40 / 102
ニールの目ざめ (39) 楽しいひととき
しおりを挟む
「但し、この事は、君のママには内緒でな」
所在なさげに子供用の椅子へと腰かけたニールに、ゼペックがウインクを飛ばします。普段、パパが喋っている話や、前に一度だけママに会った時の事を鑑みれば、彼女がこの店の存在を、余り好ましく思っていないのは明らかでした。
もし子供一人で”こんな所”へ来た、しかもゼペックが連れて来たと発覚でもしたら、ニールはもちろんの事、パパまで出入りさせて貰えなくなるかも知れません。
「もちろん」
少し後ろめたさを感じながらも、ニールは元気に返事をしました。
「で、注文は?」
ゼペックが、重ねて尋ねます。
ここで遠慮をしては、かえって失礼だと思ったニールは、早速お気に入りのオレンジジュースを頼みます。このドリンクバーで出される数々の品物は、採算度外視の格安品ばかりなのです。つまり、とってもとっても、美味しいって事ですね。
ニールがグラスに刺さっているストローへ口をつけたのを確認し、
「さぁてと、今日はどんな話をしようかの」
と、ゼペックはご機嫌な調子で言いました。
その様子を見ていた周りのスタッフたちは、少しホッとします。何故ならば、最近ニールがさっぱり来店しないので、ゼペックの機嫌も斜め気味の日が多かったのでした。変わり者の機嫌が悪いっていうのは、一日中、傍にいるスタッフにとって、迷惑この上ない話ですからね。
そして店員のみんなは、どうしてゼペックが、そこまでニールを気に入っているのかの見当もついていました。
現在、ゼペックは趣味と実益を兼ねたこの骨董店を営んでいますが、上の階にあるリサイクルショップは彼の息子夫婦が経営しているという話はしましたよね。
その二人、年齢はニールのパパとママより少し上ではあるものの、未だ子宝に恵まれていないのです。でもゼペックや、彼の亡くなった妻は、その事について一言も言いませんでした。しかし、孫が欲しくないわけはありません。
そんなところに、孫となってもおかしくない年頃のニールが、出入りするようになったのです。おまけに八歳にして骨董品に興味を抱く、ある意味、稀有な子供です。老オーナーが、気に入らない筈がありません。
さて、ゼペックが取り出した幾つかの品にまつわる話を聞いたニールは、小説では味わえない、何とも充実した時間を過ごしました。
そして、かつては魔法の込められていた牛
の形をした人形の話題になった時、ゼペックは思わず、
「ところで、ニールはもう魔法は使えるのかい?」
と、聞いてしまいます。
ヴォルノースの森では、誰がどういう魔法を使えるかは個人情報であり、迂闊に尋ねてはいけないのです。それは大人相手だろうと、子供相手だろうと変わりません。もちろんゼペックだって、そんな事は百も承知でした。
でも久しぶりに、ニールが来店した事に気を良くしていたゼペックは、つい心のタガが、少し緩んでしまっていたのです。
「オーナー……!」
ゼペックと共にカウンターに入っていた三十代半ばの男性が、慌てて声を掛けました。骨董業としてはまだ若いものの、ゼペックの後を継ぐのは彼ではないかと目されている人物です。
ゼペックは、その男、名前をリュンデムといいますが、彼の言葉にハッとしました。
「あっ、すまん、すまん。年を取ると、浮世の決まり事については、つい疎かになってしまってなぁ……」
オーナーが面目を失ったように、頭をかきます。
「――ボ、ボクは、まだ魔法は使えません」
言いよどむニール。
その表情に、これはまずい事を聞いてしまったと後悔しきりのゼペックでした。
所在なさげに子供用の椅子へと腰かけたニールに、ゼペックがウインクを飛ばします。普段、パパが喋っている話や、前に一度だけママに会った時の事を鑑みれば、彼女がこの店の存在を、余り好ましく思っていないのは明らかでした。
もし子供一人で”こんな所”へ来た、しかもゼペックが連れて来たと発覚でもしたら、ニールはもちろんの事、パパまで出入りさせて貰えなくなるかも知れません。
「もちろん」
少し後ろめたさを感じながらも、ニールは元気に返事をしました。
「で、注文は?」
ゼペックが、重ねて尋ねます。
ここで遠慮をしては、かえって失礼だと思ったニールは、早速お気に入りのオレンジジュースを頼みます。このドリンクバーで出される数々の品物は、採算度外視の格安品ばかりなのです。つまり、とってもとっても、美味しいって事ですね。
ニールがグラスに刺さっているストローへ口をつけたのを確認し、
「さぁてと、今日はどんな話をしようかの」
と、ゼペックはご機嫌な調子で言いました。
その様子を見ていた周りのスタッフたちは、少しホッとします。何故ならば、最近ニールがさっぱり来店しないので、ゼペックの機嫌も斜め気味の日が多かったのでした。変わり者の機嫌が悪いっていうのは、一日中、傍にいるスタッフにとって、迷惑この上ない話ですからね。
そして店員のみんなは、どうしてゼペックが、そこまでニールを気に入っているのかの見当もついていました。
現在、ゼペックは趣味と実益を兼ねたこの骨董店を営んでいますが、上の階にあるリサイクルショップは彼の息子夫婦が経営しているという話はしましたよね。
その二人、年齢はニールのパパとママより少し上ではあるものの、未だ子宝に恵まれていないのです。でもゼペックや、彼の亡くなった妻は、その事について一言も言いませんでした。しかし、孫が欲しくないわけはありません。
そんなところに、孫となってもおかしくない年頃のニールが、出入りするようになったのです。おまけに八歳にして骨董品に興味を抱く、ある意味、稀有な子供です。老オーナーが、気に入らない筈がありません。
さて、ゼペックが取り出した幾つかの品にまつわる話を聞いたニールは、小説では味わえない、何とも充実した時間を過ごしました。
そして、かつては魔法の込められていた牛
の形をした人形の話題になった時、ゼペックは思わず、
「ところで、ニールはもう魔法は使えるのかい?」
と、聞いてしまいます。
ヴォルノースの森では、誰がどういう魔法を使えるかは個人情報であり、迂闊に尋ねてはいけないのです。それは大人相手だろうと、子供相手だろうと変わりません。もちろんゼペックだって、そんな事は百も承知でした。
でも久しぶりに、ニールが来店した事に気を良くしていたゼペックは、つい心のタガが、少し緩んでしまっていたのです。
「オーナー……!」
ゼペックと共にカウンターに入っていた三十代半ばの男性が、慌てて声を掛けました。骨董業としてはまだ若いものの、ゼペックの後を継ぐのは彼ではないかと目されている人物です。
ゼペックは、その男、名前をリュンデムといいますが、彼の言葉にハッとしました。
「あっ、すまん、すまん。年を取ると、浮世の決まり事については、つい疎かになってしまってなぁ……」
オーナーが面目を失ったように、頭をかきます。
「――ボ、ボクは、まだ魔法は使えません」
言いよどむニール。
その表情に、これはまずい事を聞いてしまったと後悔しきりのゼペックでした。
0
あなたにおすすめの小説
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる