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王都新迷宮攻略
第36話 騎士団団長ヴァーノン・フォティア・レングラント
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結局、目が覚めたのは翌朝だった。
護衛として失格だ。危険を排除してもその後の危険に備えられない。
もっともっと鍛えなきゃいけない。
「とりあえず走ってこよう。」
俺は早朝トレーニングに向かったのだった。
この早朝トレーニングは俺もいる”彷徨い人”の二次集団、所謂後発組の名物行事だ。王城の外周をぐるぐる回る。(塀の内側ではある。)たまに騎士団の自主練をしている騎士が混じる時もある。先発組は見たことがない。なんとかしないといけないかな。
いつの間にやら集団になり、全員が毎日顔を合わせる。
「ラビちゃん先輩~帰ってきてたんですか~?」
しんちゃんが声をかけてくる。最初は息が上がっていたのに今は楽そうだな。
……重りだ。重りをつけてみよう。
「帰ってくるなりこの仕打ちは酷いと思います!」
え~? リストバンド型砂入り重しくらい問題ないじゃん。全身鎧で駆けさせた方がいいかもなあ。
「……これでいいです。」
皆が喜んで納得してくれた! よかったよかった。毎日増やしていくからな!!
「鬼!!」
「騎士団長が?」
迷宮に行こうかと用意をしていたら騎士団の団員に呼びとめられて呼び出しを食らった。
まあ、そうなるわなー。急遽、冒険者家業の方へシフトさせた。
呼び出しに来た騎士に連れられて俺は初めて騎士団長の執務室へやってきた。
「入りたまえ」
扉を開けて騎士はさがっていった。
「失礼します。」
俺は頭を下げて入室した。
「座りたまえ。」
示された椅子に座って団長を見やる。
「昨日の疲れはとれたか?」
あ、意外と世間話から入るタイプだったのか。怖いおじさんと思っていたけど。
「はい。朝には回復しました。護衛任務はその……」
少し言い淀む。もっと強ければ、魔力枯渇になんてならなかった。後悔しているから、はっきり言葉がでなかった。
「立派にこなしたのではないかね?王女様は無事王都につき、怪我もなされていない。」
紅茶を団長付きの侍従が出してくれた。
「ありがとうございます。それで、その、今日は……」
何の用だと聞きたかったが、目の前の団長は俺を上から下までじっと見やった。
あ。やべ。変装もなにもしてなかったのに。あー失敗。
「ふむ。その姿が本来の姿かね。確かに黒髪、黒目の”彷徨い人”そのものだな。ところでなぜ“ラビ”なんだね?」
え、それ説明しなきゃなの?
「俺の名字がうさみ、でうさみみ、あーうさぎ?でラビ。なんですが?」
言ってて恥ずかしいなー黒歴史っぽいぞ。これ。
「兎って小動物の別名がラビット、略して“ラビ”この説明って必要でしたか?」
団長は首を振り。
「あーまあ、そうではなく。その容姿が目立つというなら変装はわかるが、名前を偽る必要性は感じないということだよ。」
くくくと肩を揺らして笑いをかみ殺していた。
ん? 意外と話わかる感がする。なのになぜ、先発組はああなったのか。わからん。
「実は我が国では諜報部隊はコードネームというものがありまして……その気になってみました。」
あれだな。スパイものだな。
あ、爆笑した。
ひとしきり団長が笑ったところでお互いにお茶を飲んだ。
「ところで本題なのだが。君は勇者は誰になると思っているかな?」
ええと、この質問はどう思えばいいのだろうか?
