が鳴る寸前の教室へと駆け込みました。

「ねぇ、ニール。大丈夫なの?」

肩で息をしながらカバンを机へ置くニールへ、マリアが心配そうに声を掛けます。

痛めた膝の話をされているのかと思い、ニールはドキリとしました。既に普通の歩き方と大して変わらなくなってはいましたが、マリアはそういう所に目端がきくのです。

「え、えぇ……、大丈夫って?」

ニールが、とぼけた調子で返事をしました。転んだと正直に言うのは、やっぱり恥ずかしいですからね。

「昨日の頭痛よ。それで、遅くなったんじゃないの?」

足を引きずっているのを見破られたわけではないと安心したものの、さて、何と言い訳しようかと、ニールは考えます。
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