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第一章
第15話
しおりを挟む部屋に戻ると、すっかり姿を隠す気を無くした神々がリビングを占拠していた。
「突然、部屋のドアを開けられても応接室があるからな」
確かにリビングは応接室の隣だから、窓を『覗き防止』にしてしまえば問題ない。
そしてこんなに神様がいると、室内が清浄化されるから私の身体にかかる負担もなくなる。
「それにしても・・・」
ここはいつから『掘りごたつ』付きの和室になったんですか。
部屋の通路として廊下側の1メートルの幅だけ床のまま残して、窓の下まで畳が敷かれている。
「ほら。座って座って」
「座布団なら用意してあるぞ」
「足が出せるからラクだぞー」
確かにそうですけどね。
っていうか・・・
テーブルの上には空になったお皿がある。
私のサンドウィッチー!
私も食べたかったのにー!
そう叫んだら、後ろから肩をトントンされた。
振り向くと、ハンドくんたちがサンドウィッチをお皿に乗せて持ってきてくれていた。
「ハッハッハ。オレたちはずっとここで見てたからな」
「だから彼らがサンドウィッチを作ってくれていたのよ」
これあげない。
これ全部私の。
そう言ってサンドウィッチを頬張る私に皆が笑う。
「分かった。分かった。誰も取ったりしないからゆっくり食べなさい」
「ほら。喉を詰まらせるから飲み物も飲みなさい」
ハンドくんが出してくれた紅茶を飲みながら、サンドウィッチを味わって食べていく。
神々からは「どこの国で何が起きた」とか「どの国に連絡がいってどんな対応がされた」とか話してくれたり、私のタブレットに王宮内の動きやドリトスたちが各国へ連絡を取っている様子を映してくれてみることが出来た。
これはテレビでみることも出来そうだね。
「この世界に持ってくることは出来ないけどな」
延長コードを、こっちまで繋いで伸ばして引っ張ってくるのは?
そう聞いたらピタッと動きが止まったけど、「いやいや。それはダメだ」と却下された。
仕方がないから、マンションの部屋にいながらテレビでみられないか試してみよう。
別に覗きのためではない。
部屋の内外を確認する『防犯カメラ』みたいなものだ。
食欲が満たされたら、次は眠くなるもの。
「ほら。ここで寝ると風邪を引くでしょ」
「やー。まだここにいる~」
「もう彼らは大丈夫だから」
私は眠い目をこすりながら、ドリトスたちの様子を見ている。
ドリトスとセルヴァンは、ジタンと手分けをして各所へ指示を出していた。
王宮内でも治療院が正常に機能しているのか、回復した人たちが増えていた。
「少し寝てきなさい。何かあったら起こしてあげるから」
創造神に促されたのと、ハンドくんに自室で愛用している動物の抱き枕を持たされて、そのままその場で横になる。
畳の藺草の香りがする。
この世界にも藺草はあるのかなぁ。
「だからここで寝るんじゃない」とか「風邪を引くから」とか「シー」という会話を聞いた気がするが、すぐに身体に暖かいものを掛けられてヌクヌクしつつ、誰かに頭を撫でられていたら微睡みの誘惑に負けた。
目を覚ましたのはベッドの中だった。
ベッドの横にはセルヴァンがイスに座って私を心配そうに見てた。
「ん・・・セルヴァン?」
みんなはどうなったの?
国の人たちは大丈夫だった?
そう言いながら身体を起こすと、苦しくない強さで抱きしめられた。
え?誰か何かあった?と聞いたら「・・・何でもない」と言われた。
ねぇ。何かあったの?とアリスティアラたちに聞いたら『床で寝てたから』と返事がきた。
どうやら畳の上で寝ていた私を『倒れている』と勘違いしたセルヴァンが慌てたらしい。
この世界には『和室』も『畳』もないんだっけ?
『乙女の館』は純日本風の建物だって話だから和室だろうし、和室なら畳もあるよね?
先日倒れたばかりだから、あの時のことを思い出したのかも知れない。
「セルヴァン。心配してくれたんだね」
ありがとう。大丈夫。眠くなってちょっと横になっただけだよ、と話すと「横に?」と聞き返された。
『私の国では、畳の上に直接座ったり寝転んだりする』と知ったセルヴァンは目を丸くした。
座布団を二つ折りにして枕にして寝るなんて、いつもやってたから気にしなかった。
メニュー内の時計を確認すると現在時刻は14時。
あれ?私が寝たのって何時?
『12時過ぎよ』
じゃあ寝てたのは2時間弱?
それにしてはセルヴァンの様子が・・・
もしかして、1日2日過ぎてるとか言わない?
『言わない』
『本当に寝てたのは2時間弱よ』
じゃあセルヴァンは?
『本当に心配だったのよ』
畳の上でゴロゴロしながら藺草の香りを嗅ぐと、癒されるから好きなんだけどな~。
『別にダメじゃないでしょ?』
『和室の過ごし方を教えれば良いのよ』
それもそうだよね。
って・・・あれ?
