4 / 6
前向きに善処すら叶わんのか
しおりを挟む
ある日の鴻上家の朝。
書斎にて、陽がよく当たるエグゼクティブチェアに座り、デスクに両肘をつき組んだ両手で口元を隠す慶彦の前に、宗介は待機していた。
「ご主人様、用件というのは?」
今日も冷静な鉄仮面の如き無表情で慶彦に指示を仰ぐと、慶彦は「宗介…」と口を開いた。
「頼む!俺とデートしてくれ!!」
***
散々溜めておきながら、恐らく「下らない」の部類に入るであろう突拍子もない慶彦からのお願いだったが、意外にも宗介は特に表情を崩さず、冷静を貫いている。
妙な所でポジティブな慶彦が、それを“脈アリ”と捉え、嬉しそうな表情を浮かべた。
「ど、どう?宗介」
慶彦が答えを急かすと、宗介は少し考えた後、「ご主人様」と切り出した。
「1つお尋ねしたいのですが、その“デート”という物について、もう少し具体的にご教示頂けますでしょうか?」
まさかの返答に慶彦が「へ?」と間抜けな声を出す。
「宗介、デート知らんの?まさか、デートした事ない?」
「お言葉ですが、デートという物については存じ上げております」
宗介からのツッコミに「そりゃそうか」と思う反面、「俺以外の誰かとデートした事あんのか…」と過去にヤキモチを妬く慶彦に構わず、宗介は続ける。
「しかしその内容につきまして、私とご主人様との間で相違があってはいけないと思い、お聞きした次第でございます」
とんでもなく真面目やな…と慶彦はある意味感心しながら、改めて自分の考えるデートを一から思い浮かべた。
「そうやなぁ、まぁ映画とか見て、その後食事して、ちょっとお酒飲んで、その後は…」
「申し訳ございませんが、それは出来かねます」
「まだ言ってないやろ!」
慶彦は一瞬だけ妄想した、デートの終盤に来る“エロ展開”を断られたのだと思ったが、宗介は表情を崩さないまま「ご説明させて頂きます」と始めた。
「ご教示下さいました内容の中に、“お食事”と“飲酒”がございました。私の執事という立場上、主人と食事を共にする等という行為は、私とご主人様との間における主従関係を瓦解しかねません。ましてや飲酒など、もっての他でございます」
宗介の理論に、慶彦は口をあんぐりとさせてしまった。鋼の如き男だとは思っていたがまさかここまでとは、まぁそんな融通の聞かない所も可愛いけど…と慶彦は脳内で惚気るも、すかさずいやいや!と首を横に振った。
「ええやんか!主人の俺が良いって言ってんのに!」
「ご主人様の温情には心より感謝申し上げますが、鴻上グループのトップとしての自覚を持って頂きたく願います。さすれば、執事と膝を突き合わせて食事やお酒を共にする等という考えには至らないでしょう」
完全なる宗介からのシャットアウトに慶彦は崩れ落ち、テーブルに肘をついて顔を手で覆い、めそめそと泣き始めた。
「そうか…宗介にとっては俺の気持ちなんかより、鴻上家会長の威厳を取るんやな」
机に突っ伏し拗ねる慶彦に、宗介はやれやれと嘆息する。
「その様な訳ではございません、私はご主人様ひいては鴻上家の幸福と繁栄を常に願い、尽力する次第でございます」
「今の俺見てみい!どう考えても幸福じゃないやろお…」
しくしくと泣き崩れる慶彦を見ても、宗介の完璧な様相は一切崩れない。
「その点においては、お力になれず申し訳ございません。ただ一点…ご主人様の要望にお応えできる物がございます」
「えっ!?」
目から一切涙が出ていない慶彦に、やはり嘘泣きだったか…と言わんばかりの表情をする宗介が切り出した。
「先程ご主人様がご教示下さいました“映画”になら、執事としてお付き合いする事は可能です」
“執事として”の文言を聞き、慶彦は眉間に皺を寄せた。
「一応聞くけど…その映画に、お前はその堅っっ苦しい執事服で来んのか?」
「勿論でございます」
何の淀みも無くサラリと答える宗介に、慶彦はガクッと頭を垂れた。
「屋敷にて最新の大画面シアターを設置し、ご主人様だけのプライベートシアターをご準備する事も可能ですが、ご主人様が映画館等での鑑賞をご希望であれば、“執事として”、ご同行させて頂きます」
どんな大砲でもビクともしなさそうな鉄壁の守りに、慶彦は顔を手で覆いながら「もうえぇ、もうええわ…」と項垂れる。
「それでは、通常の業務へと戻らせて頂きます」
憔悴しきった主人に一礼のみ済ませると、宗介は踵を返し、さっさと書斎を出て行くのだった。