「少なくても俺じゃないですね。あの、決勝でぶっ倒れた子じゃないですかね?」
ちょっと切りこんでみた。団長は片眉をあげて俺を見る。
「何故そう思う?」
言ってもいいのかな? カンなんだけどな。
「彼ってカリスマありそうじゃないですか。スキル構成見るとそんな感じがしましたよ。彼は他の“彷徨い人”と一線を画している。ちなみに俺は縁の下の力持ち系スキルなんですがね。」
団長がちょっと考え込んでいる。
「……スキル構成を見た?鑑定持ちか?」
あ、やべ。
「鑑定というより、俺のスキルです。俺、ちょっとしゃれにならないスキル持っていて。まあ、内緒なんですけどね。俺が自分は諜報部向けのスキル構成だなって思ったのはそれもあって。」
団長の眉の間の皺が深くなっていく。
「そのスキルが知りたいが教えろとは言えないな。」
ため息をついて姿勢を正した。
「俺はアーリア王女様に拾われたので、アーリア王女様の望むことは出来る限り、叶えてあげたいと思ってはいますよ。だから、今、10人の面倒を見ていますしね。本当は前の10人も一緒に鍛えられたらいいのですが、俺の指示は聞いてはくれそうにない気がします。それにいろいろあるんでしょうし。」
団長は一息ついて肩を竦めた。
「この国は200年前の勇者に救われた時、勇者に無理強いはしないと誓ったのだ。しかし、そうもいっていられる事態ではないとも思ってはいる。そのどっちつかずの結果かもしれない。」
だからタツト君を隠したわけか。彼が“彷徨い人”であると明かしてないことを逆手に取って。
「俺は協力はしますよ。勇者になったら、“邪王”を倒すことも受け入れます。勇者が他の“彷徨い人”なら向こうに帰る日までバックアップしますよ。それまで生きていられたら、の話ですが。」
団長の顔色が変わった。
「“彷徨い人”は役目が終わったら元の世界に戻れると思っています。200年前の勇者の子孫はいないんでしょう?」
団長は言葉を選んでいるように見えた。
「200年前の勇者は“邪王”を倒した後、光に包まれて消えたと、伝えられている。私が知っているのはそれだけだ。」
俺は団長の顔色を見た。少し、悪い。
「そういえば、団長の先祖は200年前の勇者のパーティーメンバーだったとか聞きました。」
俺はすっかり冷めた紅茶を飲んでから聞いた。
「ああ、手記が残っているよ。当主しか読むことはできないが。」
手記! 見たい。見たいな。何か“読む”出来るかもしれない。
「そうなんですか。もしかして勇者の名前って伝わっています?どの文献も名前ってのっていなくて…」
怪訝そうな顔をして、団長は俺を見た。
「好奇心旺盛な奴だな。確か、“ユウ”と伝わっている。名前が知られていないのは彼がそう望んでいたようだからだ。」
頭を殴られた気がした。
「どうした?」
俺は蒼白になっていたかもしれない。
「い、いえ……あの、まだ、少し本調子じゃないかもしれません……」
それだけやっと言えた。“ユウ”。そうか、“ユウ”か。
「初代の名前って、“ヴォルフ”でしたっけ?」
俺はふらりと立ち上がりながら、何気なしに言ってみた。
「よく知っているな。そうだ。」
誉れなのか、少し嬉しそうな顔をした。
決定的だ。
200年前の勇者は“水峰勇”だ。
護衛として失格だ。危険を排除してもその後の危険に備えられない。
もっともっと鍛えなきゃいけない。
「とりあえず走ってこよう。」
俺は早朝トレーニングに向かったのだった。
この早朝トレーニングは俺もいる”彷徨い人”の二次集団、所謂後発組の名物行事だ。王城の外周をぐるぐる回る。(塀の内側ではある。)たまに騎士団の自主練をしている騎士が混じる時もある。先発組は見たことがない。なんとかしないといけないかな。
いつの間にやら集団になり、全員が毎日顔を合わせる。
「ラビちゃん先輩~帰ってきてたんですか~?」
しんちゃんが声をかけてくる。最初は息が上がっていたのに今は楽そうだな。
……重りだ。重りをつけてみよう。
「帰ってくるなりこの仕打ちは酷いと思います!」
え~? リストバンド型砂入り重しくらい問題ないじゃん。全身鎧で駆けさせた方がいいかもなあ。
「……これでいいです。」
皆が喜んで納得してくれた! よかったよかった。毎日増やしていくからな!!
「鬼!!」
「騎士団長が?」
迷宮に行こうかと用意をしていたら騎士団の団員に呼びとめられて呼び出しを食らった。
まあ、そうなるわなー。急遽、冒険者家業の方へシフトさせた。
呼び出しに来た騎士に連れられて俺は初めて騎士団長の執務室へやってきた。
「入りたまえ」
扉を開けて騎士はさがっていった。
「失礼します。」
俺は頭を下げて入室した。
「座りたまえ。」
示された椅子に座って団長を見やる。
「昨日の疲れはとれたか?」
あ、意外と世間話から入るタイプだったのか。怖いおじさんと思っていたけど。
「はい。朝には回復しました。護衛任務はその……」
少し言い淀む。もっと強ければ、魔力枯渇になんてならなかった。後悔しているから、はっきり言葉がでなかった。
「立派にこなしたのではないかね?王女様は無事王都につき、怪我もなされていない。」
紅茶を団長付きの侍従が出してくれた。
「ありがとうございます。それで、その、今日は……」
何の用だと聞きたかったが、目の前の団長は俺を上から下までじっと見やった。
あ。やべ。変装もなにもしてなかったのに。あー失敗。
「ふむ。その姿が本来の姿かね。確かに黒髪、黒目の”彷徨い人”そのものだな。ところでなぜ“ラビ”なんだね?」
え、それ説明しなきゃなの?
