アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

ギルドカード

 “龍の爪”商会の店舗は商業区域の裏通りにあり、知っている人でないとそこに店があるかわからないほどのひっそりした店構えだ。そこから王都の冒険者ギルドはそう遠くない。歩いて15分もあれば着く。冒険者ギルドがある場所は王都の中心地で、さまざまなギルドの総本部が立ち並ぶ場所だ。
 中心地には塀に囲まれた王城があり、それを取り巻く大広場があり、そこから放射状に、各門へとつながる大通りが伸びている。
 たくさんの人が行きかう道を中心部へ向って歩くと看板に冒険者ギルドのマークが描かれた大きな建物が見えた。外観は揃えているらしく、他のギルドの施設も同じようなつくりだ。
 煉瓦で出来た建物は五階建てだった。一階の扉を開けて入ると喧騒が耳を打つ。入って正面には受付カウンター。右手には酒場兼待合所。左手には買い取りカウンターと倉庫。左手の奥に階段があり、二階はギルドの会議室が並び、三階は、冒険者用の簡易宿泊施設、四階はギルドのオフィス。五階に総括ギルド長、王都のギルド長、副ギルド長の部屋がある。地下は訓練施設だ。

 俺は受付に並び、カードを出すと呼び出されている旨を伝える。受付は少し驚いた顔をして、用件を伝えに席を立った。王都の冒険者は結構マナーがいいのでテンプレな事案は起こらなかった。しばらく待つと、お会いになるそうですと言われてミハーラの部屋に案内された。
 エレベーターがないから五階まで徒歩だ。きついなあ。

「ヒュー、久しぶりだね」
 書類の山積みになったデスクで、書類を手にしたハイエルフのミハーラに満面の笑みで声を掛けられた。
「久しぶり。ちょっと急いでるので、出来れば用件は手短にして欲しいんだけど」
「冷たいね。一緒に肩を並べて戦った仲なのに。あんまり冷たくするとカード抹消しちゃうよ? そもそも、ギルドの依頼は定期的に受けてくれないと困るんだけどねえ。この間言っておいただろう? んん?」
 ミハーラが目を眇めて俺を見て首を傾げた。
「だから、ちゃんと来たんじゃないか。早くカードを使用可能にして欲しいんだけど。これからは定期的に依頼受けるよ。ダンジョンにも潜りたいし」
 ミハーラが変な顔をしている。
 なんかじっと見ているけど。変態か?
「ダンジョンだけならグレアムのカードを使っていただろう? 今更ヒュー名義を使うのかい? 放置しすぎて何度も失効してるのに?」
「わ、悪かったよ。その、僕名義じゃないとダメなんだ。グレアムのカードはもう使わない。英雄って柄じゃないし」
「それは元パーティーメンバーに言うセリフじゃないねえ」
「ミハーラは英雄だからいいんだよ。ちゃんと味方だろう? 人族の」
「んん??」
 何言ってんだお前、という顔をしたぞ。
「僕は英雄になれないよ。僕はハイヒューマンで、大事なものを傷つけられたらきっと世界の敵になる。だから、グレアムのカードはもう使えないんだ。ほら、早く手続してくれよ」
 そう。例えば戦争になってメルトが殺されそうになれば、俺はその国を亡ぼす。
 二度とメルトを傷つけるものがいないように、徹底的に。
 ミハーラは差し出された俺のカードをため息をつきながら受け取った。
「なんでそんなに急ぐんだ? しばらく引っ込んでいるって言ってただろう?」
 ミハーラは書類を何枚か取り出しながら俺に問う。
「その、パーティー組みたいから、カードがないと困るんだよ」
 そういうと目をぱちぱちと瞬きして俺を凝視してきた。
「パーティー? え、誰と? ショーヤ、はいないぞ?」
「別に誰でもいいだろ? 出来ないなら時間の無駄だから帰るよ。人を待たせているし」
 背を向けて出て行こうとすると、慌てたように声がかかった。
「待て待て。一応何度も停止処分になってるから、それなりに功績を示さないとギルド内部で問題になるんだよ。それに、ヒューほどの人材がCランクはあり得ない。だから、一定数の依頼成功とAランク昇格試験合格で、停止処分解除、だ。やってくれるね」
「不本意だけど、やれっていうならやるよ。できれば早く終わらせたい」