書斎にて、陽がよく当たるエグゼクティブチェアに座り、デスクに両肘をつき組んだ両手で口元を隠す慶彦の前に、宗介は待機していた。
「ご主人様、用件というのは?」
今日も冷静な鉄仮面の如き無表情で慶彦に指示を仰ぐと、慶彦は「宗介…」と口を開いた。
「頼む!俺とデートしてくれ!!」
***
散々溜めておきながら、恐らく「下らない」の部類に入るであろう突拍子もない慶彦からのお願いだったが、意外にも宗介は特に表情を崩さず、冷静を貫いている。
妙な所でポジティブな慶彦が、それを“脈アリ”と捉え、嬉しそうな表情を浮かべた。
「ど、どう?宗介」
慶彦が答えを急かすと、宗介は少し考えた後、「ご主人様」と切り出した。
「1つお尋ねしたいのですが、その“デート”という物について、もう少し具体的にご教示頂けますでしょうか?」
まさかの返答に慶彦が「へ?」と間抜けな声を出す。
「宗介、デート知らんの?まさか、デートした事ない?」
「お言葉ですが、デートという物については存じ上げております」
宗介からのツッコミに「そりゃそうか」と思う反面、「俺以外の誰かとデートした事あんのか…」と過去にヤキモチを妬く慶彦に構わず、宗介は続ける。
「しかしその内容につきまして、私とご主人様との間で相違があってはいけないと思い、お聞きした次第でございます」
とんでもなく真面目やな…と慶彦はある意味感心しながら、改めて自分の考えるデートを一から思い浮かべた。
「そうやなぁ、まぁ映画とか見て、その後食事して、ちょっとお酒飲んで、その後は…」
「申し訳ございませんが、それは出来かねます」
「まだ言ってないやろ!」
慶彦は一瞬だけ妄想した、デートの終盤に来る“エロ展開”を断られたのだと思ったが、宗介は表情を崩さないまま「ご説明させて頂きます」と始めた。
「ご教示下さいました内容の中に、“お食事”と“飲酒”がございました。私の執事という立場上、主人と食事を共にする等という行為は、私とご主人様との間における主従関係を瓦解しかねません。ましてや飲酒など、もっての他でございます」
宗介の理論に、慶彦は口をあんぐりとさせてしまった。鋼の如き男だとは思っていたがまさかここまでとは、まぁそんな融通の聞かない所も可愛いけど…と慶彦は脳内で惚気るも、すかさずいやいや!と首を横に振った。
「ええやんか!主人の俺が良いって言ってんのに!」
「ご主人様の温情には心より感謝申し上げますが、鴻上グループのトップとしての自覚を持って頂きたく願います。さすれば、執事と膝を突き合わせて食事やお酒を共にする等という考えには至らないでしょう」
完全なる宗介からのシャットアウトに慶彦は崩れ落ち、テーブルに肘をついて顔を手で覆い、めそめそと泣き始めた。
「そうか…宗介にとっては俺の気持ちなんかより、鴻上家会長の威厳を取るんやな」
机に突っ伏し拗ねる慶彦に、宗介はやれやれと嘆息する。
「その様な訳ではございません、私はご主人様ひいては鴻上家の幸福と繁栄を常に願い、尽力する次第でございます」
「今の俺見てみい!どう考えても幸福じゃないやろお…」
しくしくと泣き崩れる慶彦を見ても、宗介の完璧な様相は一切崩れない。
「その点においては、お力になれず申し訳ございません。ただ一点…ご主人様の要望にお応えできる物がございます」
「えっ!?」
目から一切涙が出ていない慶彦に、やはり嘘泣きだったか…と言わんばかりの表情をする宗介が切り出した。
「先程ご主人様がご教示下さいました“映画”になら、執事としてお付き合いする事は可能です」
“執事として”の文言を聞き、慶彦は眉間に皺を寄せた。
「一応聞くけど…その映画に、お前はその堅っっ苦しい執事服で来んのか?」
「勿論でございます」
何の淀みも無くサラリと答える宗介に、慶彦はガクッと頭を垂れた。
「屋敷にて最新の大画面シアターを設置し、ご主人様だけのプライベートシアターをご準備する事も可能ですが、ご主人様が映画館等での鑑賞をご希望であれば、“執事として”、ご同行させて頂きます」
どんな大砲でもビクともしなさそうな鉄壁の守りに、慶彦は顔を手で覆いながら「もうえぇ、もうええわ…」と項垂れる。
「それでは、通常の業務へと戻らせて頂きます」
憔悴しきった主人に一礼のみ済ませると、宗介は踵を返し、さっさと書斎を出て行くのだった。
3
あなたにおすすめの小説
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる