ヴォルノースの森の なんてことない毎日 《第二部》 (オムニバス短編集)

藻ノかたり

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ニールの目ざめ (72) チョコの魔法

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本来ならば、この話は、ニールのママだけにするのが筋というものです。しかし、今回ばかりはそうもいきません。何故ならば、ドッジとマリアがその場にいましたし、彼らは先ほど音楽室でニールの話を聞いていたからです。

こんな事なら、ドッジとマリアに同席を許すんじゃなかった。

メリドルは、珍しく後悔しました。ただ彼といたしましても、まさかレガシーマジックなどというトンデモナイ話が出て来るとは予想だにしていなかったので、まぁ、致し方のないところでしょう。

「それでは私たちは……、これは子供たちも含めてですけれど、しっかりと秘密を守らなければいけませんね」

ドッジそっくりのお調子者であるエメリンを尻目に、マリアの母、セシリアが言いました。

「はい、是非お願い致します。これは後で子供たちをここへ呼んでからも説明いたしますが、只でさえ魔法の個人情報は重要な上に、レガシーマジックの可能性があるともなれば尚更です」

言うべき事を先取りされてしまったメリドルが、少しバツが悪そうに話します。

「みなさん、よろしくお願い致します」

ニールのママが席を立ち、皆に頭を下げました。

あぁ、大変な事になってしまった。

再び席に着いたママは、思います。

そりゃあ、今まで我が子の将来を決めるかも知れない魔法について、彼女がヤキモキしていたのは事実ですが、まさかこんな魔法を授かるなんて、考えもしなかった話です。

ニールに、どんな言葉を掛ければいいのかしら?

ママは、そう案じながら、パパは”すごいぞニール”とか言って、気楽に喜ぶんだろうなと想像し、溜息をつきました。

一方こちらは、保健室で談笑する子供たち。

「なんだよ、まだかなぁ。母ちゃんたちの話」

保健室に、押し込められた形になっているドッジがぼやきます(ちなみにミリナとファリナは、ドッジの魔力切れのため、レクシーに挨拶をしたあと退散しました)。

「でもなぁ……。先生やマリアは、ニールのドクシンジュ……だっけ、の魔法が凄いって言うけどさ。

俺としてはいっその事、沢山のチョコレートを生み出せる魔法とかの方が良かったな」

「えぇっ?」

ドッジの突拍子もない発言に、お守り役のレクシーがちょっと驚きます。

「だって、先生。ニールと一緒に入ればさ、一生、チョコレートには困らないって話だよ」

ドッジの無邪気な言い分に、当のニールは苦笑しました。

「あんた。一生って、死ぬまでニールにチョコレートをせびる気なの?」

マリアが、呆れた声をあげます。

「いやいや、ニール、忘れてないだろうけどさ。俺はお前の”一生のお願い”を聞いたんだぜ。チョコの一つや二つ、ケチ臭いこと言わないよなぁ?」

ニールの授かった魔法が、まるでチョコを生み出す魔法だったかのように喜々として話すドッジ。

そんなドッジの顔を苦々しく見ながら、マリアは、

”あの時、もしニールが訳を最初に話していたら、私ももっともっと迷っていたに違いない。でもドッジは多分、それでもすぐに信じて行動しただろう”

と考えます。そして、彼女は心のどこかで”ドッジに負けた”と思いました。胸の奥が、チクリと痛みます。

三者三様の心持ちの中、保健室のドアが突然開きました。

「三人とも、音楽室へ来てちょうだい。それから、レクシー先生も」

ポッテルが、皆を呼びに来たのです。

簡単な事情は既にメリドルから聞いていたレクシーですが、来週から彼らのクラス担任になる以上、彼女も同席した方が良いというのがメリドルの考えでした。

「失礼します」

彼らを率いた保健室の魔女が、音楽室のドアをおずおずと開きます。教室内の面々は、ドッジの母親エメリンを覗いて、皆、神妙な顔をしていました。
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