アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

魔の森③

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「僕、鍛えても肉つかないんだよ。多分、食べた物みんな魔力の方にもって行かれてるんじゃないかな」
 そう言って俺も腕をさらけ出す。え、半分くらいしかないんじゃない? メルトの腕の。
「体質もあるかと思うぞ。もっと食えばいい」
「うー……無理」
 そんなに食えない。剣聖の大食いを見たことあったが、カレーを3杯はぺろりと食っていたぞ。無理。

 筋肉披露会はそれで終わって片づけ始めると、メルトはぼそっと呟く。
「ヒューは手を使うように魔法を使っているんだな。俺は生活魔法すらもよく使えないから羨ましい」
 ん? 生活魔法すら使えない? 珍しいな。この世界の人間は息をするように魔法を使うのに。
 もちろん、魔力があると言われる魔法使いになれるほどの人間は少ない。それでも生活魔法は程度の差はあれ、誰でも使えるし、お風呂代わりの魔法、浄化や洗浄は使えない者はいないはずだ。
 俺はメルトを視る。感じる魔力は心地よくて、かなりの魔力を有している気がする。彼を覆う魔力は透明で綺麗だ。
「魔力は結構あると思うんだけど。ちょっと診てもいい? 触れても?」
 俺は、魔力を見ることができる。魔素の揺らぎも、波形もだ。そのため、魔法の神秘にとらわれていろいろやらかしてはいる。
 だが、この能力はいろいろ役に立つ。回復魔法や治癒魔法を使うにも、相性もあるし、的確な量を使わないといけない。血液といっしょで魔力は生命力に直結する。医療的にも薬学的にも人体を巡る魔力を解析することは元居た日本の医学と同じだと思えた。
 前世の職業が医療系研究者だったのも影響しているのかもしれない。

「あ、ああ……」
 それまでの彼とは違い、目に不安の色が見えた。ぎこちなく頷いた彼の手に触れると、一瞬強張って反射的に引こうとするのがわかった。
 それを押しとどめて、彼は力を抜く。
 その様子に、もしかして彼はメイルに何かされたのではと邪推する。うなされることと関係があるのだろうか。
 そんな奴、俺が……俺が?
 何をするんだ。出会ったばかりの彼の事情に、俺が踏み込めるわけはないのに。
『違う。メルトは俺の……』
 心の奥底で何かが俺に訴える。でもまだ、俺はそれをなんだかもやもやするとしか、感じられなかった。

 少し震える差し出された手を握って、魔力を流した。ゆっくりと染みこむように少しづつ流して、彼の魔力と同調させて、道を探る。魔力の流れを見て、感じる。
 そうして俺は、彼の魔力と自分の魔力は全く異なるにもかかわらず、思いのほか馴染むことに気付いた。魔力の相性がいい。透明な彼の魔力に俺の魔力が混じり、色づいていく。
 その色を、見たことがあるような気がした。
 もっと、俺の色で染めたい。
 ふっとそんな欲が湧いて俺は戸惑った。
 何考えているんだ。これは診断だ。ちゃんと原因を探れ。俺の馬鹿。

「うん。アレだね、魔力の通る道がところどころ詰まっているというか。あとお腹の魔力器官が機能してないっぽい?」
「驚いた。以前、魔術師に診てもらった時も似たようなことを言われた。その時は他人の魔法に耐性がないから、回復魔法など受けないようにって言われたよ」
 ああ、魔法医にすでに診てもらっていたのか。よかった。気付いてないと大変なことになるから。でも、少し違う。

「ん? メルトの場合は耐性というか、他人の魔力に対する拒絶反応が強いんじゃないかな? 相性が合わないと、体調崩す感じだな。ちなみに僕とメルトの魔力の相性はいいね。気持ち悪くなったりはしないだろう?」
「確かに……気持ち悪くなったりはしてないな……」
「相性は、主に恋人や夫婦関係になる人同士なら関係あるけど、そうでないなら、身体に直接かける魔法は受けない位でいいと思うよ?」
「……なんで恋人とかで魔力の相性って問題になるんだ?」
 あれ? メルトは知らないのか? 俺が言ってもいいのかな。どうしよう。メルトにメイルを意識させるのはちょっと良くない感じがするけど。
 首を傾げたメルトが可愛くて俺は赤くなった。

「そのー、愛情を示す行為は相性があるからね」
「え、そ、そう、なのか?」
 意味が分かったメルトが赤くなる。え、可愛くてちょっと色っぽい。白い肌が赤く染まるのは何というか、やばい。平常心、平常心。
「魔力の相性いい者同士だと、子供もできやすいんだよ。魔力の相性がいいのは本能的にわかるから、無意識にそういう相手と恋愛に落ちる確率は高いよね」
 一般論、一般論。
「え、そ、そういうものなのか……? 俺は初めて聞いたんだが……」
「そうなの? 国によって魔力に関する理解度ってまちまちだし、魔法の知識に関しては貴族に偏ってるから仕方ないのかな?」
 多分、メルトは興味なさそうだから周りが教えなかったとかそういう感じだろうか?

「メルトが恋人と、上手くやっているなら相性がいいんじゃないかな?」
 そうだ。いるかもしれない。いたら立ち直れない気がする。あれ? なんでだ?
「ん? 俺は恋人はいないぞ? だから一人でこうして旅ができるんだが……」
 即答だった!! 思わず驚いた俺はつい、口元が綻ぶ。いないってことは俺にチャンスがあるってことだよな。
 ん? チャンス? いや、ここでアホ面晒したらだめだろう。気を引き締めなくちゃ。
「メ、メルト恋人いないのかあ……ふううん。そっかあ……」
 嬉しさが口をついて出てしまう。若干、メルトが引いた気がした。

「本当だぞ。ちなみに生まれてから29年一度もいたことないぞ。修行ばっかりで、その辺は全く興味がなかったからな」
「え。マジで?」
 まさか、この年まで恋の経験ないとか!? うわー、俺が恋人になったら優しく……待て、俺は今、何を考えた? 
「あ、け、経験くらいはあるぞ?」
「え! マ、マジで!」
 浮かれた気分が一気に落ちた。経験って、もちろん、セックスの事だよな。
 え、でも、恋人はいなかったって。
 どういうことだ?
「あ、ああ」
 なんだよ、それ。恋人になる気もなくて、メルトに手を出したって? 許せない。
『俺のメルトに手を出したやつがいる?』
 一瞬、怒りの感情が胸に広がったけれど、俺が怒る筋合いはないじゃないか。
 いいや、文句なんか言えるわけない。外見も、子供のままだし、きっとお子様だと思われて、これ以上は踏み込めない。
 そうだ。踏み込む勇気が俺にはない。

「そ、そっか……あ、今日はもう寝ようか? 多分、あと2,3日で抜けられると思うんだよ」
 思ったより、沈んだ声が出た。
 メルトが戸惑った顔をしている。何してるんだ俺は。
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