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ポ○モンgo やってたらガチのスライムを見つけたから。

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 泉桜牙、高校一年。
 剣道部の幽霊部員にして一年で唯一の有段者。
 自他ともに認めるイケメンにして茶髪にピアスをし、背中に木刀を背負った腰パンの問題児である。
「だーかーらぁ! 別に不良じゃねーって。ただのファッションだから!」
と本人は述べている。
 ……そうだ。
 俺はごく普通のイケメン高校生、放課後女の子とのデート前にポ○モンgo で遊ぶ超合理的な人間。
 その日も学校近くの公園でポ○モンを探していたら、かわいいスライムを発見。?
 かわいいスライム?
 俺はスマホから目を離し、肉眼でその一角をみた。
 かわいいスライム改め丸っこい水玉スライムが、まるでビーチボールのごとく砂場に転がっていた。
 すぐそばでは子どもがベイ○レードで遊んでいる。
 俺はてっきり子どもが持ってきたおもちゃだと思って、子どもたちにスライムについて聴こうと近づいたところ。
 突然水玉スライムが子どもたちに襲いかかったんだ。甲高い子どもの悲鳴に辺りは騒然、俺は真っ先に子どもたちに駆け寄った。突然スライムにまとわりつかれて、恐怖に泣き出す子どもたち。俺はすかさず背中の木刀を袋から出して、スライムに片っ端からぶった切った。
 間違いなく本日のヒーローは俺だ、なのに、決死の死闘を繰り広げること30秒。公園で木刀を振り回していたとかいう至極全うな理由から、俺は警察に補導された。
「スライムが子どもを襲ってたんだよ!」
「そうかそうか。大変だったな」
 子どもを襲うスライムの話をしたって、誰も信じない。学校に連絡され、いざ謹慎か停学かと処分が決まりかけたところに、再びスライムが子どもを襲う事案が発生。俺は無罪放免となったものの、あの日泣いていた子どものことを考えると胸が痛んだ。
 その日から、俺のスライム討伐の日々が始まった。

6月1日。
 俺は白銀のヒーローに出会った。
 鷹蝶駅はいつもより人が多くて、駅員のアナウンスから電車が遅れていることはわかった。
 改札まで溢れかえる人、人。電車が遅れること自体は珍しくもないが、この人だかりは一体……?
「害虫駆除班です、道をあけて下さいっ! 危険ですから離れて下さい」
 そんなことを言いながら、全身シルバーのスーツに身を包んだヒーローが俺の横を通る。
なんでヒーローって思ったのか、それはまあ直感というか、何となくだ。
 バイクで来たかは知らないが、ライダーさながらの身のこなしが俺にはカッコ良かった。
 だから、こっそりヤツの後をつける。……ヤツの呻き声を聞いたのは、そのすぐあとのことだ。
 赤色のスライムが床に広がる。今まで倒したスライムより格段にでかくて、俺は思わず後ずさった。思考が追い付かない。
 スライムの下で何かが光った。嫌な水音をたてながら赤いソレが動く。
……さっきのヒーローは何処へ行ったんだ?
 スライムの中で何かが動く。
━━殺ってやるぜ。
 肩に掛けていた木刀の入った袋の紐をずらし、袋の口を腰の辺りまで持ってくる。
 鯉口を切るかのように左手で柄の部分を袋から出した、瞬間弧を描くようにソレめがけて振りおろす。
 スライムの表面が深くえぐれ、再生するかのように動き出したのでもう一太刀。浴びせてやればソイツは動きが止まり、粉々になって消える。
 スライムの下には、さっきのヒーローがいた。俺に劣らぬ美少年、日本人離れしたその眉間には驚きと怯えが見える。
 ゆっくりと起き上がるヒーロー、肩を痛がる様子を見せたので手伝ってやろうとすると、
「触れないほうがいい。消化液で溶かされるところだった」
 礼を言うぞ。
 麗しげに笑みを浮かべたその表情はどこかあどけない、若殿のような物言いもあって、俺は一寸ばかりの感傷を胸に抱いた。
 負けた。
 カッコ良すぎるなんて言葉が陳腐に思えるくらいヤツは洗練されていた。これが身分違いってやつかと納得。
 アイツはヒーローで、俺はただの木刀を振り回すだけのヤンキーなんだ。
「スライムの駆除、完了しました」
━━ご苦労様です。zero-1、予定通り登校してください。
○pple watch と通信するヒーローは足早に現場を去った。


 電車が遅れた影響で、一時限目は自習になった。
 あれから20分ほどで電車が到着。本鈴は過ぎていたが、特に何も言われずに正門を過ぎる。
「桜牙おはよー」
「おっはー」
 さっきの今ということもあり、俺は少し興奮していた。それを悟られぬよう平静を装いダチと挨拶を交わす。
「なんかさ、今朝の鷹蝶駅ヤバかったらしいじゃん」
「んー? あぁそうらしいな」
 ちょっとわざとらしかったろうか。棒読みの返答をまぎらわすように、いつも通り朝飯を抜いてきた俺はいちご牛乳を飲むのに必死になった。
 超合理的な栄養補給。
 そんなささやかな優越に浸っていると、ガラガラと音たてて担任が入ってきた。
「だいたい揃ってるなー。ホームルームを簡単にするから静かにしろー」
 今年三十だという担任は若いわりに話す言葉に抑揚がなく、無駄に語尾を伸ばす。やる気のないようにもとれる口調で、担任は切り出した。
「うちのクラスに転校生だ。入ってきていいぞー」
 転校生は、男。明るい髪色は……、、、
「アイツは、ヒーロー……」
 後頭部をぶん殴られたような衝撃に、いや実際には殴られていないが。それくらい驚いた俺は聞かれるとかなり恥ずかしい独り言を言っていた。
 幸い誰にも聞かれてはいない。多分。
 今朝出会ったヒーローが、転校生だなんて、そんな小説みたいなこと……
 ヤツは俺には気づいていない、そりゃそうだろう。きっと百戦錬磨の強者、兵、ほんの二言三言話しただけの俺のことなんか、覚えてるわけ、ないだろうけど……。
 俺に劣らぬ美形のヒーローは、休み時間中ずっと席の回りを囲まれていた。
 よし、アイツを下駄箱で待ち伏せしてやろうっ!
 まるでただの小学生、それでもガキの俺には到底わからない、重い宿命を負ってるみたいな、そんなアイツは紛れもなくヒーローなんだ。
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