ある男の回顧録《完結》

アーエル

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申し上げませんでしたか?

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「ヒックス殿下。あなたの退学をここに通達します、今日中に荷物をまとめてこの国から去るように」

学園長が朝の挨拶をするように隣国の王子に退学を通達した。

「お待ちください! 私が何をしたと……」
「特定の女性の尻を追い回したでしょう?」
「え? それは……」

露骨な言い回しにヒックスは青ざめる。
嫌がる女生徒を追い回している自覚はある。
しかしそれは王子である自分の身を守るためだ。
自分が少しでも良い生活のできる貴族への婿入り先を探す。
そのために隣の国に足を伸ばしたのだ。
この国にしても隣国と国交がもてるためなら高位だろうと女性の一人くらい犠牲にするだろう。
それで事前に貴族の調査をさせて一番大人しくて言いなりになりそうな見栄えの良い高位貴族の女生徒に目をつけたのだ。

留学してきた初日に声をかけた。
しかしその女生徒は「迷惑です」とだけ言って、二度とヒックスを近付けなかった。

「私は王子だぞ!」

ヒックスの苛立ちを同級生は嘲笑っていた。



「相手は既婚者。あなたの行為を迷惑だと断ったにもかかわらず執拗に追い回した罪、あなたのご両親にも抗議しましたところ退学を受け入れられました。馬車がすでに到着しております」
「待ってくれ! グーリアル公爵令嬢には私との婚姻を了承させる必要が!」

それができなければ既成事実をつくってでも認めさせる。
今日はそのつもりで来たのだ。

「申し上げませんでしたか? 相手は既婚者。モスリーン・グーリアルは昨年婚姻をなされています。最終学年のため、式はご卒業後にされるそうです」
「そ、そんな……。では、私は……この国の公爵家に婿入りして公爵になるという私の望みは!」
「叶いません。まず、この国では女当主が認められます。たとえヒックス殿下が婿入りしても公爵にはなれません」

二人を囲むように見ている生徒たちの視線は冷ややかだ。
蔑む視線もあれば、あまりにも汚いものを見るような毛嫌いをあらわした視線。
一番多いのは不快感を織り交ぜた視線だ。
綯い交ぜないまぜになった視線がヒックスに絡みつく。
既婚女性を追い回し、今日その女生徒に関係を断られたら女性の尊厳を踏み躙る行為に出ようとしていたのだから。
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