ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (49) 一生のお願い

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ニールが泣き叫んでいるわけでもありませんし、その光景がチラリと目に入った大人も”何か遊んでいるのだろう”くらいにしか、感じなかったのです。

しかし、この前とは明らかに違う様子のニールを目の当たりにして、マリアとドッジはパニックに陥ってしまいました。即座には、周りの大人に助けを求めようなどと考えつきません。只々、親友が苦しみ悶える姿を、オロオロと眺めている他ありませんでした。

それは一分にも満たない短い時間であったにも関わらず、彼らには永遠に続く時間とも感じられたかも知れません。

一方ニールには、とある変化が起こっておりました。不協和音を奏でていたノイズが、少しずつ収まって来たのです。いえ、正確に言えば”整理されてきた”と言った方が良いでしょう。

それから、十数秒の時が流れます。

え?

それは、本当?

で、でも……。

ニールは、心の中で呟きました。ですが、仮に彼の心を読める人物がこの場にいたとしても、それは何の脈絡もない、独り言のように聞こえたに違いありません。

親友の一大事に、ようやくマリアが、

「誰かに、助けを……」

と言いかけましたが、その時、ニールが自分の肩を掴んでいたドッジの手を握りました。

「ニール、大丈夫か?」

取りあえずではあるものの、ドッジは友の反応に僅かな望みを見出します。

「あぁ、大丈夫。頭痛は収まった……と思う」

額に薄っすらと汗をかき、口調も弱々しいニールでしたが、それでも普段の冷静さを取り戻したように見えました。

「ドッジ。前みたいに、あそこの木の陰へ」

「そ、そうだな」

マリアの提案に、ドッジが乗ろうとしたその時です。

「ダメだ!」

ニールが、突然叫びました。今までのか細い声とはまるで違う、厳しい口調に二人は驚きます。

「なんだ、どうしたって言うんだ、ニール」

ドッジが、今度はニールの両肩を掴んで問いかけました。マリアは状況がつかめず、戸惑う一方です。

「二人とも……。ボクは、これからワケのわからない事を言う。多分、二人はそう思う。

でも、ボクを信じてほしい」

ニールがいつになく真剣な、しかし非常に切羽詰まった目で彼らを見つめました。

「ニール、何を……」

マリアがそう言いかけますが、ドッジは彼女の前に手をかざしてそれを制します。

「何だ、言ってみろ」

ドッジの”モード”が、明らかに変わりました。ですがマリアの方は、それについていけません。

「今すぐ、一秒でも早く、砂場で遊んでいる子供たちを連れ出してほしい。少なくとも、ここから一番近い、公園の垣根のある所まで」

ニールは道路と公園の境に設置されている垣根の方、砂場の端から十五メートルはあるでしょうか、そこを指さし、出来るだけ冷静さを保つように話しました。ヒステリックに叫んでしまっては、説得力に欠けると思ったからです。

「え? どういう事? 子供たちを、砂場の外へって……」

宣言通りの”ワケのわからない”言動に、マリアは、彼の言葉を繰り返すのがやっとでした。

「お願い、一生のお願いだよ」

ニールの言葉は、余りの緊迫感に震えています。

「……よし、わかった!

あそこの端まで、連れて行けばいいんだな?」

ドッジが二つ返事で、ニールのリクエストに応えます。

「ちょっと、ドッジ。どういう事か……」

マリアは、未だに混乱しきりでした。

「マリア、俺たちのニ―ルが”一生のお願い”と言ってるんだ。何を考える必要がある?」
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