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幽霊と宝の塔 (6) 隊長室
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アトリオは見張り台に設置された伝令管を使って、事の次第を下へと報告します。知らせを受けた兵士たちが、重装備で外壁の周りへと配置されました。
軍曹の指示で、アトリオはそのまま見張り台に留まり、状況を逐一知らせる役目を仰せつかります。彼には、戦況が一目瞭然ですからね。
白い光たちは、施設へ近づくでもなく遠ざかるでもなく、こちらの様子を伺っているように見えました。なかなか、その目的が把握できません。そして兵士たちの方にしても、迂闊に打って出るわけにはいきませんでした。なにしろ、敵の正体が全く分からないのですから、仕方ありませんよね。
微妙なにらみ合いは朝まで続きましたが、夜明けと共に、白い光は森の奥へと去って行きました。アトリオがそれを報告すると、一部の兵士を除いて塔側の守り手たちも施設内へと退きます。失踪者探しに、急な襲来。もう全ての兵士たちは、ヘトヘトでした。
「アトリオ、隊長室へ来てくれ」
伝令管から声がして、彼は下へと呼び戻されます。途中で交代の兵士とすれ違いましたが、疲れのためか、ロクな挨拶もいたしません。
アトリオが隊長室へ入ると、そこでは部屋の主が奥のデスクについており、その前には副隊長が立っておりました。
「夜通しの見張りご苦労。お前の情報は、大変、役に立った」
開口一番、隊長からお褒めの言葉をあずかり、若き兵士の頬が赤く染まります。元々、兵を良く気遣う上司ではありましたが、ここまで褒められたのは初めてでした。
それに調子づいたアトリオは、一連の報告を終えた後、見張りの途中で気がついた疑問を隊長にぶつけます。
「隊長、気のせいかも知れませんが、壁の外を守る兵士の何人かが突然中へ戻って、そのあと暫くすると代わりの兵士が任についていたように思えます。
防御としては、少々手薄になっていたようにも感じるのですが……」
アトリオの質問に、隊長と副隊長は顔を見合わせました。
「……うむ。まぁ、隠していてもすぐにわかるだろうし、”残りの”兵士たちにもこれから話す事がある」
副隊長が、沈痛な面持ちで答えます。アトリオは、ただでさえ嫌な出来事が重なっているのに、この上まだ何かあるのかと陰鬱な気持に陥りました。
「お前も、デニスとデルソントの件は知っているだろう?」
副隊長が、重い口を開きます。
「はい。二人とも、いなくなってしまったと……」
いきなりの核心に、アトリオは少し戸惑いました。
「これは”恐らく”という前置きがつくのだがな。単なる失踪ではないと、結論づけられるんだ」
副隊長が、デスクの方をチラリと見ます。
「失踪ではない?」
思わずアトリオが、繰り返しました。
「あぁ、実はな。夕べから今朝にかけて、多くの兵士、具体的には全体の五分一程度の者が突然”消えた”んだ」
副隊長が、信じられないという口調で言います。
「消えた? 幽霊に恐れをなして、逃げ出したという事ですか?」
発言の意図をはかりかねたアトリオが、再び尋ねました。
「いや、文字どおり”消えた”んだよ。表でも中でもな。だから表に出ていた兵士が消えた場合、中から補充をしていたというわけだ。
つまりだな。お前はさっき”兵士が突然、中へ戻って”と言ったが、兵たちは戻ったんじゃない。消えたんだ。その内の数人は、他の者の見ている前で消えたとの報告もある」
説明を終えた副隊長が、深いため息をつきます。
「申し訳ありません。仰っている意味が良くわかりません」
アトリオは、大いに戸惑いました。
「なぁ、お前は壁外の兵士が交代する時、まぁ、これは実際には消えていたんだが、何か見なかったか?」
副隊長のいきなりの問いに当惑しながらも、アトリオは昨晩の記憶をたどります。
軍曹の指示で、アトリオはそのまま見張り台に留まり、状況を逐一知らせる役目を仰せつかります。彼には、戦況が一目瞭然ですからね。
白い光たちは、施設へ近づくでもなく遠ざかるでもなく、こちらの様子を伺っているように見えました。なかなか、その目的が把握できません。そして兵士たちの方にしても、迂闊に打って出るわけにはいきませんでした。なにしろ、敵の正体が全く分からないのですから、仕方ありませんよね。
微妙なにらみ合いは朝まで続きましたが、夜明けと共に、白い光は森の奥へと去って行きました。アトリオがそれを報告すると、一部の兵士を除いて塔側の守り手たちも施設内へと退きます。失踪者探しに、急な襲来。もう全ての兵士たちは、ヘトヘトでした。
「アトリオ、隊長室へ来てくれ」
伝令管から声がして、彼は下へと呼び戻されます。途中で交代の兵士とすれ違いましたが、疲れのためか、ロクな挨拶もいたしません。
アトリオが隊長室へ入ると、そこでは部屋の主が奥のデスクについており、その前には副隊長が立っておりました。
「夜通しの見張りご苦労。お前の情報は、大変、役に立った」
開口一番、隊長からお褒めの言葉をあずかり、若き兵士の頬が赤く染まります。元々、兵を良く気遣う上司ではありましたが、ここまで褒められたのは初めてでした。
それに調子づいたアトリオは、一連の報告を終えた後、見張りの途中で気がついた疑問を隊長にぶつけます。
「隊長、気のせいかも知れませんが、壁の外を守る兵士の何人かが突然中へ戻って、そのあと暫くすると代わりの兵士が任についていたように思えます。
防御としては、少々手薄になっていたようにも感じるのですが……」
アトリオの質問に、隊長と副隊長は顔を見合わせました。
「……うむ。まぁ、隠していてもすぐにわかるだろうし、”残りの”兵士たちにもこれから話す事がある」
副隊長が、沈痛な面持ちで答えます。アトリオは、ただでさえ嫌な出来事が重なっているのに、この上まだ何かあるのかと陰鬱な気持に陥りました。
「お前も、デニスとデルソントの件は知っているだろう?」
副隊長が、重い口を開きます。
「はい。二人とも、いなくなってしまったと……」
いきなりの核心に、アトリオは少し戸惑いました。
「これは”恐らく”という前置きがつくのだがな。単なる失踪ではないと、結論づけられるんだ」
副隊長が、デスクの方をチラリと見ます。
「失踪ではない?」
思わずアトリオが、繰り返しました。
「あぁ、実はな。夕べから今朝にかけて、多くの兵士、具体的には全体の五分一程度の者が突然”消えた”んだ」
副隊長が、信じられないという口調で言います。
「消えた? 幽霊に恐れをなして、逃げ出したという事ですか?」
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「いや、文字どおり”消えた”んだよ。表でも中でもな。だから表に出ていた兵士が消えた場合、中から補充をしていたというわけだ。
つまりだな。お前はさっき”兵士が突然、中へ戻って”と言ったが、兵たちは戻ったんじゃない。消えたんだ。その内の数人は、他の者の見ている前で消えたとの報告もある」
説明を終えた副隊長が、深いため息をつきます。
「申し訳ありません。仰っている意味が良くわかりません」
アトリオは、大いに戸惑いました。
「なぁ、お前は壁外の兵士が交代する時、まぁ、これは実際には消えていたんだが、何か見なかったか?」
副隊長のいきなりの問いに当惑しながらも、アトリオは昨晩の記憶をたどります。
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