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第二章
第29話
ドリトスの腕に抱かれて、セルヴァンの獣化を見ていたさくら。
どこかの世紀末の人みたいに服を破ることもなく、全身が金色に光って輪郭がぼやけ、光が収束した時には体長2メートルほどの大きな茶色の犬が身を伏せていた。
伏せているのは、大きな身体でさくらを怖がらせないためだ。
ドリトスが、目を輝かせて見ているさくらを犬の横に座らせる。
「わぁーい!セルヴァンすっごーい!!」
大喜びして抱きつくさくらの身体を、セルヴァンは大きなシッポで覆う。
「これがさくらの見たがってた『獣化』だ」
「うん!すっごいねー!ありがとうセルヴァン!」
わーい!モフモフ天国だ~!
さくらはセルヴァンのお腹に抱きついて喜んでいる。
そんなさくらだったが、しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた。
セルヴァンがさくらを覆っていたシッポを離すと、セルヴァンの毛にしがみついて笑顔で眠るさくらがいた。
「やはり眠ったのう」
「ええ。思った通りでしたね」
ドリトスとセルヴァンの言葉に驚きの声をあげようとしたヒナリとヨルクだったが、前もって現れたハンドくんに口を塞がれていて声が出せなかった。
「どういう事かって?」
セルヴァンの小声に何度も頷く2人。
小声なのは、さくらが起きないようにという配慮からだ。
「簡単じゃよ。さくらはセルヴァン(のモフモフ)が一番好きじゃからな。初日は抱きついて離れなかった位じゃ」
ドリトスの言葉に目を丸くする2人。
しかし目の前には、さっきまで頑なに「寝ない」宣言していたさくらがセルヴァンに凭れて眠っている。
「ングー!ムグムグー!」
口を塞がれているから『声』にはなっていないが、ヨルクは文句を言っているようだ。
「ウ・・・ン・・・ふみぃー」
さくらが身動ぎしてグズり出す。
セルヴァンがシッポでさくらの身体を擦ると、すぐに固くしていた身体からチカラが抜ける。
腕を伸ばす形で身体を起こしていたさくらだったが、セルヴァンにポフンと埋もれるように凭れたが、それでもグスグスと泣き続けている。
「大丈夫だ。さくら」
「ん・・・モフモフ~ぅ・・・」
しばらくシッポでさくらの顔を擦っていると泣き止んで、ふたたび穏やかな表情で眠りだした。
ドリトスがさくらの額に手をあてて「熱は出ておらぬ」とセルヴァンに告げると、2人は安心して大きく息を吐く。
「ドリトス様?セルヴァン様?」
ハンドくんに塞がれていた口を開放されたヒナリが、2人に何かあるのかと問う。
2人は何度もさくらの熱を気にして、確認しては安堵する。
「さくらは元々熱を出しやすい。さくら本人は『小さい頃から』と言っておったんじゃ」
「それでも『寝てればそのうち治る』から『大したことではない』らしい」
「・・・・・・呼吸が乱れた時は酷い苦しみ方じゃった。無意識に握りしめたセルヴァンの手が『内出血』するくらいにな」
「あの時は寝たと言うより『気絶』に近かった」
「そんな・・・」
ヒナリはショックで言葉が出ない。
ヨルクも後頭部の痛みを忘れて呆然としている。
・・・ヨルクはハンドくんにハリセンを2発受けていたのだ。
ハリセンの前に『さくらの魔石』を使ってヨルクの周りに結界を張ったため、ハリセンの音は外にもれることもなかったが、呻く声をもらさないために今まで口を塞がれていたのだ。
そのため、セルヴァンの『モフモフ』に夢中なっていたさくらに気付かれることはなかった。
2人は眠っているさくらを凝視する。
身体にはハンドくんが『タオルケット』をかけていた。
今日はこのままここで寝るようだ。
「ドリトス様。セルヴァン様。・・・私もさくらを守りたい!」
「オレも」
「ヒナリもヨルクも『今のまま』で良い」
