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第一章
第18話
しおりを挟む学院は、特に特別科は『小さな社交界』だ。学院内の生活態度によってはマイナス評価となる。それは『良い嫁ぎ先』を探す令嬢にとって大ダメージだ。さらに、よほどのことがない限り長子が後を継ぐこの国では、長子令嬢に気に入られようとする第二子以下の子息たちにしてみても『礼儀作法やマナーを身につけているのは必須条件』だ。
その点から見ても、彼女はスタートに立つ前だというのに、すでにスタートラインからはるか遠く下がった位置に立たされていることに気付いていないだろう。
特別科は『成績優秀者』が入れる特別な教室で、一学年に二クラス。前年度最終に行われる修了試験で、上位成績者の40人が新年度から特別科に入る。リリアーシュ嬢たち一学年生は入学前の学力試験でクラスが決められる。
学院では学力で決められるため、特別科に平民が入ることもあれば、貴族が普通科に入ることもある。さらに、これはあまり ── 年に数回 ── 学期途中でも科を移動することがある。特別科に上がるなら吉報だが、普通科に堕ちるのは不名誉なこととなる。
特別科に入る貴族のほとんどは、将来『国を背負って立つ』者たちだ。それは、私のように『国政に携わるもの』から、リリアーシュ嬢のように『領地経営に携わるもの』。そして『医術や学術などで国に貢献するもの』たちだ。令嬢たちの中には、『将来、夫となる方の内助の功になれるように』と考えている者もいる。彼女たちは社交界という場で流れる『ウワサ』を集めて精査し、夫に『正しい情報』を提供する。その練習の場として、学院はサロンや自習室などを提供している。
ひとつだけ言わせてもらおう。
『色気がない』と言われた、リリアーシュ嬢を始めとした一学年生だったが、彼女たちはまだ10歳だ。社交界にやっと足を踏み出したばかりの『初々しい』子息令嬢でしかない。
その中に最高学年の令嬢のように『育った胸』を持って現れた時点で、一度姿を消したはずの『ある噂』が再び流れている。その相手として名が上がっているのは、幼馴染みで5歳違いの男爵家子息。長男だが第四子のため家督は継げないだろう。親同士仲が良く、家族ぐるみで付き合いがある。
『ある噂』は子息が10歳。令嬢が5歳の頃からだ。『知らぬは互いの家族のみ』だろう。子息は令嬢の身体を使って同級生たちに『小遣い稼ぎ』をしていたからだ。
もちろん『避妊薬』は使っている。娼館で使われている薬で、一度飲むと10日間は効果が続く。普通に市販されている安全なものだ。ただ、安全性が確認されているのは『成人』に対してであって、子供、それも幼女が使って安全であるという保証はない。
「殿下。それは何方のご令嬢でしょうか」
「最近伯爵家で当主が変わった。と言えば分かるでしょうか?」
「ああ。先代当主が急病で亡くなった伯爵家がいたな。現当主はグラセフ・ボナレードという名だったか。たしか、先代の弟で男爵家当主だったと記憶しています」
「そうです。そこの第三女エステル。長女が伯爵家を。次女は来年、学生結婚をして父親が持つ男爵家を継ぐことが決まっている。学院を卒業するまで学業と両立させていくようだが。まあ、学院で少しでも良好な関係を築くためだろう」
「フム・・・。あの『不貞のエステル』が私のリリィと同学年ということですか。 ─── どう潰してやりましょうか」
「しばらくは大丈夫でしょう。今日の件がありますので、特別科の警備は厳重になるでしょう。それから、今日この手紙が特別科の各家庭に渡されています」
私が差し出した手紙を開く義父。『伯爵令嬢の不適切な言葉に傷ついた令嬢たちが多くいる。中には真に受けて自死を選ぼうとするだろう。そのため十分に注意してほしい』という、噂を知る貴族なら分かる内容だ。
「殿下。ありがとうございます。リリィと同年齢の少女たちも、やはりショックを受けたでしょう。それも『家の恥だから死ね』なんて言われたら、思い詰めていると思われます」
「ええ。明日の朝、全生徒が変わらぬ笑顔を見せていると良いのですが」
残念ながら、『伯爵令嬢の異常性』は翌日も健在だった。
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