うちの執事は有能より可愛いが勝つ!!

米穀店

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前向きに善処すら叶わんのか

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ある日の鴻上家の朝。

書斎にて、陽がよく当たるエグゼクティブチェアに座り、デスクに両肘をつき組んだ両手で口元を隠す慶彦の前に、宗介は待機していた。

「ご主人様、用件というのは?」

今日も冷静な鉄仮面の如き無表情で慶彦に指示を仰ぐと、慶彦は「宗介…」と口を開いた。

「頼む!俺とデートしてくれ!!」


***


散々溜めておきながら、恐らく「下らない」の部類に入るであろう突拍子もない慶彦からのお願いだったが、意外にも宗介は特に表情を崩さず、冷静を貫いている。

妙な所でポジティブな慶彦が、それを“脈アリ”と捉え、嬉しそうな表情を浮かべた。

「ど、どう?宗介」

慶彦が答えを急かすと、宗介は少し考えた後、「ご主人様」と切り出した。

「1つお尋ねしたいのですが、その“デート”という物について、もう少し具体的にご教示頂けますでしょうか?」

まさかの返答に慶彦が「へ?」と間抜けな声を出す。

「宗介、デート知らんの?まさか、デートした事ない?」

「お言葉ですが、デートという物については存じ上げております」

宗介からのツッコミに「そりゃそうか」と思う反面、「俺以外の誰かとデートした事あんのか…」と過去にヤキモチを妬く慶彦に構わず、宗介は続ける。

「しかしその内容につきまして、私とご主人様との間で相違があってはいけないと思い、お聞きした次第でございます」

とんでもなく真面目やな…と慶彦はある意味感心しながら、改めて自分の考えるデートを一から思い浮かべた。

「そうやなぁ、まぁ映画とか見て、その後食事して、ちょっとお酒飲んで、その後は…」

「申し訳ございませんが、それは出来かねます」

「まだ言ってないやろ!」

慶彦は一瞬だけ妄想した、デートの終盤に来る“エロ展開”を断られたのだと思ったが、宗介は表情を崩さないまま「ご説明させて頂きます」と始めた。

「ご教示下さいました内容の中に、“お食事”と“飲酒”がございました。私の執事という立場上、主人と食事を共にする等という行為は、私とご主人様との間における主従関係を瓦解しかねません。ましてや飲酒など、もっての他でございます」

宗介の理論に、慶彦は口をあんぐりとさせてしまった。鋼の如き男だとは思っていたがまさかここまでとは、まぁそんな融通の聞かない所も可愛いけど…と慶彦は脳内で惚気るも、すかさずいやいや!と首を横に振った。

「ええやんか!主人の俺が良いって言ってんのに!」

「ご主人様の温情には心より感謝申し上げますが、鴻上グループのトップとしての自覚を持って頂きたく願います。さすれば、執事と膝を突き合わせて食事やお酒を共にする等という考えには至らないでしょう」

完全なる宗介からのシャットアウトに慶彦は崩れ落ち、テーブルに肘をついて顔を手で覆い、めそめそと泣き始めた。

「そうか…宗介にとっては俺の気持ちなんかより、鴻上家会長の威厳を取るんやな」

机に突っ伏し拗ねる慶彦に、宗介はやれやれと嘆息する。

「その様な訳ではございません、私はご主人様ひいては鴻上家の幸福と繁栄を常に願い、尽力する次第でございます」

「今の俺見てみい!どう考えても幸福じゃないやろお…」

しくしくと泣き崩れる慶彦を見ても、宗介の完璧な様相は一切崩れない。

「その点においては、お力になれず申し訳ございません。ただ一点…ご主人様の要望にお応えできる物がございます」

「えっ!?」

目から一切涙が出ていない慶彦に、やはり嘘泣きだったか…と言わんばかりの表情をする宗介が切り出した。

「先程ご主人様がご教示下さいました“映画”になら、執事としてお付き合いする事は可能です」

“執事として”の文言を聞き、慶彦は眉間に皺を寄せた。

「一応聞くけど…その映画に、お前はその堅っっ苦しい執事服で来んのか?」

「勿論でございます」

何の淀みも無くサラリと答える宗介に、慶彦はガクッと頭を垂れた。

「屋敷にて最新の大画面シアターを設置し、ご主人様だけのプライベートシアターをご準備する事も可能ですが、ご主人様が映画館等での鑑賞をご希望であれば、“執事として”、ご同行させて頂きます」

どんな大砲でもビクともしなさそうな鉄壁の守りに、慶彦は顔を手で覆いながら「もうえぇ、もうええわ…」と項垂れる。

「それでは、通常の業務へと戻らせて頂きます」

憔悴しきった主人に一礼のみ済ませると、宗介は踵を返し、さっさと書斎を出て行くのだった。
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