対価を払っていただきます

アーエル

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本編

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弁護士騒動による混乱が落ち着いた一週間後。
マスコミが少なくなったため、今日は登校した。


「雨が降るなんて……」


憂鬱になりながら、すでに二限目に入っているだろう時間で静まり返った校舎を見上げる。
雨天だから、本当なら体育の授業を受けているクラスメイトや違う学年の生徒たちは体育館にいるのか、教室で座学になっているだろう。
教室の鍵をもらいに行くか、保健室登校にして直接いくか。


「ん? 三鷹?」


私に気づいて声をかけてきたのは、姉が在籍していたクラスの担任だった。
数少ない、私を本気で心配してくれる先生のひとり。


立川タチカワ先生、

「ああ。
今日は……ちょっとな。
せっかく登校してくれたんだけど……授業はナシだ」

「……ナンかあったの?」


ちょっと言いづらそうな先生だったけど、雨の中で話すには寒いため昇降口へ手招きされた。


「中には入らないの?」

「言っただろ?
『授業はナシだ』と」


そう言って扉に手をかけて前後に動かすとガチャガチャと音がして、鍵がかかっていると教えてくれた。


「生徒は全員帰らせたばかりなんだ」

「なんで……?」

「ああ、生徒の登校人数が少なくて、な」

「学級閉鎖?」

「いや……学校閉鎖だ」


流行性感冒インフルエンザなどで学級閉鎖になることがある。
休みの人数が多ければ学年閉鎖になることも。
それでも、学校閉鎖など起きたことがない。

私がそう考えているのに気づいたのだろう。
周囲を見回して、声をひそめて確認に近い質問をしてきた。


「三鷹のまわりのマスコミはどうした?」

一昨日おとといから急に減って、今朝はみてないよ」


そう告げると、あからさまに安堵した表情。


「マスコミに知られると困ること?」

「いや……聞いた話では、全国各地で起きているらしいが」


そう前置きして教えてくれたのが、「全国で二十歳以下の生徒や学生たちを中心に行方不明者が増えている」というもの。
二週間前、つまりイクメン弁護士が我が家に乗り込んできた前後から、私の通う高校でもポツポツと休んでいる生徒がいたそうだ。
連絡がなくても休んでいる事情が分かっている私以外で、連絡もなく休んでいる生徒の家に問い合わせたところ、何軒かが行方不明になっていたらしい。
顕著なのが、私のクラスの生徒たち。


全員みんな、ですか?」

「ああ。
三鷹のクラス担任の高田先生と学年主任の馬場先生も、先週の金曜日から家に帰っていないようでな」


金曜日の夕方から土曜日いっぱい。
金曜日の学校帰りにどこかに寄ったり、土曜日に出かけたり予備校に行ったまま。
誰一人、帰ってこないそうだ。
私は徒歩圏内のため帰宅後に出かけるか休日に出掛けていたけど、ほとんどがバスや私鉄の通学生。
10分前後、電車や地下鉄に乗った先の、比較的大きな駅で寄り道をしているのは知っているけど……

最初は誘拐ではないか、とまで言われていたそうだ。
それが、ここ数日の間にマスコミで取り上げられて「実はうちも」と言い出す家族や「最近会ってない」「連絡しても既読にならない」と言う友人がでてきた。


「待ち合わせに来なかった。
連絡しても返事が来ないからドタキャンしたって思ってたんだけど……既読にもならないなんて初めてなんだ」


そんな声が、全国各地から聞こえ出したらしい。
警察やマスコミがそれらを追跡調査した結果、通報のあったほぼ全員の所在が確認できず。
間違いなく行方が分からなくなっていたのだ。
その人数が多いため、いまでは集団失踪とみられているそうだ。

確認できた中で一番古い行方不明者が、私の家族全員が亡くなった事故から数週間後。
騒ぎにならなかったのは、『あおり死亡事故』が連日連夜ニュースになっていたから。
高校ここでは姉の親友が(たぶん)一番最初の行方不明者だと思われるらしい。


「渋谷が休んだのは三鷹、お前に暴言を吐いたことを学年主任の昭島アキシマ先生に咎められた翌日だ」


ただ、そのときは母親から「数日休ませます」と連絡があったそうだ。
休む理由を彼女の母親は告げていた。

私への暴言で注意を受けて、当てつけのようにそのまま早退。
もちろん学校から親に連絡が入った、早退したから。
早退理由……というか、早退前に受けた注意の内容を聞かされた母親。
そして母親から聞いた父親からという名のシツケを受けた。
顔に一発、平手打ちされて腫れたのだと。
叩かれた際に転倒して腕を打撲して病院へ。
そのときに診断書をもらって、翌日母親が直接学校に休みを伝えたらしい


「腕は打撲で湿布薬を貰っただけだ。ただ、顔が大きく腫れたらしい。
『この顔を誰かに見られたくない』と泣いているらしくてな。
年頃の女の子だからってこともあるし……反省の意味も兼ねて部屋から出さないとご両親が決めた。
まあ、診断書もあるし……そこの采配はご両親に一任した」

「……そのあと?
おばさん、うちに謝罪にきたよ」

「ああ、多分そうだろうな」


渋谷家は近所に住んでいたけど10年以上前に引っ越した。
お姉ちゃんと高校で再会したけど、うちには寄り付かなかった。
学校で「お前が代わりに死ねばよかったのに」って言われて突き飛ばされた。
「あんな風に暴力を振るった人とその親の顔なんか見たくないし、二度と付き合いたくない!」と玄関で叫んだら、その場でしゃがみ込んでメソメソ泣き出した。
それに気づいた近所の人たちが連れて行ってくれたけど。


