ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (55) 混乱

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そして次の瞬間、今までで一番大きな音がしたかと思うと、砂場の十数メートル先にそびえ立っている高さ三十メートル近くはあるでしょうか、この公園の主とも言える巨木が大きく揺れ始めます。

逃げ遅れていた残りの鳥たちが、その大きく張り出した無数の枝からワッと飛び立ちました。

この状況が何を意味するのか、今や公園にいる誰の目にも明らかです。

「離れろ!! 倒れるぞ!」

悲鳴にも似た怒声が、公園に響きました。

しかし、誰もその場を動く事が出来ません。何か大変な事が起きた時には、周りの動きがスローモーションのように感じられるという場合がありますよね。今、ここにいる全ての人たちが、それを体感しています。

巨木は最初はゆっくりと、でも段々と恐ろしほどにスピードをまし、砂場の方へ向かって倒れて行きます。

皆は成す術もなく、それをただ眺めているほかはありません。

ドシーン! バキバキバキ!

大勢の見守る中、巨木は遂に地面へと激突しました。砂場の縁石は粉々に砕け散り、その先にある遊具も、見るも無残にグシャグシャになりました。元がどのような形であっのたか、想像するのも難しいほどに。

皆が呆然として何もできない中、ニールは、

「ありがとう、今まで本当に……。そして、さようなら」

と、呟きましたが、それを聞いている者は誰一人としていませんでした。

皆さんは、ニールが誰に向かってしゃべっていたのか、もうお分かりになりますよね。

さて、舞い上がった砂ほこりがようやく落ち着いて、皆が取りあえずでも平静に物事を考えられるようになるまでの数十秒。その時間は、公園に集った人たちに取って、何分、何十分にも感じられたに違いありません。

「キャーッ!」

女性の一人が叫びます。この恐ろしい出来事を、現実味を持って捉える事が出来るようになったからでしょう。

「誰か、けが人は!?」

時間が経つにつれ、一人、また一人と本格的に冷静さを取り戻し、負傷した者がいないかを確認します。

「あっ!」

誰かが何かを思い出したように、ふと言葉を漏らします。それは、すぐに他の人たちへも伝播していきました。

皆、気がついたのです。

”もし、砂場に子供たちがいたら、今頃どうなっていたのか”を!

それは想像すらしたくない、もし目の当りにしたら、一生心から消えない傷になったであろう惨劇に違いありませんでした。

何人かの人が、その場にヘナヘナと座り込んでしまいます。自分がトンデモナイ心の傷を負わないで済んだという、安心感からでしょう。

そんな中、猛然と公園を駆け抜ける者が一人。ドッジが、砂場に倒れている巨木を避け、大周りにではありますが、全速力でニールの元へと駆けつけます。

二人の大人に拘束されている親友を前に、ドッジは、

「ミリナ、ファリナ、大丈夫か!?」

と、ニールの両肩に乗り、彼の頭に寄り添っている二人へ声を掛けました。ニールではなく、精霊二人にです。口では色々と彼女たちに文句を言っているドッジですが、既にそれだけ大切な存在になっているという事なのですね。

「大丈夫よ、ドッジ」
「大丈夫よ、ドッジ」

息を切らせ、顔を真っ赤にしているガキ大将に、二人の精霊は声をそろえて応えます。二人とも、ニールより先に声を掛けられ意外な思いをしましたが、それを言葉にすれば、ドッジがまた照れ隠しに何か酷い事を言うとわかっていたので、それ以上は敢えて何も言いませんでした。

「ニール、大丈夫か?」

精霊たちの無事を確認したドッジが、二人の大人に捕まえられている親友へ声を掛けます。

「あぁ、なんとかね」

何の問題もないと言いたいところですが、大活躍と引き換えに、体中が悲鳴を上げているニールでした。
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