「でも・・・」
「『今のまま』・・・それはさくらが『さくららしく』過ごせるように努めることじゃ。それはそれで『難しい』が・・・2人にはそれが出来るかね?」
ヒナリとヨルクはお互いを見遣り、ドリトスとセルヴァンにまっすぐ向き直ると「「はい!」」と声を揃えた。
・・・懐かしい。
『元の世界』の夢を見た。
農家だった親戚の家で過ごした夏の日。
家族や親戚たちと行った海。
新鮮な野菜を食べて、果物も食べて・・・
そのおかげで、子供には多い『好き嫌い』はなかった。
たわいない『日常生活』も夢でみた。
・・・そして目覚めた時に『現実』を思い知らされる。
目を覚ました時にはみていた夢を覚えていないのに、『懐かしい』という感情だけは残っている。
涙を流しながら目を覚ますと、ハンドくんが汗とともに拭いとってくれていた。
そのうち、熱を出す時は『元の世界』の夢を見ることに気付いた。
『元の世界』の夢を見るから熱を出すのか、『熱を出す』から元の世界の夢を見るのか・・・
まるで『胡蝶の夢』だ。
「さくら・・・」
目を覚ますとヨルクが心配そうに覗きこんでいた。
周りを見回すとここは屋上庭園の芝生の上で、獣化したセルヴァンのモフモフに凭れて眠っていたようだ。
横ではヒナリがセルヴァンに凭れて寝てるし、ドリトスも一緒に寝ている。
「・・・ヨルク?」
ハッキリしない頭でヨルクを見ると、目の端を親指で擦られた。
寝ながら泣いていたからヨルクが心配したのだとやっと理解出来た。
「ちょっと『散歩』しようぜ」
さくらを抱き上げて、部屋の高さ7割まで育った大きな木の太い枝まで飛びあがる。
地平に近い空が白くなり始めていた。
「わぁー!あそこではもう『朝』が始まっているんだね~!」と、目を輝かせて喜ぶさくらの身体を支えながらヨルクは枝に座る。
突然目の前にポンッと音をたてて現れたハンドくんたちが、水の入ったコップと何か小さいものを持って現れた。
「お水は飲むけど『おくすり』いらない」
大人しくコクンコクンと水を飲みだしたさくらに、ハンドくんたちが少し強引に小さいものを口に入れてコップの水をすべて飲ませる。
ハンドくんたちがさくらにチカラずくで『実行』するのを初めて見たヨルクは驚くが、彼らは『さくらのため』にならないことは決してしないだろう。
「えーん。ハンドくんたちがイジメるー」
ハンドくんたちに押さえつけられていたさくらがヨルクに泣きつくが、「ハンドくんたちは『さくらのこと』を思ってやってるんだろ?」と頭を撫でながら言うとプクーッと頬を膨らませる。
「『おくすり』キライだもん。『こなこな』さんは苦いし・・・」
さくらの言っていることは分からないが、『おくすり』とは先程の『小さいもの』のことだろう。
目の前にお皿を持ったハンドくんたちが現れて「プリン~♪」と喜んださくらだったが、必死に伸ばすさくらの手は届かない。
さっきの『さくらの泣き言』が聞こえていたのだろう。
「さくらにプリンを食べさせてやってくれないかな?ちゃんと『おくすり』は飲んだのだから」
手を伸ばすさくらが落ちないように支えながらハンドくんたちにお願いする。
ハンドくんがスプーンでプリンをひと口分掬い、「あーん」と大きく開いたさくらの口に入れる。
パクンと口を閉じたさくらは「おくちなおし~」と笑顔になる。
プリンが近付けられると口を開けるさくらが可愛くて仕方がない。
それをみていたら、ハンドくんにスプーンを渡された。
プリンの皿を近付けられて、プリンを掬って口を開けて待っているさくらの口に入れる。
パクンと口に入れる度に笑顔になるさくら。
思わずオレまで笑顔になっていた。
「2人で何してるの?」
ヒナリがオレたちの前にとんで来た。
「おはよう。ヒナリ」
「おはよう。さくら~」
さくらを笑顔で抱きしめるヒナリ。
そのままオレにはキッと睨みつける。
・・・あれ?