「俺の名字がうさみ、でうさみみ、あーうさぎ?でラビ。なんですが?」
言ってて恥ずかしいなー黒歴史っぽいぞ。これ。
「兎って小動物の別名がラビット、略して“ラビ”この説明って必要でしたか?」
団長は首を振り。
「あーまあ、そうではなく。その容姿が目立つというなら変装はわかるが、名前を偽る必要性は感じないということだよ。」
くくくと肩を揺らして笑いをかみ殺していた。
ん? 意外と話わかる感がする。なのになぜ、先発組はああなったのか。わからん。
「実は我が国では諜報部隊はコードネームというものがありまして……その気になってみました。」
あれだな。スパイものだな。
あ、爆笑した。
ひとしきり団長が笑ったところでお互いにお茶を飲んだ。
「ところで本題なのだが。君は勇者は誰になると思っているかな?」
ええと、この質問はどう思えばいいのだろうか?
「少なくても俺じゃないですね。あの、決勝でぶっ倒れた子じゃないですかね?」
ちょっと切りこんでみた。団長は片眉をあげて俺を見る。
「何故そう思う?」
言ってもいいのかな? カンなんだけどな。
「彼ってカリスマありそうじゃないですか。スキル構成見るとそんな感じがしましたよ。彼は他の“彷徨い人”と一線を画している。ちなみに俺は縁の下の力持ち系スキルなんですがね。」
団長がちょっと考え込んでいる。
「……スキル構成を見た?鑑定持ちか?」
あ、やべ。
「鑑定というより、俺のスキルです。俺、ちょっとしゃれにならないスキル持っていて。まあ、内緒なんですけどね。俺が自分は諜報部向けのスキル構成だなって思ったのはそれもあって。」
団長の眉の間の皺が深くなっていく。
「そのスキルが知りたいが教えろとは言えないな。」
ため息をついて姿勢を正した。
「俺はアーリア王女様に拾われたので、アーリア王女様の望むことは出来る限り、叶えてあげたいと思ってはいますよ。だから、今、10人の面倒を見ていますしね。本当は前の10人も一緒に鍛えられたらいいのですが、俺の指示は聞いてはくれそうにない気がします。それにいろいろあるんでしょうし。」
団長は一息ついて肩を竦めた。
「この国は200年前の勇者に救われた時、勇者に無理強いはしないと誓ったのだ。しかし、そうもいっていられる事態ではないとも思ってはいる。そのどっちつかずの結果かもしれない。」
だからタツト君を隠したわけか。彼が“彷徨い人”であると明かしてないことを逆手に取って。
「俺は協力はしますよ。勇者になったら、“邪王”を倒すことも受け入れます。勇者が他の“彷徨い人”なら向こうに帰る日までバックアップしますよ。それまで生きていられたら、の話ですが。」
団長の顔色が変わった。
「“彷徨い人”は役目が終わったら元の世界に戻れると思っています。200年前の勇者の子孫はいないんでしょう?」
団長は言葉を選んでいるように見えた。
「200年前の勇者は“邪王”を倒した後、光に包まれて消えたと、伝えられている。私が知っているのはそれだけだ。」
俺は団長の顔色を見た。少し、悪い。
「そういえば、団長の先祖は200年前の勇者のパーティーメンバーだったとか聞きました。」
俺はすっかり冷めた紅茶を飲んでから聞いた。
「ああ、手記が残っているよ。当主しか読むことはできないが。」
手記! 見たい。見たいな。何か“読む”出来るかもしれない。
「そうなんですか。もしかして勇者の名前って伝わっています?どの文献も名前ってのっていなくて…」
怪訝そうな顔をして、団長は俺を見た。
「好奇心旺盛な奴だな。確か、“ユウ”と伝わっている。名前が知られていないのは彼がそう望んでいたようだからだ。」
頭を殴られた気がした。
「どうした?」
俺は蒼白になっていたかもしれない。
「い、いえ……あの、まだ、少し本調子じゃないかもしれません……」
それだけやっと言えた。“ユウ”。そうか、“ユウ”か。
「初代の名前って、“ヴォルフ”でしたっけ?」
俺はふらりと立ち上がりながら、何気なしに言ってみた。
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決定的だ。
200年前の勇者は“水峰勇”だ。
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