2 / 6
第2話
胸に抱いていた大切な夢。
大切な人と育んだ未来。
大きな揺れが襲った。
それは、失われていく生命を嘆く大地の悲鳴だったのかもしれない。
あの日あのときから
私が抱きしめていた我が子を探し求めている。
どこにいるの?
ひとりで泣いているのではないかしら?
……ああ、懐かしい声がする。
娘を片腕で抱いて笑顔で私の名を呼ぶのは、優しい夫。
「あき、ちゃん?」
私が抱いていた下の娘がいないと、きた道を振り返ろうとした。
「ままぁ」
夫の腕からおりた娘が私の足に抱きついて「だっこ」と甘えて手を伸ばす。
膝にのせて夫に顔を向けると、そのまま抱きしめられて「つらかったな」と声をかけられた。
「あきちゃんは?」
「心配しなくていい。おじいちゃんたちが一緒だ」
そういえば、と思い出す。
病院に駆けつけた夫の両親が、娘を預かってくれるといっていた。
「早く退院して。元気になったら、あきに会いに行こう」
ああ、そうなのだ。
怪我をした私は病院で余震の被害を受けたのだ。
そして……夫の実家に預けた娘の『あき』は祖父母と共に……
車椅子の生活になった私のために家を改築してくれた夫。
今日は退院の日だ。
看護師からお祝いの花束をもらっても、嬉しいと思えなかった。
でも、家族を全員亡くしたという同室だったお婆さんが折り鶴を私にくれて言った。
「亡くした家族は、私が生きている限りずっと私の記憶の中で生きているの。そして死ぬときに迎えに来てくれるわ。そのときに笑顔で会いたいから私は生きていくのよ」
そのお婆さんは、もう長くはない。
怪我が原因で肺機能が低下しているそうだ。
それでも毎日笑顔で生きていく。
「いつまでも泣いていたら、あきちゃんに笑われるわね」
青い空を見上げて呟いた私の耳に、娘を庇うように抱きしめて亡くなったという夫の両親の声が風に乗って聞こえてきた。
『ほうら、あきちゃんのママは泣き虫じゃのう。あきちゃんの顔が見えないと言って泣いておる』
『あきちゃんなら、じいじとばあばが一緒だから泣いてないのにねえ』
あれは、我が家にみんなが駆けつけてくれた日のこと。
ひとりで子供2人を面倒見ていて……
上の子は赤ちゃん返りするし、下の子は昼夜関係なく泣いて睡眠時間が取れなかった。
そんな私の様子に気付いて助けてくれた夫の両親。
一緒の時間を多くとらせてくれたことで、上の子は妹の世話を一緒にできるまで落ち着いた。
「大切な人たちを奪ったとしても、大切な人たちとの思い出は誰にも奪えないわ」
お婆さんの言葉が私の胸に木霊する。
私の胸の中に、お婆さんも存在していることに気づいた。
いつか、お婆さんが大切な人たちと旅立っても。
私の中にはお婆さんが生きている。
こうして私たちは、偶然出会った人たちと思い出を共有しあって、誰かの心の中で生きていくのだろう。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…