私の靴は?
ベッドから出ようとしたら私の靴がない。
『隣だわ』
『掘りごたつに座る時に脱いでいたわね』
うん。脱いだね。
と言うことで・・・
「セ~ル~。抱っこ」
セルヴァンに両腕を伸ばして甘えると、一瞬目を丸くしたけど嬉しそうに抱き上げてくれた。
「隣の部屋にね、靴が置きっぱなしなの」
だから連れてって、と言ったらシッポが嬉しそうに左右に振られた。
寝室を出ると掘りごたつにドリトスが座っていた。
「おお。よく眠れたかね?」
「はい。国の方は大丈夫でしたか?」
「ああ。被害は最小限で押さえられそうじゃ」
「それは良かった」
セルヴァンに畳に下ろしてもらう。
鉄扉の周囲は衝立が立てられてて、中が見えなくなっている。
「ドリトスは何飲んでるの?」
「コレじゃ」
向かいに座っているドリトスが見せてくれた湯呑みの中に入っていたのは緑茶だった。
「ハンドくーん。紅茶ちょうだ~い」
隣に座ったセルヴァンに「何を飲む?」と聞いたら、少し考えてから「甘いもの」と言われたため「セルヴァンにはココアをお願い」と頼む。
すぐに出してくれた紅茶とココアを2人は興味を持ったようだ。
「この紅茶はそちらの緑茶と同じ茶葉を使っています。ただ茶葉を蒸したり発酵させたり粉に挽いたりなど工程が違うだけなんですよ」
その言葉にドリトスが興味を持ったらしい。
そしてココアはテーブルに出されてたチョコレートと同じ、カカオという果実から出来ると知ったセルヴァンは、チョコを口に入れる。
ビターを口にしたようで苦かったみたいだ。
ミルクチョコを渡すと少し警戒してたけど、「こっちは甘いよ」というとすぐに口に放り込んだ。
ドリトスは個装の紙にも興味を持っているようで、表裏を繰り返し見ている。
ハンドくんがテーブルにチャーハンを持ってきてくれた。
取り皿も持ってきてる。
2人も興味津々で、ハンドくんが取り皿にチャーハンを取り分けてくれる。
本当にできた執事さんだ。
チャーハンは2人の口にも合ったようで、何度もおかわりをしていた。
こちらの料理も元の世界と似たような味付けらしい。
ただレパートリーが少ないようだ。
確かに魔石を使った冷蔵庫の普及が首都や近辺だけで、冷凍庫は存在すらしておらず。
長期保存が出来ないからレパートリーも少ない。
港町から離れた首都では、『鮮魚』は手に入らないから『煮魚』がメインになるらしい。
氷魔法で凍らせても鮮度は落ちるし、馬車に水槽をつけて冷蔵状態で魚を運ぶと魚は弱って美味しくはないらしい。
道が舗装されていないから、水槽内は時化状態だ。
それでは魚が弱っても当然だろう。
貨物用の線路を敷くにしても大工事だ。
空路は飛空船があるだけ。
馬車よりは早いけど大量の荷物は無理。
定員は20人が限度。
セルヴァンみたいに大柄な獣人なら15人ってところか。
もちろん、動力源は『乙女の魔石』。
総重量で魔石の消費量が変わるらしい。
気をつけないと、航行途中で魔石がゼロになり墜落って事故も今までに何度か起きたそうだ。
2人は他国へ行くこともあるため鮮魚は食べたことはあるし、獣人の国『セリスロウ国』には湖があるから鮮魚自体は珍しくないらしい。
もちろん湖と海の魚は違うから、料理もまったく違うそうだ。
いずれ訪れてみたいもんだ。
2人と言うか主にドリトス主体で、応接室を出てからの話を色々としてもらった。
『乙女の魔石』を持った2人は、まずジタンが向かったであろう治療院へ向かった。
治療師たちは自分の状態を判断して状態回復の魔法を各々が掛けて、一応は回復していたらしい。
さすが治療師だ。
ジタンには、私が話した『起きる可能性の話』を伝えたそうだ。
ジタンも他国へ連絡を取ることを失念してたらしい。
治療院の長に王宮内外の回復の指揮を頼み、3人は『通信室』へ向かった。
最初に、一番状態異常に耐性があるドワーフの国『ヒアリム国』に通信した。
やはり被害は軽い目眩や耳鳴り位で、通信にはすぐに出たらしい。
事情(「創造神の怒りを買った者がいる」「状態異常の回復魔法で症状が軽くなる」「動物や魔物たちの暴走の可能性」など)を伝えて直ぐに対応するよう伝えた。
ドワーフには『ドワーフ独自のネットワーク』があり、国同士の連絡が『電話』なら、ネットワークは『無線』や『連絡網』に近いらしい。
ネットワークに使う魔石も『魔物の魔石』と、使い勝手が良いらしい。
悪用されないように、国外ではドワーフたちの村や工房でしか使えないらしい。
これで各地に散らばるドワーフたちに連絡がとれて、こちらは何とかなりそうとのこと。
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