 そうして俺は指名依頼に奔走することになった。Bランクの依頼を5つも受けさせられてあちこちに行かされた。正直移動時間が長かった。しかも、ミハーラのよこした依頼は高難度で、それなりに時間がかかった。この依頼ほんとにBランクかよ。

 それをクリアすると最後の課題、昇格試験が待っていた。それは、デッザに現れた、Aランクの魔物、デッザパンサーの討伐依頼だった。それに伴い、仮のBランクのギルドカードを発行してくれた。討伐成功したらAランクのカードになり、それで正当なカード停止処分の解除になるということだった。

 デッザに戻れる!! メルトにやっと会える!

 喜び勇んでデッザに戻った俺はさっさとデッザパンサーを狩ってAランクカードを発行してもらった。そこでひと悶着あったがそれは割愛だ。ようやくメルトを探せる。
 今日、ギルドにメルトはいなかった。明日行けば、きっと会えるはずだ。依頼を受けてメルトを待とう。そう決心してその日は宿で寝た。

 メルトと別れてから一ヶ月がたっていた。

 珍しく朝早く起きた俺はギルドのピーク時間に当たってしまったのにため息をついた。混んでいるのはCランク以下の依頼ボードで、Aランクは人がいなかった。
 ランクアップした後だから依頼を受けておこうと思った。また失効や停止処分は避けたいからな。手続きを済ませても、ここで会えなかったらイヤーカフで連絡を取ろう。

 ワイバーンが棲みついたらしいという山の調査依頼を剥がし、受付に並んだ。適当な列を選んだから、結構待った。ようやく番が来ると今度はソロじゃ受け付けませんと来た。揉めていると後ろに並んでいる冒険者がいらっときたのか、足を踏み鳴らした。ハッとして振り向くと、少し不機嫌になった、メルトがいた。
 メルトだ。そう思ったら手を伸ばしていた。

「じゃあ、二人で受ければ問題ないよね。はい、カード」
 メルトの持っていた薬草採取の依頼書とギルドカードを奪って、一緒に手続きをしてもらう。メルトの手を引いて、併設している酒場に移動した。
 席に着くとエールを二つ頼んだ。先払いだから、テーブルにメルトの分も小銭を置く。

「ヒュー?」
 メルトは、不安そうな様子でフードの下の俺の顔を覗き込んだ。メルトの耳にイヤーカフがあった。よかった。そのことに嬉しくなって笑顔になった。
「うん。ただいま、メルト。遅くなってごめんね?」

「お、おかえ、り。ヒュー」
 メルトの声が泣きそうな声だった。不安にさせてしまったのだと、後悔する。やっぱり、一緒に連れて行けばよかった。
「よかった、用事はすんだのか?」
 メルトは今度は平静を装った声で話しかけてくれた。ああ、メルトの声だ。ずっと聞きたかった。もう離したくない。

「やっとだね。詳しくは宿に帰ってから話すよ。依頼の事も話さないとなあ」
 愚痴って慰めてもらおう。
「依頼ってなんの依頼だったんだ?」
「ん? ワイバーンの調査依頼」
 そういうとメルトが驚愕の表情をした。焦ってつい、安心してもらおうと言葉を重ねた。
 あれ? ワイバーンって一番楽に狩れる魔物だよな? あいつらうるさいだけだし。

「調査だから。行ってたしかにいましたよーって報告するだけの簡単なお仕事だから」
 メルトは諦めの表情になってため息をついた。
「まあ、ヒューだからな」
 俺はその言葉を聞いて愕然とした。
「え、それ、うちの家族にも言われてる……」
 やらかした後に何度もいろんな人から言われてる!
 メルトにも言われるなんて!!
 ショックだ!!
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