やきもちを妬く『相手』が違わないか?
「さくら」
オレに呼ばれると、すぐに顔を向けて口を開くさくら。
その口にプリンを入れると、また満面の笑みを見せる。
「えー!何それ!カワイイ!!」
私もやるっとヒナリがスプーンをもぎ取って、ハンドくんの持つプリンを掬ってさくらに与える。
さくらの笑顔につられて笑顔になるヒナリ。
さくらのカワイイ笑顔が見たくて、ヒナリはプリンをあげ続ける。
もちろんプリンはいつまでもある訳ではない。
もともとヒナリがくる前に、プリンは3分の1以下まで減っていたし。
「もうおしまい」
2人にそう告げると、揃って口を尖らせて膨れっ面になる。
「さくら。ほら」
「わぁー。『日の出』だ。キレイ!」
少しずつのぼる陽。
空もだんだん明るくなっていく。
口の周りをハンドくんに拭かれてキレイにされているが、目は陽を見ている。
ヒナリもさくらの反対隣に座っている。
ただし見てるのはさくらだ。
目線をチラリとオレに向ける。
オレが自分の口の前に人差し指を当てると、ヒナリは黙って頷いた。
しばらく見ていると陽が完全に地平に姿を現した。
「さあ。お散歩は終わりだ」
さくらを抱き上げて地上に降り立つ。
ドリトスと『人型』に戻ったセルヴァンが笑顔で出迎える。
「『おひさま』キレイだったよ」
「よかったな」
「うん!」
セルヴァンの腕の中で目を輝かせて話すさくら。
ヘタをすればさくらの生命を奪いかねない『陽の光』。
それを『キレイ』と喜ぶ姿に、みんなは笑顔になる。
「ねぇねぇ。また『獣化』してね。そしてまたみんなで一緒に寝ようね!」
さくらの『お願い』に誰も反論はなかった。
「なあ。『おくすり』ってなんだ?」
ヨルクの言葉にドリトスとセルヴァンが眉間に皺を寄せる。
「病気になった時に飲むんでしょ?」
それがどうしたの?
不思議そうに聞いてくるヒナリに「朝、さくらがプリンを食ってただろ?」と聞けば頷く。
「あの前にな。さくらが『小さいもの』を無理矢理飲まされていたんだよ。ハンドくんたちにな」
セルヴァンが慌ててさくらの額に手をあてる。
発熱は感じられなかった。
さくらはいまセルヴァンの『ひざまくら』で眠っている。
掘りごたつに落ちないようにセルヴァンは身体を座卓から出して胡座になり、その足を枕にしたさくらは座卓を頭にTの形になっていた。
身体にはハンドくんにタオルケットを掛けられている。
そのハンドくんがリビングに置かれているホワイトボードに『あれは『解熱剤』』『熱が出た時に飲む薬』と書いた。
それに慌てた4人。
「さくらは熱が出てたの?」
「少し身体が熱いと思ったけど寝起きだからかと・・・」
『大丈夫』
『今朝は予防のために飲ませただけ』
ハンドくんの『言葉』に安心する4人。
しかし・・・ヨルクは説明に含まれていた単語に気付いた。
「『予防』ということは『熱が出る可能性はあった』ということか?」
そう聞くと『『懐かしい夢』を見た時は特に』と返ってきた。
『懐かしい夢』・・・それは『元の世界』の頃だろう。
「今朝・・・さくらは泣きながら目を覚ましたんだ」
「だから樹の上にいたのね」
ヒナリの言葉にヨルクは無言で頷く。
「さくらが『こなこな』さんと言ってたが、あれはなんだ?」
『今朝飲ませたのは『錠剤』』
『他に『液体』と『顆粒』がある』
『『こなこな』は顆粒のこと』
「『苦い』と言っていた」
『顆粒は他の薬と違って苦いのが多い』
『さくらは上手に飲めず、一部が口やノドに残ってしまう』
『顆粒はすぐに溶けてしまうため『苦味』を感じてしまう』
それを聞いた全員が思った。
『・・・それは自分でもイヤだな』と。
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