「アンタ、『自分が可哀想、許さない瑠美ルミちゃんが一番悪い』って……その下手な演技、いまもやってるの?
母娘おやこ揃ってみっともない」


そうなんだ。
引っ越した原因も、「誰々さんのママが」など、自己中心的な発言を繰り返して孤立したから。
子どものものでも「可愛いわね~」と言って「ちょうだい」「私(娘)の方が似合う」って持っていく。
おじさんがいる時間帯に家に怒鳴り込んだら「くれたのに」と言いながら返したけど。
そんなことを繰り返してご近所から孤立して居辛くなった、というのが引っ越した理由。

お姉ちゃんと再会しても、お姉ちゃんは当時のこと覚えているから仲良くしなかった。
逆に一方的に絡まれて迷惑してた。
家に押しかけてきて「泊めて~」って騒いだこともある。
高校に近いから、卒業まで住まわせてって言った。
もちろん、お母さんたちが断ったし「学校に通報するから」と言われて逃げ帰った。

学校から通報されておばさんが来たけど「昔の馴染みで卒業まで娘を預かって」と言って……おじさんを召喚。
謝罪しまくって、おばさんを連れて帰った。
おじさんは厳しいけど常識のある人だったんだけどなー。

うちの玄関で泣いて近所の人たちに回収されたおばさんは、近所の人たちからおじさんに連絡がいって、引き取られて行った。
私にも「申し訳ない」と伝言を残していった。
私が会いたくないだろう、との理由から。

のちに手紙とお金が届けられた。
届けてくれた会長さんから「受け取りなさい。瑠美ルミちゃんへの迷惑料も入っているから」と言われて受け取った。
加害者とは関係ないから、受け取っても問題ないって教えてくれたし。
手紙には私への謝罪と家族へのお悔やみの言葉。
お金は『御仏前ごぶつぜん』とあり、かなりの金額が包まれていた。


「渋谷は母娘おやこ揃っていなくなったようだ。
父親と弟には『傷が治るまで母親の親戚の家に行く』と言って出かけたが、親戚の家から『来ていない』と言われたらしい」


そこはお寺で、「腐った性根しょうねを叩き直してやる」と言われていたそうだ。
電車に乗ったのは車掌がチェックしたときに「ガーゼから見えた顔の半分が腫れあがり、なぜ包帯などで隠さないのかと思った」と証言している。
そのため「逃げた」と思われていたらしい。
ただ、目立つ顔だから途中下車してもわかるはずなんだけど……
目撃者もなく防犯カメラにも残ってなかった。


「結構な騒ぎになってたぞ」

「弁護士騒動があったからね。
ここ数日はテレビをつけてなかった」


マスコミが減ったことで、ネットニュースで弁護士による脅迫が表沙汰になって起訴されたとかのチェックは見ていた。
マスコミによっては自社に載せた記事を新聞受けポストに投函してくれるため、わざわざテレビをつけることもなかったのだ。


「三鷹も色々あったからな、気をつけろよ」

「うーん。
私の場合、家に引きこもってればいいだけだから」


学校閉鎖は今日(水曜日)から一週間。
5日後の月曜日に職員会議をして、その間に教育委員会の指示があればそれに従うそうだ。


「月曜日、遅くても火曜日の午前中にはメールが届くからな。
水曜日に来れるなら来いよ」

「はーい。
じゃあ、帰りまーす」

「ああ、気をつけて帰れよ」


立川先生が心配しているのは車のこと。
家族があおり運転で死んでから、私は車が怖くて家から出られなくなった。
同じ車種タイプ、同じ色の車は特に。
そのため家から出られず、ストレスから過食症が悪化した。
今日だって二限目から通学したのも、この時間帯は車の往来が少なくなるから。
出勤の車も減り、工場で荷を積んだトラックもすでに出払っている。
準工業地帯のため、車の往来は激しいものの把握しやすい。

そんな事情を知っているはずのクラスメイトたち。
それなのに、率先してイジメを始めた。


「重役出勤ですかぁ~。
いいご身分ですね~」

「家族皆殺しになったカワイソーな人は、喪に服すとか理由つけて登校しなくてもいいんじゃねぇ?」

「もう一生、家から出てくんな。
コッチだってお前みたいに陰気な奴の顔なんざ永遠に見たくもねえんだよ」

「「「ギャハハハハハ」」」


その日、抜き打ちテストがあったらしい。
散々だったというその試験結果の八つ当たりに始まった私のイジメ。


「お前ン家、家族皆殺しになった代わりに金もらったんだろ。
ちょっと融通してくれや」

「家と金置いて出ていけや」


家にまでそう言って押しかけて玄関チャイムを鳴らし続けたのは、お姉ちゃんと同じ学年の男子生徒たち。
彼らは近所からの通報により、恐喝と暴力で警察に捕まった。
中には公務執行妨害で逮捕された人もいる。

それからイジメが大きく、さらに陰湿になった。


そんな彼らにとって、のではないか?
だって……『私とは二度と顔を合わせることもなくなった』のだから。



家に無事帰ると、雨で冷えた身体を温めようとシャワーを浴びるため制服を脱いだ。
脱衣室の床にが制服から転がり落ちた。

私はここ数日、家にいなかった。
ううん、違う。
のほうが正しい。
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